魔法少女リリカルなのは!?「魔導殺しのペンキ屋さん」 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
吉数がすずかの家に仕事に入って半月、塗替えはもう終わりにさしかかっていた。大人数を入れて仕事をするのであれば話は分かるが、吉数1人で塗っているため、そのスピードは異常と言える。間違いなく、年齢と言う枷を外せば右に並ぶ者のいない職人であろう。
「ん? …………」
「見つけましたわ! 」
「いや……もう驚くまい」
「酷い反応じゃありませんの!? 」
吉数の居場所を突き止めた氷麗はみんながすずかの家にお邪魔するタイミングですずかの家を訪れた。しかし当の吉数は氷麗を見てため息を吐く始末。だが氷麗元職人の為、吉数に顔を出すのは休憩時間と文句の言いようのない徹底ぶり。流石は氷麗と言うべきだろう。そしてそんなこんなで吉数はみんなのティータイムにお邪魔した。と言うより、氷麗が無理矢理引っ張っていったと言った方が正しいだろう。
「貴方がペンキ屋さん? 私はアリサって言います。よろしく! 」
「ああ、俺は吉数ってんだよろしく、てててっ!? 」
「何デレデレしてるんですの? 」
吉数はただ挨拶をしたつもりだった。だが氷麗にはそうは写っていなかったのだろう。吉数のほっぺをつねり、力一杯引っ張る。吉数はとても痛そうだ。そして他のみんなもそれを見て不憫そうに見ている。
「いて……たくっ」
「ごめんなさいですの」
「あ、ユーノ君! え、え〜と。私ちょっとユーノ君追いかけてくるね」
「1人で大丈夫? 」
「うん、大丈夫だよすずかちゃん。ありがとう」
痴話喧嘩が一通り済んだ後、なのはが連れてきたフェレットが突然どこかへ行ってしまい、それをなのはが追いかける。すずか達も心配したがなのはが平気といい、1人で行ってしまった。そしてそれに合わせて吉数も仕事に戻ると言う。氷麗は寂しそうだったが仕方なく吉数と別れた。
しかし吉数が向かったのは仕事場ではなくなのは向かった場所。本人はいいと言っていても氷麗の友達であるやなのはが心配になったのだ。手伝えるなら一緒に探してあげようと、何かと優しい吉数である。だがこの選択が、吉数の運命を決めた。巻き込まれるように。数奇な宿命は波乱の方向へと進んでいく。まるで神が定めた因果に吸い込まれるように。
「なのは! 」
「フェレット……お前しゃべれるのか? てか猫デカっ!? 」
「っ!? やばっ(この子さっきの)」
ユーノはとっさの口をふさぐがもう今となって遅いだろう。すでに吉数には聞かれてしまっているのだから。そして吉数はある方向を見た。すると……
「ん? おいおい……可愛い顔してケンカか? にしてはやり過ぎじゃ」
「どいて」
「君は誰だ? 」
吉数が駆けつけた時にはいろいろ遅かった。なのはは地面に倒れ、金髪の少女が1人、大きな猫に何かしようとしていた。しかしその猫は吉数の後ろ。だからフェイトは吉数にどくように言い放つ。
「う〜ん……その物騒なもんで何するの? 」
「貴方には関係ない」
「そうだな? ないかもしれない。でもさ、放っておけないよな。その子とは無関係じゃない」
そう言って吉数はなのはの方を見た。そうする事で金髪の彼女も知り合いだと理解する。だからだろう。彼女は持っている黒い杖を吉数に向けて横から振り抜いた。しかしそれは吉数の顔の横でピタリと止まる。だがそれは何故か。吉数が皮スキと呼ばれる道具で杖を受け止めたからだ。皮スキとは言ってしまえばヘラのような物。よくお好み焼き屋さんで使うヘラを少し小さくした感じだ。
「やめとけって、君とケンカしに来たんじゃないし。それに俺こう見えてケンカは強いぞ? 」
吉数はそう言って少し凄む。金髪の彼女は警戒するが吉数の力量がわからない。だから下手に動けないでいた。でも吉数の言っている事は正しい。実は吉数、前世でよくいざこざに巻き込まれては大喧嘩に発展する事がしばしばあり、ケンカの腕は顔に似合わず強いのだ。その証拠に現場にいちゃもんをつけに来た暴走族30人を単独で潰した経歴も持っている。
「くっ……仕方ない。はぁぁ……」
「なん……だ? 」
彼女の周りに出現した黄色い光の玉。それを見て、その正体を知らない吉数は目を見開いて驚いていた。そしてその玉は急に吉数を襲い、その一つが直撃した。初めて経験する謎の衝撃と倦怠感。吉数は戸惑い膝をつく。だがさらに目の前の彼女は、吉数に黄色い玉を放った。しかしそれは吉数に届く前に阻まれる事になる。何故なら白い紙のような物が吉数の周りを囲い守ったからだ。当然金髪の彼女は驚き、警戒を強める。すると吉数の後ろから黒いオーラが見えるような殺気を放った氷麗がゆっくりと歩いてきた。さらに吉数を囲っていた白い障壁を丸めるようにたたむとそれを手に抱える。
「どこぞのビッチが私の男に手を出してタダで済むと思ってないだろうな? 」
「つ、氷麗? (ま、まずい……き、キレてる)」
「貴方は……っ!? きゃっ!? 」
「オラぁぁ!!! 」
彼女の話も聞かず氷麗は丸めたカーペット位の丸い棒で彼女に襲いかかる。だが彼女もただやられてるわけにはいかず、反撃をこころみるのだが、氷麗の暴走はその反撃のスキを与えない。周りの木をなぎ倒しながら彼女を追い詰めていく。
「や、やめ」
「寝言は寝て言えこの金髪クソビッチ!!! 」
「お、おい氷麗よせ!? 」
吉数の言葉程度ではもはや氷麗は止まらない。彼女の怒りは限界を通り越して上がりっぱなしのメーターそのものだ。下手をすれば一回転して壊れてしまうだろう。しかしそんな時、氷麗は黄色い輪っかに捕獲され、身動きが取れなくなった。さらにそのスキをついて金髪の彼女は大きな猫の方に向かう。
「その猫をどうする気だ!? 」
「大丈夫、殺しはしない」
「何? っ!? 」
そ金髪の彼女がそう言った瞬間、彼女が持っている黒い杖が変形し、そこから黄色い閃光が猫を包み込んだ。すると、猫は元の大きさを取り戻し、代わりに青い宝石が姿を現した。だが瞬間、彼女はそれを確保し、すぐさまその場を離れる。おそらくは氷麗を警戒しての事だろう。しかし氷麗はまだブチ切れており、黄色い輪っかが消えても金髪の彼女を追いかけようとした。でもそれは吉数によって阻まれる。
「もうよせって! 」
「なんで邪魔するだよ!! 私の大事な人を傷つけたあのクソビッチにわからせてやらないと気がっん!? ん……んん…………ぷはっ……吉……数君? 」
「はぁ……これで正気に戻るのかよ。はは、たくっ……幸せもんだよ俺は……だからもうよせ。俺は平気だ」
「キス……吉数君からまたキス…………」
歯止めの効かなくなった氷麗を止めたのは吉数によるキス。それは軽いものだったが、確実に氷麗の心を引き戻した。そしてその行為で平常心に戻る氷麗に吉数はどれだけ自分が思われてるか再確認し、嬉しく思う。だが氷麗は吉数からのキスという行為を嬉しくも直視できないのか真っ赤になりながら顔がだらしなくなっていた。
「おい、ところでその武器みたいな物はなんなんだ? 壁紙だろ? それ」
「ええ、そうですわ。私が神様に貰った力ですの。壁紙を絶対高度の物質に変化させて自由に操る事ができますのよ? 」
「よくわからんがなんでそんな力貰ったんだよ」
「え? 何かくれるって言うから適当に……貰えるものは貰っとくべきですわ! ところで吉数君は何を貰いましたの? 」
「いや、俺は何も貰ってないよ。というか断った」
「はい? 」
氷麗は目を丸くして吉数を見た。吉数には欲がない。それもその筈、吉数は仕事以外の欲がないただの仕事大好きマンだからだ。しかしそれはわかっている氷麗でもせっかく貰える、まか不思議な力を拒否するのは勿体無いと感じるのだ。だから唖然と吉数を見ている。
「というか……お前の友達のびてるんだが? 」
「え? あ……なななな、なのはちゃん!? ちょっ、しっかり! しっかりしてくださいの!? 」
「はぁ……今日の仕事はもうパーだな。まったく…………」
◇◆◇◆
「よっと! ん? へぇ〜珍しいもんだな? 」
「……? 何か用? 」
「いや、珍しいと思ってな? 別に仕事の邪魔をする気は無かったんだ悪い。ただ……いい目してるぜ? お前」
「ふふ、そういう君も大工の鏡じゃないか」
「はは、嬉しい事言ってくれるな? 俺は竹倉 源ってんだ」
「僕は塗壁。塗壁 石 (ぬりかべ せき)」
源は今日少し大きな現場、一軒家の改修工事に来ていた。そこで1人の職人出会う。丁度源が材料を外に取りに来た時の事だ。外で源と同じぐらいの少年がモルタル、水とセメントを混ぜ合わせた物を使い、壁を補修している姿を見た。そしてそれを見て感心しながらも珍しいと思ったのだ。今左官屋の数は激減しており、若いしかもこんな子供、世間一般ではありえないのだが、そんな子が1人で壁を仕上げている。それに源は感心してみていたのだ。
「塗壁 石……いい名前だな? まるでその仕事をする為に生まれてきたみたいだぜ? 」
「あはは。君は面白いね? 僕達はいい仲間になれそうだ。また縁があったらよろしく竹倉君」
「源だ! お前とはいいダチになれる。源でいい」
「分かったよ源。僕も石でいい」
「ああ石。よろしくな! 」
「私八神はやて言います。初めまして」
「ちょっと待て!? なんでいる!? 」
2人の会話の最中、何故かいるはやては源の横に並び自分も自己紹介を始める。それに驚く源と普通に挨拶を返す石。この場はカオスと化した。
「はい源ちゃん? 愛妻弁当や」
「い、いや……愛妻弁当ってお前……」
「だって源ちゃんこの間一緒に寝てくれたやないの。だから私はもう源ちゃんの物やで? 」
「どうしてそうなる!? 赤くなるな!? 」
「はは、こんな可愛い奥さんがいるなんて羨ましいよ源」
「はい、妻です」
「いつお前は俺と結婚した!? というかお前も何言ってんだ!? 考えろよ、俺ら子供だぞ! 」
たわいのないやりとり。そして冗談も交えながらも、内心まんざらでもない源は照れていた。実際、はやての弁当はハートマークを盛り込んだ恥ずかしくなる弁当で、それを食べた源は初めて嬉しいという感情を感じている。
「帰ったら……美味しかったって言わないとな」
◇◆◇◆
「なるほど〜。よくわかりませんの! 」
「なるほどの意味がない!? 」
「あはは。なのはちゃんでも取り敢えずはこの事は黙ってて、なのはちゃんの事を助ければいいですわよね? 」
「え……氷麗ちゃん? 」
「何驚いてますの? 私達はお友達ですのよ? だから私が助けない理由はありませんわ」
「……あ、ありがとう、氷麗ちゃん」
「僕からもお礼を「淫獣は黙ってなさい!! 」へ? 」
「喋れるフェレットですって? しかも雄。なのはちゃんに欲情したらどうなるか……分かってますわよね? 」
「は、ははは……はい!? 」
光のない氷麗の視線。その視線をもろに浴びたユーノは恐怖のあまりガクガクと震え、それ以上言葉を喋れない。ここにはユーノとなのは、氷麗の3人しかいないのだがここにはユーノの味方いない。だから無情の氷麗がユーノを始末する日は近いのかもしれない。
◇◆◇◆
「それでは失礼します」
「今日までありがとう。とても綺麗になったわ」
「ま、またね? 」
「ああ! 氷麗の友達なら会えるだろうよ! そんじゃ」
吉数はすずかの家の塗装を終え、彼女の家から撤収した。だがその日の帰り道の事。吉数は歩くその足を止められた。何故なら目の前に1人の少女。赤髪で、吉数と同じぐらいの女の子が立っているからだ。しかし吉数には見覚えがない。誰かと考えてもわからないのだ。だが決して知らないわけじゃない。吉数は片手で頭を抱え、痛そうに困惑した。
「き、君は……誰だ? 」
「お兄ちゃん、気をつけて」
「何? 」
「もうすぐ、神々の『遊び』が始まる」
「何を……言ってるんだ? 」
「獲物は常に脆弱な人間。狩りを楽しむ狩人は、神々の使い。それを傍観するのは我ら神の娯楽」
「お前は……誰だ…………」
何一つ理解できない少女の言葉。吉数はさらに頭を抱える。そしてとうとう両膝をつき、両手で頭を抱えた。何かを思い出そうとすると頭に激痛が走る。吉数はこの状況に恐怖を感じる。まるで自分が自分じゃなくなるように。
「ごめんね……お兄ちゃんは巻き込みたくない。でもこれはどうしようもない事なの。私ができるのは、それをお兄ちゃんに知らせてあげる事だけ。私が手を出せば、それはルール違反になる」
「一体……何の話をしてるんだ!!! 」
「人が狩られ、神々が賭けをする神の遊び……『人柱』」
「っ!? 消え……た? 何だ……何だったんだ今のは…………」
これが全ての始まり。吉数が神を冒涜し、神を殺す事を望む始まりのプロローグ。世界は残酷で、神なんて存在しない。いるのは暇を持て余した人殺し。吉数がそれを知るのはそう遠くない未来だった。
次回もよろしくお願いします。