「右舷より敵艦載機多数来襲!吹雪!私の左へ廻れ!」
「っ!了解!」
無限とも思える深海棲艦の猛攻により、私達の体は既に限界を迎えていた。
「左舷の駆逐艦級は任せるぞ!私はこのまま、右舷の艦隊と艦載機隊を叩く!」
「了解!」
吹雪は主機に異常をきたしており、速力低下。
武装に至っては、主兵装たる雷装が損壊。連装砲も残弾が尽きかけている。
私は左舷対空砲が直撃弾により全壊。主砲の残弾も残り数発のみ。
–もう、ここまででいいだろう。
右舷から迫り来る爆撃機を撃滅し、吹雪を見る。
身体中傷だらけで、血が滲んでいる。損壊した艤装からは火が燻り、オイルも漏れ出している。
「吹雪。」
「はいっ!」
私は吹雪の目を見つめる。その力強く、幼いながらも戦士の〝火〟を宿した目を。
「吹雪。貴艦は速やかに戦線より退避せよ。」
「っ!?秘書官!何故です!?」
私は吹雪の問いかけを無視して、脚部の推進装置と予備の燃料タンクを外し、吹雪に差し出す。
「秘書官!!」
「吹雪。私はお前の中に希望を見た。ここで朽ち果てることは許さん。急ぎ艦隊を追い、合流を果たすんだ。」
「あなたは!あなたはどうするんですか!?あなたは希望なんです!今日本で生きる人たちの!誇りなんです!あなたの戦う姿が!」
「だからこそ往くのだ。」
「っ!」
「吹雪。過去の私は、戦場へ出ることも少なく、ただ飾りとして存在しているだけだった。しかし今は違う。愛する国民の為に戦える。戦うことができたんだ。」
「そして、これが本当に最後だから・・・、最期のまで誇りを胸に戦い抜きたいのだ。軍艦としてではなく、一隻の・・・1人の戦士として。」
「秘書官・・・。」
「お前はこれからも続く戦いの為、今は生きろ。先はまだ長い。お前自身の〝誇り〟を見つけるんだ。」
吹雪から視線を離し、敵を見据える。
予備推進装置を起動。
残りの燃料を確認。戦闘可能時間は5分もない。
そもそも、弾薬もあと数発で尽きるのだ。
–充分だ
狙うは左舷後方。吹雪が開けた小さな敵艦隊の穴だ。
未だに動かない吹雪の手を無理やりに引っ張り、突撃を開始する。
「全砲門、零時の方向!目標、駆逐艦イ級四隻!」
敵駆逐艦が巨大な顎を開け、こちらに砲門を向ける。
–もう少し!あと少し近づくんだ!
敵の砲口が火を吹いた。
吹雪を守るべく、右半身を砲火に晒す。
轟音と共に右舷艤装が破砕し、右腕に焼け火鉢を突き立てられたような激痛が走る。
「秘書官!!」
途切れかけた意識を、吹雪の悲鳴が紡いでくれた。
私はあらん限りの力を込めて叫んだ。
「全砲門、斉射!!」
瞬間、巨大な火柱が上がる。
使用可能な全砲門から放たれた大咆哮は、眼前の敵を残らず薙ぎ払った。
「はああぁぁぁぁッ!」
左手に掴んでいた吹雪を突破口へ放り投げる。
「秘書官!生きてください!生きて!生きて鎮守府で会いましょう!必ず!必ずです!!」
体勢を立て直したであろう吹雪が泣きながら叫んでいる。
いや、叫んでいた気がした。私はもう反転している。迫り来る敵艦隊を食い止めるために。
「征けぇ!吹雪ぃ!」
私は果報者だ。嘗て果たせなかった使命を、時を超え新たな体を与えられ、こうして全うする機会を得られたのだから。
–だから、こそ
いまこそ使命を果たすのだ。
ーーー
どれくらいの間走り続けていたんだろう。
秘書官に頂いた予備タンクももうすぐ空になりそう。
顔を上げる。
見覚えのある服と艤装が見えた。
「ひ・・しょか・・・ん。」
「吹雪!」
私の体が推進力を失い、海に沈みかけたとき、強く腕を引かれ、優しく抱きしめられた。
「秘書官・・・ご無事・・・なんですね・・・?」
秘書官・・・?
秘書官!!
顔を上げる。
私を抱きしめてくれたのは、秘書官の実妹である艦隊旗艦、陸奥さんだった。
「秘書官・・・秘書官は・・・!秘書官はまだ戦っています!早く!早く救援を!お願いします!誰か!早く!誰か・・・」
「落ち着きなさい、吹雪。艦隊はこのまま呉鎮守府へ帰投。艤装の修復及び体力の回復を済ませます。」
鎮守府へ・・・向かう?
「連合艦隊は、このまま日本に留まります。」
秘書官の・・・命令は・・・
「大陸への回航は中止。現在、損傷が軽微な駆逐艦及び高速戦艦隊を秘書官救援に向かわせました。私達も一刻も早く修復を済ませ、急行します。」
ああ・・・
そうだ。そうなんだ。
私達は誰一人として、諦めてなんか居なかったんだ。
でも
「間に合いません・・・。」
もう、だめだ。
「秘書官は私に、推進装置主機と、予備の燃料タンクを渡して・・・。秘書官にはもう、戦える力が・・・。」
涙が止まらない。考えたくもない絶望的な予測が、私を押し潰していた。
私にはもう、力無く祈ることしかできない。
–神様。どうか、どうか秘書官をお守り下さい。あの優しい、誰よりも国と人を愛する秘書官を助けて下さい。
そのまま私は意識を失った。
ーーー
どの位時間が流れたのだろう。
私はまだ、辛うじて浮いている。
艤装はすべて破壊され、両手は敵の血と自分の血でボロボロだ。
身体中傷だらけ、腹に開けられた穴からは血が止まらない。
痛みはとうに感じない。
ふと周りを見てみると、一面、深海棲艦の残骸で埋め尽くされていた。
–勝ったのか?私は。
「ふっ・・・。ははっ。あはははっ。」
勝った。勝ったのだ私は!
見たか!ビッグ・セブンの力を!
覚えたか!護国戦乙女の威力を!
–たとえ、帰還が叶わぬてしても。
–あとは・・・
・・・何が起きたのか判らなかった。
気付いた時、私の体は宙を舞っていた。
体が海面に打ち付けられる。辛うじて稼働している推進装置のお陰で、沈まずに済んだ。
「がっ・・・。ごぽっ。」
喉の奥から熱の塊がせり上がる。
もはやほとんど見えない目で、衝撃を受けた方角を見た。
–・・・なんだあれは。艦娘?・・・いや、違う。
〝奴〟は
次の衝撃が私の直ぐ側に炸裂した。
まるでボロ布のように、私の体は吹き飛ばされた。
–あ・・・が・・・
もう、立つことすらできなかった。
意識が消えていくのが分かる。
最後の力で顔を上げると、〝奴〟は目の前に居た。
–〝奴〟は人間に近く
–〝奴〟は艦娘に似て
–〝奴〟は〝鬼〟のように額から角を称えていた
〝奴〟は、巨大な艤装擬きから生えた腕で、私を掴みあげる。
みしり、みしりと全身が軋み、身体中の骨が砕けそうになる。
「が・・あああぁ。」
口からは止めどなく血が溢れ、凄まじい激痛に意思とは無関係に失禁していた。
–ミジメナモノネ
なんだと・・・!
–イチドハクチハテタミデアリナガラ、ナオモマダタタカウコトシカデキナイ
–貴様・・・!
–ミジメデ、アワレデ、ナサケナイショウモウヒン
–オロカデ、コノホシヲケガスコトシカデキナイニンゲンノオモチャ・・・
–私は・・・
–アナタハ。タダノ。〝モノ〟。コワレタラマタベツノオモチャガツクラレルダケ。
–わたし・・・は
–ネムリナサイ。エイエンニ。メザメルコトナキ、シンカイデ・・・。
–否!
誰にも人を〝物〟呼ばわりする権利はない!
–誰・・・だ
–!?
〝奴〟からの拘束が消えた。
意識を失うその瞬間、私が目にした光景は
巨大な腕を失い絶叫する〝奴〟と
右腕で私を抱きとめ、左手に〝奴〟の腕を持つ、白い羽を纏った〝黒鉄の鎧〟だった
盛り上げかたがわかりません。。
相変わらず勢いのみ。
読み辛くてすみません。。
次回
戦乙女の危機に、突如現れた鎧の戦士!
急行する高速戦艦四姉妹と機動艦隊!
遂に始まる、戦士対悪姫!
仲間を、友を思う心があるならば
すなわちそれが人間の〝火〟なり!