(くすぐったいような、暖かい気持ち……)
本当にこの人は私を打算なく助けてくれる、隆景にはそう思えた。
良晴は隆景の雰囲気が変わったのを感じた。
「相良良晴……いや良晴」
隆景の言葉を良晴は待つ。
「良晴……ありがとう」
少女は嬉しそうに笑った。
嬉しそうに、安心したように笑ってくれた隆景に、思わず顔が赤くなるのを感じた。
(くぅ! 小早川さんめっちゃ可愛い!! なんだよあれ反則じゃないか!)
「良晴……? どうした顔が赤いが、熱でもあるのか?」
隆景が手を良晴の頬に伸ばす。
「こ、小早川さん!?」
隆景の手が良晴の頬を撫でる。
(小早川さんの手――しっとりとしている。これが女の子の肌なんだ……。彼女いない歴=年齢の俺にはちょっと刺激が強すぎる……)
そんな時だった。
良晴が隆景の肌に感動していると、ガラリとふすまが開かれた。
「隆景! 無礼なやつはどこのどいつじゃ!」
そんな言葉とともに何かが飛び込んできた。
幼きころからその武勇を発揮し、元就をして元春にはかなわぬと言わせ、
生涯戦績は76戦64勝12分と、後の時代にも不敗の名将と誉れ高い武将「吉川元春」。
よく現代の公立学校の目標である文武両道は、良いとこどりを目指した結果、ぐだぐだになるものだが、毛利の武の象徴で、太平記をほぼ完ぺきに書き写し、文字通りの文武両道の吉川元春はというと――
「ああ~この平家の武士が源氏の武士に首を取られる下りはなんど読んでも良いものじゃけえぇ」
くねくねと体を動かし、平家物語に出てくる公達に夢中になっていた。
未来の人は言った。
ホモが嫌いな女子なんかいません!!!! と。
「どうしてか分からないけれど、今俺はここにいる。役に立たない俺だけど、でも! 俺は小早川さんの力になりたい!」
「おお、なんじゃいきなり」
隣の隆景の部屋からなにか聞こえてきた。
実はその前から良晴や隆景の声が元春の部屋に届いてたのだが、あらぬ妄想へと旅立っていた元春が気付いてなかっただけなのである。
文字通り腐っていても、吉川元春は隆景の姉である。
兄、隆元を失ってからは余計に家族を大切に想うようになった。
「なんか分からんが、隆景に対して小早川さんなどと無礼なやつがおるけんのお」
無礼討ちにしちゃると、元春は愛刀「姫切」を持って、隆景の部屋へと向かった。
「隆景! 無礼なやつはどこのどいつじゃ!」
そこで目にしたのは、隆景が見知らぬ男と二人きりでいる姿だった。
しかも男嫌いなはずの隆景が頬に手を伸ばしている。
ぶちっ。
元春の中で何かが切れる音がした。
「あ、あれ小早川さんが二人? あれ? ってうおおおお!?」
ブンっ。飛び込んできた少女が何も言わず、刀を振り下ろした。
良晴はとっさに隆景を突き離し、自らも刀を回避する。器用な回避だが、弾除けの別名故か。いや、きっと関係ない。
「あ、姉者! いったい何をするんだ?」
「隆景こそ何をしとるんじゃ! お、男の頬に触れるなど!」
「なっ!?」
隆景の顔がボッという音ともに赤くなる。どうやら意識していたわけではないようだ。
「まあ良いけえ。とりあえずこいつを手打ちにしてから訳は聞くけえ」
元春はギロリという視線を投げる。
視線だけで人を殺せそうな勢いに、良晴はこええええとびびった。
元春はじりじりと良晴に迫る。
隆景の姿かたちはそっくりだが、まとっている雰囲気があまりにも違い過ぎた。元春は双子の違いを出すために、毛利上等のはちまきを巻いているが、そんなものが無くとも別人だと分かるほどだった。
「ま、待て。姉者。良晴は私の小姓だ。手打ちにしてはならない。まして、むやみに流血沙汰など起こしてはならない」
「小姓じゃと! 隆景! 男嫌いなはずのおまえが男を小姓にするなど、いったいどうしたんじゃ!」
「やれやれ騒がしいと思ったら、やっぱりこうなっていたか」
村上武吉だった。手には良晴のスマートフォンがあった。どうやら荷物を持ってきくる途中で、騒ぎを聞きつけたらしい。
「海賊の大将! これはどういうことじゃき!」
「どういうことだって――なあ」
村上武吉もどう説明したものか迷った。
武吉とすれば海賊の儀式をやりとげた以上、良晴に対して思うことはないのだが、経緯を素直に話せば元春がさらにヒートアップするのは目に見えていた。
一方隆景も迷っていた。
烈火のような勢いに姉に、どう台詞を投げかればよいのか、と。
良晴に関しては論外だった。
そんな態度が余計に元春の怒りに油を注いだのだろう。
「いいか隆景! そんなサル面の小姓なんて、私が認めんけえ! おやっさんに言い付けて、そんなやつクビにしちゃる!」
そう言うと、元春は部屋を飛び出していった。
「……不味い。こうなった姉上は止まられない。ど、どうしよう武吉」
「小早川のお嬢悪いが、ああなった以上俺にも止められん」
「そんな……」
隆景が悲嘆にくれる。
「村上さん、吉川さんを止められる人はいないの?」
元春が居なくなったことで、命の危機を脱出した良晴だった。
「ああ? そんな奴がおったら苦労は……いや、待てよ」
良晴の言葉で何か閃いたらしい。
「小早川のお嬢。小僧とお嬢で、元就のとこに行って元就を説得して来るんだ」
「そうか。元就さんさえ説得できれば――」
「しかし武吉。父上を説得など出来るだろうか」
父譲りの智謀を持つ隆景だが、まだまだ父に匹敵するほどではない。説得できるだろうか、隆景はそれが不安だった。
「お嬢。今は行動あるべきだ。その小僧を手打ちにしたくなければ、動くしかない」
村上武吉がその大きな手で隆景の髪を撫でる。
台詞とは裏腹に優しい父親の目だった。
自分の高校が実際そうでした(文部両道)
さて、お待たせしました、不敗の名将こと吉川のお嬢の登場です。実はいくつかの戦いで負けいますが、それでも生涯戦績は76戦64勝12分と、十分すぎる戦績ですね。
某やる夫作品でヤン・ウェンリーのAAだったのもうなずけます。
ちなみに前回の後書きとかのように、らしいを多用するのは歴史上のことであって、実際に見たことないからです。あんまり確定のようにいう事好きじゃないので。
そろそろ書き貯めが無くなってきたので、更新ペースが下がります。ご容赦をば。さーどうしよっかなー(白目)