「小早川のお嬢。小僧とお嬢で、元就のとこに行って元就を説得して来るんだ」
「そうか。元就さんさえ説得できれば――」
「しかし武吉。父上を説得など出来るだろうか」
父譲りの智謀を持つ隆景だが、まだまだ父に匹敵するほどではない。説得できるだろうか、隆景はそれが不安だった。
「お嬢。今は行動あるべきだ。その小僧を手打ちにしたくなければ、動くしかない」
村上武吉がその大きな手で隆景の髪を撫でる。
台詞とは裏腹に優しい父親の目だった。
良晴と隆景は吉田郡山城の主、毛利元就の自室で謀将「毛利元就」と対面していた。元春の姿は無い。混乱を避けるため、元就が既に部屋に戻したのだろう。烈火の如く怒る元春が居ては話が進まないのも事実であるだろうが
「さて、隆景どの。元春どのから聞いておる」
見た目は、白髪の混じった越後の――ではなく安芸なので安芸のご隠居といったところか。ただそのご隠居とは違い、好々爺には決して見えないあたり謀将らしさが顔に出ていた。
「ふむ、そのバテレンを新たに小姓としたのじゃな」
「元就さん、俺はバテレンなんかじゃない。俺は未来から来たんだ」
「た、隆景どの?」
良晴の発言にさしもの謀略家毛利元就も驚いた。
「父上、突然のことで驚くかもしれない。だが、良晴は嘘はいっていないのだ。この隆景が保障する」
「隆景どの……」
元就は娘が冗談を言うような性格などではないのをよく知っていた。
「ふむ……」
元就は考え始めた。元就としては隆景が誰を小姓にしようが、口をはさむ気には無い。その智謀はまさしく元就譲りの隆景が、そんなことを言いだすのは、何か考えがあるのだろう。
元就は隆景の目を見る――愛娘というメガネを除いても嘘を言っているようには見えなかった。
続いて良晴の目を見る――。問題はこちらである。もしも隆景をだませるほどの者ならば、警戒しなければならないからだ。
毛利元就。その謀略を尽くし、本国の安芸を中心として備後、備中、長門、周防、石見、出雲の八国を手に入れた立身出世の戦国時代のなかでも、非常に強力な大名の一人である。
また海賊である村上水軍を味方に出来ており、能島を中心とした瀬戸内を握っているのも大きかった。
また非常に有能な謀略家であるため、必要以上に恐れられており、人からの信頼、とくに商人からの信用が薄く、隆元の死後石見銀山を手に入れるまで財政が立ち直らなかったという話があるほど、謀略に長けた人物である。
この爺さんのさらに恐ろしいところは、平均寿命が五十の戦国の世の中、七十を超えても現役で、その謀略も結果的には失敗したとはいえ、九州出兵でも大友家の立花山城を謀略によって寝返らせるなど衰えるさまを知らないというところである。
そのため謀略が人生の元就にとって、信頼すべき人と騙すべき人を見る目は、常人以上に求められた。
「良晴どのと言ったかの。未来の日の本から来たというのは、本当かの?」
「は、はい!」
良晴は元就に話かけられて思わず声が裏返ってしまった。
(毛利元就……歴史に名を残す人物と話せるというのは、歴史好きとしては喜ぶべきなんだろうけれど、なんというか緊張する……)
中国地方の覇者の貫禄は伊達ではない。
「では良晴どの未来から来た目的はなんじゃ?」
「未来から来た目的はありません。気づいたらこの時代にいました。出来るのなら未来に戻りたい。それが俺の目的です。ただ……」
未来に戻りたいという言葉に隆景の表情が少し曇ったが、それは良晴の次の言葉までだった。
「ただ……なんじゃ?」
「俺は小早川さんによって命を救われました。何もわからない俺を命を救ってくれただけではなく、小姓としてくれました。この恩を返したい。それは俺の目的です」
「良晴……」
「良晴どの。では良晴どのはこの乱世で何ができる? 槍働きかの? それとも謀略かの?」
きつい質問だった。
「お、俺は何もできないです」
腹芸が出来るほど経験を積んでいない良晴は、正直に答えるしかなかった。
「ふむ……」
元就の目に失望の色が浮かぶ。
それでも良晴はあくまでも、正直に言葉をつづける。
「でも俺は小早川さんの力になりたい。そう決めました!」
良晴は自分の決意を中国の、日本を代表する謀略家に語った。
対する元就は
「零点じゃな」
「そんな父上!」
食って掛かる隆景を元就は右手を挙げて制する。
「まあ待たれよ、隆景どの。良晴どのは確かに零点じゃ、槍働きも出来そうにないし、見るからに頭が良いとは思えぬ。しかもサル面だし」
ぐさりと良晴に刺さる言葉が投げかけられる。
じ、事実だけど言われると刺さるなあ……。しかも一番最後関係ないし。
「じゃが、良晴どのの決意は確かめた。良晴どの、隆景を頼んでも良いかの」
元就は良晴を認めた。
「父上……」
「隆景どの。そんなに驚いた表情をせんでも良いではないか。さすがの儂もへこむぞ。三日くらい仕事せずに、歴史の研究に専念するぞ? 確かにわしは謀略家じゃ。騙せる相手かそうでない相手か……ゲフンゲフンじゃなくてじゃな。信ずるに足る人間かそうでないかの区別は人並み以上できないとやっていけん」
隆景がその言葉に頷く。
「良晴どの、儂は厳島で友を討った……。主君の陶のために、文字どおりを命を賭けた男じゃった。良晴どの。儂みたく人を欺き、騙しまくった男には本当の友はいないのじゃ。もしこの戦乱の世に、居たとしても互いに殺しあうしかないのじゃよ」
儂のように、と疲れたように元就は言った。実際疲れていたのだろう。身体は言うことを聞かなくなっており、謀略も往年ほどうまくいってるとは言い難かった。自分は長く持たない。だが、
「じゃが、もしも友人同士力を合わせることが出来れば、太平の世を創ることも可能なのではないかと、儂は思う。互いの才能ゆえにお互いを理解できるのではないかと。友が教えてくれた『百万一心』となれるのではないかと」
「父上……」
隆景は気づいた。父上は、厳島合戦で友を討ったのをまだ悔いているのだと。
「隆景は儂の血をいちばん濃くついでくれた。既に隆元は死に、輝元はまだ幼い。元春は智がからっきしじゃ。儂は儂の死後、毛利を背負うことになる隆景が心配なのじゃ。良晴殿。隆景……いや徳寿丸の友達になってやってくれんか」
そこに謀将毛利元就の姿はなかった。居るのは家族を慮る父親だった。
良晴は是非もなかった。
そう。何故なら俺は――
「俺は小早川さんの力になると決めました。その言葉に嘘偽りはありません」
良晴は元就の目を見ながらしっかりと、言った。相良良晴は小早川隆景の力になると。
「良晴殿、感謝する」
そういって元就は良晴に頭を下げた。
それっぽく書いてますけど、書いてる人はにわかなので、詳細な突っ込みされるとボロがでるリトマスです。
謀将毛利元就だけではなく父毛利元就の両方を書いてみましたが、どうでしょうか。うまく伝わればよいのですが。
日常シーンのネタが欲しい……(切実)
それでは次回、元就に認められた良晴は隆景とともに、少しのんびりする(予定)のタイトル未定の次回でお会いしましょう。
5/18日微妙に編集 謀将の背中ってタイトルなのに、謀神ってなってたところ(話書いてからタイトル決める弊害)と、本当に微妙に地の分の追加、行数詰まってたので改行増加などなど