萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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 突き当たったものは巨大な水壁。突き付けられたものは甘過ぎた認識。
 少年は悩み、少女たちはもがく。己が心底を、見つける為に。
 思うが侭に何を為す。壁を前にし、悪意を前にし、愚者は何を信じて進むのか。



第6話『Believe Your Justice』 -1-

 

 夜のゴールデンボールブリッジ。そのハナダシティ側の袂で、ダイヤとソーマは黒服の男たち…ロケット団の団員と対峙していた。

 「なんだってこんな時に…!」

 思わずボヤく。こっちは足元に居るソーマだけで、意識の無い野生のストライクを肩に背負っている。しかもダイヤ自身は、隣のストライクを助けるために川に飛び込んでずぶ濡れ、しかもその鋭利な腕でついてしまった切り傷もある。

 対する相手は万全な状態の二人…そこに所持萌えもんも居るから、あらゆる状況を鑑みても圧倒的に不利なのは明白だった。

 思わず息を呑むダイヤ。なんでもいい、どんな手段でも構わないから、打開の方法を思考する。しかし、彼のアタマはそう上手く出来ていない。最初に出した行動は、おおよそ不可能なものであった。

 「…な、なぁ、頼むよ。コイツさっきまで溺れてて、気を失ってるんだ…。すぐにセンターへ行って、回復させてやらないと…。だから、この場は…」

 「見逃してくれ、ってか?やーだねー」

 やっぱりか。と、思わず歯軋りする。元より和解が成立するとは思ってない。万が一を考えての事だったが、やはり出来るわけがなかった。

 相手はにやけた笑みを続けながら、腰から取り出したボールを放る。飛び出してきたのは、どちらもオツキミ山洞窟で出会った萌えもん、アーボとズバットだ。

 「ソーマ…さっきのスゲェ技、まだ出来るか?」

 あの技…【破壊光線】の威力なら、この危機も突破できる。そう考えたのだが、ソーマから返ってきたのは絶望的にも近い言葉だった。

 「…無理じゃろうな」

 「な、なんで…!」

 「そもそも妾が使った技は【指を振る】。ありとあらゆる技をランダムで発動させる技じゃ。狙って使うことは出来ん。

 最初使った時は運良く【蔓のムチ】を発動できたが、次の【破壊光線】は良い意味での予想外じゃった。本当なら【サイコキネシス】でお主等を持ち上げるのが理想だったのじゃが、のぅ…」

 「分の悪すぎる博打ってことか…」

 忌々しげに相手を睨み付けるダイヤ。こんなにも無力な自分が、今は只々辛かった。

 ノアが、サーシャが、メルアが、今までどれだけ自分の力になっていたのか…気付くには遅かったのかもしれないが、それでも求めずにはいられなかった。

 「…ん、よく見たらお前…オツキミ山で仕事を邪魔してくれたガキ、だよなぁ?」

 片方の、アーボのトレーナーであるロケット団員が問いかける。ダイヤは身構えながら、とりあえず首肯で返した。

 「それはそれは、だなぁ。…ここで意趣返ししてやってもいいが、折角だ。選ばせてやるよ」

 「…なにを?」

 ダイヤの質問に対し、団員の一人は下卑た笑みを絶やさないままに右手の指を三つ立てながら言葉を続ける。

 「一つ目。ここで俺たちにボコボコにされて、泣きながら家族のところに帰る。

 二つ目。そのトゲピーとストライクを渡して、そいつらの事を全部忘れて早々にこの場を立ち去る。

 そして三つ目。そいつらや手持ちと共に、俺たちロケット団の一員に加わる。

 どうだ、簡単な三択だろう?」

 思わず、血の気が引いた。

 眼前の男が示した三択…一つ目は肉体的に相当痛めつけられるのだろうと分かる。二つ目は自分としてそんなモノを選びたくはなかった。

 だが最後の三つ目は、誰も傷付かない代わりに、自分が皆と悪の道に進むというもの。この場を万事において平穏無事にやり過ごすというなら、これはある意味理想的な選択だ。だが、それすらも悩みの種として少年の思考を混沌へと叩き落としていった。

 そんな彼の姿を見て、ソーマは小さく微笑んだ。まるで、諦めのような笑みを。

 「…坊、構わん。妾とそやつを置いて、此処を去れ」

 「ソーマ!?お前、なんでそんな…!」

 「流れ者と流され者を渡せば、お主らはまた旅が出来るのじゃろう?ならば、簡単ではないか。

 こんな処で、余計な軋轢に関わってる暇など無かろうて」

 「まぁそれが賢明かもなぁ。お前っていう戦力になりそうなトレーナーが居ないのは残念だけど、こっちはそれでも良いしなー」

 「上手いこと言うねぇ、流石俺らは悪の組織の一員ってヤツかぁ?ハハハハハ!」

 ソーマの言葉は、何も間違ってはいなかった。間違っていないはずだ。関係の薄い二人を、目の前の連中に渡せばそれで済む。それだけのことだ。そのはずなのに…。

 (俺…どうすりゃいいんだよ…どうすりゃ…!)

 思わず目を閉じる。瞬間、彼の脳裏に何かがフラッシュバックしだした。それはいつかの記憶、想い出――。

 

 

 『んもーダイヤってば…なんでアンタが泣いてんのよ』

 『だって…だって…』

 『だって、なぁに?』

 『だって…あいつら、ロイをいじめてたんだもん…!』

 『そう…ロイくん、ダイヤの友達だもんね。でも、一緒になって喧嘩してたくせに…ロイくんは泣いてないのに、なんでアンタは泣くかなぁ?』

 『グスッ…だって、たたかれるの…いたかったから…』

 『よしよし、そうだねー。叩かれるのは痛いもんねぇ。…でも、叩かれるって分かっててロイくんを助けに行ったんだよね?』

 『……ぅん……』

 『えらいね、ダイヤ。立派だよ。でも、別にダイヤが痛い思いをしなきゃいけないってこと、ないんだよ?』

 『…でも、でも…ぼく…』

 

 

 『……【せーぎのみかた】に、なりたいんだもん……!』

 

 

 

 思わず目を開く。なんでこんな時に、こんな事を思い出すんだろう。だけど…

 「……俺が、やりたいこと……」

 だけど今、彼の目にはそれが、ハッキリと視えていた。

 「いい加減決まったか?決まらねぇんなら、実力行使で行かせてもらうぜ?」

 「よせぃ、妾達がそっちへ行って――」

 「ソーマ、戻れッ!」

 不意に、その場の全ての言葉を遮ってダイヤが叫んだ。空いていた左手には、ソーマのボールが握られている。

 「なッ…おい坊ッ!?」

 言うが早いか、赤い光の線がソーマを包みボールへと引き戻した。すぐに小型化し、腰のホルダーへ仕舞い込む。

 その一連の動作を見送った時、ロケット団員たちの顔から下卑た笑顔が消え、険しさを孕んだ硬い表情に変わっていた。

 「…どうやら、痛めつけられなきゃ分からないようだな。泣いてママんとこに帰りな!」

 「痛めつけられても…もし泣いたとしても…!こいつ等は俺が守り抜く!それが、俺のやりたいことだ…ッ!」

 「正義の味方気取りかよ!クソガキがッ!!」

 襲い掛かるアーボとズバット。二つの敵意がダイヤに向かって牙を剥いている。

 思わず担いでいたストライクを地面に下ろし、ボールホルダーも下にして、その上に覆い被さるように背を向けた。今出来ることは、それしかなかったから。

 カッコつけたのに結局はこの程度か、と内心情けなく思う。だが少なくとも、この選択に後悔はなかった。どれだけ痛めつけられれば諦めてくれるだろうか…そう思った瞬間だった。

 「いったれサンダース、10万ボルトや!!」

 「っしゃあ!食らいやがれぇッ!!」

 電撃が闇を走り、ズバットへと直撃。小さな身体はそのまま痺れ落ちて目を回す。ダイヤがそれを認識した時、既に眼前には一人の青年が間に割り込んでいた。

 黄色く尖った髪に、逆立った髪色の上着と白いスラックス。長身でスマートな身体は、いかにも素早そうに見える。その頭からは、髪と同じ色の鋭く伸びた耳が生えていた。

 「な、なんだてめぇ…!」

 「遅いぜ!もう一発くれてやる!」

 言うが早いか、帯電した身体からもう一度10万ボルトが放たれる。狙われたアーボはそれを躱す間もなく直撃。一撃でノックアウトさせられた。

 「まだ続けるか?何が出てこようともマッハで痺れさせてやるけどよ」

 挑発的な笑みを浮かべながら萌えもんの青年…サンダースが自信満々に問いかける。

 一気に形勢を逆転された団員達は、この状況を不利と悟ったのか、忌々しそうに歯軋りしながらも足早に撤収していった。下っ端らしい、鮮やかな逃げっぷりだ。

 夜の闇に消える二つの黒尽くめを見送りながら、サンダースが舌打ちする。その背後から、ジョウト訛りの男が軽く拍手しながら寄ってきた。男の後ろには、薄紫色のワンピースを纏い、同じ髪色のショートヘアの女性が佇んでいる。頭からは大きめの三角形の耳が生え、額には赤い宝玉。ワンピースの後ろからは二股に分かれた尻尾がゆらゆらと揺れていた。

 「なーんだ、呆気ねぇの」

 「えぇてえぇて。よぉやったで、お疲れさんやサンダース」

 「貴方、だいじょうぶー?」

 「…あ、あんた達は…!?」

 思わず身体を反対に返し、その背に気を失ったストライクとソーマの入ったボールを庇おうと構えるダイヤ。

 眼前の男たちは何者なのか…そう考える中で、ほんの少しだけ、先日オツキミ山で出会った理科系の男の気持ちが分かったような気がした。

 未知のモノに対する警戒心。それは無くしてはいけないものだったのだ。特にこんな状況になったからこそ、研ぎ澄まされてしまう。

 「そんな警戒せんといてぇな。ワイはマサキ。この先の岬に住んでるモンや。んで、こいつ等がワイの萌えもん。サンダースとエーフィや」

 黄色い方…サンダースは気さくな笑顔で手を振り、薄紫の方…エーフィは優しい笑顔でお辞儀した。少なくとも、ロケット団の連中とは違って見えた。

 「…ありがとう、ございます。でも、マサキさん…どうして俺たちを助けに…?」

 「うちのエーフィな、エスパータイプなもんで結構危機察知能力ってのが強いんや。丁度キミらがそれにヒットしたっちゅうワケやな。そしたらサンダースのヤツが連れてけってゴネよるさかい連れて来たったらこの通りや。いやぁ良かった良かった」

 カラカラと笑いながらうちの子自慢なのかよく分からない理由を語るマサキ。だが一先ずは確信できた。この人は、間違いなく悪い人間ではないと。

 ホッとしたその瞬間、ダイヤの身体から力の全てが抜ける感覚が走った。背後で気を失ったままのストライクにもたれかかる様に倒れ込んでしまう。

 自己紹介、感謝の言葉、マサキの話に対する返答…とにかく何かしようとしたものの身体は一切の自由を失ってしまっている。橋灯の輝きに映る景色はボヤけ、フラフラと歪んでいた。

 『坊ッ!!おいこら!何をしておるかこの阿呆ッ!!』

 ソーマの怒号に対しても、頭の中でそんなに怒るなよと思うだけで、言葉として何も返せなかった。

 やがて、その視界は真っ暗に暗転した。

 「お、おいキミ!大丈夫かいな!!」

 「あらあら…マサキ兄様、早くセンターへ運ばないといけない、わね」

 「ニンゲンはニンゲン同士で頼むぜ。俺はこのデカい虫を運ぶからよ」

 「あぁもうしゃあないなぁ…。ワイは頭脳派なんやし、そこまでするつもりはなかったんやけどなぁ…っこらせぇ!」

 なんとか勢いをつけて身体でダイヤを持ち上げるマサキ。16歳のダイヤとさほど変わらぬその細い身体では、なんとか支えて運ぶのが精一杯のようだ。

 その隣では、サンダースがストライクを簡単に起こしている。さすが、普通の人間より地の力は強いようだ。

 「あぁー!重いー!他のヤツらも連れてくれば良かったぁー!手伝えやサンダースぅー!」

 「そっちよりこっちの方が絶対重たいからお断りだ」

 「貴方は、私が、ねー♪」

 ボールに入ったままエーフィに持ち上げられながら、ふてくされるように溜め息をつくソーマ。一先ず難は逃れたにしろ、逆に多くの問題を抱え込んでしまったと考えてしまう。

 偶然とはいえ、ロケット団と出会うのは2度目。それでも言い成りになっていれば、彼が今後進む道に大きな害とはならなかっただろう。否、それ以前に川を流れる見ず知らずの…生きてるかも怪しい者を何故自分を顧みず助けに飛び込んだのか。そのようなトラブルの源など捨て置けば良かったのだ。

 だと言うのに…

 『……なんで、お主はそれを選んだのじゃ……』

 不満と疑問が思わず口に出る。…まるで、何かに囚われているように。

 

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