織田信奈の野望 もし小早川隆景に拾われたら?   作:リトマス

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第8話 火種と井戸

良晴が元就に認められてから数日後。

その日、毛利家の居城である吉田郡山城は物々しい雰囲気に包まれていた。

なんでもほぼ次代を担う事になる小早川隆景が、重大な発表を行うということで、吉川元春や村上武吉をはじめとした主だった家臣が集められていたのである。

 

「これでほぼ集まったかの。では隆景どの。重大な発表とはなんじゃ」

「はい。父上」

(情けない。初陣でもあるまいし、こんな……)

ドックン。ドックンと隆景の胸が大きな音を立てる。

 

「小早川さん」

 

良晴が隆景を見て頷いた。大丈夫だと彼が言ってくれているそう思えた。そしてそれだけで隆景は自身の心が落ち着くのが分かった。

 

「皆の者、私はそこにいる相良良晴を小姓とし、そして彼とともに織田家と同盟を結ぶために京へ上ることとした」

 

隆景の爆弾発言とも言う発表に、評定の間が色めき立つ。

驚いていないのは村上武吉くらいだろう。隆景を支えると公言してはばからない彼には、既に話が通っているのだろう。

 

「なんじゃと!!」

 

真っ先に反応したのは、やっぱりというか吉川元春だった。

評定の間で良晴を見かけたときは、どつきかかろうとしていたが、元就に諌められたため大人しくしていたが、隆景の発言で導火線に火がついたらしかった。

ギンっと良晴を睨んでくる。その視線だけで人を殺せそうな視線に良晴はビビりまくった。

 

(や、やっぱ吉川さんこええええええ)

 

普段は平家物語にでてくる公達で、腐った妄想にふけっている彼女だが、ひとたび戦場に出れば、この中で誰よりもうまく切った張ったが出来るのだ。

生涯戦績は76戦64勝12分の文字通り生涯不敗の名将の眼力は伊達では無かった。その気になれば、素手でも人を殺せるのである。本当にその細腕の何処にそんな力が隠されているのだろうか。

ただし、今回に限っては元春の恐ろしさが発揮されることはなかった。何故なら――。とびかかろうとした時である。

 

「小早川様、いくらなんでも急すぎではありませぬか? そもそもその相良良晴という人物はいったい何者ですか?」

 

いの一番にまともな意見を述べたのは、袈裟を着たひとりの坊さんだった。

普通の坊さんと違うのは、頭を丸めてはいるものの、側頭部には髪の毛を残しているところか。

 

その坊さんの発言に対し、周囲からは驚きの声が漏れる。

その発言者を予想していたのは文字通り誰もいなかったのだろう。

あの元就でさえ、驚いた表情を浮かべていた。隆景は勿論のこと、今にでもとびかかりそうな元春は言わずもがなと言えた。その人物は当主元就は勿論、隆景の信も厚い毛利家の重臣であるはずの彼が、言外に隆景を批判したのだ。皆の驚きは当然といえた。

さて、その人物の名は――。

 

「恵瓊、申してみよ」

「はい。元就様」

 

安国寺恵瓊。大名家はもちろん朝廷への外交をも担当する坊さんであり

 

そして後に石田三成、小西行長と共に西軍の首謀者とされる人物である。

 

さて、この安国寺恵瓊であるが、いささか面白い経歴の持ち主である。

元々は毛利家に滅ぼされた安芸の武田家の一族の子とも言われており、

出家した先の東福寺の師匠が、先代毛利隆元と懇意であったことから毛利家に仕えることになった人物である。

 

ちなみに恵瓊が織田家との同盟よりも、良晴の素性に関して論を述べたのは、それまで男嫌いであるはずの隆景が男を小姓とした衝撃の方がおおきかったせいである。

恵瓊の周りからもあの小早川様が……という声が聞こえてくるほどだった。

 

 

「はっ、生臭坊主が」

 

そんな恵瓊に出席していた村上武吉がヤジを飛ばす。

武吉が言ったようにこの坊さん坊さんでありながら、肉は食う酒は飲むといったように、純粋な坊さんとしては見るにはいささか問題があった。

まあもっとも元々が武家の一族と考えれば、本分に戻っているだけかもしれなかったが。

 

「そうだな。まず説明しよう。相良良晴は未来の日の本からやってきたものなのだ。私は彼とともに織田家に赴くことで、毛利家の天下を目指す」

「失礼ながら小早川様。頭を打ったわけというわけでは……」

 

恵瓊は隆景、そして元就に視線を向ける。

元就はその問いに首を横に振った。

 

「儂の知る限り隆景が頭を打った話は聞いておらん」

「うーむ、では小早川様。そうですな。まずもし仮にその相良良晴どのが未来人だとして、その証拠は何かあるのですかな? しかも現在今川によって今にでも滅ぼされそうな織田家を同盟を結ぶ意味などあるようにはそれがしには思えませんな」

「そうじゃそうじゃ!」

 

元春が恵瓊に便乗してくる。

 

「良晴」

 

良晴は隆景に頷いて、事前に武吉から受け取ったスマホを取り出し、皆に見せる。

 

「これが俺が未来人だという証拠です。俺たちの時代ではこれがほら貝です」

 

なんだなんだと怪訝な顔をする毛利家臣たちに良晴は説明する。

 

「これが未来のほら貝ですと。ははは小早川様もご冗談がうまい」

「そうじゃけえ隆景、そんな小さなもので、ほら貝のような大きな音が出せるないじゃけえ」

 

恵瓊の笑いに釣られるようにして、評定の間が笑いに包まれる。

 

(くっ、こっちが何も言わないからってこいつら……)

 

良晴はぐっ、拳を握りしめることでその嘲笑に耐えた。固く握りしめられた良晴の手に何か柔らかいものが触れた。

隆景の手だった。

 

(良晴耐えろ。はい。そうですかと信じられても、それはそれで信用ならん。むしろこれがまともな反応なのだ。だからこそ、評定を開いたのだ。)

(そうだったね。小早川さん。始まる前に散々言われてたのに俺ってば……)

(なにかまわないさ。それよりも良晴そろそろだ。あと、姉者には父上にいってもらって後で折檻だ)

 

二人はアイコンタクトをかわした。

 

「論より証拠だ。良晴」

 

隆景の言葉に頷いて、良晴はスマートフォンを操作した。

 

「はははっ。ん!? こ、これは!?」

「なんと……」

「そんな小さなものからでこれほどの大きな音が……戦での妨害に使えるやもしれんな」

 

スマートフォンから流れ出したほら貝の音に、笑っていた者たちが次第に顔色を変えていく。

(この世界に来る前に、たまたまセールやってたからほら貝の音入れたけど……こんなことで役立つとはなあ)

もし仮に元の世界に戻ったら、いっぱい効果音をDLしておこうと良晴は決めた。

 

「恵瓊。これで証拠になったのではないか?」

 

嘲笑されたことに対してやり返す事なく、あくまでも、淡々と隆景は問う。

 

「むぅ、では織田家と同盟を結ぶ意味は?」

「そうじゃそうじゃ!」

 

元春がほぼまともに意見を述べないのは、自分だと基本的に隆景に論破されると分かっているからだろう。賢明な判断である。まあ、恵瓊に会話のコントロールを握られているからという理由もあったが。

 

「織田家が天下統一に一番近いからだ」

「織田家がですと、あのうつけ姫が今川に勝つと本気でそうおっしゃるのですか?」

「恵瓊。何もおかしな話ではない。私達の厳島合戦もそのような状況であった」

 

隆景のその言葉に、その場にいる誰もがはっとした。

厳島合戦もまた絶望的な兵力差だったのはこの場にいる誰も知っていたからだ。

特に厳島合戦に実際に参加した者の反応は顕著であり、隆景と良晴はうまくいけばこのまま自身の案が通るかのように思えた。

 

 

「隆景どの。別に同盟相手が増えるのは儂としては構わん。じゃが、隆景どの。厳島は一か八かの賭けじゃった。織田家が我ら毛利と同じように、うまくいくかの?」

「父上……」

「元就様」

 

毛利家当主、毛利元就だった。

(やはり父上が出て来たか。もっともこの問題について話せるのは父上くらいだろうが)

隆景は予想していたとはいえ、元就はこの問題の一番弱いところを突いてきた。

隆景が内心で思うように、何もこの問題に気づいた者は元就だけではない。だが、彼らにはどうしてもこの問題の弱点をつくことは出来なかった。何故ならこの問題を面と向かって批判すれば、それは厳島合戦で勝利した毛利家を否定することになるからだ。

 

実際にこの問題を詰めることが出来るのは、それこそ元就、隆景くらいだろう。

元春に関しては実際、自分が戦ったということもあり、自身を否定するかのようなことを迂闊に言えないあたり、厳島合戦の例を選んできた隆景の策は妙であると言える。

 

だが、現実問題として立ちはだかる壁として元就がいるのも間違いない。

正直お手上げとも言える状況だった。

「小早川さん……」

良晴の不安そうな表情に隆景は大丈夫と答えた。

確かにお手上げと言える状況だったが、まだ希望があるからだ。

何故なら――

(あとは父上の毛利家当主としての判断に任せよう。父上ならば落としどころとして両方の立場が立つようにするはずだ)

 

「さて、隆景どの。恵瓊。そろそろ充分じゃろう。儂の意見としては隆景どのが誰を小姓とするかに関して儂は口をはさむ気にはならん。隆景どのの実績はこの場にいる誰もが知っておるからの」

 

元就の言葉に皆一様にうなずく。隆景も伊達に明智の将と呼ばれているわけではない。

 

「京へ上るのも反対する理由はない。上方の情勢も気になるところじゃったからの。織田家の話に関しては儂はまず織田家がこの危機を乗り越えてから、と思うのじゃが、隆景どの。恵瓊。どうじゃろうか?」

 

果たして隆景の予想通り、無難とも言える判断だったが、落としどころとして両方の立場がたつものだった。

個人としての元就ならともかく、毛利家当主元就の判断としては当然の判断だろう。

 

「私としては何も問題はない」

「某も問題ありませぬ」

 

隆景、恵瓊ともに異論はなかった。ついでに元春としても異論が無かったことを書きくわえておく。(ふん! 織田のうつけ姫が今川の大軍に勝てるはずがないじゃき。うちら毛利が勝ったのは家族で力を合わせたからじゃき。あんな奇跡が二度も起きようはずがない)

公然と批判はできないが、武将吉川元春としての判断である。未来を知っている良晴とそれを教えてもらった隆景だからこそ、織田が勝つと信じているが、元春の判断こそ一般的な考えだと言える。

歴史上少数が大軍を破るほうがまれなのだから。

 

「では評定はこれまでとする」

 

元就のその一言で評定は終わりとなった。

 

 

 

評定を終え、隆景は良晴と共に隆景の自室に戻る最中。

 

「ふぅ……」

「どうだ良晴疲れたか?」

 

言葉には出さないが、疲労が濃い良晴に隆景が声をかける。

 

「うん。でも小早川さん程じゃないよ」

 

確かに隆景の疲労も濃かったが、始めての評定の良晴と評定慣れしている隆景ではかかる疲労というものが違うと言えたのだが

 

(女の子が頑張っているのに、男がこれくらいで音をあげたりなんかしたくない)

 

という意地が良晴に甘えを許さなかった。つまらない男の意地といえばそれまでだが、良晴を支える大切なものだった。

そして隆景にとって好ましいものだった。

 

 

「むっ」

 

そんな二人の前に柱の隅からが人影があらわれた。

 

「……恵瓊」

 

お互いの顔に緊張が走る。先ほどまで討論しあっていた2人なのだから当然だろう。

恵瓊と隆景が鉢合わせたのを見た家臣たちが足早に去っていく。隆景の信が厚い恵瓊が主を公然と批判したのだ。何かしら厄介事が起きると考えて間違いなかった。誰も好き好んで厄介ごとに関わりたくない。

 

 

 

隆景と恵瓊は誰もが居なくなったことを確認し、隆景から口火を切った。

 

「恵瓊。ご苦労だった」

「いやいや中々憎まれ役というのも大変です。報酬は期待させてもらいますぞ」

「あとで、父上秘蔵の梅酒をもっていかせよう」

 

 




人生で始めて謀略っぽいものを書いてみましたリトマスです。
色々書きたいことはあるんですが、特に今回はいっぱい感想来たらいいなあ()

さて比較的必要なことだけ書いていきましょう。
作者の宗教的な理由で、この作品では可能な限りオリキャラは出さないつもりですが、どうしても展開的に出す必要だったので、半というか1/3くらいオリキャラである安国寺恵瓊さんに出張ってもらいました。少ない人物描写ですが、元ネタに気づいてもらえたらなと思います。

また恵瓊さん以降のオリキャラですが、出す予定はありません。たぶんこれっきりだと思います。たぶん……。

そして今回もまたそれっぽいことを書いてしまった。思い切りボロが出そう(遠い目) 中の人にわかだからしょうがないね


それでは次回、前日談である謀略家たちの宴(仮題)でお会いしましょう。
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