ル・ロウド信者が往く!   作:生パスタ200g

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02話:信仰は強かな人間の為に(前編)

【2001/8/12(Sun) 高鴨家 6:30a.m.】

 

 

泣く子も黙る外気温。みんな楽しく夏休み。社会人の皆もお盆ぐらいは休もうよ。

休日にも働く人たちがいるから休日が満喫できる、とは皮肉なことだと思うけど。

 

「ふむ」

 

あー、あー。本日モ晴天ナリ本日モ晴天ナリクッソ暑イヨ馬鹿野郎。よし。

 

「やりますか」

 

……この世界には海鳴市から広まり始めた奇妙な噂が存在する。

曰く、それは幸運をもたらすおまじない。

曰く、それは現代に降りた女神の力。

曰く、それは深淵からの開放を呼ぶ導き。

 

鳥の羽根、もしくはそれを模した何かを手に添え――

唱える祝詩(のりと)は簡単な、そう、ごく簡単な一文。

 

「ル・ロウド様。今日もいいことがありますように――【ラック】」

 

ネット・口コミによって広まって(広めて)いったそれは、今では一種の新興宗教扱いされている。回覧板には大きく『騙されないで!!新興宗教に注意!!』と書かれていた。

……しかし人間の好奇心はその程度では防げない。

五円玉で催眠術をかけられるのかと疑って、こっくりさんを放課後の教室でやってみて、肝試しと称して心霊スポットに足を踏み入れ、海に向かってかめはめ波を練習する。

そんな中で――実際に効果が出たと言い出す人間が出れば、人の興味は爆発的に広がっていく。

 

そうして何れかはこのおまじないを通じてル・ロウド様の認知度を引き上げる。それが――風来神ル・ロウド様信仰作戦!!

 

「……と、気を長くしてやっていこうと思っていたんだけど」

 

正直予想外な事態に陥っている。予想外というのは予想の斜め上すぎて、という意味だ。

 

流石は原作をアニメとする世界。フゥーハハハ!適応者がわんさか居やがるぜ!!

 

妖怪変化を吹っ飛ばす退治屋の存在や、変異性遺伝子障害を端に発するHGS(高機能性遺伝子障害者)の下地があるため、なんか政府も不思議な力は諦めてるっぽい。魔女狩りに類することは起きてなく、ちょっとした抵抗が初期にあったぐらいだった。

ル・ロウド様の大胆かつ繊細で、それでいてまったりとした中にコクとキレのある教義を記載したHPのカウンターは回転する鉄球が目じゃないぐらいに回っている。gaagleで『る・』と入力したら検索候補の一番目に『ル・ロウド』と出るぐらいには。イッタイダレガツクッタンダロウナー(棒

挙句の果てにはこのおまじないを知る前に神の声を聞いたと言う人間まで現れる始末。ボクが言えた筋合いはないでしょうけど、ル・ロウド様自由過ぎです。

 

『(・ω・)bグッ!』

 

あ、信託ありがとうございます。これからも風の吹くまま精進いたします。

 

 

――ボクが転生者であるという記憶を取り戻してから4ヶ月と少しが経った。

少し色々なことがあったので、ここで1つ整理してみるのも悪くはないだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

【2001/4/3(Tue) 高鴨家 7:00a.m.】

 

 

「それじゃあ、皆集まったし、朝ごはんを食べましょう」

 

母のこの一声が我が家の朝食の始まりを告げるゴングだ。

ボイルドされて香料の風味豊かなウィンナー。

青紫蘇とポン酢の酸味が食欲をそそるグリーンサラダ。

甘い味付けながら深みのあるスクランブルエッグ。

狐色か、それより薄いぐらいに両面焼かれたトースト。

少し甘めのホットミルク。

生前は和食派だったボクも、もう5年もこの体で暮らしていた(調教されていた)せいで全く気にならない。いや、むしろこれ無しでは生きてはいけな……ハッ、もしやこれが食育!?

実際奥ゆかしい妻は常に背後から胃袋を掴む。古事記にもそう書いてある。

 

「「「「いただきます」」」」

 

家族全員が両手を合わせるまでは先駆け厳禁。それがカースト最上位に母が君臨する、高鴨家暗黙のルールだ。

先日リーンカーネーションで転生してきたボクも、知識や経験としてそれを受け入れている。

 

「椎名は今日は1年生の入学式で半分、星乃は夕方まで?」

「そ。今年はどんな奴等が来るのか楽しみだ」

「ほ……ボクもいつもどおりの幼稚園。新年度の挨拶は昨日だったし」

「あれ星乃、ボクっていうようになったのか?」

 

うぐぅ、父め。まぁ流石に誤魔化せないよね。

 

「星乃、星乃って言ってたら女の子と間違われて……だから、ボクにしたいかなって」

 

実際間違われることも多い。

このボクの体は5歳児の男の子にしては少し背が小さい。

付け加えて――

 

「何だと星、髪は!? 髪は切らないでくれるんだろうな!?」

「椎名、朝ごはんの途中で大声上げないの」

 

これである。

椎名にぃはどうやら妹が欲しかったらしく、両親に妹とその良さを熱弁していたそうな。

残念なことに生まれてきたのは弟だったので、その夢は叶うことは無かった……のだが、その熱気に当てられた母がボクの身長の小ささと、女寄りの顔をしていたため女装を――強いられているんだ!!(効果線)

その一環でボクの後ろ髪は今、肩甲骨ぐらいまでの長さのポニテ。幼稚園のスモックでは男女の見分けが付き辛いのか、街中では良く間違われる。

茶色っ気のある髪のため、そのうち某麻雀漫画のジャージちゃんとか地元子供団の女ピッチャーのコスプレが出来るようになるのかもしれない。

 

「んーん。結構愛着もあるし切るつもりは無いかな?」

「そ、そうか……」

 

そんな安心した顔をしなさんな。自我が不在の5年間だったとはいえ、それでもボクの記憶として刻まれた人生。どうして簡単に捨てられようか。

 

「それにしても星乃も男の子として意識する年になったのねぇ」

「こりゃ母さん、お赤飯を炊かないといけないかな?」

「何だと星!? 相手は誰だ、男か、女か!?」

「父さん、母さん。そういうのじゃないって……あと椎名にぃ、相手が男ってどういう質問なの!?」

 

もうやだこのシスコン(になりたかったブラコン)。

 

「ま、そういうことで――ご馳走様でした」

 

両手を合わせて一礼。

 

「なんだもう終わりか? 大きくなりたかったらもっと食べるんだぞ?」

「んー、お腹一杯だから。幼稚園の準備してくるね」

「はーい。忘れ物しないようにね」

 

ぱたぱたとスリッパを鳴らしながらテーブルを後にする。

 

【クエスト:朝食を達成しました。経験点+500,成長1回分,獲得資金+0G,名誉点+0】

 

(…………は?)

 

思わず振り返ってしまった。

そこには変わらぬ食卓があり、母さんがどうしたの?と笑顔を向ける。

幻聴じゃないなら――クエスト達成? は? どうして?

嫌な予感。お手洗いを済ます合間に特典を流用して自己の状態を確認する。

 

 

『高鴨星乃

種族:人間 [特徴:剣の加護/運命変転]

生まれ:一般人

器用13 敏捷13 筋力13

生命13 知力18 精神15

・冒険者レベル1

【プリースト(神官)・ル・ロウド】1 【デーモンルーラー(召異術師)】1

【ミステック(占者)】1 【バード(吟遊詩人)】1

・特技

【魔法拡大・数】

 

クエスト達成1回

経験点残 500点 成長回数残 1回』

 

 

うんうん。我ながらゲテモノPCだ、って――あーこれ絶対(成長分)入ってるよね。

ちょっと待って、クエストってこんな簡単でいいの!?

『ご飯食べよう』が依頼でいいの!?

この調子だと一日あたり1500点の経験点が保証だよ!?

Bテーブル技能一本なら1ヶ月半でLv.15(英雄)だよ!?

 

「はー、はー……もちけつ。まだ焦る時間じゃない」

 

逆に考えるんだ。貰っちゃっていいさと考えるんだ。

しかし、これは――

 

「『計画』が早まりそう、だね」

 

先ずは幼稚園の準備をしよう。

 

【クエスト:幼稚園の準備を達成しました。経験点+500,成長1回分,獲得資金+0G,名誉点+0】

 

「……」

 

本当に、早まりそうだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

【2001/5/26(Sat) 海鳴市内某所 00:55a.m.】

 

 

「もし、そこの貴方」

 

顔を布で覆った怪しげな女性が、道往く青年2人組に声をかける。

 

「ここであったも何かの縁。お1つ占いなどいかがでしょう?」

「げ、宗教の勧誘ですか? そういうのはいいです……? どうしたβ」

「……α、ちょっと待てよ、もしかして噂の『トランプ占い師』じゃないか?」

 

――トランプ占い師。

13種と各4枚のカードを使って未来を言い当てると、今海鳴市で密かに話題になっている占い師。

彼女は、時には幼く、時には若く、時には妙齢の姿で現れ、しかし探しても見つからずふらりと現れるといった謎の多い存在。

 

「正確にはトランプ、ではありませんがね。東西南北、子丑寅……犬亥猫の52枚。それを使っているだけです」

 

目の前でパラパラとカードをシャッフルしていくその存在には、あるひとつの決まったジンクスがあった。

曰く、無視をすると幸運を逃す。

その存在を見かけて占ってもらった者には、その日少しの幸運が約束されるらしい。

 

「そこまでお知りなら……どうです? お1つ?」

 

対価は一律一回1000円。少し財布に痛いのが辛いところ。

 

「お、俺はいいです……βは?」

「そうですね……財布はっと。はい。お願いします」

「本気か?」

「まぁ、噂が本当なら儲けものってことで、な」

 

はい、と『トランプ占い師』は渡された1000円を受け取る。

 

「それでは、お手を拝借」

 

βと呼ばれる青年の片手を取った後に、まるで魔法のように広がるカード。

一瞬の煌きの後に、3枚のカードが『トランプ占い師』の手元に残った。

 

「北の寅の裏、南の未の表、南の戌の表。ふむ……貴方、恋煩いを……しかも長い間に渡ってのものをしているでしょう?」

「!?」

「転機です。良いも悪いも貴方次第ですが……ハンカチを忘れないこと。後は一歩を踏み出す勇気を持つことです。幸運は自ら掴むもの。待っていては機を逸します」

 

そう言って手を放し、ありがとうございましたと一礼する『トランプ占い師』。

 

「ちょっ、恋煩いって、どうしてっ!?」

「愚問ですね。私が占い師だから、ですよ」

 

――それでは。風来神ル・ロウド様のご加護があらんことを。

 

その一言がキーだったのか、『トランプ占い師』は姿を消し、道には2人の青年だけが残された。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

よっし、今日も儲けた儲けた。

【ホーリー・クレイドル】で3時間寝て(魔法効果により6時間睡眠に相当)、【クリエイト・デバイス】で魔法の発動体を得る。【コピー・ドール】で分身を作り、本体を家に置いておく(ただし動けるのは分身だけで本体は気絶状態なのがこの魔法の使い勝手の悪いところ)。必要なら母さんか父さんに【ポリモルフ】(変身)して体格を変え、その上で朝の特撮に出てくる怪しげなキャラクターに【ディズガイズ】(変装)する。声は【コピーアナザー】で変更――か、完璧だ。

占いはほら、【ミスティック】技能の【幸運の星の導きを知る】のちょっとした職権乱用。力は役立ててこそ意味があるってね。

こうやって少しずつ活動資金を貯めていって目指せ妖精魔法用の宝石の確保。そして布教資金の確保。

去り際にル・ロウド様の名前を仄めかしておくのもポイント。噂の1つでも立てば布教の助けになる。

 

魔法の使用を前提としているため、転生者である椎名にぃに気付かれないか心配だが、どうやら使用体系――と言うより魔力の質が違うものの感知は難しいらしい。こっちは逆に椎名にぃの魔法がどうなっているのか判らないしね。

 

ふむ。明日……じゃないか。今日に備えて帰ってもう一眠りしよう。

多分、ボクも道場で扱かれる日だろうからね。

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