超鋼を纏いし戦士たち -神武の艦隊-   作:Violet

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【再起編】第五話 鈍色

「悪姫の命を俺に預けて頂きたい。」

 

彼は帰投早々、出迎えた私にそういった。

全身を拘束され、意識を失くしているとはいえ、いま目の前に居るのは人類の、我々艦娘の宿敵だ。

 

「・・・この事は我々以外には秘匿とする。」

 

私が絞り出せた言葉はそれだけだった。考えがまとまらない。

 

「・・・すまない。しかしどうしても確かめたいのだ。」

 

「・・・何をだ?」

 

彼は私の目を見据え答えた。

 

「この者が秘める、〝火〟を。」

 

火。人間の〝火〟。

ありえない。〝これ〟は悪魔だ。

私の同胞を幾人も殺し、海を奪った敵だ。

純粋すぎる。彼は。

そして知らなすぎる。敵を。

 

「 ・・・〝それ〟は人間ではない。くれぐれも忘れないでくれ。」

 

彼は少し、気付かないくらい少し表情を悲しげに曇らせた。

 

「・・・感謝する。」

 

彼が悲しげな顔をした理由はわかっている。

 

–・・・人間では、人では無いのだ

 

そして恐らく。

彼は知ることになるだろう。

どんなに強い光も届かぬ〝深海〟があることを。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

薄暗い牢獄の先にら俺と零、そして長門殿は通された。

そこに彼女は居た。

四肢を幾重にも拘束され、微動だにできぬ姿なり。

しかしその目には怒りの火を灯し、俺の目を真っ直ぐに睨め返している。

 

長門殿が進み出る。

 

「目覚めたか。」

 

–・・・

 

俺はトランクを傍らに置く。

今日面会を求めたのは俺ではない。

零が求めた面会なり。

 

「零」

 

『応』

 

トランクからまろび出し三千の英霊。その姿に彼女も長門殿も驚愕に目を見開く。

夥しい数の髑髏は一つとなり、その姿を壮年の男のものに変えた。

 

零が彼女を見る。

 

–悪姫よ!

 

–・・・ッ!

 

–我が名は零!我は怨霊なり!

 

彼女は零を睨む。怒りと困惑の眼差しを向ける。

 

零が徐に彼女の額に手を添える。

 

–!ナニヲ・・・

 

–見るがいい〝怨霊〟よ!我が記憶!我が正体!

 

彼女がびくりと震える。

その目は虚空を見つめ、動かなくなる。

 

「零!一体何を!葉隠殿!?」

 

長門殿が声を上げる。

無理もあるまい。俺も初めは反対したのだ。

 

「零は他者の記憶を垣間見ることができる。今はその逆、自らの記憶を見せているのだろう。」

 

「記憶を・・・?」

 

「長門殿、貴女なら分かるはずだ。英霊たる艦の魂を宿す貴女なら。」

 

そうだ。零よりも、恐らく深く。

長門殿が息を飲む音が聞こえる。

 

「・・・いつ気づいたのだ。貴方は。」

 

「零が教えてくれたのだ。貴女と出会い、気を失った俺の夢の中で。」

 

–そう。長門殿等艦娘と、彼女たち悪姫の〝魂〟の由来を

 

 

零が語りしは彼女達の〝魂〟の胎動なり。

 

嘗ての大戦で大海の覇者となるべく生み出されし帝国艦隊。

しかし、大戦において興盛を極めしは航空機。帝国艦隊はなす術もなく撃滅され、活躍することなく深海へ消えて行った。

 

肉体が鉄屑と化してゆく中、二つの意思がこの世に残った。

 

一方は護るべき故国の人々を護れず、散っていくしかなかった悲しみと無念。

 

その無念は人間の技術で形を持ち、いつしか人と変わらぬ〝火〟を宿した存在になった。

 

一方は手前勝手な理由で生み出され、霊長を名乗りながら同種で殺しあう人間の道具として、凌辱され尽くした事への強き怒りの怨念。

 

怨念はいつしか形を持った。

人間に対する怒りと、自らが眠る海を人類から取り戻し、護る。その思いを形にしたのだ。

 

 

「・・・私たちと〝これ〟は同じではない。」

 

「承知している。貴女達艦娘と悪姫は起源こそ同じだが、その後に宿した〝魂〟はまた別。」

 

–同一の存在から二つの魂がまろび出ることはあり得ぬ

 

–しかし

 

「悪姫はー」

 

 

 

–・・・ゼロ

 

『・・・!』

 

悪姫が覚醒した。

 

–ショセン キサマモ ウスギタナイニンゲンナノダ

 

『な・・・!』

 

悪姫の右手周辺の空間が急速に湾曲。手枷が破砕された。

そのまま、右手に小型の艦砲が形成される。

 

瞑い光を発する砲口が俺の眉間を捉える。

 

–ニンゲンハ ミナゴロシダ

 

炸裂音と共に、砲口から鈍色の砲弾が放たれた。




次回

悪姫より放たれしは黒い怒りか。絶望の涙か。
覚悟よ、今こそ覚悟完了せよ!
君はもう思い出したはずだ!
くじけない唄を!
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