今日、人類最期の火が消えた。
超鋼を纏った青年は、少女の小さな体を静かに大地へと横たえた。
明るく快活であったはずの少女の手から力は消え失せ、眠るように穏やかな顔で、安らかに冥府へと旅立っていった。
「・・・。」
終わったのだ。人類の歴史が。
終わったのだ。俺の戦いが。
青年の名は、葉隠覚悟。
長き眠りの末に記憶を失い、文明が滅びし遥かなる未来に目覚めた『エクゾスカル戦士』。
その身に纏う超鋼は、強化外骨格 零。
三千の英霊を宿す、生ける鎧。
葉隠覚悟が零を着装する時、いかなる防御をも貫き通し、いかなる攻撃をも跳ね返す、最強の戦士となる。
しかし
最強の矛と最強の盾を併せ持つ戦士ですら、太刀打ちすることのできぬ〝運命〟がある。
すべての人が〝火〟-人間の持つ絆-を失い、人外の怪物へと変貌する運命にある。
この絶望的な世界で、覚悟が見出した使命は、『人類の〝今日〟を見届け、守り、そして牙なき人たちと共に冥府へと堕ちていく』こと。
そして今、覚悟はその使命を終えた。
地上にはもう、牙なき人はいない。
残されたのは〝火〟を失った人々が変貌した存在『到達者』、そして彼以外の『エクゾスカル戦士』のみである。
「・・・そして、俺の命もこれで終わる。」
いまこそ、最後の使命を果たす時が来たのだ。
覚悟は着装を解除する。
零が収容されたスーツケースに静かに敬礼を行い、今生の別れを済ませる。
「今日この日まで共に戦ってくれて、ありがとう。三千の英霊に、敬礼。」
万感の思いで最敬礼を行い、続いて自らの口腔内へ向けて銃を構える。
静かに瞼を下ろし、指先に力を込めた–その時。
–助けて!
覚悟は瞼を跳ね上げ、銃を降ろす。
「幻聴・・・?」
覚悟は今一度、意識を聴覚へと集中する。
–みんなを・・・。あの子たちを助けて!誰か・・・!
届いた。確かに届いたのだ。
幻聴などでは決してない、助けを求める者の声。
覚悟は銃を収め、零が収容されたスーツケースを力強く掴んだ。
「零!まだこの世界に牙なき人が残っている!別れは暫く後になる!」
『覚悟よ!』
覚悟は目を見開き、スーツケースを見る。
『助けを求める者の叫び、この世界の者に非ず!遥か別の地球なり!』
覚悟は驚愕の表情で零を見る。
鎧が、零が自らの意思を持ち、自ら話しかけてきたのだ。
次の瞬間、覚悟の意思とは無関係に零の着装が成された。
「零!?」
『見るのだ覚悟!自らの足跡を!いまこそ取り戻すのだ!自らの真の意思を!』
超鋼の中で覚悟の目に映ったものは、自らの失われたはずの記憶だった。
まるで映画を見ているかのように、自らの記憶を取り戻してゆく覚悟。その懐かしく、二度と戻れない日々の記憶に映っているのは、友、兄、父そして、誰よりも愛した一人の少女。
『覚悟よ、我らの声が聞こえるか』
–聞こえる。聞こえるぞ零!
『我ら今より、再び鋼我一体なり。そして備えよ!新たなる戦いに!我らを呼ぶ声に応えるために!安息を得るはそのあとなり!』
–零。見損なうな。俺はすでに覚悟完了!さあ征こう、助けを求める声の元へ!
『助けを求める声、別の時空より到達せり。征けば二度とは帰れまい!』
–委細問題なし。しかしどう別の時空へ征くのだ!
『目を閉じよ覚悟!すでに扉は開いているのだ!』
–了解した。では改めて、往くぞ零!
『応!』
葉隠覚悟、帰還せり。
新たなる大地にて苦しむ人々のために。