萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第5話『戦慄のブルー・スター』 -2-

 

 

 「くっそー、強ぇー…」

 センターの机に突っ伏しながら、ダイヤが呻く。強敵であることは理解しているつもりだったが、ここまで手も足も出ないとは思いもしなかったのだ。

 「全員ほぼ一撃、かぁ…」

 「大丈夫ですご主人様!私たちはもう回復も終わりましたし、また挑戦できますよ!」

 「それに、いまのままじゃダメでもまた近くにすむ子たちにきたえてもらえばいいもんねっ!」

 「戦略も洗い直しましょう。相手は強いですし、ニビジム以上に此方には不利な状況が揃っています。なんとかそれを覆しませんと」

 ダイヤを励ますように、ノア、メルア、サーシャが其々の案を出す。元々一戦目は当たって砕ける心算だったのだ。敗北を反省し、次に活かすべきなのはダイヤ自身も分かっていた。

 俯いたまま小さく深呼吸し、また強い笑顔で起き上がる。

 「…サンキュ、みんな。よっしゃ、それじゃ一先ず近くの草むらで鍛えに行くか!」

 ダイヤの掛け声に、三者三様の肯定を見せる。その返事に嬉しくなりながら、メルアの頭にポンと手を乗せる。

 「特にメルア、今回のジム戦はタイプ相性が良くてあのスターミーの攻撃を耐えられたお前が重要だもんな。ちょっと厳しく鍛えていくけど、頑張れるな?」

 「うん、もっちろん!メルがんばるよ、マスターっ!」

 「おう、期待してるぜ!」

 フワフワの頭をわしわしと撫で回す。くすぐったそうに「やぁーん」と笑うメルアは、 ただただ無邪気に喜んでいた。

 トレーナーと萌えもんの仲が良いという、とかく微笑ましい光景。そこに異を唱える者は、誰も居なかった。

 (……仲良きことは、美しきこと。じゃが…美しいものが常に、万事において正しいとは限らぬ。

 …こやつらはまだ、そのようなことも解らぬか)

 

 

 彼らは挑んだ。

 やられては回復し、鍛え直し、戦略を見直し、何度も何度も。

 だが、それでも勝てなかった。

 ある時は水中から翻弄され、ある時はスターミーの持つ多種多様な攻撃に対し為す術もなく、何度戦っても…何を試しても敗北を繰り返している。

 …気付はダイヤたち、もう一週間はハナダの街に滞在することになってしまっていた。

 そして、通算20回目の敗北を打ち付けられた時…。

 「クソォッ…!なんでだ…なんで、勝てない…ッ!!」

 プールサイドに拳を打ち付けるダイヤ。悔しさだけが延々と募っているのは、誰の目から見ても明らかだった。

 そんな少年の姿を嘲るように、カスミが冷たい声をかける。

 「…はぁ。もうこれ以上挑戦されても迷惑だし、いい加減教えてあげるわ。

 貴方と私の、決定的な差を」

 「…決定的な、差…!?」

 「――貴方の戦いには、”信念”が無いのよ」

 突き付けられた言葉。それは、『信念』という曖昧にして強固なる言葉だった。

 「信、念…?」

 「そう。ポリシーと言ってもいいかもね。因みに私の信念は、私が信愛する水タイプの萌えもん達で、攻めて攻めて攻めまくる…。そして水使いの頂点を目指すこと。

 最も種族数、個体数が多いとされる水タイプだからこそ、究める価値がある…。私は、そう思ってる」

 カスミの真っ直ぐな強い言葉を、ダイヤはただただ聴いていた。傾聴と言うには不十分過ぎる、そこに彼自身の意識があるのか解らぬような顔つきで。

 カスミはただ淡々と、相対する少年に冷たく問いかける。

 「貴方はその心に、一体何を固めて戦っているの?どんな信念を以て、その萌えもん達を戦わせてるの?」

 「俺は…何、を……」

 分からない。分からなかった。分かりようが、なかった。

 少年の心には固めているものなど無く、目標も、信念も、なにも見えていない中でただなんとなく歩いてきたのだ。

 それは、誰もが自分の足で歩きだしたからには、遅かれ早かれいつかはぶつかる壁だった。

 中にはそんなものにぶつかる事もなく進むものもいるだろう。ぶつかる前から逃げるものも、また同様にいるだろう。

 ダイヤの悲しくも愚かだったところは、そんな壁があることにすら気付けなかったことにあるのかもしれない。

 「信念が無いから、貴方との戦いには重みが無い。前向きに攻めているのか、後向きに逃げているのか、それすらも曖昧。

 …ホントつまらないわ、貴方。同じマサラタウン出身なら、私に勝ったロイっていうヤツの方がよっぽど重かった」

 敢えてダイヤと同郷の少年の名を挙げるカスミ。だが、ダイヤ自身は彼女の言葉になんの反応を示すことはなかった。

 「……帰りなさい。貴方の萌えもん、回復させてあげないとね」

 その言葉を聞き、ようやっと立ち上がりのろのろと歩き出した。その足取りに、覇気は感じられなかった。

 「…珍しくキビシーこと言うじゃんカスミ。もしかして、惚れちゃった?」

 「はぁ?ありえないし。あんなの惚れるどころか、眼中にすらないわ」

 「まぁ、今のままじゃーねぇー」

 「そんなどうでもいいことより、スターミー。あんたこそ手加減してんじゃないの?他のはともかく、あのメリープに何回耐えられたと思ってんのよ。今回なんか、倒すのに3回も攻撃してるのよ?」

 「それこそまさかよ。アタシはいつだって全力。アンタと同じものを見てる以上、手を緩めることはしないわ。

 …あれだけ耐えられたのは、間違いなくあの子の持つポテンシャルよ」

 その言葉だけは、表情を固めて言い切ったスターミー。彼女にそのような顔をされては、カスミもそこだけは認めざるを得なかった。

 「…ま、ここで折れるようじゃそこまでの、いつものトレーナーに過ぎなかったってことネ☆」

 真面目に固めた顔から、いつもの明るい作り笑顔に戻るスターミー。

 この明るい笑顔で繰り出される多彩にして怒涛の攻め。挑戦者たちをなぎ倒す彼女らの姿こそ、【ハナダのデススター】と言う異名を生み出しているのである。

 

 

 

 - ハナダシティ:萌えもんセンター -

 

 壁際の一席に、一人の少年が座っている。今は赤い帽子とジャケットを外し、これまでは見せたことのない…ただただ神妙な面持ちで、座していた。

 いつもとは違う、ピリピリとした空気。威圧感のようなものが、この一席を支配していた。

 「…ご、ご主人様!わ、私たちなら大丈夫です。もう回復も済みましたし、今度こそ…」

 「……いや、今日はもういい。休もう…」

 なんとか声を発したノアに対し、表情を変えず、目を合わせようともせず呟くように答えた。

 「じゃっ、じゃあまたトレーニングしよっ!次はメル、もおっとがんばるから――」

 「…ぅッさい!俺が休めって言ってんだ!つべこべ言わずに休んでろよッ!!」

 「ご、ご主人様…!?」

 「大体メルア、毎回頑張る頑張るって言いながら、結局いつも何もできずに倒されてるじゃないかッ!!ノアやサーシャは相性不利があるけど、お前は…ッ!!」

 ついに、荒げた言葉が出てきてしまった。一度放たれた言葉は、まるで栓を切ったように続けざまに飛び出してきてしまう。

 それはメルアにとって初めての、そして想定外の怒りと罵倒。あろうことか彼女の主たる少年は、これまでの敗北の責を彼女に転嫁してしまったのだ。それが度重なる苛立ちから来るものなのか、それとも本心から来る故意かどうかは、この際どうでもいい。

 その心無い言葉を受けて、彼女はついに、その小さな顔をくしゃくしゃに崩してしまったのだから。

 「…ぅ…ふぇ…うぇええええええええん!!!」

 「マスター!貴方なんて事を!!」

 「泣くなよッ!泣きたいのはどっちだと思ってんだッ!!鍛えても、策を作っても、結局――」

 泣き喚くメルアと当り散らすようにがなり立てるダイヤ。サーシャの諌めも、今は何の効果も為さなかった。

 そんな時ダイヤの視界に飛び込んできたのは、白銀の塊…ソーマ渾身の体当たり、だった。

 顔にめり込み窓へ押し飛ばされるダイヤ。テーブルの上に立ったソーマは、彼を見下すように冷たい目で見据えていた。

 「……糞喧しい。頭を冷やせぃこの餓鬼が」

 「ソーマ、手前ェ…!」

 「なんじゃ、今度は盾にもならずに傍観しておる妾を責める気かぇ?役立たず、穀潰し、邪魔者、そう言って罵り蔑む気かぇ。

 構わんぞ。そういう扱いを受けることには慣れておる。お主のような癇癪を立てる餓鬼の放つ罵詈雑言など、何の痛痒も感じぬわ」

 嘲笑いながら、見た目幼い少女が言い放つ。

 「カスミの言うとおりじゃわぃ。信念無き者が為せることなど、なにもありゃあせんわ。ましてや自分の為に、自分に代わって戦う者たちの痛みも分からんようではのぅ」

 「………ッ!」

 ソーマの言葉を受けて、ダイヤはようやく、改めてみんなの顔を見回した。

 そこにいつもの笑顔はなく、恐れや怒り、悲しみに支配されていた。彼自身の身勝手のせいで起こした、負の感情。

 そんなことに今更気付いたダイヤは、思わず逃げるようにその場から走り出した。

 「マスター!待ちなさい!!」

 「よせよせ。イジケた糞餓鬼に、お主がキレたところでどうにもならんわぃ。捨て置けよ」

 「で、ですが…!」

 ソーマの冷たい言葉に思わず狼狽えてしまうサーシャ。果たしてどうするのが正しいのか、彼女には分からなかった。

 「ひっく…えぐっ…ごめん…ごめん、なさい……」

 「メルちゃん…大丈夫、大丈夫だから…」

 喚き声は止まったものの、未だ涙を流し鼻をすすり続けるメルア。ノアはただ、そんな彼女を慰めようと必死だった。

 「いつまでもベソかいておるでないわ。あんな糞餓鬼の下になど、居り続けても仕方なかろうて」

 「…ぐすっ…そんな…そんなこと、ないよぉ…!」

 ソーマの言葉を否定するように、涙ながらにメルアが異を唱える。

 「ますたぁも…ノアも、サーシャも…みんな、いっぱいがんばってた…。だから…だから、メルも…メルも……だいすきな、みんなのために……。

 ……でも、でもますたぁ…メルのこと、きらいになっちゃったの、かなぁ……。ぅ、ぇええええぇぇ…」

 言いたくなかったことを言ったのか、またも泣き出すメルア。そんな彼女の頭を、優しくノアが撫でていく。

 その顔に先ほどまでの必死さはなく、小さな決意を秘めた、強く優しい顔に代わっていた。

 「…大丈夫。ご主人様が、メルちゃんを嫌いになる訳なんか、ない。だって、私はメルちゃんをゲットした時のご主人様の姿を、よく覚えてるもの。だから、大丈夫」

 優しい笑顔をメルアに向ける。いつか自分が、そうしてもらったように。

 「サーシャ、ソーマ、メルちゃんの事をお願いします」

 「ノア…どうするつもりですか?」

 「一人で鍛えに行ってきます。今私が出来るのは、それだけだもの」

 それだけ言い残して、センターから走り出すノア。前に言われた言葉…『鍛えたりなきゃ、鍛えるだけ』という言葉を、愚直に実行するだけだった。

 「…分からんのぅ。なんであんな餓鬼に、そこまでしてやる義理があるんじゃ」

 「そうですね…。確かに、理解に苦しむとは思います」

 「ほう、意見があったのう」

 「ですね。…でも、行動はあなたと合わないと思います。私も、ちょっとばかし鍛えに行ってきますよ」

 「何故じゃサーシャ。お主もあの阿呆の行動にはほとほと面倒がっておったじゃろうに」

 ソーマの言葉に、思わず溜め息をつくサーシャ。彼女の出した答えは、思った以上に簡単なものだった。

 「放っておけないからですよ。マスターも、ノアも、もちろんメルちゃんも…。危なっかしくて見てられないからです。だから、私も強くならないと」

 「メルもいくっ!!」

 サーシャが小さな決意を固めた時、横からメルアも声を張り上げた。その眼にはまだ涙が滲み、顔は赤くなっていたが、キッとした強い顔に変わっていた。

 「マスター、メルを頼りにしてくれたんだもん…。もっと、マスターやみんなのおやくにたちたい…!マスターと、みんなと、笑ってたい…!」

 そんなメルアの手を両手でキュッと握り、サーシャもまた笑顔で返した。

 「…ノアのところ、行きましょう」

 「うんっ!!」

 そうして二人、手を繋ぎながらセンターを後にする。残されたのは、ソーマただ一人となった。

 「……随分とまぁ、手厚い信頼を持っとるようじゃのぅ。まるで………」

 そこまで呟いて、思わず首を振る。何かを思い出そうとして、思わずそれを払拭するかのように。

 溜め息を一つ吐いて腰かける。そこに、桃色の作業着を着た女性、ジョーイが声をかけてきた。

 「みんな、良い娘たちね」

 「…騒がしくて済まぬな。迷惑をかける」

 「よくある事よ。特に、この街じゃあね。

 ジムに挑んで何度も負けて、嫌になって萌えもん達に当り散らす。ここじゃ見慣れた光景よ」

 「くくくっ…さすがは、【ハナダのデススター】と言ったところか」

 笑いながらそう返す。対面するジョーイは、普段の受付の時と何ら変わらぬ優しい顔のままだった。

 きっと、そうやって喧嘩別れしてきたトレーナーたちを何人も見てきたのだろう。それらはすべてトレーナーと萌えもんの間での自由な出来事。よくある、些末な出来事に過ぎなかった。

 そして、ソーマもまたそのような出会いと別れを繰り返して今ここにいる。それを誰よりも理解しているのは、他でもないソーマだった。

 あの小僧もまた、この壁に打ちのめされて道を諦めてしまうのだろうか。しかし、彼の少年とそれに付き従う者たちの姿を目の当たりにし、その答えを出すのは早計ではないかとも思いはじめていた。

 「貴方も、自分のトレーナーともう少し器用に話が出来ればいいのにね」

 「ハッ、不器用者共の集まり、か。…まぁ、かもしれんのう」

 他愛ない、そこまでの話を終えて、ソーマも立ち上がり椅子から飛び降りた。

 「…さて、それじゃ妾も行くかのう」

 「行ってらっしゃい。萌えもんセンターは、24時間いつでも、傷付いた萌えもんやトレーナーの看護を受け付けてるからね」

 「昔から何度も世話になっておるでの。お主らジョーイには頭は上がらぬわ」

 軽口を叩いて、外に出ていく。今日も月は、眩しく夜を照らしていた。

 

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