萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第6話『Believe Your Justice』 -3-

 

 - ハナダジム -

 

 プールサイドで背伸びをするカスミ。その身体は水で濡れており、照明の明かりで光る身体からは薄らと上気していた。つい先ほどまで泳いでいたのだろう。

 傍らに置かれた大きなタオルを頭から被り、水気を取るように全身を拭いていく。すると、重い音を立ててフロントへと続いている扉が開かれた。

 「カスミさん、挑戦者です。…その、彼です」

 「…良いわ、通して」

 扉の向こうから、赤いジャケットと赤い帽子を付けた少年が歩いてくる。プールサイドの飛び込み台に立った彼の顔は、その眼は昨日よりも強くなっていた。

 相対する飛び込み台に立つカスミ。小さな変化ではあるものの、彼女の目は少年の変化をしっかりと見据えていた。

 「…案外懲りないのね、キミ」

 「俺もそう思ってる。…まぁでも、独りじゃきっと折れてたんだろうな」

 「ふぅん…何かあったのね。まぁいいわ、今日は今までよりもう少しは楽しませてくれるかしら」

 「どうかな。ただ、勝つ気だけは変わらずあるさ」

 真っ直ぐと伝える。ダイヤのその言葉を受けて、カスミが小さくフフッと笑った。

 持っているボールを放り投げる。軽快な音を立てて中から現れたのは、この一週間で何度も見てきた相手。カスミの手持ちであり相棒である萌えもん、スターミー。

 毎度のように可愛らしい決めポーズをとり愛想を振りまく様も、ダイヤ達にとっては見慣れた光景だ。そんな彼女の肩に軽く手を置き、カスミが言い放つ。

 「私たちも変わらず、今日も本気で叩きのめしてあげる。その代わりこの娘…スターミーを倒すことが出来たら、貴方に勝ちをあげるわ」

 「…ハンデってことか?」

 「ジムリーダーは相手の力量に合わせて手持ちを変えるもの。ハンデっていうより義務よ。でも私のスターミーは、私の手持ちの中じゃ一番強い。私とスターミーを打ち負かしてやっと、バッジ2個分の実力があるって認められるのよ」

 ジムリーダーの仕組みを改めて説明させられて、なるほどと納得するダイヤ。実際のところ詳しくは理解していない。が、それでも解かることは、自分たちが強くなるためにはカスミとスターミーを倒さなければいけないということだ。

 一足飛びでは強くなれない。自分一人ではみんなを鍛え上げるのも無理がある。一歩ずつ、山を登る様に強さを確かめる他ないのだ。

 焦ってはいけない。胸に秘めた信念をより強固に、確固たるものにする為に、ゆっくりでも前を向いて歩んでいくしかないのだから。

 「分かった。それじゃあ、ジム戦をよろしく頼む」

 「オッケー。そっちは何体で挑んでも良いわ。…返り討ちにしてあげるから」

 カスミとスターミー、二人の目が戦闘状態に移行する。毎日のように見てきたはずなのに、今日はその重圧がいつも以上に強く感じられた。

 (さて…)と、緊張を気取られないように深呼吸しながらボールに手をかける。技のや能力の再確認、戦闘プラン、一通りは考えたつもりだ。だがそれでも、どれだけ勝つ気が有っても勝てる確率は低いのが現実である。あれやこれやと思考が巡り巡り、そこでつい動きが止まってしまった。

 「どうしたのかしら。勝つ気が有ると言ったのは、ただのハッタリだった?やる気が無いんなら帰りなさい」

 カスミの罵倒に思わず歯軋りしてしまう。此処まで来てまだ踏ん切りがつかないのかと、尽く自分が情けなくなる。かといって、今まで通りのままでは玉砕するだけだ。それでは意味がない。

 控えているノア、サーシャ、メルアの3人もそれを理解している。だからこそ、何も言えなかった。自分たちの主の判断を信じ、それを待つだけだ。

 ――だからこそなのか、最初に声を上げたのは最後の一人だった。

 『ハァ…えぇぞ坊。構わず妾を出せ』

 「…良いんだな?」

 『今更斯様な小娘を相手に怖気づくモノか。…想像しろ。目の前にある壁を。己が何を為し、如何にすべきかの為にあの壁と向かい合うかを。

 アレがもし、お主の信念に叛する存在であれば…それがお主に牙を剥く時、如何するかを』

 「乗り越える…。打ち砕く…!」

 『それで良い。…だが、これだけは忘れるな。戦う以上、傷付き倒れゆくのは妾達じゃ。

 決して背くな。何があろうと見逃すな。お主が向ける想いは、あとの奴等の力になるでの』

 「あぁ、分かってる。俺が目を背けてみんなが泣くようじゃ、本末転倒だもんな。だけど――」

 ダイヤの言葉に耳を傾けるソーマ。問われた言葉は、あまりにも簡単で当然で…しかし彼女が失念していたことだった。

 「――俺の想いってヤツは、お前自身の力にもなるんだよな?」

 『…フンッ。往けぃ坊、お主の得たものを見せつけてやれ!』

 「あぁ、覚悟完了だ!ソーマ、行けぇッ!!」

 意を決してボールを投げる。先発に選んだ萌えもんとしてプールの浮島に現れたのは、ソーマだ。彼女の姿を見た時、カスミは一瞬怪訝な顔をしたもののすぐに蔑むような顔に変わった。

 「これまでは見なかった子ね。物量勝負に出るってことかしら?嘗められたもんね」

 「嘗めておるのは己の方じゃなかろうかぇ、この小娘が」

 開口一番、カスミを煽りはじめるソーマ。彼女の言葉に、カスミの顔もまた固まった。不敵な笑みを浮かべながら小さな胸を張り、まるで挑発するように言葉を重ねていく。

 「大体のぅ、ハナッから自分の有利なフィールドとハイスペックな萌えもんで勝負させて相手の心を折るほどにボッコボコにする。どこの初心者狩りじゃ賢しい雌餓鬼めが。

 そんな弱者ばかりをいたぶって、それで水タイプを究めるじゃと?思い上がりも甚だしいわ戯けが」

 「い、言いたい放題言ってくれるじゃない…!」

 「そーよそーよ!それに、真の強者はどんな相手にも全力で挑むものなのよッ!」

 「そうしてまた打ちのめしては悦に浸るんじゃな。見た目通り器も乳も小さい奴じゃのう。あぁアレか、『細ければ反れ』とかいう貧相な身体を強調する小手先の手段か?哀れを通り越して涙が出てくるわ」

 「ぐぐぐぅぅ~~…!ちょ、ちょっとアンタ!なんなのよその萌えもんはぁッ!!」

 「お、俺に言われてもなぁ…。まぁこういうヤツってことでさ」

 怒りで顔を紅潮させながら、カスミがダイヤに言い詰める。慌てながらそれがソーマの性格だと説明するも、ここまで怒らせてしまっては聞く耳持たないと言ったところだ。

 「ムッカツクわ…!そっちの挑戦に何度も何度も付き合ってやってるってのに、そうまで言われなきゃならないなんて…!!

 大体ね!胸は小さい方が水泳の時に邪魔にならなくていいのよ!!それに小さいのはステータス!希少価値なのよ!あんな脂肪の塊、こっちから願い下げだわ!!」

 「ほっほーぅ、聞いてもいないことをわざわざブチ撒けてくれるとは豪気よのぅ。じゃがその物言い、ただの貧乳コンプレックスにしか聞こえんぞ、ナイチチが」

 「…もう無理!!ブッ倒してやるわ!!スターミー、水中から徹底的にやっちゃいなさい!むしろ殺れッ!!」

 「はーい!カスミを怒らせるなんて、馬鹿なことしてくれるもんね!」

 そう言いながらプールの中へ潜るスターミー。ただでさえ水タイプなのだ、水中の活動は本領発揮というところだろう。

 実際ものの数十秒で、プールは小さく波打ちはじめ足場の浮島は不安定に揺れ始めた。ソーマはその小さな身体を踏んばらせ、なんとか揺れに耐えている状態だ。

 「ソーマ、本当にこれで――」

 「案ずるな坊。これでもう、無事に『積んだ』。あとは…」

 「あとは!?」

 右手の人差し指を立てながらダイヤの方へ振り向くソーマ。その顔は、まるで相対する少年が持っている本来の表情を映し出したような、ニカッとした強く明るい笑顔だった。

 「祈れ!…昨晩と同じようにな」

 「スターミー!水の波動ッ!!」

 「死角、貰った!!」

 水中、しかも背後からソーマに向けて放たれる波打つ水の波動弾。思わず振り返るものの、回避行動すらとれずに直撃し、大きな水飛沫が弾け飛んだ。

 「ソーマ!!」

 「一人目…!ったく、生意気言うからそうなるのよ…」

 「カーッカッカッカッ!…誰がどうなるじゃと?」

 水飛沫の中から声がする。先ほどまでと同じ、傲慢不遜の高笑い。飛沫が晴れた浮島に、ソーマの小さな身体が未だ五体満足で健在だった。彼女の周りには、薄緑色に輝く光の膜が張り巡らされていた。

 「――『守る』ッ!?そんな技どこで…!」

 「さぁさぁお立合いじゃ!次はどんな技が出るかのぅ!?」

 そう言いながら再度指を振る。だが次の瞬間、ソーマが小さくその場で飛び跳ねた。ただ、飛び跳ねただけだ。

 「「………え?」」

 ダイヤとカスミ、二人一緒に思考が消失する。彼女が行った技は、何も起こらない技である『はねる』だ。

 「すまぬ坊、ハズレを引いたわ」

 「お、俺の祈りはどこへッ!?」

 「祈りは天に届かなかったのぅ。カッカッカッ」

 「…そ、そんな…『指を振る』みたいな博打技で私たちと戦おうなんて…どこまでもコケにしてぇ…ッ!!スターミーッ!!」

 カスミの激昂と共に、もう一度水の波動が襲い掛かる。今度こそは回避もする暇なく、ソーマに直撃。天へと吹き飛ばされた。

 大ダメージに顔をしかめ、なんとか受け身をとる様に身体を動かす。だがその動きの鈍さで、あと一回技を発動するぐらいしか体力が持たないことを察していた。

 落下しながら思わずダイヤの方を向く。彼は、心配そうな顔を必死で押し殺し、唇を噛みながら…それでも落ち行く我が身から、目を背けたりはしなかった。

 (…愚直な奴め。やれやれまったく…そんな目で見られたら、応えたくなるではないか…!)

 なんとか指を動かすも、浮島に落下してしまう。流石に立てないか、と思いながら久方ぶりに自分の弱さに憤りを感じた。こんな小さな、非力な身体で…よくもまぁ皆に偉そうな事を言えたと、ほんの僅かに反省しながらカスミの方へ指を指して、倒れた。

 「ソーマ!大丈夫か…!?」

 「…もう立てんわい。さっさと戻せ坊。…最後の一発が来るでの」

 「?お、おう…」

 そう言って体力の尽きたソーマを自分の元へと戻す。その瞬間だった。

 轟音と共に、何処からともなく吹き荒ぶ極冷風。一瞬で視界を白く染め、やがてすぐに消え去った。

 「そ、ソーマ…お前何を…?」

 「祈りは天に通じた、と言ったところか…。大当たり、『吹雪』の発動じゃ」

 吹雪。氷タイプの技で最高の威力を誇る技。命中率はやや低いが当てることで相手を凍らせる追加効果を持つ。

 だが肝心の相手であるスターミーは水中を泳ぎまわっている。これでは効果はないと思うダイヤだったが、場の異変に気付いたのはカスミだった。

 「――…うそ」

 呆然と呟く。眼前に広がっていた光景は、普段のプールではなかった。

 プールの面積の半分以上…ダイヤ側の僅か4分の1を残して水面が完全に凍り付き、地続きとなっていたのだ。

 ようやくその事に気付いたダイヤも、思わず感嘆の声を漏らした。

 「すげぇ…こんなことが…」

 「なんで…ただの吹雪程度じゃ、ここまでは…!」

 驚愕するカスミの方へ向き、ダイヤに抱きかかえられながらニヤケ顔でその問いに答える。

 「気付かんかったのか?妾は既に、『悪巧み』を積んでおったのよ。その上妾の特性は『天の恵み』。威力も追加効果も倍乗せじゃ」

 「ち、『挑発』じゃなかったの…!?」

 「それを見抜かれては『悪巧み』とは言えんじゃて。やはりまだまだ、器の小さな餓鬼よのぅ。

 さぁ坊、お膳立ては済ませてやったぞ。…越えてこい」

 「…あぁ。休んでてくれソーマ」

 ようやく彼女をボールに誘い、小さくしてホルダーに収める。相対するカスミの下には、戸惑ったようにスターミーが戻ってきていた。

 「やられちゃったね、カスミ」

 「迂闊だった…ってのは言い訳かしらね」

 「そうね。迂闊の分はこの状況をどう生かすかで返してもらおうかしら」

 言葉少なに体勢を整えるカスミとスターミー。二人の、特にカスミの顔からは先ほどまでの表情変化が無くなっていた。

 僅かな時間で精神的動揺から戻りゆく様は、正しくジムリーダーの風格と言ったところだ。

 「ふぅ…。さぁ、かかってきなさい」

 「…まだ勝ったわけじゃないものな。サーシャ、頼むぜ!」

 「了解です!」

 次に出て来たのはサーシャ。ノアと共に相性は最悪なのだが、今この時は絶好の機会が訪れていると確信していた。

 それもそのはず。先日までは常に此方を悩ませ続けてきた不安定な浮島と絶対的な隔たりであるプールの水。それがこちらに有利な形で固まっているのだ。つまり…

 「足場がある今なら、普段と変わらず戦える…!サーシャ、スピードスター!」

 「この程度で勝った気になるのは大間違いよ!スターミー、バブル光線!」

 乱れ撃たれる星型光弾と虹色の泡光線。フィールドの中央でぶつかり合い、爆ぜる。

 衝突から一瞬の時を経て、サーシャに向かってバブル光線が襲い掛かってきた。サーシャの特殊攻撃力では、威力を殺しきれなかいのは明白。だが、何度となく倒れてきたダイヤもサーシャもその事は把握済みだった。

 「回避だッ!!」

 「分かってますッ!!」

 指示があるや否や、素早く真横に転がり回避するサーシャ。氷となったプールはよく滑るが、彼女の場合はその鋭利な爪がブレーキになってくれる。それが出来るだけでも、かなり動きやすかった。

 だが、あのスターミーの猛攻をすべて回避しながら一撃入れるのは、実際不可能だろうと考えていた。ダイヤも、サーシャ自身も。

 「…サーシャ、悪いが…」

 「悪いが、は不要です。…ソーマもやったんですもの。私だって、後続を有利にする為の布石にぐらいなりますよ」

 「…頼むな」

 「相性スピード共にこっちが有利!止め行きなさい!」

 「オッケー!速攻で終わらせてやるわ!」

 「サーシャ!岩石封じッ!!」

 「私の役目は、これでッ!!」

 水の波動が迫る中、両の拳を重ね合わせて氷に叩き付ける。その力は氷を地面として伝播し、足を止めて攻撃を放ったスターミーの真下へ伝わり岩石が突き上げた。

 同時に水の波動がサーシャに直撃、大きく吹き飛ばされてしまった。やはり一撃でノックアウトされ、目を回しながら足元に転がり込んできた彼女をすぐに抱きかかえ、速やかにボールへと戻す。

 「サンキュー、サーシャ…休んでてくれ」

 「その技…タケシの!今まで使わなかったくせに…!!」

 「こんなプールで使えるかってんだ…!」

 「フンッ…!だけど、そっちはもう駄目ね!残りで何が出来るというのかしら?」

 「勝ってみせるさ…!ノア!!」

 次のボールを取り出して投げる。3番手はノアだ。凍り付いて動かない浮島に乗り、闘志と共に髪を燃やしている。

 「行くぞノア!電光石火!!」

 「はいッ!」

 氷の上を走りながらその速度を高めていく。足場さえ安定していれば、得意のその速度が殺されることはないのだ。

 対する相手のスターミーは、岩石封じで現れた岩石で動きが遅くなっている。攻め入るには絶好のタイミングである。

 「くっ…隙間からバブル光線!迎撃よ!!」

 「遅いッ!」

 無理矢理に放たれたバブル光線を容易く回避し、隙をついて高速の体当たりを打ち付けた。

 スターミーの顔が痛みで歪む。何度も戦った中で、これが彼女に与えた初めてのまともなダメージなのだ。

 「よっしゃ、いった!!ノア、そのまま火炎車!!」

 「だあああああッ!!」

 密着したまま火力を高め、相手の背後の岩石へと突撃。そのまま弾けるように突き飛ばした。炎を纏い突撃する、ノアの新技である。

 「くそぉ!やってくれるじゃないの…!カスミ!!」

 「狼狽えるんじゃないわ!スターミー、足元に水の波動よ!!」

 「…なぁるほどね!これでッ!!」

 カスミの指示の意図を即座に察し、足元へ水の波動を放つ。攻撃で生じる爆発の瞬間、二人の足場となっている氷が砕け、共に沈没した。

 ノアは咄嗟に炎を引っ込めたものの、炎タイプが水中に落ちることはかなり大きなデメリットである。その状況に、今度はダイヤが対応しきれなかったのだ。

 その上相手はスターミー。本骨頂と言わんばかりに水中を縦横無尽に動き回り、瞬時にその照準をノアに合わせて再度バブル光線を撃ち放った。身動きの取れないままに直撃を受けたノアは、そのまま空いた穴から空へ吹き飛ばされ、氷の上で目を回し倒れるのだった。それを追うようにスターミーも飛び出し、カスミの下に戻っていく。

 「なあっ…ノア!戻れ!!」

 「ふぅ…オッケースターミー。よくやってくれたわ」

 「なんのなんの♪さっきの迂闊もこれでチャラね」

 「押し切れなかった…!なんで…!?」

 「調子に乗って火炎車なんか使うからよ。蒸発して溶けだした氷、利用させてもらったわ」

 「…あ、あぁっ…!」

 思わず頭を抱えてしまうダイヤ。少し考えてみれば幼子でも分かることだ。足場が氷なのだから、炎を浴びせれば融けてしまう。当然のことである。

 だがその当然をも忘れ去り、ついつい最高威力を狙ってしまったのだ。そんな些細な失態から形勢は逆転された。せっかくソーマとサーシャの作ってくれたチャンスを、棒に振ってしまったとも言える。

 そんな後悔でまた心が追いつめられてしまう。焦りで意識が支配されそうなその時、耳元に元気な声が聞こえてきた。

 『だいじょーぶだよマスター!最後まで、メルあきらめないから!がんばるから!だから、一緒につよくなろう!『せーぎのみかた』になろうっ!!』

 「………ははっ、そうだな。ありがとなメルア。――行くぜッ!」

 ボールから現れたのは、最後に残された手札であるメルア。彼女に託し、ダイヤ自身も気を抜かないように引き締める。

 カスミもまた、メルアの存在には注意していた。一撃で倒せないのはよく知っている。相手に反撃の機会を与えると、相性の問題でそれだけ手痛い反撃を食らう危険性もあるのだ。ただでさえ予想外のダメージを受けている。短期決戦が、間違いなく必要であろうと考えていた。

 「速攻で倒すわよスターミー!バブル光線!!」

 「メルア、電磁波で足を止めろ!!」

 バブル光線に合わせる形で、電磁波が足元を走る。相手をマヒさせることが出来ればその動きは圧倒的に制限できる。だが、スターミーはその素早さから容易に回避してしまった。

 逆に相手のバブル光線は直撃。メルアは大きく後ずさってしまう。…いや、倒れずに持ちこたえているだけ、その力は十分に上がっているとも言えた。だがカスミがその攻撃の手を緩めることはしなかった。

 「スターミー!サイコキネシス!!」

 「オッケイ!これで、どうかなぁっ!!」

 攻撃に移る間もなく強力な念力を直接ぶつけられ、メルアの身体が宙に浮く。そしてそのまま、プールの凍っていない部分に叩き落とされてしまった。

 「メルア!なんとか反撃だ、電気ショック!!」

 「くぅぅぅ…えぇーい!!」

 水面から放たれる電気ショック。走る電撃がスターミーを襲うが、それもまたあっさりと躱されてしまった。やはり、真っ当にやって当てるのは難しいのだ。

 「終わりにするわよ!倒れるまでバブル光線を撃ち込んでやりなさい!!」

 「えぇ!最後まで、手は抜かないわよ!!」

 そう言って、バブル光線を乱射するスターミー。詰めを甘くする必要はない。徹底的に、攻めて攻めて攻めまくる…。カスミの信念のに基づいた戦いを、スターミーもまた信じて戦っているのだ。

 だからこそ、信念無き者になど負けたくない。負けるわけにはいかない。二人ともただ強くそう思っている。

 …だがそれは、今のメルアも…いや、ダイヤの手持ち全員も、同じように心に思っていた。せっかく見つけた主の夢。一笑に付されるような愚かな理想。それを共に見ようと。だからこそ、負けたくないと――。

 「まけない…!まけないもん…!!メルは…もっとつよくなって…マスターの力に、なぁるんだぁーー!!」

 直撃することで起きる水飛沫の合間から、電気を伴う光が溢れだす。この光には、見覚えがあった。

 「な、なんでよ…このタイミングで…!」

 「メルア、まさかお前…進化…!?」

 爆発と共に、輝いたままメルアが氷の地面でうずくまる。身体は先ほどよりも一回り大きくなり、手足もシッカリとしている。また身体全体にあったフワフワとした毛が、胸部より下の部分が無くなっていった。

 中に着ていた服は淡いピンク色に変わり、やがてその輝きは消えていった。

 「……ふぇ?メル、どうしちゃったの?」

 「メルア、やったぜ…!進化したんだよ!メリープから、モココに!!」

 萌えもん図鑑をチェックしながら、ダイヤがメルアに言い聞かせる。高くなった目線と視界、身体に漲る力強さ。これが、ノアの感じたものかとキョトンとしながら確かめた。

 「ふわぁぁ~、すごぉい…。こうなるんだねぇ…」

 「メルア、いけるのか!?」

 「だいじょーぶッ!へいきへっちゃらぁ!!」

 ダイヤとメルアが明るく話をしている間に、スターミーもカスミの下に戻って行った。その顔は、やはり真面目に固まっていた。

 「…予想通り、って顔ね」

 「まぁね。昨日言ったでしょ?あの子はちゃんとしたポテンシャルがあるって。どんな些細なものでも、切っ掛けがあれば私たちは強くなれる…。でしょ?」

 「そうね…。さ、止めを刺すわよ」

 「オッケー。最後まで全力でやってやるわ!」

 「メルア来るぞ!」

 「んぃっ!!」

 言ってすぐ水の波動を発射するスターミー。射線は真っ直ぐメルアへ向かうが、既に気付いていた彼女は冷静に防御の姿勢をとっている。

 水飛沫が弾けるものの進化したメルアの特殊防御力は先ほどまでの比ではなく、皆が倒れた攻撃をいとも容易く耐え抜いたのだ。

 そんなメルアの減った綿毛が電気を纏い輝いている。すぐに図鑑で確認すると、そこには新しい技が表示されていた。

 「新しい技…これなら!」

 「だったらこれで、溺れさせてやるわ!スターミー、サイコキネシス!」

 「メルア、充電!!今のお前なら耐えられるはずだ!!」

 「はぁい!ぬぬぬぬぬぅぅ~~…!」

 スターミーの念力を防御姿勢で受けながら、その身体に電気を蓄えるメルア。周囲の電気を溜め込むことで自らの特殊防御力を高める技。それが『充電』の効果の一つだ。

 もともと高い能力を引上げされたことで、サイコキネシスの念力にもしっかり踏んばりが効いている。なんとか力を振り絞って宙に浮かせるが、それが仇となった。

 「今だメルア!電気ショック!!」

 「でぇぇぇっりゃぁああああーーッ!!」

 進化したことで威力が高まり以前より大きくなった電気が、サイコキネシスとぶつかり合った。直撃させようと力を振り絞るメルアと、攻撃を逸らそうと念力を強めるスターミー。両者の額には汗が煌めいている。

 勝利を目指し、より一層の力を込めるメルア。その綿毛から先ほど『充電』で蓄えられた電力が電気ショックと合わさり、威力を大幅に増して放たれた。直後に放つ電気タイプの技の威力を倍加する…それも、『充電』の効果である。その、もはや電撃と言うほどに強力となった電気が念力を突き破り、スターミーへと激しく襲い掛かる。

 瞬間彼女は敗北を悟った。サイコキネシスの制御をする為に足を止めていたのが仇となり、回避する暇もなく直撃したのだ。

 「あばばばばばばば!!!」

 「す、スターミー!!」

 カスミの下へ吹き飛ばされたスターミー。効果抜群の電撃で身体は焦げ付き、目を回して完全にノックアウトさせられたのだった。

 「ふぅ…やれやれ、私の負けね。お疲れ様、スターミー。戻って休んで」

 「俺たちの、勝ち……やった。やったああああああッ!!」

 「マスター!やったね!やったんだよね!!あははははは!!」

 喜びに沸くメルアが全力で抱き付いてきた。それを受け止め2回ほど回りながら飛び込み台から転げ落ちた。

 「あぁっ!ご、ゴメンねマスター!大丈夫!?」

 「全ッ然大丈夫だッ!…ありがとうメルア。本当に、よく頑張ってくれた…!」

 心底嬉しそうに笑いながら、大きくなったメルアの頭を撫でるダイヤ。彼のその顔に、ほんの少し小さくも暖かく感じた掌の感触に、彼女もまた嬉しさを隠そうともせずにまた強く彼を抱き締めるのだった。

 その眼には少し、涙が浮かんでいた。

 

 

 プールサイド、相対するダイヤとカスミ。互いにその顔は、どこか晴れやかなものだった。

 「しっかし、懲りずによく何度も挑んできたわ」

 「迷惑かけちまったかな…。ともかく、何回も戦ってくれてありがとう」

 「本当よ。言っとくけど、スターミー一人倒したからって完勝したとか思わないでよね」

 「もちろんだって。…みんなが居なきゃ、勝てなかったものな」

 嬉しそうに腰のボールホルダーに優しく手を添える。なぜか、とても感慨深いものに思えていた。

 そんなダイヤに、カスミがぶっきらぼうに箱を差し出した。

 「ハイ、うちのブルーバッジと技マシン。中身は水の波動よ」

 「あぁ、ありがとう。…上手く使えるかは分からないけどね」

 「そうね。貴方の手持ち、水タイプ居ないし」

 受け取りながら軽い談笑をする二人。話も程々に、戦闘不能のみんなを回復させるためにセンターへ戻ることにした。

 「それじゃ、戻るよ。みんなを回復しなきゃ」

 「そうね。…じゃあ、これだけ聞かせてもらっても良い?」

 と、ダイヤに尋ねるカスミ。その質問の内容は、ただ一つだった。

 「…見つけたんでしょ?貴方の信念。良ければ教えてもらえないかしら」

 「俺の信念か…。…正義、かな」

 「――はぁ?」

 「…そ、そういうわけだから。じゃあ!」

 言葉の正確な意味を理解できずに固まるカスミ。当然と言えば当然の反応に、思わず恥ずかしくなったダイヤは逃げるようにその場を立ち去った。

 嵐と言うには弱い、一時の風のように去るダイヤ。残されたカスミは、どこか呆然とした顔でいた。

 「正義…正義って…?えー…そんなもんを信念って言っちゃうかぁ…」

 『気に入っちゃった?』

 「更に論外になったわ。デッドボール級の悪球よあんなの」

 大きくため息をつき、スターミーとの軽い会話に終わりを告げる。そのまま大きく背伸びをしながら、彼女をさらに鍛えるためのプランを夢想する。その思考の片隅で、まるで呟くように思うのだった。

 (…まー、偶にはあんな残念な馬鹿がいても良いのかもねー)

 

 

 

 = 萌えもんセンター =

 

 センターに戻ったダイヤは、早速ジョーイに回復をお願いする。その前に、今回は労いの言葉を惜しまなかった。

 「お疲れ様、みんな。…なんかこう、色々とありがとうな」

 「フン、この未熟者めが。これでは命が幾つ有っても足りんわい」

 「でも今回は、ソーマとメルちゃんの活躍が掴んだ勝利ですね」

 「私は、足を引っ張ってしまっただけですし…。ごめんなさい…」

 「そんなことないよっ!みんなが居なくちゃ、メルあそこまで頑張れなかったよ。ソーマがプールを凍らせてくれて、サーシャが素早さを下げてくれて、ノアが先に攻撃しててくれて…」

 「そうだな…。ようやくマトモに、みんなで掴んだ勝利、って感じになったもんな。…それもこれも、みんなが俺の『正義』に付き合ってくれるって言ってくれたからだ。だから、俺もまだみんなのトレーナーでいられる。…みんなで、一緒にやっていきたいって思えてる」

 ダイヤの素直な言葉に、ノアもサーシャもメルアも顔を綻ばせた。ソーマだけはそっぽを向いていたが、別段嫌な感じはしなかった。彼女なりの認め、みたいなものなのだろうと思う。

 「さ、今日はもう休もうぜ」

 「言われんでもそうするわい。存分に休んでやるでのぅ」

 「まったくもう、ソーマったら…。では、私も休ませてもらいますわ。あとマスター、勝利おめでとうございます」

 「せーぎの味方、出発だねマスター。…まだあんまり寝たくないけど、今日は寝ちゃうねっ」

 「ご主人様、貴方もちゃんと休んでくださいね?まだ傷も完治してないんですし。そうじゃないと…私、また怒りますからね」

 「あぁ、休むさ。俺の為に頑張ってくれた、みんなの言う事だもんな」

 最後はいつもの笑顔で返事をし、改めて全員をボールに戻した。揺り籠のように小さく揺らめくボールは、まるで寝息のような静かな暖かみが感じられた。

 それが、少年が預かる命の暖かさ。自らの信念とと行動を共にしてくれる、本当の仲間たちの温もりである。

 もう一度、心の中で大きく感謝しながら4つのボールをジョーイへと預ける。回復が終るまでの間、自分も出来るだけ休んでおこう。そう思うダイヤだった。

 

 

 

 

 ――2時間後。

 センターの共同寝室で寝ていたダイヤだったが、突如ジョーイの呼びかけがあり、渋々目を覚ました。

 「…なんですか?」

 「貴方が昨晩助けたストライク、無事に回復して目も覚まされました

 「あぁ、良くなったんですね。そりゃ良かった…」

 「それで簡単に経緯を話したところ、是非貴方に会いたいと言ってるんですが…」

 「俺と?まぁ断る理由もありませんし、是非会わせてください」

 「分かりました。それじゃ、連れてきますね」

 そう言いながら奥へと入っていくジョーイ。その顔が、普段の温和な笑顔ではなく少し硬くなっていたのは、一応気付いていた。

 だがどうにも…悪いことではないのだが、危険度がハッキリとしない顔。なんとなく、そう直感する。

しかしそれ以上の思考を許す間もなく、ジョーイがストライクを連れて来た。

 明るい黄緑色の3本角みたいな髪に、装甲のような上着。軽い鎧のような腰巻と虫の脚を連想させる爪の生えた長いブーツ。両手の刃は変わらず鋭利で、やや角ばりながらも武骨に整えられた顔には明るい血色が戻っていた。それだけで、無事に回復したのだと安心した。

 「…ユーが、ミーを?」

 「あ、あぁ。無事元気になって良かったよ」

 相手が自分より少し身長が高いことに若干驚きながら、でも気さくな笑顔を忘れずに対応する。するとすぐに、相対するストライクが片膝をついてしゃがみこんだ。

 「この度は、助けてもらってベリーサンキューです。しかしもって、今日はミスターに一つお願いがありマース…」

 英語訛り…と言うよりもこれは英語かぶれ。変なところで変に英語を使う無駄な癖みたいなものだが、こういう事を話す手合いには大体ロクな奴がいない。ジョーイの顔の意味を、何となく理解してしまった瞬間だった。だが、話してしまったからには退くに退けない。みんなもまだ回復中だし。

 「…お、お願い?俺に出来ることなら良いんだけど、そんな大したことは出来ないよ?」

 「ノープロブレム、大したものじゃありゃしません…。…ミーを、ミスターの仲間にしてくだサーイ!」

 「………はい?」

 闖入者、現る。

 

 

 

第6話 了

 




=トレーナーデータ=

・名前:ダイヤ
 所持萌えもん…ノア(マグマラシ ♀)
        メルア(モココ ♀)
        サーシャ(サンド ♀)
        ソーマ(トゲピー ♀)
 所持バッジ…グレーバッジ ブルーバッジ

=萌えもんデータ=

・名前:ノア
 種族:マグマラシ(♀)
 特性:猛火
 性格:せっかち
 個性:ものおとに びんかん
 所有技:電光石火、火炎車、煙幕、火の粉
 所持道具:無し

・名前:メルア
 種族:モココ(♀)
 特性:静電気
 性格:おだやか
 個性:ひるねを よくする
 所有技:電気ショック、充電、電磁波、綿胞子
 所持道具:無し

・名前:サーシャ
 種族:サンド(♀)
 特性:砂かき
 性格:わんぱく
 個性:うたれづよい
 所有技:連続切り、岩石封じ、スピードスター、マグニチュード
 所持道具:無し

・名前:ソーマ
 種族:トゲピー(♀)
 特性:天の恵み
 性格:ひかえめ
 個性:イタズラがすき
 所有技:指を降る、あくび、悪巧み
 所持道具:無し
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