遊戯王 5D’s 竜と鳥と   作:海と鐘と

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Phase 2

 チーム・サティスファクションの本拠地である廃ビルは、B.A.Dエリアの中心にあった。

 多少の苦境がなければ面白くない、むしろ苦しい方が逆に燃えてくる、そんな心境であったサティスファクションメンバーの意向で、周りを他チームに囲まれるこの場所に、あえて本拠地を作ったのである。

 チーム結成時点で既に地理的な不利を持っていたにもかかわらず、そしてチームメンバーがたったの四人しかいないという人数的不利にも屈せず、サティスファクションは次々とデュエルギャング達を制覇していった。

 それはチームリーダーである鬼柳の積極性、策謀家クロウの緻密な戦略、ジャック、遊星の戦闘力(物理)が、他のチームの追随を許さなかった結果であると言えるだろう。

 

 なにより、サティスファクションメンバーは一人ひとりが一流のデュエリスト。たとえ多対一のデュエルであったとしても、正面からの勝負ならば負けなしのその実力は、まさにサテライト一のチームだった。

 

 そして、その力故に、今、サティスファクションの本拠地は静まり返っていた。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 四人が一堂に会し、そしてその全員が黙り込んでいた。

 メンバーの気持ちを代弁するかのように、空には厚い雲がかかり、今にも雨が降り出しそうである。部屋は暗く、沈黙で満ちていた。

 普段ならば、鬼柳が次の指針を示し、クロウが具体的な計画を編み、ジャックが猛り、遊星が諌める、そんな、騒がしいながらも朗らかな空気が流れている場所である。異様な光景であるとさえいえる。

 

 端的にいって、彼らは燃え尽きていた。

 

 サテライトを制覇統一してしまったのだ。

 他のデュエルギャングを全て倒し、サテライトの頂点に君臨した。

 チーム結成時の目的をつい先日完遂し、達成感あふれる笑いと、大いなる充足感とともにそれぞれ帰路に就いたのが昨日。そしてついさっき、この廃墟に集まってお互いの顔を見たとき、彼ら四人は気づいた。

 

 このチームが目指すべき目標が、既に失われていることを。

 

「……なーんか、つまんなくなっちまったな。やることがなくなってよ……」

 

「……クロウ」

 

「……指針が消えたっつーのか、目標が無くなったっつーのか、そんな具合によ。考えてみれば俺たち、サテライト統一だけを目指して、そのあとのこと、なーんも考えてなかったんだよな」

 

 独白のようなクロウの言葉が、四人の間を通り抜ける。

 全員がクロウの顔を見つめる。

 いつもの気迫がない、しぼんだような顔をしていた。恐らく自分も同じような顔をしているのだろうと、遊星は思った。鬼柳とジャックも、クロウと同じような表情をしていたからである。

 

「お笑い草だぜ。サテライトの王者になった次の日に、こんな虚無感に襲われるなんてよ。俺はずっと思ってたんだ、最強のチームになったら、どんなにか気分がスカッとするかって。最悪の糞だまりみたいなこのサテライトで、それでもこの瞬間だけは、最高の気分になれた筈なんだ。それなのに……」

 

「クロウ」

 

「こんなになるんなら、抗争の只中にいた時の方がよっぽど楽しかった。敵とデュエルして、お前らと一緒になって戦って、どんなピンチも乗り越えて、チャンスを掴んで、笑ってた時の方が」

 

「…………」

 

「こんなになるんならよ、こんなになるんなら、前の方が良かったじゃねぇか。なにせ、戦う相手もいない今、俺たちがチームを組んでいる意味も……」

 

「クロウ!」

 

 言葉を遮るようにして、遊星は叫んだ。

 チームメンバーがこんな状態の今、その先を言わせてはならないと思った。

 下手をすれば、このままの流れでチームが空中分解することにつながりかねない。

 

「……ああ、悪い。変なことを言っちまった」

 

 らしくもなくナーバスになっちまってるな、と、クロウは笑った。

 泣いているような笑顔だった。

 

「よぉし!デュエルするか!この後のことは、デュエルしながら考えようぜ!」

 

「……あぁ、デュエルをしよう」

 

「俺たちは、いつでもデュエルで絆を作ってきた。今も、そしてこれからも。それはずっと変わらない」

 

 クロウに合わせるように、ジャックが、続いて遊星が腰を上げる。デュエルディスクは肌身離さず持ち歩いている。いつでも、デュエルはできる。

 

「鬼柳、俺とデュエルしろ!やれんだろ!?進化したBFの力、見せてやるぜ!」

 

「このジャック・アトラスが、本物のデュエルを教えてくれる!」

 

「鬼柳。デュエルが、俺たちに道を示してくれるはずだ」

 

 三人で、黙ったままの鬼柳に声をかけた。

 サティスファクションを立ち上げたリーダーである鬼柳が、この中の誰より現状にショックを受けていることを、三人とも感じ取っていた。

 

 そう、誰よりも、鬼柳は責任を感じていた。

 

 

「……いや、俺はいい。今、そういう気分じゃねぇからよ」

 

 

 そう言って立ち上がった鬼柳は、一人、扉が朽ちて無くなった出入り口へと歩いていく。

 

「悪いが、しばらく一人で考えたい。お前達は、自由行動で満足してくれ」

 

 そういって、背中越しに手を振ると、鬼柳は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行っちまった」

 

「クロウ、貴様が似合わないシリアス顔をするからこんなことに……」

 

「んだとっ!?お前、俺だってなぁ、やりたくてあんなことしたわけじゃねぇんだよ!お前なんて『このジャック・アトラスが、本物のデュエルを教えてくれる!』、しか喋ってねぇじゃねぇか!目立たないから印象にないだけで、お前も十分シリアス顔だ!」

 

「……この俺が、目立たない、だと……!?もう我慢ならん、構えろ、クロウ!」

 

「おうよ!久々に、全速力でいくぜ!」

 

「「デュエル!」」

 

「……………」

 

 突発的に始まった喧嘩のようなデュエルを横にしながら、遊星は険しい顔で、今鬼柳が出て行った出口を見つめていた。

 もっとも鬼柳に近い場所にいた遊星にしか、それは聞こえなかった。鬼柳が去り際に、ぽそりと言っていた言葉。それは鬼柳自身も意図して放った言葉ではなく、考えていたものがぽろっとこぼれ出てしまったような言葉だった。

 

 

 

『……目標があればいいんだ。チームが満足できる、新しい目標が……』

 

 

 

 

 「……雨が降ってきたな」

 

 とうとう降ってきた雨を見て、遊星は呟いた。

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルーチャはロマンだと思う。

 《ドラグニティナイト-バルーチャ》のことである。

 《ドラグニティ》の最上級シンクロモンスターであるバルーチャだが、俺がデュエル中にこいつを召喚することはない。エクストラデッキにいれはしているものの、召喚条件が面倒なうえに、性能があまり良くないのである。

 

 

《ドラグニティナイト-バルーチャ》

シンクロ・効果モンスター

星8/風属性/ドラゴン族/攻2000/守1200

ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、

自分の墓地の「ドラグニティ」と名のついた

ドラゴン族モンスターを任意の数だけ選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。

このカードの攻撃力は、このカードに装備された

「ドラグニティ」と名のついたカードの数×300ポイントアップする。

 

 

 《ドラグニティ》の鳥獣族モンスターは下級モンスターが主である。同様に、ドラゴン族チューナーも低レベルのものばかり。大体の場合、モンスターを三体以上出さないと召喚できないが、召喚したとしても最大攻撃力は3500。ヴァジュランダが効果を使った方が強いのである。

 

 

《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》

シンクロ・効果モンスター

星6/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1200

ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上

(1):このカードがS召喚に成功した時、

自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族の

「ドラグニティ」モンスター1体を対象として発動できる。

そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):1ターンに1度、このカードに装備された

装備カード1枚を墓地へ送って発動できる。

このカードの攻撃力はターン終了時まで倍になる。

 

 

 召喚すれば、『ドラグニティの力を結集!いでよ、バルーチャ!』とか出来てかっこいいんだが、いかんせん使いにくい。レベル8のドラゴン族は優秀なものが多いこともあり、今現在、バルーチャをエクストラデッキから外すか外すまいか悩んでいたところなのである。

 バルーチャを外して入れるとすると、候補は一体の竜になるのだが。この竜を入れていいものかどうなのか。世界観的に大丈夫なのかどうなのか。世界がメディアミックスになってしまうかもしれん。

 

 

「……世界は、メディアミックスになる。そういう運命なのだ、遊星……!」

 

「……どうした、急に。メディア……なんだ?相変わらず不意に意味が分からないことを言うな、お前は」

 

「流して、どうぞ。別に大事なことを言っているわけでもないので」

 

「そうか、じゃあ流して言うが、お前に1つ、頼みたいことがある」

 

「……ばるーちゃぁ……!残念だが、お別れのときが来たようだ。俺のデッキに、お前を入れる余地はなくなってしまった……!」

 

「聞けよ」

 

 ゆうせいのリアルダイレクトアタック!おれは1500のダメージをうけた!

 

「……はい、聞きます。聞きますからぁ……!」

 

「いいか、これは大事な話だ。茶化して聞くな。絶対だ、絶対だぞ」

 

「聞きますから、聞きますからどうか俺のばるーちゃだけは堪忍してつかぁさい……!」

 

「(無言の腹パン)」

 

 ゆうせいのリアルダイレクトアタック二連打ぁ!おれは2500のダメージをうけた!

 めのまえが、まっくらになった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対だ、って二回繰り返すから振りだと思ったが、どうやら本気に本気の話だったらしい。

 サティスファクション存続に関わる相談事だった。

 燃え尽き症候群の彼らが輝きを取り戻すにはどうすればいいのか、他人の意見を聞きたかったようだ。

 外はもう暗くなり始めている。そろそろ夜の警邏が回り始める時間だった。

 ボロいアパートの中、備え付けのベッドに横並びで座って話し始めた。

 

 

「俺たちは目指していたものを既に手に入れてしまった。チームの目標を達成してしまった今、俺たちがチームを組んでいる意味も無くなってしまった。このままいけば、サティスファクションは近いうちに解散状態になるだろう。いったいどうすれば……」

 

「…………」

 

「AAAA、お前の意見を聞かせてくれ」

 

 俺の意見を言ったら、たぶん遊星は怒ると思うんだが。

 

「……落ち着いて聞いてくれると嬉しんだが」

 

「ああ」

 

「解散すれば?」

 

 すっと立ち上がって拳を構える遊星。

 どうやら彼は暴力系幼馴染キャラになってしまったらしい。これが美少女であればどんなによかったか。

 

「茶化して言ってるんじゃない。殴るな、殴るなよ。これは振りじゃないぞ」

 

「ふざけるな!俺もそこまで余裕があるわけじゃない!なんのためにお前に相談していると……!」

 

「考えて欲しいのは、何を目標にしてチームを結成したのかということだけだよ、遊星」

 

「目標……」

 

「デュエルでサテライトを統一する、っていうのが本来の目的だったんだろう?で、それはもう果たしてしまったんだと。お前も自分で言ったように、もう目指すものがなくなったんだ。達成したんだよ」

 

「そんなことは分かっている」

 

「大事なのは、考え方だよ遊星。お前たちがやったのは偉業だよ。本当にすごいことだ。サテライトが始まって以来初めてのことだ。なのにお前は、『目標を果たしてしまった』と考える。なぜだ?」

 

「……それは、今後のチームの指針が消えるからだ」

 

「チームの指針が消えて何がダメだ?チーム結成時の目標は果たしたんだろうに」

 

「……チームの指針が消えれば、チームである意味がなくなる」

 

「チームである意味が無くなれば、どうなるっていうんだ?」

 

「チームで動くことがなくなる!メンバーの皆と、同じ目標に向かって動くことも無くなるんだ!」

 

 険しい顔をして、遊星が叫ぶ。

 拳は強く握られていて、彼が思い詰めていることが伝わってくる。

 しかし、彼は気付いていないようである。自分の考えが途中から変わっていることに。

 

「……あれ、おかしい。『遊星』なら分かるはずなんだが……」

 

「なんだ。何かあるなら言ってくれ!」

 

「要するに、チームを組んでいる目的が、途中から変わっているんだ。『サテライトを統一する』ことから『チームとして同じ目標を追う』ことに、目的が入れ替わっている」

 

「何を……」

 

「チームで動いているうちに、絆が深まったんだろう。それ自体はとても良いことだけど、遊星、チームでいることに依存するようになったな」

 

「依存……?」

 

「メンバー達と別れて、違う道を歩もうとすることが嫌になっているだろう。そんなお前にこの言葉を贈ろう。

 

 『例え違う道を進むことになっても、紡いだ絆は消えはしない』」

 

「……絆は、消えない……」

 

「受け売りだけどね」

 

 遊星は、ほーっと長く息を吐いて、ベッドに寝転がった。溜りに溜まった何かを、全部吐き出したような仕草だった。

 

「……あんまり参考にならなくてすまんね」

 

 自分もベッドに寝転がる。

 

「……いや、そんなことはない。確かに、チーム存続の危機は去ったわけじゃないが」

 

 こっちを見て笑いながら言った。

 

「考えは変わった。ありがとう、AAAA」

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

          ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊星がシリアス顔でうちに来てから数日後。

 俺は今日もお仕事に精を出す日々である。

 遊星と話をした、あの後。時間も遅いということでうちに泊まっていった遊星であったが。

 翌朝、あいつと朝チュンすることになるとは思わなんだ。

 

 

『……え?お前、ソファで寝てたよね?なんでベッドで俺と寝てんの?』

 

『……AAAA、俺がお前と紡いだ絆も、ずっと消えはしない』

 

『口説くなら女の子にして、どうぞ』

 

 

 無駄にイケメンボイスで言ってくるから困る。

 ともあれ、悩みは軽減したようで、すっきりとした顔で彼はこういった。

 

 

『俺たちの目標は、まだ完全に達成できたわけじゃない。このサテライトにも、チームに属さない強者はまだいるはずだ。AAAA、お前とかな』

 

 

 

 ……あれは『標的にするぞ』宣言だったのかどうだったのか、今でも悩むところだが、ともあれ。

 その後何の音沙汰もなく、しばらくは平穏な、本当に珍しく平穏な日々が続いていた。

 

 続いていた、のだが。

 

 

 

 

 

「弱ぇ奴が、半端な気持ちでこの世界に入ってくるんじゃねぇよ!」

 

 

 

 

 

 ……ここでこう来たか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チーム・サティスファクションが目標を喪失してから数日後。

 リーダーである鬼柳は、新たな指針を見つけていた。

 

『デュエルギャング以外にも、デュエリストはたくさんいる。その全てを倒さない限り、真のサテライト統一とは言えない』

 

 その結論は、くしくも不動遊星が友人に冗談でいった言葉と同じものであった。

 鬼柳が遊星と違ったのは、彼が本当に本気で、サテライト全てのデュエリストを倒そうとしていたということである。

 それは、勝手に目立つように行動してくれるデュエルギャング達を倒すこととは違って、時間も手間も大いにかかると予想される目標だったが、今の彼にとってはそちらの方が好都合だった。

 

 チーム・サティスファクションの新たな目標は、大変であればあるほどいい。

 

 鬼柳はそう思っていた。遊星がそうであったように、彼もまた、チームで動くことそのものに対して執着していたのである。

 

 チームメンバーにこの指針を伝える前に、リーダーである自分が実践していないといけない。

 ジャックもクロウも遊星も、自分以外のメンバーはどこか甘いところがあるため、一般人を標的にすることをためらうのは容易に想像できた。しかし、自分が既に行動を開始しているとなれば、皆もついてきてくれるに違いない。今までもそうだったのだから、これからもそのはずだった。

 

「弱ぇ弱ぇ!それでも本当にデュエリストかぁ!?」

 

「…………う、うう……!」

 

「ほら、早く出してみろよ、そのモンスターをよ!一瞬でぶっ潰してやる!」

 

 デュエルディスクを持っていた少年にデュエルを吹っかけ、今に至る。

 少年のライフは残り少なく、ボードアドバンテージも鬼柳が圧倒していた。

 

「……な、なんで、こんなことするんだ……!僕はただ、デュエルを楽しみたいだけだったのに……!」

 

 負けそうになって呟く少年の泣き言に、鬼柳は大いに腹が立った。

 楽しみたいだけのデュエルをする、そんなことを言う少年は、本当のデュエリストではない、そう思った。

 

 あるいはそれは、今のサティスファクションの状況に比した、少年への嫉妬だったのかもしれない。

 

「ふざけんじゃねぇ!デュエルをお遊びみたいに考えてんじゃねぇ!」

 

 鬼柳は叫んだ。

 

「弱ぇ奴が、半端な気持ちでこの世界に入ってくるんじゃねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませぇーん、半端な気持ちでデュエルしててー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ?」

 

 どすの利いた声を出しながら、鬼柳は振り返った。

 ふざけた声が聞こえたのはこっちかと考えながら。

 

 そこにいたのは、一人の男である。

 自分たちサティスファクションのメンバーと同年代くらいだろうか、赤い帽子を目深に被り、赤いジャケットに黒いインナーを来た男が、異様なDホイールに乗っていた。

 かろうじてDホイールの(てい)をなしているようなそれは、ところどころからパイプが飛び出し、部品がむき出しになっていた。ジャンクを固めて作ったようなそれは、走っているところが想像できないほどである。

 

「いやー、まさかね。チーム・サティスファクションのリーダーが、悪質なガチデッカーみたいなことを言うとはね。時代は変わったようだな……」

 

「……誰だ、てめぇは?」

 

「貴様に名乗る名前を、このジャック・アトラスは持ち合わせていない!……なんてね」

 

「ふざけやがって……!」

 

「別に俺の名前なんてどうでもいいんだ。ただ、一つだけ、言いたいことがある」

 

 Dホイールから降りた男は、デュエルディスクを構えて言った。

 

「俺とデュエルしろよ。半端にデュエルやってる俺と、お前との違いを見せてくれ」

 

「……いいだろう。こっちのガキとやってても、面白くもねぇ」

 

 展開していたソリッドヴィジョンが消え、鬼柳のデュエルディスク上にあったカードが、デッキの中に戻っていく。

 

「簡単に潰れてくれるなよ、赤帽子ィ!」

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 

    

 

 

 

     

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AAAA:LP4000 

   手札:5

 

鬼柳:LP4000  ←先攻

   手札:5  

 

 

 サティスファクションのメンバーとは、遊星とクロウしか面識のない俺である。

 鬼柳とは初対面だが、最悪の出会いになってしまった。

 

「先攻は俺だ!ドロー!手札から、フィールド魔法《伏魔殿-悪魔の迷宮》を発動!」

 

 鬼柳がカードを発動させると、ソリッドヴィジョンが動く。周囲の景色が変わり、大きな宮殿が姿を現す。

 そこは悪魔の棲む宮殿。そこここに髑髏がのぞき、怪しい影が動き回る。

 

「いくぜぇ!俺は手札から、《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を妥協召喚!」

 

 巨体の悪魔が、玉座ごと召喚される。

 妥協召喚で力は衰えているが、その威容は健在である。 

 

 

《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守2000

このカードはリリースなしで召喚できる。

この方法で召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になり、

エンドフェイズ時に破壊される。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分は悪魔族以外のモンスターを特殊召喚できない。

また、1ターンに1度、自分の手札・墓地の

「デーモン」と名のついたカード1枚をゲームから除外して発動できる。

フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 

「さらに魔法カード《デビルズ・サンクチュアリ》を発動するぜ!フィールド上に悪魔族の《メタルデビル・トークン》一体を召喚!《伏魔殿-悪魔の迷宮》の効果を発動!《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を選択し、《メタルデビル・トークン》を除外!ジェネシス・デーモンと同レベルの悪魔族モンスター一体を特殊召喚!見て恐れろ!《ヘル・エンプレス・デーモン》!《伏魔殿-悪魔の迷宮》の効果で、攻撃力は500アップする!」

 

 

 

《ヘル・エンプレス・デーモン》

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻2900→3400/守2100

 

 

《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻3000→1500→2000/守2000→1000

 

 

 巨体の悪魔が体を揺らして笑ったかと思うと、隣にいた銀鏡の悪魔を次元の歪みに投げ込んだ。銀鏡の悪魔がいた場所には、大きな角の生えた女の悪魔が立っていた。 

 

 

《伏魔殿-悪魔の迷宮》

フィールド魔法

このカードがフィールド上に存在する限り、

自分フィールド上の悪魔族モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

また、自分フィールド上の

「デーモン」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスター以外の自分フィールド上の

悪魔族モンスター1体を選んでゲームから除外し、

自分の手札・デッキ・墓地から選択したモンスターと同じレベルの

「デーモン」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚する。

「伏魔殿-悪魔の迷宮-」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

「さらに手札から魔法カード《おろかな埋葬》を発動!デッキからモンスター一体を墓地に送る!おれは二体目の《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を墓地に送る!カードを一枚セットし、ターンエンドだ!エンドフェイズ時、妥協召喚した《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》は破壊される」

 

 

 

 

AAAA:LP4000

   手札5

 

 

鬼柳:LP4000

   手札0

   モンスター:《ヘル・エンプレス・デーモン》

  

魔法罠:セット1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 相手は《デーモン》デッキか?

 《伏魔殿-悪魔の迷宮》を使うなら、セットカードは《闇次元の解放》とかだろうか。

 なんにせよ、一ターン目から最上級モンスターに加え、破壊されても後陣が控えている。

 さすがにサティスファクションのリーダーである。初期手札が『積み込んだの?』ってくらい恵まれている。

 ……この手札だと、人のことは言えないかもしれないが。

 

「俺は、魔法カード《調和の宝札》を発動!手札から、攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーを捨てて発動する!《ドラグニティ-ファランクス》を捨て、デッキからカードを2枚ドローする。」

 

「チューナーか。シンクロ召喚を使うデュエリスト、満足できそうだぜ」

 

「《ドラグニティ-レギオン》を召喚し、その効果を発動!墓地の《ドラグニティ-ファランクス》を、レギオンに装備カード扱いで装備する!」

 

 フクロウのような鳥人が姿を現すと同時に、彼の体が薄く光る。

 

「《ドラグニティ-レギオン》の効果発動!魔法、トラップゾーンの《ドラグニティ》と名のついたカードを墓地に送り、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を破壊する!《ヘル・エンプレス・デーモン》を破壊!」

 

「へぇ、やるじゃねぇか」

 

 レギオンが体中の光を両手に集め、ヘル・エンプレス・デーモンに向かって放つ。

 迫る光にあたふたと動く女の悪魔だったが。

 

「《ヘル・エンプレス・デーモン》の効果を発動だ!このカードが破壊され墓地へ送られた時、《ヘル・エンプレス・デーモン》以外の自分の墓地に存在する悪魔族、闇属性、レベル6以上のモンスターを特殊召喚する!俺は《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を特殊召喚!」

 

 

 

《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》

星8/闇属性/悪魔族/攻3000→3500/守2000

 

 

「残念だったなぁ!悪魔を倒そうとして、より強い悪魔を呼び覚ましちまったみてぇだぞ!?」

 

「いや、読めていた、ここまでは」

 

「あぁ?」

 

「フィールド上の《ドラグニティ-レギオン》を墓地へ送り、《ドラグニティアームズ-ミスティル》を特殊召喚!このモンスターは、自分フィールド上の《ドラグニティ》と名のついたモンスターを墓地に送り特殊召喚することが出来る!さらに、《ドラグニティアームズ-ミスティル》の効果発動!このカードが手札から召喚、特殊召喚に成功した時、自分の墓地の《ドラグニティ》と名のつくドラゴン族モンスター一体を、装備カード扱いでこのカードに装備することが出来る!《ドラグニティ-ファランクス》を装備!」

 

「ふん、また破壊効果かよ?」

 

「ミスティルに破壊効果はない……。だけど、このゲームの勝敗を決める竜を、こいつは連れてきてくれるのさ!」

 

「ゲームの、勝敗を決めるだと……?」

 

「装備カードとなったファランクスの効果を発動!このカードが装備カード扱いでフィールド上に存在するとき、このカードをモンスターゾーンに特殊召喚できる!ファランクスを特殊召喚!そして、レベル6、ミスティルに、レベル2、ファランクスをチューニング!」

 

 ファランクスが光の輪を作りだし、ミスティルがその中をくぐるように飛んでいく。

 悪魔の棲む宮殿に、光が満ちていく。

 空から指す一際強い光の中、一体のドラゴンが姿を現す。

 

 

 

 

 

「おい、こいつは……」

 

「星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!」

 

「まさか、遊星の……!?」

 

 

 

 

 

「シンクロ召喚!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

 

 

 

 

      ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遊星。しばらく、振り……?」

 

 鬼柳とデュエルをしてから、何日かたった、ある日。

 いつものように仕事に出かけようとDホイールを引っ張り出していた俺の前に、遊星は現れた。

 前に相談に来ていたとき以上に蒼白な表情で、いまにも倒れそうな様子だった。

 

「……AAAA、俺は、どうすればいいのか、どうしたら良かったのか!俺は、俺は……」

 

 様子がおかしかった。

 何かに怯えるように、詫びるように、遊星は言葉を震わせる。

 

「……どうした?何があった?」

 

 いたわるように聞くが、もう予想はついていた。

 やっぱり、先は変わらないらしかった。

 

 

 

 

 

 

「……獄中で、鬼柳が死んだ!」

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