GOSICK-黒い死神と金糸の妖精-(仮) 作:サバ缶12号
時は1924年、春─────────。
世界大戦終了から目覚ましい発展を繰り返す欧州ヨーロッパにて、フランス、スイス、イタリアの3国と海に四方を囲まれた小国ソヴュール王国。
その国のアルプス山脈の麓に建てられた聖マルグリット学園。貴族御用達の教育機関として名を轟かせる名門学園である。緑に囲まれ、市街地から鉄道で数時間の時間を要するこの名門学園に日本人である自分、九条一弥《くじょうかずや》が留学出来たのは、故郷である日本帝国にその成績を認められての事である。
故郷の姉は最後まで目から涙をポツポツと溢しながら見送ってくれた事は今でも覚えている。両親や他の兄達は立派な男になって帰ってこいと大きな期待をされて送り出されたのには少々参ってしまった自分がいる。
そんなこんなで家族からもお国からも期待されてやって来た新天地には、どんな物が待っているのかと逸る気持ちで胸を膨らませていたのだが、
「し、死神だっ、黒の死神が来たぞっ‼」
「うわぁ」「本当に髪も目も真っ黒だわ‼」
「きっと夜の国から来たんだ」
「全ての闇を吸い込んだような瞳に真っ黒な髪の毛、きっとお腹の中も真っ黒なのよ‼」
そう。日本人特有の黒い髪の毛、黒い眼、それがこの学園では、どうやら黒の死神だのと呼ばれる原因になってしまっているのだ。入学初日、職員室の教師たちには特に反応されなかったので、割り当てられた教室に入室した時と自己紹介の時は驚いた。皆がまるで妖怪か幽霊を見るかのような視線で自分を眺めてくる上に休み時間には誰も近づくのはおろか距離をとられる始末。少し動作するだけで周りから悲鳴を挙げられたのには少し傷ついた。放課後には全生徒の間で噂話が広まったのだろう。翌朝、教室のまでの廊下にいた生徒は自分を『黒の死神』と言いながら道を開ける様になっていた事にはもうお手上げと言う他にない。新天地に思いを馳せていた頃の己は、きっと草葉の陰で泣いていることだと思う。
ここまでの出来事が起きてから、いく数日が過ぎ、そんな友人0人な環境に慣れてくると言うこともなく半分呆れ、2割の悲しみと3割の開き直り加減で、歩きやすいから良いかなと思い始めた頃。
祖国から届いた兄直筆の便りには家族からの激励の言葉が載せられいた、此方に到着してから幾ばくもない内に手紙が届いたことから己が国を離れてから直ぐに送ったのであろう。笑顔で送り出してくれた皆(姉を除く)も恐らく心配してくれたのだと思う。
剛毅で豪放磊落を絵に描いたような男衆と其を支える我らが母上にはなんとも想像しづらい(笑)
はっ、背筋に悪寒がっ!?
兎も角、家族からの手紙を教室の自席にて読んでいたら、接近してくる茶色い影が接近してくるのに気付くのが遅れてしまった。
「怪談を読めば良いと思うのっ‼」
「おっと、とっ‼」
驚愕のあまりに落としかけた手紙を掴み、前を向く。目の前には大きな真ん丸眼鏡を掛けた茶色い波打つ髪が肩の辺りまで伸ばしている童女のような小柄な女性こそ、我等が組《クラス》担任教師であるセシル・ラフィット先生その人である。
取り敢えず、授業後、セシル先生に誘われるがままに着いていく。
「いい?九条君。この学園、いいえこの国ラヴュールには、怪談が沢山あってね♪
政治の世界にだってオカルト省って言うのがあるくらいに、皆オカルトが大好きでなのよ‼」
「では、僕が呼ばれている『黒い死神』って言うのもそのひとつなんですねセシル先生。」
「正しくは『春来る死神』。『黒い』は九条君の為に付けられた名誉ある冠かもね♪」
セシル先生の言葉に思わず苦笑せざるを得ない。
名誉と言うには少々周囲との認識がズれているとしか思えない発言を受け流しながら先生の話を聴く。
「何より‼皆との共通の話題があれば、お友達も沢山作れるし、100人友達作って皆でアルプス山脈をピクニックしましょうっ‼」
大袈裟な動きで春の青空の下に聳えるアルプスの一角を指差して眼を耀かせながら此方を見てくる。
彼女の意見も最もであると思うが、学園全体に広まってしまっている現状を打開する手だてはあまりにも現実的ではないだろう。友人を作りたいとは思っているが、積極的に動くのは裏目に出そうなので消極的かつ緩やかに浸透するように馴染めれば良いな位には程度の考えなので、先生には心の中で、検討しておきます、と言っておくことにしよう。最も、
この少し後には、前言撤回することになってしまったが、それは此の時の僕には分かるはずもないわけだが─────────────
そんなこんなでセシル先生に案内されてきたのが図書館だった。それも只の図書館でなく、国でも有数の蔵書量を誇る大図書館らしいのはセシル先生談。
外側からの外観は、ピサの斜塔の様な円形の塔で扉は青銅色だが鋼鉄製で立派な装飾が施されている。塔の最上階らしき所はなんと温室らしく植物園になっているとの事。
とまぁなんとも、図書館にしては作りが立派だが、その巨大さ、蔵書量の多さと室内の薄暗さから学園の生徒や先生も近寄らないらしいが貴族からの寄稿本は絶えず押し寄せるらしく蔵書量は日々増加の一途を辿るらしい。じゃあ誰が管理しているのかと言う話を聴くのを忘れていたのは、先程まで目の前で興奮しながら熱意溢れる教育論を語ってくれた育成魂溢れる教師のお陰だと言い訳しておく。
「はぁ~…、確かに此は凄いな。」
驚きのあまりに思わず溜め息をつく。
扉を開けて中に入って直ぐエントランスがあり、奥に螺旋階段が見える、視界の両端に映る棚の高さに天井を見上げると、最上階らしきガラス窓が遥か頭上に見える。まるで馬鹿デカイ井戸の底に落ちたような気持ちになるようなそんな心地にさせる吹き抜けがあった。
吹き抜けの途中に橋を架けるのように存在している階段や天辺から降り注ぐ日光が非現実を感じさせるようだが嫌な感覚はしない。
「共通の話題、か。
怪談か…、取り敢えず探してみるか。」
沢山の本に囲まれると言う珍しい体験したお陰か他の生徒のように、この場所に薄気味悪さみたいなものは感じなかった。
案内板にしたがって、ソヴュール王国についての怪談話の載っていそうな本を探しに上に上がって、なんとなしに1冊の本を手に取ってみる。
「なになに、嵐の夜に浮上する幽霊船クイーンベリー号、死者の腸《はらわた》から金を産み出す錬金術師リヴァイアサン、どらもこれも物騒な感じだなぁ。
ん?これは、人の言語を解する頭脳明晰なる灰色狼、会話のできる狼か、動物と話せるのは面白そうだな。これなら仲良くなりたいな。
あれっ?これは?」
オカルトがかかれている本の間に挟まっていたのは、1本の金髪だった。1本だけであったが、何故だか女性を連想させ、視線は上に向けられた。どうしてか、この髪の毛の持ち主は天上の植物園にいる気がしてならないのだ。
「はっ、はっ、はっ、…。」
気が付いたら階段を駆け足で昇っていた。自分でもよくは分からないが駆けないと無くしてしまう気がしてならないのだ。
何が、何を、何で、分からないだらけだけど、急がなきゃいけない、そんな気がしてならない、故に駆け上がっているのだ。
果てしなく感じる階段を駆ける、駆ける、駆ける、息も絶え絶えになり腿が張ってきて膝が震えてくる。
そして漸く辿り着いた最上階で僕は、【彼女】に出会った────────────────
次回投稿は明日の予定