深海棲艦との戦が始まって早五年、人類は制海権を失い、物流を内陸の鉄道輸送に頼って生きてきた。
しかし島国日本にはそれは当てはまらない。資源の多くを外国からの輸入に頼る我が国は、シーレーン喪失に伴い国力が低下。
新たに空軍を創設し、陸軍海軍飛行隊から選抜を行っているが、新規操縦士の育成には時間がかかる。
何としても我が国は制海権を奪還し、世界が目指すべき道しるべを示さなくてはならない。
私、この世に人間の格好をして二度目の生を受けた特型駆逐艦吹雪はいざ、鎮守府長官に挨拶をしに長官室へ向かうのだった。
「本日付で着任しました、特型駆逐艦吹雪です」
しかし、長官室から返事はない。
「不在であられるか……」
しかし指示をもらわない限り、私は何もできない。そこに一人?の艦娘が通った。
「失礼、長官はどちらに?」
「現在長官は上京しておられる。貴艦が吹雪だな。私は作戦参謀、長門だ」
「はっ、本日付で着任しました特型駆逐艦吹雪です。参謀、指示を」
「早速だが、敵泊地へ総攻撃をかける。第二水雷戦隊に入り、之を撃滅せよ」
「はっ、失礼します」
私が着任する前に敵白地攻略作戦が進行していたようだ。
華の二水戦、我が初陣には絶好の機会だ。
二水戦の本部ではすでに準備をしていた。
「参謀より、編入を命じられました、駆逐艦吹雪です。指揮官はどちらに」
「二水戦の旗艦の軽巡神通よ。お喋りしていたいところだけど、時間がないわ。荷物を置いて出航よ」
装備を整える。10cm広角単装砲、四連酸素魚雷、対空機銃を装備し出航する。
「やけに疾走感がありますな」
二本の足で水面を駆け回るなど、まるでスケートのようだ。
軍艦であったころとは異なる場所から眺める海は美しく、恐ろしい場所だった。
そして彼女には不安があった。この体では大きな機動性があり、かつて戦った海戦とは勝手が違うのではないのか。
おそらく超近距離での戦闘になるだろう。
旗艦から入電、『前方に敵艦発見、軽巡二隻、随伴艦あり』
私の目はつまり、軍艦であるところの測義計、目を凝らしてみると、視認範囲に敵艦隊を発見した。
「吹雪より神通へ、敵艦隊の横に侵入し、砲撃戦に持ち込みましょう」
「神通から吹雪へ、承認できない。味方航空戦力の到着を待つ」
この時、航空戦力が海域に到着していないことに初めて気が付いた。
「吹雪から神通へ、ならば敵艦隊に見つかって、航空機を差し向けられる前に引きましょう」
「おい、特型駆逐艦うるさいぞ」
軽巡川内に注意を受ける。しかし、私は知っているし彼女たちも知っているはずだ。航空戦力の強大さを。
「吹雪より、鎮守府へ、航空戦力の到着まで艦隊を引くべきだと上申します」
「こちら鎮守府、作戦に変更はない」
耳につけた小型の無線機から参謀の指示が出される。
私が怯えているだけなのか?それとも……
「神通より、各艦に通達、敵艦隊が向かってきます」
不味いな。発見されたということは、敵泊地にも伝わっているはずだ。敵航空隊が出てくる。
「全艦突撃」
僚艦は速力を上げ、敵艦隊へ向け突撃を開始する。吹雪は敵泊地の現状の正確な戦力規模も知らなかったし、それは僚艦も同じだった。
偵察に向かった航空機は打電前に撃破されるためだ。
だからこそ航空戦力には注意するべきだったのだ。あそこでより強く上申すべきだった。
しかしもう遅い。彼女の目には、敵泊地の方角から向かってくる大編隊が映っていたのだから。
敵艦隊に敵航空部隊。同時に相手をするのは不可能に近かった。彼女は奮戦、敵艦一隻を大破、航空機を二、三機撃ち落としたのが限界だった。
敵艦隊はいまだに健在、航空部隊は波状攻撃を続行中。そして投下された爆弾が彼女が背負う機関部に被弾した。
「ちっ、こちら吹雪、機関停止……」
足に履いた専用の靴が浮力を失い沈んでゆく。ここまでか。しかし彼女は最後まで抗おうとした。
酸素魚雷と砲弾を同時に起爆したら敵の一つや二つ……
しかしその機会は訪れなかった。味方航空戦隊が到着したのだ。彼女は身を潮流に任せたまま、その姿を見る。
「全く、見事な練度だ……」
寸分たがわぬ雷撃、爆撃は次々に敵艦隊に損害を与えていた。
補助機関で発電した電力も途絶え、無線交信ができなくなる。
「あの島を墓場にするか……」
艦隊に戻ることもできない彼女は、武装を解除し軽量化を図る。
もう少し、そう思ったところで視界が変わった。水面を仰ぎ見る彼女は沈んでいた。海底まで十メートルといったところか。
ああ、綺麗だ。水面から零れ落ちる日の光が彼女を包み込む。あっという間だったが、一隻大破したのだ。十分な戦果だろう。
しかし神は許さなかった。生をあきらめ簡単に死を受け入れた彼女を。
日の光は語り掛ける。お前も軍人だろう。期待してくれた国民を裏切るのか、と。
その一言で彼女の心に火が付いた。
「そんなわけない……」
やがて日の光は灼熱の炎となり、彼女の周りの海水を消し去った。
そして言う。受け取れ、と。
その言葉と共に、彼女の頭に膨大な情報が流れてくる。その情報の正体は……
「これが、神の盾の力か!」