超鋼を纏いし戦士たち -神武の艦隊-   作:Violet

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序章 艦娘 戦艦長門

この戦いは、最初から絶望の中にあったのだ。

 

仲間たちは。愛する姉妹たちは、その事実をまだ知らないのだ。

 

私だけが。呉鎮守府秘書官である私だけが、この唾棄すべき策略を知らされている。

 

 

国際海洋守護連合軍–通称 国連軍–は、その極東支部を事実上見捨てる決定を下した。

極秘の内に、各国の最大戦力の大半を大陸に集中させ、再び力を蓄えた後に反撃に移る。海洋の八割を失ってしまった現状の戦局を鑑みれば、妥当な策といえるだろう。

たとえそれが、大陸に属さぬ国を一切顧みないものだとしても。

 

当然ながら極東軍、つまり日本海軍は猛反発した。

国を捨てる。今この地で懸命に生きる、力なき民を見捨てる事など出来るはずはない。

 

しかしその思いも虚しく、政を担う者たちと軍高官は、余りにも愚かな選択をしてしまった。

 

–旧式化した艦艇を囮とし、極秘開発中の大和型艦娘を始めとする新鋭艦隊及び政府機能、そして軍民を大陸へ脱出させる。国家及び国民にはこれを秘密裏とする

 

海軍は言葉を失い、そして激昂した。

今この時を必死に紡ぎ生きている、力なき民を見捨てると言うのか。

民のみならず、帝すら切り捨てると言うのか。

長きに渡り共に戦った戦友を、護国の為、身を挺して戦い抜いてきた戦乙女たちを囮として死地へ向かわせるというのか。

 

それに対し、政府高官はこう言い放った。

 

 

–民は既に死に体である。もはや本土防衛の余力は無く、ただ死を待つものと変わらぬ。

 

–帝には、そのような民の希望として本土にお残り頂く。

 

–艦娘は元より兵器である。人が生き残る為であれば、自ら進んで挺身奉るのが本懐であろう。

 

 

その後は速やかに事が進んでいった。囮となる艦娘たちには、この作戦は重要資源の確保だと伝えられた。

各鎮守府の司令官たちには作戦の要諦が伝えられ、緘口令が敷かれた。

ある者は最期を悟り涙し、ある者は保身に走り、またある者は自らの役目を放棄した。

 

 

そして私たちの提督、司令官は、私にのみすべてを語ってくれた。それだけではない。先の理由により混乱著しい鎮守府の艦娘たちを引き取り、再編した。

その中には私の実妹である陸奥の姿もあった。就航したばかりの幼い艦娘たちも多数いた。

幼い妹たちは、今回の混乱は単なる配置転換であると思っている。

陸奥や古くからの戦友たちは、もしかしたら事態を察していたのかもしれない。

 

いずれにせよ、そう近くない内に私は海の藻屑と化すだろう。

 

–あわよくば

 

私のみがそうであればよいのだ。

 

 

 

司令官から伝えられたのは、今回の任務の事だけではない。

もはやこれまでと判断したならば、残存艦を率いて大陸まで落ち延びよとの極秘指令を受けたのだ。

 

–司令は如何なさるのですか

 

壮年の司令官は、優しい父のような笑みを浮かべて言った。

 

–儂はここに、この地に残るよ。例えこの国が滅びる運命にあるとしても、最後を迎える瞬間まで戦うつもりだ。

それにだ。お前さん達がよしんば帰ってきた時に、ここがもぬけの殻という訳にはいかんだろう。

儂にも、艤装の整備くらいはできるからな。

 

優しく厳しい、父のような人だった。

 

その司令官が作戦前夜、深海棲艦の内地爆撃により亡くなった。

 

私には、悲しむ時間すら与えられなかった。

 

–もはや私に帰る場所は無い。あとは司令から賜った命を果たすのみ。

一隻でも多くの仲間を、妹たちを生かすのだ。

そして司令が果たせなかった任務を、この国の民の為、最期の瞬間まで戦い抜くという使命を果たすのだ。

 

 

ーーー

 

 

戦いは激戦となった。

深海棲艦は予想を遥かに上回る数を海域に投入しており、彼我の戦力差は数えるべくもない程の差があった。

 

やがて、大本営より作戦成功の報告があった。

私は速やかに指示を出した。

 

「全部隊、撤退する!この海域は放棄する!繰り返す!この海域は放棄する!」

 

『こちら第二艦隊旗艦、陸奥。了解しました。これより作戦海域を放棄、全艦撤退行動に移ります。』

 

『こちら第一水雷戦隊、朝潮!艦隊の半数が損傷率70パーセントを超えています!旗艦不知火、航行不能です!救援を!』

 

「こちら連合艦隊旗艦、長門。了解。第二艦隊、救援に向かえ。水雷戦隊は回避運動を継続しつつ、何としても持ちこたえよ。諦めることは許さん。」

 

『朝潮、了解しました!申し訳ありません・・・。』

 

『陸奥、了解。全速で救援に向かいます。』

 

私は陸奥のみに回線を開いた。

 

「陸奥、聞いてくれ。」

 

『何?個人回線なんて珍しい。軽い軍規違反よ姉さん。』

 

この惨事でも軽口を叩けるとはな。

いつもなら叱り飛ばしていただろうが、いまはその精神力の強さが頼もしく感じる。

 

「第一艦隊もそちらに合流させる。お前はそのまま、九州を迂回して大陸を目指せ。いまより全艦隊指揮権をお前に預ける。」

 

『!?何を言っているの!大陸!?一体どういう・・・。』

 

「説明している時間はない!命令だ!」

 

『姉さん!?貴女は!貴女はどうするの!?』

 

「私は殿軍を務める。なに、心配するな。長門型装甲の頑強さは、お前も良く知っているだろう?」

 

『姉さん!貴女・・・。』

 

私は陸奥との回線を切り、全軍に向け通達した。

 

「全軍に通達!これより連合艦隊旗艦の権限を、第二艦隊旗艦、陸奥へ移譲する!第一艦隊は私、長門以外はすべて第二艦隊へと編入する!なお、合流までの間、第一艦隊旗艦を伊勢とする!・・・殿は私、長門が務める!以上!」

 

「秘書官!?」

 

「伊勢。聞こえなかったのか?急げ。」

 

「まってください!突然過ぎます!」

 

「命令に突然もなにもない。速やかに実行せよ。」

 

「っ!了解しました。戦艦伊勢、これより第一艦隊を率い、第二艦隊と合流します!」

 

「頼むぞ。」

 

「秘書官・・・。」

 

「・・・陸奥に伝えてくれ。またいつか、鎮守府で酒を酌み交わそう、と。」

 

「っ!了解!」

 

これでいい。陸奥は優秀だ。誰一人欠くことなく、大陸へと導いてくれるだろう。

 

「長門秘書官!」

 

「っ!吹雪!?何をしている!?」

 

特型駆逐艦 吹雪。

呉鎮守府で生まれ、司令官が孫のように可愛がっていた艦娘だ。

 

「秘書官!私も共に戦います!」

 

「馬鹿者!命令無視とは何事か!急ぎ艦隊に合流しろ!」

 

「司令官と秘書官の話、聞いてしまいました。今、秘書官が成そうとされていることも理解しています。」

 

「ならば!戻れ!お前は生き残るんだ!」

 

「拒否します!・・・それに、私も秘書官と同じ思いです。司令官が愛した国を、日本を護ります!」

 

「吹雪・・・。」

 

「だから、戦います。これが、たぶん最後だから。」

 

彼女は最後と言った。私が恐ろしくて口に出せなかった言葉を。事実を。

日本を護る。その最後の機会であると。

 

「・・・いいだろう。吹雪!これより先、何が起ころうと振り向くな!前の敵を一体でも多く撃滅せよ!・・・往くぞ!続け!」

 

「はい!秘書官!」

 

 

この戦いは、最初から絶望の中にあったのだ。

 

仲間、愛する姉妹たちはその事実を知らないはずだったのだ。

 

沈む時は一人でいいと決めていた。

だがどうだ。仲間が、小さな妹が側に居てくれるだけで、私の中の〝死に方用意〟は消えていく。

 

湧き上がるのは意志の力だ。生きようとする活力だ。

 

−私は生きる!生きて彼女と供に、仲間の下へ帰るのだ!

 

 

 

 

 

 




勢いで書いたため、非常に読みずらい内容になってしまいました。

次回

敵の大群に突撃する長門と吹雪。
二人は獅子奮迅の戦いぶりで、次々と深海棲艦を薙ぎ払ってゆく。
しかし、多勢に無勢。
徐々に傷つき、力を失ってゆく。

二人に最期の時が迫りし正にその時
遥か彼方の別時空より
絶望に因果を撃ち込むため
正義、降臨。
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