「ダメです。金属性岩盤層が続いています。掘削機は破損、扶桑・山城両名の艦砲射撃を実行しましたが破壊できません。」
「敵再展開の恐れがあります。全艦残弾無し、後退します。」
「そうか・・・。」
虚しい報告に私は苛立ちを隠し答える。
-嘗ては漁師の島として栄えていたと思われる小島。今は数世紀前の遺跡が残るだけの荒地だ。〝あれ〟座標は間違いなくこの場所を示している。しかし・・・
艦娘の、それも戦艦級二隻の総力を持ってしても破壊不能な未知の金属層。私は焦りを隠すために静かに目を閉じる。
帝より賜った極秘任務。
皇家に伝わる遥か過去よりの〝遺産〟の回収。
曰く最終兵器。曰く隠し財宝。
以前より噂だけが独り歩きしていた代物だったが、この度帝直々に回収せよと私、伊勢型戦艦二番艦 日向に勅命が下された。
-直ちに回収部隊を編成、出撃せよ。尚、本作戦は海軍管轄ではなく近衛府管轄とする。一切箝口せよ
陛下をお疑いする気持ちは更々無いが、どうもきな臭い。内容は単純だけどそれ故どこか引っかかる。第一、日本近海での大規模作戦が目前に迫っていると言うこのタイミングでこの任務だ。
-・・・作戦の噂
近海での大規模な資源回収作戦。
各鎮守府より総力に近い艦娘を投じて行われる予定であり、姉である伊勢も第一艦隊副官として出撃する。
数日前より、この作戦が偽りのものであるとの噂があった。
-大多数の陸軍に大陸への移動命令。護衛に最新鋭艦娘多数配備。
陸軍の護衛に艦娘、しかも日本海を渡るには過剰な護衛を伴ってだ。本来それだけの戦力を海洋に向けない理由はない。
-私たち旧式は捨て駒、民間人も!あろうことか陛下まで見殺しってハラだよ!
昨夜の伊勢の言葉が蘇る。勝気な姉が目尻に涙を浮かべて叫んでいた。
もちろんあくまで噂だ。もしかしたら杞憂かも知れない・・・いや止そう。
-細部はさて置き〝噂〟は真実だろうな。この任務も〝それ故〟という事か・・・
陛下もすでに御自らのお立場をご存知なのだ。この国の民草の象徴として最善を尽くすお覚悟なのだろう。やれることは全て行おうというお気持ちであられるのだろう。
頭を振る。余計な考えは要らない。
陛下のお覚悟を無駄にはしない。この勅命、必ず果たしてみせる。ただ問題は目的の〝遺産〟が眠る島が深海棲艦の勢力下にあることだ。
ならばこそ・・・。
「扶桑型姉妹は補給を急げ。待機中の艦娘は直ちに艤装着装、私も出る。」
「キミも出撃するのかい?」
近衛府直参 松田殿に尋ねられる。
「無論です。戦艦二隻の威力でも足りないのであれば、戦力の逐次投入などせず全力を持って当たるべきです。それに時間を置いてしまった為、深海棲艦の再度の襲来が予見されます。」
「そうか。だがくれぐれも目的物まで破壊しないでくれよ。伊勢型姉妹の威力は有名だからね。」
そう言って妙に愉快そうに笑う。彼曰く、伊勢型姉妹の力は有名らしい。
一礼して格納庫へ向かう。彼の言う〝威力〟を纏う為に。
ーーー
「日向隊長。全艦出撃準備完了しました。」
「了解。直ちに出撃する。」
戦艦三、重巡一、空母二、駆逐六から成る、計十二隻の艦隊を率いて小島に向かう。
「目標は島北部の岩盤だ。深海棲艦が再展開している可能性が高い。筑摩、索敵機を直ちに発艦させろ。総員戦闘態勢、単縦陣で突入する。我に続け。」
「了解。索敵を開始します。」
重巡型艦娘 筑摩が索敵を開始。同時に島へと進撃する。
-周囲に敵影無し、このまま行けるか・・・
周囲を見渡す。その時。
「隊長!右舷前方に敵艦載機体を確認!数およそ200!大編隊です!」
筑摩からの報告を受け、速やかに指示を飛ばす。
「やはり再展開していたな。空母は艦上機隊を発艦させろ。初雪、白雪は空母の護衛に当たれ。」
命令を発しつつ、私も〝瑞雲〟を発艦させる。敵機隊との接敵まで3分も無い。
「艦上機隊出撃完了!さあて、パーっと行こうぜぇ!パーっとなぁ!」
隼鷹の気合いに応え、艦上戦闘機の群れが唸りを上げて突撃していく。
「筑摩、敵艦隊の発見を急いでくれ。あの規模の編隊、近くに空母艦隊が潜んでいるのは確実だ。」
「了解!」
偵察機隊が索敵を急ぐ。なんとしても先を取らねばならない。戦闘機隊は既に凄まじい空中戦を展開し、夕暮れに変わりつつある空をより赤く染めていく。
赤い花が空に咲く
その光景は美しく、残酷だ
ーーー
長い
ひたすら長い微睡みから私は目覚めた
新たなる世
新たなる人
そして艶やかに殺しあう戦乙女たち
退屈な時は終わる
地球に再び灯された〝火〟よ
この私を存分に楽しませてみよ