北条綱成の野望   作:織田上総介信長

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さて更新しますか………


第二話

 

 

 

―――氏康Side

 

 

五〜六万もの大軍相手にたかだか二千ぐらいの手勢で河越城の外で戦い始めたなんていう馬鹿げた話を耳に入れたせいで元忠の爺が何か面白い物でも見つけた子供のように張り切って甲冑なんて身に付けて無い雑兵を率いて河越まで急いで向かってみたらそこは、もう信じられないと言うべきね。

 

 

黄備えの連中が未だに敵の大軍を相手に怯む事無く戦ってる光景ではあるのだけどあいつが戦闘で太刀を振るいながらも敵を自分に引き連れてくれたのもあって此方から奇襲を仕掛けたら敵も慌てて敗走し始めてくれたせいか、あれもそれを機会に追撃まで仕掛けてくれたお陰でこの戦は私が思ってたよりあっさり終わったわ。

 

 

ただ、向こうも大将を逃がすべく殿(シンガリ)を務めてる娘が二〜三百ほどの兵であいつの黄備えに迎撃するようしきってたけどあれもあれで容赦無いものね。

 

 

まだ歳も十四〜五ばかりの少女が太刀を持っただけでもあれは女子供も関係無くその娘を串刺しに突き刺そうとしたけど近くにいた元忠からすれば女子供とはいえ武器を持って己に牙を向ける者は敵だと認識しなきゃ姫武将が多発するこの時代で生き抜く事なんて笑止らしいけど………

 

 

「…………あれも意外と容赦無いのね」

 

 

「ハハッ、でなければ生き残れませぬからな。それに、戦場に大将として姿を現した以上………敵に女も男も関係ありますまい。ただ目の前で怯えていようと頸を奪ってしまえば敵の士気が大きく下がりますからな。とはいえ、些か見るに耐えないというのであればすぐにでも小田原へ帰還なされよ。敗戦で殿を務めし猛者は血の気が荒いでしょうから、ここはもう修羅場みたいな場ですし危険極まりませんからのぅ」

 

 

元忠の言ってる意味が解らない訳でも無かったけど普段から何処か抜けてるあいつが戦となれば女子供も武器を構えれば容赦無く太刀を振るう姿なんてのもあまり見せたい光景でも無いでしょう。

 

 

なので、私は一足先に小田原へ帰還する前に元忠にはこの戦が終えたらあいつの無事な顔を見せるよう言伝てを残しておいたのだけど正直、戦場で血塗られてる鬼みたいな奴がまた何時もの何処かしら抜けた頼りないあいつに戻るというのは些か想像し難いとこもあった。

 

 

でも、あれも今まで何年も私の手足として仕える前から常に血塗られた場所で生きて来たのだとしても戦場で暴れているのが本性というのは心優しい氏政なんかとかじゃ余計に見せられない姿でしょうね。

 

 

普段から大人しいあの娘でも戦場で敵の雑兵共の槍を振り落として一太刀で思いっきり頸を切り裂いたり喉元を突き刺す姿なんて刺激が強すぎるわ。

 

 

まぁ、今まで武田みたいな猛者揃えなとこを相手に生き残ると大抵は、容赦無く敵を仕留めるのが当たり前だとか近くにいた年老いた兵がボソッと告げてたような気がしたけど………

 

 

「そういえば、武田の前当主が相手の頃は此処も修羅場みたいな戦を繰り広げてたのよね。今思えばあの時代を生き抜いた父上の家臣達が普段から何処か抜けてるのもこういう非情さを隠すものなのかもしれないわね」

 

 

「姫さまぁ〜あまりモタモタされては敵に狙われますぞ〜」

 

 

「ちょ、ちょっとそんなに馬を走らせないで頂戴!そんなに急かされたら落馬しちゃうじゃない!!」

 

 

「で、ですがぁ…………」

 

 

「おんめぇ。姫さまぁ〜基本的に引きこもりだっての忘れてねぇか?彼処で暴れまわれる奴等ならこれくらい可愛いもんだが、普段から馬なんて乗らない御方が急に急かせばずりおちっぺぇ〜」

 

 

「あぁ………そういやそうだな。申し訳ねぇです。昔っから五色備えの隊に転々といるもんだから勝手が解らなかったもんでぇ………」

 

 

警備についてる老兵共が気が利かないのは仕方無いにしてもこのジジイ達を護衛に置いた元忠ももう少しまともな兵がいなかったのかと思いつつ相模へ着いて落ち着いた頃には、あいつ等の下で槍を振るってた昔話をちょっとだけ聞きながらのんびりと小田原まで帰還した。

 

 

因みに、あいつが治めてる玉縄へ寄ってみたら幾つか新しい織物を扱ってる商人がいたから見させて貰ったけど意外と小田原城下とはまた違う趣の着物を見掛けたので幾つか購入しておいたわ。

 

 

全くこれを時たま奥州で手に入れた地味な品だからと甘くみてたけど甲斐や駿府でもそこそこ人気らしいし、都で公家共が乗りそうな牛車を改造して馬車なる物を作って走らせてたのを見かけて乗ってみた際は、ちょっとガタガタと揺れてたけど装飾こそ木彫りで鶴が羽ばたく姿が描かれて地味な雰囲気を漂わせてたけど二重に重ねている車輪が四つもあって多少は、頑丈らしいけど乗る際に馬を二頭も従わせて走らせる者の腕も気に入ったので私直筆の文でも見せれば断れないでしょうからそれを武蔵でもそれなりに大きい拠点の江戸城を任せてる綱景の娘で何故かあいつの下で仕えてる政景なんて大人しい娘がいたわね。

 

 

まぁ、普段から人見知りな点があるのだけど確か…………父上の前に幾度か現れた事あるくらいだけどあまり顔を見せない引きこもりがちな娘をどう口説いたかは聞かないでおくけど何故か変なとこで優柔不断な我が妹である氏政ですら何かしら惹かれてるけど最近は、正木時忠や里見義弘とかいう安房や上総の勢力圏に基盤を固めてる他国衆を大事にするようなんていうのは驚いたわ。

 

 

正直、氏規みたいに社交的な娘が頑張ってくれるのかと思ったけどあの娘より関八州の有力な他国衆を束ねてくれるのならそれはそれで有り難いのだけど………

 

 

「………この戦で勝ったらあの娘もまた家中を纏めるわね。あの娘も私と違って基本的に戦で活躍するような娘じゃないもの。これを機にあれは私の側に置いとこうかしら………」

 

 

なんて呟きながらも私は玉縄で久々に政景にこの話を持ち込ませる事を決意した。

 

 

 

 

 

 

 

―――それから時は河越夜戦へと戻り綱成Side

 

 

 

姫が河越城付近から上手く退却してくれたのを元忠殿が下に仕えてる伝令の奴から聞きながらも敵の殿(シンガリ)を相手に太刀を振るい続けていた際、逃げ遅れてくれたんでビクビク震えていたお歯黒なやんごとなき十二単を着こなしていた姫大名の扇谷上杉家の当主で上杉朝定なる者が頸を兵が持ってきており、扇谷上杉の根城であった松山城から来た兵達が降伏していくとこから未だ山内上杉からの殿部隊は退却をする気配を見せず此方を睨みつける。

 

 

まぁ、流石に大将とはいえおなごの頸を見せつけられて頭に血でも昇ったんだろう。

 

 

だが、ここで彼女を生かしても姫が目指す夢も御所でぬくぬくと暮らす連中相手に関八州の自治権は北条のもんだと主張するもんでもあるが故、幾ら幕府とも血縁関係の深い上杉家を敵に回したとはいえここで抵抗してるとこを黙らせねば力の強い家中ってのは納得出来ん場合が意外とある。

 

 

なので、俺もこういう事には加減がなけりゃ周りの部下達ですら時茂殿みたいに血の気が盛んな猛者も槍を掲げて士気を上げている。

 

 

まぁ、敵大将の頸が掲げられりゃ嫌でも士気は上がるし、古河公方の足利晴氏なる公家風な格好をしたおっさんが"麿は頸を跳ねられたく無い"と降伏してきたんで下総の所領している領土を提供してくれるんならという条件を交わして元忠殿が何時のまにか話をつけてたな。

 

 

まぁ、後は結城家がその勢いで領土安堵を条件に傘下へと加われば下総はもう手に入れたも同然なんだが、それも此方が武蔵をほぼ制圧してる此方とぶつかっても勝機など無いんのだから後は時の問題だろう。

 

 

「それよりも、まだ山内上杉の殿は退く事を知らんか…………」

 

 

「彼処にいる小娘はお前と一騎討ちを所望してるぞ?見たところ家紋は在原業平が子孫の長野家か…………確か、上州での猛将格だったな」

 

 

「あぁ、一番厄介なとこか。だが、長野勢は先の葛尾(カツラオ)城主の村上義清が救援で兵達も疲弊してるだろう。まぁ、わざわざ此処まで主の為に殿を務めるとはねぇ………これを機に潰しとけば上野も山内上杉の当主である憲政が籠る平井城を落とせば良いのだから易々と侵攻しやすくなるわな」

 

 

「だが、あの小娘はおいとき長野業正が率いている隊とはあまり仕掛けたく無いものだな………」

 

 

時茂が目を置くとこには、敵の本隊らしき部隊の方であり娘を先鋒で馬を走らせてるのは此方への牽制も兼ねてるんだろう。

 

 

いゃ、向こうもあまり疲弊をさせたか無いだろうから互いにぶつかるよかはちょっと様子を見るよう隊に攻撃を仕掛けんよう促してみりゃ白銀の腰まで長い長髪が目立つゆうに四十近いにも関わらず妙に出るとこは出て出ないとこは出てないと身がしまってる姫武将が此方を睨み付けている。

 

 

まぁ、雰囲気的に言えば"女王様"という感じがして威圧感もあるせいか、出来ればぶつかりたかないとこでもあるんだが………

 

 

「母上!敵が我等を見て動く気配を見せておりませぬ!これは、我が隊の勢いを見せる好機ではありませんか!!」

 

 

「幾ら敵が動かぬとはいえ迂闊すぎるぞ!吉業(ヨシナリ)!!ここは素直に退却する!!」

 

 

十代半ば程で母と似て長髪と体型でありながらも何処と無く若々しい長野吉業という姫武将が徹底攻戦を唱える中、彼女と一〜二歳しか離れて無さそうな妹らしき娘で髪こそ母や姉と違い首の辺り短くしながらも体型は貧乳………じゃなく基本的に引き締まっているいい体つきをしている。

 

 

まぁ、此方の予測があたれば脱げばそれなりにある小さな胸があるのだろうが、それは下手に気にすると命を奪えんからな。

 

 

いゃ、今は下手に知られると面倒だろうから気持ちを切り替えるか………

 

 

まだ姫にも知られてない筈の秘密だからな。

 

 

最悪、部屋の片隅に隠してる猥本が見つからない限りは秘密は守られてるんだろうし………

 

 

「母上!吉業姉はこれを好機と捉えているんですよ!?ここで撤退など上州の黄斑(オウハン)などという異名が笑われます!!それにあの"地黄八幡"は朝定殿の頸を容赦無く切り捨てる鬼です!!ここで鬼は退治すべきでは無いのですか!?」

 

 

「戯け!!業盛(ナリモリ)!ああも攻めんという事は余裕という物だ!!決して敵が油断してると思い駆け付けても我が手勢も村上の増援なども重ね疲れはてているだろう!!下手に戦力を誤るな!それに、あの手勢に突撃を仕掛けたところで後ろにいた敵の隊が移動してるのが気になる!こんな闇夜に乗じ挟撃でも受ければ確実に敗退どころか壊滅するのが目に見えるわ!!」

 

 

長野勢が徹底していく中でも此方からも敵を追撃するなら今だとかいう声が聞こえるが………この広い関東平野で殿を務めるだけの敵がただ退却をする訳でも無いだろうと俺は警戒していた。

 

 

何せ、戦で大事なのは猪みたいに突っ込む事より多少は怖じ気ついてるか否かの命が奪われる恐怖心が無くては生き残れん。

 

 

正直、無駄に命を失うなど恐くないなんざ命を奪われる恐怖心っつうのを知らん奴も見掛けた事も無い訳じゃないが、ああいうのは基本的に自分だけが命を懸ければ守れるもんも守れると考えるだろう。

 

 

だが、実際は思ったより過酷だ。

 

 

その命の懸け時を誤れば多数の命を散らせる戦となりゃ俺なら少なくともそいつに溜め息を漏らすだろう。

 

 

 

お前さんの命一つで戦が片付くんなら苦労なんざしないとな。

 

 

まぁ、下らん事はさておき敵が撤退していくのを見届けただけでも此方も無駄に血を流さずに済んだ上、古河公方の足利晴氏も我が命欲しさに領土までくれたのだからここまで領土が拡がれば後は足利将軍家より一字を賜れ将軍家とも深い中である晴氏を利用し、奴から"古河足利家を滅亡へと追い込ませた山内上杉を討伐せよ"と命を言わせるだけの大義名分を広めるだけでも敵の士気は大幅に変わるだろう。

 

 

まぁ、それが上野攻略に大きく繋がるだろうし何よりあの越後にいる軍神様も迂闊にゃ上野攻略に手をだせんだろうし、実を言えばそれが一番の狙いでもある。

 

 

 

 

 

 

 

それにしても、たかが一夜で武蔵統一に下総まで手に入るなんざなかなか起こりえん日で未だに俺は現状の整理がつかん。

 

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