萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION- 作:まくやま
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馬鹿を一人、不承不承ながらも仲間に加えたダイヤ達。とにかく気を取り直し、彼らは一路、北の岬へと進んでいった。先日自分の危ないところを助けてくれたマサキが、岬に研究室を兼ねた小屋を構えてそこに住んでいるとのこと。
その時の礼を言うために、はるばるこうして歩いていたのだ。
「このTesticle Bridge(キン○マ橋)をなッ!!」
「連呼すんなよアホッ!!」
などと言う決して止まないボケツッコミ。また一人トレーナーを倒した斬…もといジョニーが、どっかのナイトフィーバーなポーズでキメていたところだ。
「しかし、数が多いなここのトレーナーも…」
「なんでも、この橋には高額な換金アイテムが賭けられた試合が月に1回行われるそうです。その為の鍛錬で、ここにトレーナーが集まったと聞きますね」
「さすが物知りサーちん。なるほどな、それでゴールデンボールブリッジか…」
汗を拭って橋を通り抜ける。岬に通じる道路は綺麗に整備されているが、そこかしこでトレーナー達がバトルに興じていた。短パン小僧やミニスカート、ボーイスカウトやガールスカウト、山男に理科系の男まで、さまざまだった。
「ハッハー!イイ経験値のカモがネギ背負ってやがるァ!!ミスター、全員ぶちのめそうッZE!!」
「ちょっとは俺らに休憩させろよ…。どんだけ元気が有り余ってんだ」
とまぁ、こうしてジョニーのバトルを見ていくと彼のスタイルや個性が分かってきた。
とにかく足が速くて力も強い。耐久力や特殊に関する力はやや低めだが、それを補って余りある長所が目につくのだ。元々個体としても強い種族な上、その能力を生かした技を覚えているのもジョニーの強さの要因でもある。
「…あとはあのキャラがなんとかなればなぁ…」
『ここまで一人で戦ってますものねぇ。自己研鑽だか知りませんが、流石に協調性が無さすぎです』
「そうだよなぁ…サーシャ、なんか良い手ある?」
『ノーコメントです』
素気ない返しに思わず頭をかく。本当にどうしようかと悩みながら進んでいると、開けた場所に出て来た。
ふと左を見ると、そこには小屋が一軒。立て付けられた大きな看板には、変な字で建物の名前が書かれていた。
「……科学、大迫力、研究所…?」と声に出してみる。どこからツッコめばいいのか分からない。
こんな様子のオカシイ研究所でなんの研究をしているのだろうか。大迫力って何だろう。しかし、ここがマサキの家だということは理解できた。せざるを得なかった。何故なら、看板にちゃぁんと【MASAKI's Home】と書かれてあったからだ。
「…帰るか」
「待てコラ坊。せっかく来たのに帰るのかェ?」
「きっと研究中だよ。邪魔しちゃ悪い」
「そう言って逃げるつもりじゃろうがそうはいかんぞ。男児たるもの、向かって行かずしてなんとする。ほれ行くぞィ」
「ちょっとまってソーマさん引っ張っちゃいやぁー!」などと叫びながら連れて行かれるダイヤ。あまりにも普通の、木で出来た小屋の扉を開いてしまう。そこで見たものとは――
「…お、やぁやぁ!ボクもえもん。…ってちゃうわぁ!!あ、どうこのツッコミ?ジョウトで鍛えた腕の冴え―――」
すぐに閉めた。
すぐに振り返った。
すぐに歩き出した。
「帰ろう」
「待てコラ坊。せっかく開けたのに帰るのかェ?」
「いや駄目だろアレ。何なのよアレ。萌えもんって言っちゃっていいのアレ」
「妾に言うな阿呆。こっちが聞きたいわ戯け。なんじゃあの2頭身モフモフ男は」
ダイヤ達が見たもの。それは濃い茶色の柔らかそうな毛で包まれ、耳が長く伸びている男らしきものの顔。身体は嫌に小さく、どう見てもその顔には合っていなかった。
萌えもんの中にはあんなのもいるのかもしれない。が、ソーマをして見たことないというモノだ。萌えもんと言うには、もっとこうケモノっぽい歪な存在だった。
「ジョーイさんに伝えれば良いかな。それともカスミにかな?」
「待ってぇー!!ンな不穏なこと考えんといてぇなぁー!!」と扉の向こう側から声がする。向こうから開けられないように、思わずドアノブを握る力が強くなった。
「ソーマさん110番早く。遊星からの物体Xが襲い掛かってくる。侵略者を撃たなきゃ」
「やーめーてぇー!!ちゃうねんって!出来心やってんて!!たすけてぇなぁー!!」
悲痛な叫びが聞こえてくるが、ダイヤは頑なに聞きたくないという風だった。しかしこのままでは話が進みそうもない。他の連中の声も聞こえないようだし、如何しようと考えている時。
「Don't stop go awayッ!!」
緑の影がまるでどこぞのヒーローばりの三角蹴りが強襲、ドアを全力でブチ破った。誰が?馬鹿が。
「…お前何してんの?」
「あン?話を前に進めてやったんだYO。感謝してほしいもんだZE」
「かんにんやー!!ちょっとやってみたかっただけなんやー!!頼むから見捨てんといてくれぇー!!」
馬鹿の行動に唖然とするダイヤ。そこに目掛けて泣き叫びながらしがみ付いてくる2頭身モフモフクリーチャー。生理的嫌悪感はあるものの、ここまで助けを求められてしまってはさすがに何か申し訳なくなってしまう。とりあえず、話だけでも。
「……まず、アンタ誰」
「ワイやワイ、マサキや」
「マサキさんは人間で目の前にいるのはクリーチャーだ」
「だからやらかしてしもてんって…。実験でこないな姿になってもぅたんや…」
「どんな実験じゃったんじゃ…」
「萌えもんの研究の一環でな、生体と遺伝子の構造についての実験してたんよ。萌えもんはいつからこんなニンゲンに近い姿をしてたんか。なにがニンゲンと近いのか、違うのか。そういうのを、ワイの観点で調べてみてくれんかって依頼されてな。
いやぁそれが中々おもろい研究内容でなぁ。やればやるほどのめり込んでいってもぅたんよ」
「話が長い上に分からんわ戯け。結局どうしてほしいんじゃおのれは」
ダイヤに代わり話を進めるソーマ。彼女で理解できないのだ。まだ16歳の少年には、マサキを名乗るクリーチャーのいうことは全く理解できないといえる。
そういう時は話を無理矢理前に進めるに限る。だってそうしないと明後日の方角にしか進まないもの。
「やって貰いたいことは簡単や。ワイがあの装置の中に入るよって、そこのパソコンを操作してくれればええだけや。まぁぶっちゃけ、エンターキーをポンと押してもらうだけでええんやけどな」
「そんなことなら手持ちの萌えもんにやってもらえば良いんじゃ…」
「…こういう時に限って、アイツらみんなしてお出かけしやがったんや。どないなっとんねんホンマ…。
んまぁそういうわけやから、キミらはまさに助けに船だったんや!ほな頼むで!」
そう言い残し、ヘンテコなマシンに入り込むクリーチャー。日焼け機みたいな縦のカプセルが2つ、上にはパイプで繋げられているなんだか良い気のしない物体だ。見てるだけでヤバいものに関わってしまったような気がしてしまう。
「……帰って良い?」
「呪われるぞ、恐らくは」
「ヒトを呪わばAnal Fuckっていうしナ!」
「『穴二つ』をそんな風に間違えんな…。しゃーない、カチッとな」
全く乗り気でなく嫌々エンターキーを押すダイヤ。イタズラしてやろうという気も起きなかったあたり、さっさとこんな面倒事を終わらせてしまいたかったと見て取れた。そりゃそうだ。
プログラムが起動し、その流れで装置も重たい音を立てながら動き出した。重低音と振動音にまみれた駆動音が鳴り響き、なんか装置の中も光りだしてきた。
「…大丈夫かコレ?」
「駄目でもミスターのせいじゃねえぜYO。中から合成獣が出てきたら一緒に庭に埋めよう、ナッ」
「だからやめてくんないそんなイヤすぎる展開!?人体錬成じゃねーんだよ!」
そんなやりとりをしていると、やがて光も消えて装置から煙が吹き出した。慌ててパソコンのモニターを見てみると、【実行完了】の文字が浮かんでいる。
恐る恐る装置の方を見ていると、カプセルの扉が開き中から先ほどよりも大きな影が現れた。その姿は、間違いなく人間だった。
「んっはぁ~…。手ェよし、足よし、視界よし。ちゃんと元に戻れたみたいやな。よかったよかった」と、人懐こそうな笑顔でこっちに歩み寄る男性。
彼の姿はさすがに思い出せた。昨日の今日だ、忘れるようなものじゃない。
「ほ、本当にマサキさんだったんですね…」
「いやホンマなんやと思っとってん自分…」
「あ、ハハハ…。な、なにはともあれ無事に元に戻って良かったです」
「そこは感謝やなー。ありがとうなホンマ。これで、昨日の貸し借りは無しやな。あ、でもさっきまでの辛辣な言葉は忘れへんで?」
「そ、それはその…スンマセン」
冗談めいた言葉に笑い合う2人。その姿をソーマは少し安堵しながら、ジョニーはさほど興味を示さずに眺めていた。
「まぁええわ。何はともあれおもろい実験結果が取れたしな」
「一体何をどうしたらあんなことになったんですか…」
「萌えもんの遺伝子を調べてたらな、ヒトと酷似した部分と全く別の部分があったんや。まぁ萌えもんってこんな生き物やからあって当然なんやけどね。
まぁ問題はそこやない。その酷似した部分と同じ遺伝子の中にな、まったく別の…そう、萌えもんを萌えもん足らしめてる部分があったんや。人間とは違う生態を生み出しとる部分。それを抽出して人間に埋め込んだらなんかおもろいこと出来んかなーって思てな。
ほら、今の遺伝子工学やとクローン技術もだいぶ発達しとるワケやし、そろそろ新しい波を起こさなあかんかなーって思てなぁ。そう考えたら居ても立ってもいられんくなってなー。やっぱ科学って探求心と好奇心と行動力って言うし?」
「…何を言っているのか全く分かりませんけどマサキさんが楽しそうで何よりです」
「楽しくないとできひん事やしな!」
カラカラと明るく笑うマサキに対し、ダイヤはただ作り笑いしか出来なかった。しかし、彼の言葉には一理あるとも思う。何かを追い求めることに対し、やはりモチベーションは大事。マサキはそれを『自分の楽しみ』と表したのだ。
なにかを達成する。その為には、前向きでも後向きでも強い意志が必要なのだ。きっと彼も多くの失敗をしてきたのだろう。だが、それを楽しみに変えられるマサキの度量は、純粋に尊敬できると感じたのだった。
「ま、これで昨日の晩のことはチャラやな。結構重かったんやで自分」
「いやぁ、ははは…すいません。此方こそ、ありがとうございました。改めて俺は――」
「マサラタウン出身のトレーナー、ダイヤくんやろ。よぉ知っとんで?センターで一通りプロフィールはチェックさせてもろてたしな。んで、カスミちゃんには勝てたんか?」
「えぇ、なんとか。結構キツかったですけど、みんなのお陰で」と言いながら腰に据えたボールを撫で、最後にソーマの頭を優しく叩いた。
「フン、たかだか2個目のバッジで何を言うか戯けめ。あんなギリギリの勝負で勝ったなどと言うではないわ」
「あいよ、手厳しいお言葉で」
「うん、仲良きことはええこっちゃ。そういやそこのストライク、結局仲間にしたんやな」
「Oh Year!I’m XAN!Super Ultra Sexy HEROだっZE!!」
「あ、ジョニーですコイツ」
「ハハハ、えらいキャラの濃いのが入ってしもたなぁ。苦労すんでぇこれから」
「既に苦労してますよホント…」
「せやろなぁ。よっしゃ、折角やしええモンあげるわ」
言いながらそそくさと、テーブルの上に無造作に置かれていた封筒をダイヤに渡すマサキ。中には随分と綺麗なチケットが入っていた。
「これは?」
「今度クチバにやってくる豪華客船、サント・アンヌ号の船上パーティー招待券。ダイヤくんにあげるわソレ」
「―――……はぁッ!?いやいやいや要りませんよこんな上等なもの!お、俺にはもったいないですって!!」
「まぁまぁんなこと言わんと。ワイのハプニングを助けてくれたお礼と、ハナダジム突破祝いも兼ねてやって。ちゅーかワイも別にこんなパーティーなんぞ興味あらへんし、何回か行ったけど金持ちの自慢話聞いてるだけ。そんな時間があるんなら研究やってたいやん?」
「そ、そういうもんでしょうか…」
「ワイはな。せやけど、ダイヤくんにはおもろい経験になると思うで。ホウエンやシンオウだけやあらへん、イッシュやカロス、オーレとかにも行ったことある金持ちかておるからな。カントーやジョウトに籠ってるだけじゃ分からん話も多いと思うわ。
せやからな!社会見学ってことで受け取ってぇな♪」
「その心は?」
「うちのブイズどもが連れてけって喧しいからそれが面倒臭い」
反射的に返答したマサキに、ジッと白い目を向ける。やはりと言うか、この人は話の振り方次第では嘘を付けないタイプなのだろう。
しかしこうも真っ直ぐに個人の面倒事を請け負わされそうになるのも、なにかの貧乏くじだろうか。
「ま、まぁ固いこと言わんでさ!おもろい話が聞けるってのは間違いない!ワイが保証したる!」
などと言いながら力尽くで押し付けてくるマサキ。その随分と強い力は、とてもインテリのそれとは思えなかった。大した理由でもないのはさっき聞いて分かっていたし、だからこそ単なる善意で送りたいのであろうことは察することが出来た。
「…本当に、俺が行っても良いんですね?」
「当たり前や!こっちかて少しでも行きたいと思ってたらこんなリキ入れて渡さへんて」
「じゃあ、ありがたく行かせてもらいます。みんなにとっても良い休暇になりそうだし」
「おぉ、楽しんできてな!」
返答と共にパアッと明るい笑顔になるマサキ。頑なに遠慮して困るだけなら、いっそ折れた方が良い。
半ば無理矢理にチケットの入った封筒を握らされたダイヤは、呆れ顔のまま溜め息をついてその封筒をカバンに仕舞い込んだ。まぁ、彼としても興味が無いわけではなかったのだ。
「クチバまではハナダの南、萌えもん育て屋の先にある地下通路を通った方が速いで。ヤマブキは広くて迷うかもしれんしな」
「なにからなにまでありがとうございます。研究の方も、頑張ってください」
「またなんかあったら手伝ってや~」
軽い挨拶を交わし、マサキの家を後にするダイヤたち。扉を出た途端、なんだかドッと疲れたような気がする。大きな溜め息がそれを物語っていた。
「…こんなんで良かったと思うか?」
「妾に聞くな阿呆」
とぼとぼと歩きながらふと横を見る。大きな木の看板には、『大迫力』の文字が変わらず輝いている。力なくその文字を見つめるダイヤは、先ほどまでの出来事を思い返し、「…そりゃ大迫力だわ」と呟いた。
「研究者というのは中々どうして可笑しな連中が多いでの。坊、いい加減妾も戻るぞ。疲れたわ」
「あ、おう。ジョニー、お前も戻ってくれ」
「What's!?ミーはまだまだやれるZE!大アバレ待ったなしだ!!」
「いや、お願い戻って。て言うか問答無用で戻れ」
「I'll be baaaaaack!!」
どこのターミネーターだ、などという安直なツッコミを心に秘めてソーマとジョニーをボールに封じ込める。
一人の時間を少しだけ堪能しながら青い空へと大きく背伸び。タウンマップを確認する感じでは、ここからクチバシティまで行くと一日中歩き通しになりそうだ。
幸いパーティーまでには時間の余裕がある。地下通路を通れば早いと言っていたが、どれほどなのだろうか。
「まぁ、行かないと分かんねーか…」とゆらゆらと歩き出す。
『ご主人様、疲れたら無理しないでちゃんと休んでくださいね?』
「おう、ありがとなノア」
『ねぇねぇマスター、パーティーってどんなことするの?』と次いでメルアが聞く。
「んー…俺もよくは知らないんだよなぁ。なんかセレブな人達がきれーな服着て酒飲んだり飯食ったりしてる感じ?」
『オッケェイ!そう言う事ならミーが教えてやるZE!!
パーティーってのはな、雄と雌が一つのルームに集まりヒャッハー!もう我慢できねぇー!!なテンションで組んず解れずツイスター念心合体GO!!カ・イ・カ・ン☆なモノでな』
『黙れ糞虫。己が言うとるのはR-18全開ではないか』
『メルちゃんを汚さないでくださいぶっ殺しますよ』
『ハッハー!過保護な連中からの激しいツッコミが身に余るZE!!』
…喧しい。しかし、これもまたこれまで感じることのなかった賑やかさだ。うんざりする中にも楽しさを感じ始めた少年は、一路岬の街へ向かうこととするのだった。