ル・ロウド信者が往く!   作:生パスタ200g

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00話:おまわりさん。私です。

果たしてこれはいかなる状況か。ふむ、と腕を組み顎に手を当て……腕があることに驚いた。

腕があると見当がつくという事は触覚、ないし痛覚があるはずだし、そもそも今認識している世界が『視えて』いる時点で視覚と眼相当の器官があるはずである。

それならば嗅覚と味覚、聴覚についてはどうなっているのかと思考を移しかけて、はた、とそれを止めた。

 

「ふむ」

 

おお、聴覚は正常で声帯に当たる部位も人間であるらしい……とまた思考が逸れてしまった。

疑問と興味が底をつく事は無いが、今はそれよりも優先するべき事がある。

 

何故、私は此処にいるのだろう。

 

哲学的なり宗教的な意味ではなく……あ、いや、その意味を完全に否定するわけではないが。

 

記憶が正しければ私は死亡するような状況にあったはずだ。少なくともこのように通常の健全な痛覚状態で、体を自由に動かせるはずはない。

横断歩道で信号待ちをしていた私は、赤信号(ただし右折のみ可能な状態のアレ)から黄信号に変わったためスピードを上げた普通車のハンドリングミスにより死の淵に立たされて――もしくは何らかの負傷をしているはずだ。

車の軌道に先に気付けたため、幼稚園帰りであろう親子を突き飛ばし、肉壁程度にはなれただろうが、彼女らは無事だろうか?

否。例え無事だったとしても目の前で人身事故。血塗れ挽き肉スプラッタ。母はともかく娘の精神衛生、ひいては成長上よろしくない。とはいえ、私はその身一つで車を止められるほど人離れした身体能力を持っているわけでもなし。スポーツジムに通って筋肉モリモリマッチョマンになっておくべきだったか。いやいや、また話が逸れた。

 

つまりはそういうことである。今までの情報を統合して考えるに。

 

「死後の世界……というのが的を得ているのだろうか」

 

私は無神論者と言う名の多神論者である。正式に言うならば、厨二病をこじらせた時期に自国他国様々な宗教文化・思想に触れ、そのあり方・考え方を吸収し知識として蓄えているのだ。正月クリスマスハロウィンお盆バレンタインドンと来い。八百万の一柱の催しとして歓迎しよう、盛大にな。

 

「仏教思想的には中有の期間なのだろう。キリスト教的には召天後の最後の審判前、なのだろうか。こうして生前の知識を有しているならば、それも覚えているはず。逆説的だが最後の日を迎えた訳でもあるまい」

 

「あ、あの……」

 

思考に没頭していると後ろから――少女、だろうか。年幼げな声が投げかけられる。

振り返ると純白のゆったりとした衣を着た、整った顔立ちで、色素の薄い黄金色の髪をした少女が認識できる。

 

「ふむ」

 

此処が三途川の前、と考えるには些か西洋的にすぎる。

符合する概念――天使ないし霊的上位存在。ならば川渡しの巨乳死神にお目通し願う事はないようだ。残念。

 

「初めまして。私、株式会社△△、○○課の××□□と申します。名刺は――ああ、すみません。このような身にて所持してはおりません。平に、ご容赦を」

「あ、これはこれはご丁寧に。私は――そうですね、仲介者(エージェント)とでもお呼びいただければ。そこまで長いお付き合いではありませんが故、適当でしょう」

 

ふむ、仲介者(エージェント)ときたか。つまり彼女と同等、ないし上位存在が存在し、何らかの目的を持って接触を行っているのが妥当、か?

 

「その認識で間違っていませんよ……先に申し上げておきますが読心相当の能力を行使しているので貴方の思考を覗いての回答になります、はい」

「読心、と来ましたか」

「はい。先ほどから様子を伺わせてもらっていたのですが、貴方の思考が興味深かったので、つい」

 

本来すぐにでも行われるはずのエンカウントがああいう形になってしまった?

 

「そういうことです――こちらから先に種明かしをしたといえその順応の早さには驚きを隠せません」

 

ふむ。研究者気質というか興味の塊的なものがありましてね、その読心の効果範囲と対象となる事項、記憶の引き出しから映像・音楽・痛覚・味覚にどれまで作用するか試してみたいのですが。早速、桜の花の下で梅酒を飲み頬を撫でる風を想像して……っと、すみません。貴女は仲介者(エージェント)でしたね。これはとんだ失礼を。どうかこの様な思考など気にせずお話を続けてください。

 

「本当に、順応の早いお方」

 

クスクス、と目の前の仲介者(エージェント)は微笑んで――

 

「貴方は死亡しております。ですが、それは貴方の運命とは異なる最期。故にその調整(後始末)のため私が派遣されました」

 

と、のたもうた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

詳しく聞けば、人の最期というものはある程度定められた結末にしか至らない……らしい。ある程度、というのは全てがシナリオの上で踊らされる哀れな道化師を演じる、と言うことを防ぐ措置だとか。

自殺については多種多様なシュミレートを行っているためその例外になり難いが、それ以外の最期はおよそ(といっても万を越えるパターン)が決まっているらしい。

人の人生決定という名の自由意志にて迎えた死。どうやら私の死はそのパターンの外にあるものらしかった。故に仲介者(エージェント)が派遣されたという。

死の先については各宗教観に抵触するのでダメです、とは彼女の弁。答え合わせはまた今度。普通の死に方をしたときに。ちぇー。

 

「と、いうわけで予期せぬ死の補填として貴方には『特別な生き方をする権利』を来世にて進呈したいと思います」

「来世、と言うからには黄泉帰りはタブーというわけですか。なるほどそれだけでも死後のヒント足り得ます」

「本当に頭の回る面白い方で。全てはご想像にお任せしますよ。私が嘘を言っている可能性もありますが、ね」

「それはそれで。読心に対する反応とカマの掛け方というのも想像するには面白いものです」

「全く……」

 

ふむ、この可愛らしい「か、可愛らっ……!?」……会議でダンスして舞踏会の12時の鐘を鳴らすわけにもいきますまい。先へと進みましょうか。

 

「は、はい……コホン。具体的には希望する環境・固有能力・物質や概念等が貴方の生に付与されます。3つほど」

 

随分と大盤振る舞い。参考は蛞蝓星の竜の玉?

 

「上役にそのようなものがいることは否定しません、とだけ」

「そうですか……ふむ、来世の世情についてはお伺いしても?」

「貴方もご存じの作品『魔法少女リリカルなのは』に酷似した平行世界を舞台にする、とのことです」

「……」

「お察しの通り、上役にそのようなものがいることは否定しません、とだけ」

 

上役ェ……。

まぁ、ふむ。二次元の世界が三次元人である私の感覚からどう逸脱するか、興味がある。平行世界と言うからには原作からの乖離や、乖離時の世界の修正力の発動を気にすることはないのだろう。

 

「付与される事象について、可能不可能を教えてもらうことはできますか? それともこちらから提示した条件の範疇で審査していただく形を取った方が?」

「うーん。であれば後者でお願いします。もちろんですが剰りに荒唐無稽なお願いは無しですよ?」

「荒唐無稽!?」

 

ええ、例えば無限に願いを叶えろ、とか、と彼女は苦笑する。

 

別にいのちのうたを唄うアニメ版では髪の毛がないスーパーロボットを望むわけでもないけれど、荒唐無稽と聞て反応してしまったんです。別に荒唐無稽なお願いをしようとしていた訳じゃないんです、すいません。

……ふむ、どうしたものか。

 

「別に今すぐ決めずとも良いのです、焦る必要はありませんよ。イスとテーブル、飲み物を用意しますのでそこでお考えください」

「相席していただけるので?」

「端から見たら事案発生ですね」

 

頬を緩めながら二人分のイスを用意してくれるあたり、彼女、エージェントさんのノリは悪くないらしい。

 

「アイスティーしかないんですけど、いいですか?」

「ファッ!?」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「これぐらいなら、そうですね……良いのではないでしょうか。ご不満などなければこれにて交渉を終了としたいと思いますが?」

「こちらのお願いを最大限に酌んでいただき、本当にありがとうございます。特に一番目のお願いに関しては予め私生活に影響しないように確認が必要でして」

「まぁ、それ故の私(仲介者)ですから」

 

テーブルに手をつきながらクスリ、と笑う少女は本当に絵になる。

 

「……事案」

「残念。性については枯れていまして。父性を刺激された、と言うのが正しい解釈でしょうね」

「それはそれで残念なお方」

 

体より心。性より愛。我ながら歪んでしまったものだ、とひとりごちるが読心の前では無意味な足掻きだ。

 

「……自己評価の低さからくるものでしょうか」(ボソッ

「? ふむ、何か言いましたか?」

「いーえ、何も」

 

そっぽを向く彼女を前に、渡された用紙を確認する。

 

 

【××□□様の例外死への処理。

 

①TRPGであるSW2.0キャラとしても扱う。ただし現実世界へ対応させるため××□□様へ仮GM権限も譲渡する。(なお、キャラクターシートは初期能力で作成済みであり、仲介者:☆☆☆☆☆☆の許可を得たものである)

 

②『場を引っかき回す程度の能力』を付与する。

 

③自己の能力を完全に可逆的に制御出来るものとする。

 

以上を来世に付与することで補填とする。 仲介者:☆☆☆☆☆☆】

 

 

正直、こんなに貰っていいのか悩むが、彼女曰く『大丈夫だ、問題ない』とのこと。気付いていないようなので『それ、スラングですよ』と言ったら上役へのため息をついていた。えーっと、頑張れ。

 

「それではそれでは、次の生へとご案内ですね」

「案内?」

 

門か、扉か、湖か。『10t』なんて彫刻されたハンマーで脳天カチ割られるか、落とし穴のようなもので追放されるか。お湯をかけられて別のナニカになるか、トゲ付きバットで殴られてぱ行の多い不思議な呪文で人生やり直してもらえるのか。

そんな未来に思いを馳せている中、

 

「はい。こちらへ、どうぞ」

 

そう彼女が指差す先には――

 

「ソ、ファー?」

「そうですよ……っと。早く早く!」

 

大人一人横になれる位の大き目のソファー。

その端に座る少女。

ぽむぽむと示されているふともも。

 

「えっとですね……安らいでいただけるよう、子守唄でお送りします」

 

ぽむぽむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまわりさん。私です。

はい、事案です。ええ、でも抗えなかったんです。自制しようともしました。でも少しした後彼女に『やっぱり、恥ずかしい、ですよね……』なんてしゅんとした顔で言われ気がついたら頭が彼女の上にあったんです。反省はしています。再犯の可能性があるのでぜひ刑を重く、出来れば更生施設への手続きなども検討に――

 

「□□さん。余計なことは考えないでいいんです」

 

左手が目を覆い、右手で頭を撫でられる。

 

「ね?」

 

アッハイ。もうロリコンでいいです。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「――♪――♪♪――――♪……

 ……お眠り、ですか? おやすみなさい。次は、良き生を」

 

魂は形を失い、空へ溶けていくように霧散していく。

これにて仲介者:☆☆☆☆☆☆としてのお仕事は終わり。久しぶりのお仕事なので若干テンションというか色々が乱高下していたような気もしますが……まぁ、良いでしょう。

 

「しかし予期せぬ結末とは……ここ200年起きていなかった事象ですが何かあったのでしょうか」

 

シミュレータの再設定が必要ということでしょうか。それとも彼の件のみが異常?

報告書をまとめて今度議案に出そうかしら、と仕事中は切っていた携帯端末の電源を起動すると――

 

不在着信:25件

メール:5通

 

「……」

 

嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感が。

まずは無言でメールを読み解く。

 

「」

 

『人生の書にコーヒーこぼしちゃったから仲介者としてよろしく:A』『蝿がいたから人生の書で挟んじゃった。仲介者としてお願いしていいかな?:B』『ごめんなさい何でもしますから仲介お願いします。妻に見つかったらホントにアレだから、ね!ね!?:B』『仲介者仕事斡旋します至急早く速やかに:C』『もう時間無いから早く来て!!早く早くh:B』

 

「……ふむ」

 

あ、彼の口癖が移ってしまいました。

 

【一括送信】『自業自得です。自己責任でお願いします:☆☆☆☆☆☆』

 

上役である彼らの影響で死亡した生物リストをチェック。その中に彼の名前は――無い。

恐らくは上役共のアレのでせいで不確定要素が加速して彼の例外死を招いたのでしょう。

 

「面倒なことに、ならなければ良いのですが……」

 

あ、もしかして私フラグ立てちゃったかも。すみません、元□□さん。

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