萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION- 作:まくやま
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-マサラタウン-
カントー地方の陸地の中で、南西部の半島は沿岸付近に有る小さな町。
『マサラは真っ白 始まりの色』という標語の通り、小さな町ではあるがここから旅立つ者は他の街に比べて遥かに多い。
やはり、子供たちは大なり小なり夢がある生き方をしたいのだろう。そしてその背中を押す町づくりを成しているのが、マサラと言う町に住まうものが感じる魅力なのかもしれない。
その最もたるものが、萌えもん研究の第一人者であるオーキド・ユキナリ博士が仕切る”萌えもん研究所”と、彼の下で行われる子供向けの萌えもん学術セミナーの開講であろう。
彼のセミナーを受けるために様々な地方から多くの子供達が集まり、その子供達がやがて次代のトレーナーや研究者を始めとする、萌えもんと正しく生きる為の大きな礎になっていくのだ。
…もちろん、それが全てではない。
博士の教え子の中には、道を踏み外し萌えもんを傷つける事を生業とした者も確かに居る。それに加担する萌えもんもまた存在する。弱きに屈し、悪しきに堕ちるもまた、彼らには等しく知恵や意志、感情があるが故に…。
照明の落ちた部屋で、モニターから発せられる輝きが初老の男の顔を照らす。その目は何処か疲れを孕んでおり、普段は明るく大きな目が少し細くなっていた。
壁にかけられたコルクボードに貼られていたのは、一人ひとり顔立ちの違う子供達の写真。そのどれもが10歳前後であり、普通の服を着ている子と並んで、鳥を思わせる子やネズミを思わせる子が無邪気な笑顔を向けている。セミナーに参加した子供たちとマサラタウン周辺に住まう萌えもん、ポッポやコラッタ達との集合写真だ。
しかし、モニターに向かう男はその様々な思い出の紙片に目を遣ることもなく、無機質な文字の羅列と、また別の萌えもんの写真を映し出す画面に向かい合っていた。
彼こそがマサラタウンが…カントー地方が誇る萌えもん研究の権威、オーキド博士である。
「…ふぅ~…これは大変じゃのう…」
一度光から目を離し、目の周りを指でマッサージする。どうにも最近、老眼が進んできたように思っているようだ。
そんな彼へ、後ろから一人の少女が気怠げな声をかけてきた。ライトグリーンの一枚着と鮮やかな緑のショートヘア。頭の天辺からは、ちょこんと葉っぱが飛び出ている。彼女もまた、萌えもんだ。
「博士ー、こんな時間まで何見てんの?ニコ動?…あっ、もしかしてエロ動画?」
「はしたない事を言うのは止めなさい、チコリータ。…なかなかどうして、研究が進まなくなってきてのぅ」
「萌えもんの分布の実態調査だっけ。そんなにおかしい事になってんの?」
「…どうにも、カントー以外の萌えもんが増えておるようでな。特にジョウトに多く住まう種族の発見数が爆発的に増えておる」
「それ、なにか問題あんの?カントーとジョウトは地続きじゃん。いくらでもコッチに来れるんじゃないの?」
「萌えもんは皆それぞれ縄張りがあるでの、そう簡単に地方を跨ぐようなことはないはずじゃ。
…やはり、行ってもらうしかないか」
呟きながら椅子から立ち上がり、足元のチコリータを抱きかかえる。
「あ、博士セクハラ」
「やかましいわい。…二人共、まだ起きておるかの?」
大きなテーブルの上、赤と白が上下半分で分かれたボールが3つ並べてある。
萌えもんトレーナーたちが用いる、萌えもんを電子化、格納する”科学の力”、モンスターボールである。
博士によってテーブルにちょこんと座らされ、不満そうな顔で自分のボールを転がすチコリータ。
その隣の2個が、ゆらゆらと動きながら声を上げてきた。外部に音声を出すことが出来る便利機能だ。
中央のボールからはハキハキとした少年の声が、チコリータとは反対側のボールからはまた別の少女の声が発せられる。
『起きてますよ、オーキド博士』
『どうかしたんですか?』
2人の返事を確認してからボール中央にあるスイッチを押し、"扉”を開ける。
するとボールが半分に開き、中から光とともに2人の子供が姿を表した。
中央の男の子…ワニノコはアクアブルーを基調とした一枚着に青い髪。腰からは爬虫類を思わせる尻尾が伸びている。
その隣から出てきた女の子、ヒノアラシは黒髪に背面が黒で前面がクリーム色のダボッとしたツナギを着ている。
そして目は細く鋭くなっている、所謂糸目と言うものだった。
テーブルの上に座る3人はそれぞれ…チコリータは気怠そうに、ワニノコは真面目に真っ直ぐ、ヒノアラシは何処か神妙な面持ちでオーキド博士の方を向いている。そんな3人に対し、博士もゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「…ワニノコ、ヒノアラシ、チコリータ。3人とも、よく聞いておくれ。
今度、ワシの孫のロイと、その幼馴染のダイヤに研究の手伝いを兼ねた新しい萌えもん図鑑完成の旅に出てもらおうと思っておる。
そして…その旅に、お前たちの誰かを二人のパートナーとしてついて行ってもらおうと思っておるのじゃよ。
アイツら自身が選んだ、パートナーとしてのう」
「私はやだなー。だって面倒臭いし」
「ははは、ちーちゃんらしいなぁ。でも、それじゃ選ばれた時大変だぞ?」
「いーよ別に。その時はボックスに篭って即ボイコットしてやるもーん」
「だ、駄目だようちーちゃん。そんな事したら、選んでくれた人に悪いよ?」
「ひーちゃんは真面目すぎだよ。てきとーに楽すりゃいいじゃん。向こうも面倒事に付き合わされるわけだしー」
「うん、確かにひーちゃんは真面目が過ぎるかもね。でも、ちーちゃんも少しは見習うこと。そんなんじゃ、捨てられても文句は言えないよ?」
自堕落に自分勝手な言葉を重ねるチコリータと、それを諌めようと焦るヒノアラシ。そしてそれを優しく見守るワニノコ。
まるで兄妹のような間柄で話し合う彼らは、長いことこうしていたようにも見える。
それもそのはず。この子らはオーキド博士が、ジョウトのウツギ博士から譲り受けたタマゴから生まれた萌えもん達。ここで生まれ、ずっとここで、一緒に暮らしてきたのだ。
それなのに、3人の意識には既に…いつの間にか大きな差が生まれていた。
「人の手持ちになる以上、俺達はトレーナーの期待に応えなきゃならない。
トレーナーのために全力を尽くすこと…。それが、俺達の使命なんだよ、きっと」
「…私達の、使命…」
「だーからー、兄さんもひーちゃんも真面目に考え過ぎだってばー。もっと楽に考えていいじゃん。ねぇ博士?」
話を振られたオーキド博士が、優しく微笑みながら返答する。
「ワニノコの言っていることは間違いじゃないがな。じゃが、人と萌えもんとの繋がり方は、そういう主従関係と言うだけではないのじゃぞ。
友情や愛情…もちろん、使命感や義務感もある。それは全てに等しく、千差万別じゃ。ならばワシは、みんなにはみんなだけの繋がり方を見つけて欲しい。無論、それはロイとダイヤの二人にもなぁ」
「俺達だけの…」
「…繋がり方…」
博士の言葉に考え込むワニノコとヒノアラシ。やはり年季の違いか、その言葉は二人に大きく響いていた。
「…出発は近日中になると思う。せめて、心の準備はしておきなさい」
そう言いながら3人それぞれに優しく頭を撫で、ボールを操作して3人をその中へを誘った。
夜も更け、消灯された研究所内は漆黒の闇に包まれていた。
台座に置かれた3つのボール。そのうちの一つから、小さく声が漏れだした。
「…ねぇひーちゃん、起きてるかい?」
「……どうしたんですか、兄さん?」
「うん…一つ、聞いてもらいたい事があって、ね」
声の調子は変えずに、呟くようにワニノコが話しだす。
「もし、俺達同士が戦わなきゃならなくなった時…ひーちゃんは、戦えるかい?」
彼の言葉に、思わず身を強張らせるヒノアラシ。自覚してしまったのだ。自分が、その考えを避けていたということに。
少し考えてから出した彼女の答えは、生真面目な彼女らしい返答だった。
「…わかりません。でも、もしそうなったとしても…私は兄さんともちーちゃんとも、出来れば戦いたくない、なぁ…」
「…うん、俺も。
でもさ、それがマスターの命令なら、俺達は迷っちゃいけないと思うんだ。
あぁ勿論、悪いコトを…道理に外れるような事をしようとしたらそれに反抗するのは別だよ。だけど、やっぱり俺達はマスターの手足となって戦うべきだと思う」
「それが…私達の使命、だから…?」
「うん…。ひーちゃんは優しいから、きっと辛い命令になるよね。でも、それじゃ俺達萌えもんに価値はない。
厳しいけど、価値の無くなった萌えもんは必要とされないんだ。俺は自分がそうなりたくないし、ひーちゃんやちーちゃんにもそんな悲しいことになってほしくない。
だから、迷わないで。俺も迷わない。相手がひーちゃんでもちーちゃんでも…きっと、容赦はしないから」
「兄、さん…?」
ワニノコの言葉に、困惑を隠せないヒノアラシ。
一緒に育ってきたはずなのに、いつから彼はこんなにも強い意識を持っていたのだろうか。
きっと彼はこの信念を貫き通すのだろう。気楽に怠惰を求めるチコリータも、きっとその考えはブレることがない。
それを鑑みて、自分は一体なんなのだろうと思う。覚悟なんかない、信念もなにも、自分には――
「…ごめんね、もう夜も遅いのに。なんか、今のうちに聞いて欲しかったんだ。
それじゃ、おやすみひーちゃん」
話はそこで途切れ、周囲にはまた夜の静寂が訪れる。ボールの中で目を閉じて、ヒノアラシは考えを募らせた。
(…それが、萌えもんの使命…?私には、よく分からない、けど…
私は…そんなの、嫌だな…)
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ひとまとめにした方とどっちが読みやすいか、良ければ教えていただけると助かります。