北条綱成の野望 作:織田上総介信長
河越での大戦を終えてから数週間―――
武蔵を完全に統一すべく扇谷上杉に仕えていた太田資正(オオタスケマサ)なる愛犬を伝令に使う程の変わり者でありながらも何処か何を考えてるのか今一掴み所のつけない姫武将が自らの城を北条に委ねるなんていう文を寄越して来たんでここは、鎌倉時代から武蔵の忍城を任され尚且つ越後などという北の大地から挙兵する軍神様に靡こうとしている成田長泰(ナリタナガチカ)なる五十近い老将で無駄に名家である血筋にも煩い爺さんが河越城へ戦勝祈願に来ていた。
「いやいや、たかが一夜にして扇谷上杉に古河足利家を潰すとは………某、北条の力に感服致しましたぞ」
「ハハッ、未だ太田資正なる姫武将の動きが心残りではありますがな」
「とはいえ、兄の資顕殿が此度の戦で主君であった扇谷上杉家につかなかったのもあり領土没収には手をつけられませんし、資顕殿も病にかかりそう長くないと聞きまするな」
このジジイも元々は山内上杉に仕えていただけありながら氏綱公が代より此方に寝返っただけの仲でもある太田家については幾らか調べつつも妹の資正には、長尾景虎が山内上杉と手を組む事を機に対北条網を仕掛けようと裏でコソコソ話してる事も警戒してか、この期に及んで考えられるのは大概想像がつく。
「なので、この長泰が自ら太田資正を説き伏せさせて頂こうかと綱成殿にはこの事を氏康様に御伝えさせて頂きたいと思いましてなぁ………」
「まぁ、長泰殿には河越での大戦で主家であった山内上杉を欺き忍城を守り抜いた功績がありますからな。当主としては流石と言いたいとこではありますが………我が主は、そろそろ氏長殿の功績を上げんが為に次期当主であろう資正殿と婚儀を交わし北条に忠実な御家に管理して頂きたいというのが我が当主のお考えであります」
「くっ…………倅もまだ二十を迎えたばかりでいきなりそこまでの大役は重すぎまする」
「ふっ、そこまで若いとはいえあまり冴えないままでは長泰殿も気が重いのではないのですかな?何なら頼朝公が幕府を開いた鶴岡八幡宮にて祝言を迎えては如何か?鎌倉時代から続く名門である成田家が祝言を開く場として我が北条も力をお貸し致しますぞ」
まぁ、先代の頃より里見に攻め込まれて焼失しそうになったので改修作業で金を費やしたばかりでもある鶴岡八幡宮だが、此所は古い血筋の豪族等からすればゆかりの地みたいなとこだし、成田家のみならず大抵の勢力が鎌倉時代より続く勢力が多く残っているものだからな。
古い名門を叩く際となれば頼朝公が富士川での戦で寄った伊豆の三嶋神社を寄るだけでも士気を高揚しやすい場合もあるし、その時だけ坂東武者としてもここぞとばかりで戦をする前にでも鶴岡八幡宮や三嶋神社みたいな源平合戦ゆかりの地で戦勝祈願を祈るか否かで大きく士気に響く場合も考えられるものだ。
何せ、こういう願掛けみたいな事を気にする連中もたまにいるだろうし、これがまた名家としてゆかりのある地で身内の祝言を挙げるというだけでも周囲の敵対勢力は見る目が変わる事も考えられる。
特に、宇都宮・佐竹辺りの古い家柄なら尚更、此処へ目を向けるだろうな。
北条は坂東武者を従わせる勢力として宣言してるようなもんだと………
「まぁ、仲人には古河公方の当主として新たに就いた晴氏殿が一人娘であられる義氏殿に任せるよう小田原へ話をつけても構わないですしな」
「そ、そこまで盛大に祝って下さると言われると某も無下には断れますまい………承知致した。では、太田家と我が成田家の御祝言………綱成殿に宜しく御頼み申し上げまする」
正直、これを本来なら姫には予め相談した上で行わなきゃならん話なんだが、成田殿が頭を下げて去って行ったのを見届けた後にて此方を見張る風魔衆が忍にこの件に関する事の経緯も含め言伝てを頼んで数日経った頃にて返事は、了承してくれたのだが代償とし俺は河越城を大道寺政繁(ダイドウジマサシゲ)殿という姫の側に仕えていた姫武将に譲る条件を出されたんで、渋々その案を呑み玉縄城へ帰還する準備を兵や傘下の者等に指示する形でこの城を譲る準備もしなきゃならん。
まぁ、本音を言えば武蔵の中心的な城を抑えたままなら上野の攻略も捗るんだが………
「あまり手柄を取りすぎても家中で浮くだけだろうし、たまには政繁殿に手柄を御譲りしても罰は当たらんわな」
「殆ど美味しいとこだけ取られてますけどね。それに、箕輪城から長野業正が挙兵したら早雲公より仕えし大道寺家のお嬢様じゃ役不足だと思うんですよねぇ〜」
「綱成殿を責めたところであの姫が決めたのなら仕方あるまい。それに、我が"黄備え"も出陣はするのであろう?」
玉縄城への道中、康俊や時茂殿が次の上野攻略について此方にも多少の活躍があるのか否かについて聞かれながらも俺は、どう説明しておこうかと頭を悩ましていた。
何せ、次の戦じゃ政繁殿が総大将を任された氏照様が副将として手腕を振るうらしいが、俺の立ち位置など氏照様の相談役として側に居て貰うよう託されているらしいのだ。
もっと言えば二人の活躍を見届けながらも長野業正が動きには警戒せよというのが本命らしく、特に厩橋(ウマヤバシ)城という上野でもそこそこ規模のある平城を制圧する辺りまでは向こうの出方に目を向けねばならんし、何も無ければ箕輪城も陥落させて欲しいらしいが、正直な話を言えばそうそう長野業正ほどの猛将が上野の進攻をそう簡単に許す訳が無いんじゃないかとも考えられる。
「ただ氏照様もだが………政繁殿も戦での采配なんぞ慣れて無いだろうからな。最悪、長野勢相手に戦を仕掛ける訳だし、氏照様が避難出来るよう康俊に託して正茂殿には悪いが、私と共に命尽きても良い覚悟は必要かもしれんなぁ………」
「………まぁ、貴殿とならば構わんさ。それに、冥土へ向かうのなら一人より己が許した者と逝けるのなら幸いさ」
「いい返答と受け入れとくか………」
「とか言いながら二人して生き延びそうな気がするんですよねぇ…………あっ、そういえば殿。氏政様が今回の河越での戦で手柄が加増されるそうですよ」
「手柄といっても河越城は譲らなきゃならなかったろうし………玉縄城は海が近い上に交易が捗りやすいが上野一国を中心に国造りを図り越後で己を毘沙門天の加護を受けてると面白い事をぬかす長尾景虎と一戦を交えておきたいのもあるからなぁ………」
まぁ、北条家中でも慎重派な氏政様が俺に上野一国を任せてみてはと姉である氏康様に申告する姿が想像出来んがな。
本音を言ってしまえばこの上野という国はほぼ山々に囲まれ石高こそ関八州の中も期待出来る地では無いものの武蔵との間では館林城を拠点に置いとけば問題は無い。
まぁ、最後には氏政様がまた姉である氏康様と険悪な空気を漂わせてしまったからどうしようかという不安が書き込まれていたが、正直なところどっちも容姿こそ似ているものの考えている事が意外と違う。
今回の上野攻略も氏康様が氏照様には将として経験を積ませるいい機会であると考え大道寺政繁殿や松田憲秀殿といった家中でも宿老格の血筋を持つ姫武将を側に置かせて彼女達にも積ませる絶好の機会であるらしいのに対し、氏政様の考えがまた違う。
まずは、国内を落ち着かせ町の発展に力を入れ街道設備や田畑の水田整備に目を向け領内を落ち着かせてからでも問題無いだろうという意見であったらしいのだが、元忠殿もまた氏康様の意見を強く支持し条件として俺か富永殿又は氏高殿といった"北条五色備え"の者を補佐として置いておくのであらば目を瞑ると言ったらしい。
要は、この河越夜戦で大勝した勢いを消してしまえば後々の関東統一に大きく響くであろうという考えなのは想像は付く。
まぁ、俺としても今の勢いを下手に無くされちゃ関東統一を目指す新興勢力である北条が領土拡大に力を入れるのには難しいところだ。
だからといって"上州の黄斑"と恐れられし猛将長野業正を相手に未だ戦も録に知らぬ姫武将が総大将では兵達も内心不安で仕方無いだろう。
その上、北条家中の宿老格でも政繁殿や憲秀殿みたいな家名で名高い姫武将の手柄を挙げさせる機会が無ければ後々に彼女達の立場も無いと考え焦りだす者等すらいる中で氏康様が家中で政繁殿と憲秀殿を次の上野攻略での御側にと置かせようと発言さたところを元忠殿が頭を下げ"五色備え"の者等にもと頼み込んだのだろう。
まぁ、上手くいけば一国の主として出世出来る機会もあるだろうと思いたいとこだがそれもまた"上州の黄斑"の首を狙う上にまだ戦も知らぬ姫の御守りもしなくては貰えんというのはかなり面倒ではある。
「………だが、厩橋を拠点に上野一国を下さると言うんなら別に構わんか………まぁ、上野ならば馬もそこそこいい上に田畑こそ大根や白菜みたいな物が主としてるものの繭が盛んなのはなかなか良い話よ。資金さえ作れるんなら鉄砲の製造にゃ困らんか………」
「…………そういえば、義尭殿も上総を統治する際に似たようなところがあったな。如何に山々に囲まれた田舎であろうと全く発展させられん訳ではないと海に面している木更津の町に目を向けて港町として力を注いでいたな」
「まぁ、此処等は近隣諸国が平野の多い地だからな。意外と街道設備に目を向け商いに力を入れられるんならどうにか金の流れは作りやすい地でもある。だから、昔から関東管領の山内上杉家が統治していた越後を家中の長尾為景が掠め取ったり乱れたこの地を狙いに甲斐の武田もよう暴れたものよ」
「まぁ………殿も北条に仕えてから甲斐の武田信虎に手を焼かれましたからねぇ。今思えばあんな白髪頭の猛者等が槍や太刀を振るってたのを思い出しますとぉ………悪夢を見た気分ですよぉ」
康俊が呟きながらもゆっくりと茶を頂いてた頃だった。
河越夜戦から数日が経ってから無駄に伝令が来たりとあたふたした日々があったり古河御所の攻略に向かわされたり扇谷上杉が治めてた領土も吸収し武蔵統一に力を入れられたりとして兵達も疲弊していたからと河越城内で二〜三日ほど休んでた時に腰まで長くした茶髪を後ろに束ねてる細身がかった身体つきで小柄な十代半ば程で強きな少女が現れて来たのに対しあまり気にする素振りすらみせていない俺等は何も気にする事もなく茶を楽しみながら気を楽にしていた。
「失礼するわ。北条氏照様が早く戦支度を行わぬかと駄々を捏ね始めてるけど」
「まぁ、あの腕がお強い姫と剣術の相手でもしておれば良いではありませぬか。どうせ、今の我が兵達も今から上野へ向かったところで溜まった疲弊で疲れはてるのが目に浮かぶでありましょうし、成田勢が先陣を乗り出して加勢して下さるそうでしょうから向こうが氏照様に御挨拶へ来られるまで待たれては如何でしょうかな?」
「だが、此方の動きを知って向こうも兵糧の確保や兵達を集めたりする機会を作るではないか!?先ずは我が手勢だけでも上野攻略の第一段階として平林城を陥落させ敵の士気を落とさなきゃならないでしょう!!」
「向こうとて平城の一つや二つくらいは予め目を瞑っておられるでしょうよ。寧ろ勝ちに流行っている部隊に奇襲を狙い氏照様が御首すら狙いかねてると考えるのならばどの道、兵は多い事に越した事ありませんし、他の豪族等が動きにも目を向ける事も視野に入れなくては上野攻略に手を焼きかねませんからなぁ………まぁ、古き家柄の傘下の他家に仕えてた城主等が進んで我が北条が為に手柄を立てるのに此方が先んじても時々、臍を曲げかねませぬからな。にしても、大事な書物等などは既に玉縄城へ送ったというのにすぐ戦というのは些か急過ぎましたな」
既に甲冑や太刀くらいしか残ってない屋敷内で呑気に茶を頂きながらも次の戦にて戦う長野業正の動きに何か見られないかと些か頭の片隅で考える。
本当、一難去ってまた一難とはよくいったものだわな。
まぁ、リアルでも忙しかったには忙しかったですがまさかお気に入り数で0でなかったのには驚きました。
いゃ、御登録ありがとうございます。今後も何時投稿するか解りませんがよろしくお願い致します。
(因みに、戦極姫3は三好家の長慶ルートで彼女の純粋さには惚れたなぁ。というか、無駄にカッコいいし足利家での長慶も弟の復讐で松永久秀の下に乗り込んだシーンも好きだったりする。後は、長慶ルートでも足利家の時でも久秀はいい役だな………)