萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION- 作:まくやま
少年の元に擦り合い集う偶然たち。
それは復讐の双刃、それは言霊なき鏡心、それは漆黒の焔。
新たな空気を孕んだ潮風は、とある彼の日の痛みを呼び起させる。
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- クチバシティ 萌えもんセンター -
ロケット団による強盗事件から一晩が明け、翌朝。ぼんやりと朝食を頬張りながら、少年は思案に暮れていた。その原因は、主に新しく加入した二人についてだ。
話はそんな昨晩、ネーネを交えた自己紹介の時に遡る。
「というわけで、新しく仲間に加わったネイティのネーネだ。みんな、よろしくな」
「………………(ぺこり)」体格どおりの小さな一礼をするネーネ。僅かにしか変わらない表情と相まって非常に可愛らしい。
それに対して嬉しそうにはしゃぐメルア。サーシャも特に気にしている風ではない。むしろ好意的だ。ジョニーも特に何事もなく馬鹿みたいに騒いだのだったが…。
「しかしYO、随分喋らねぇんだなネーネは。フリップボードでも持ち歩くかィ?」
「………………(ふるふる)」いらない、と拒否の意思表現だ。
「わざわざそんなことしなくても良いでしょうに…。でも、確かにジョニーの言う通りですね。…言い難かったらごめんなさい。ネーネ、貴方は喋れないのですか…?」
サーシャの問いに、少し困ったように目を逸らす。否定とも肯定とも取れないが、無表情故に難しい顔となった。そこに水を差したのは、ソーマだった。
「…ネイティという種は群れる習性がある。体格も小さいし、飛行タイプではあるがそのままでは空を飛ぶ力もないしのぅ。そして、群れの中で効率よく意思疎通するのにネイティたちは自らの特性を最大限に活用する。――相手と同調する特性、”シンクロ”をな」
シンクロ…エスパータイプの萌えもんに備わる特性の一つ。言葉の通り相手の精神と同調し、毒や麻痺、火傷といった異常を相手にも与えることが出来る。加えて、野生の中ではその力で自分に近しい性格を無意識に探し当てたり近寄らせることが出来るのだ。
故にその特性を持つ萌えもんは、図らずとも群れて寄り添い合い一つの輪の中で暮らしていくのである。それが、生きることに最も適した世界だからだ。
「じゃがネーネは、昨晩囚われた時誰も助けに来なかった…。いや、そもそも群れてなどいなかったのかもしれん。それは何故か…」
「ソーマ、お前何が言いたいんだ?」
不穏な空気が流れる中、ダイヤの声が響く。どこか、怒気を含んだ声が。
「…余計な水を差したな。じゃが坊、改めて覚えておけ。ジョニーが復讐を掲げているように、誰もが皆何かの目的を持っておる。それを満たすためにお主に身体と命を預けておるのじゃと。それを裏切られることほど、共に付く者にとって辛いものはないとな」
何の反論も出来ぬまま、その場はそこで終わってしまった。誰も、ソーマの言葉に対して何も言わなかった。
「…何かを満たすため、かー…」
少年は考え込む。自分が正義の味方を目指すのは良い。ノアもメルアもサーシャもソーマも、それに納得して付いて来てくれているのは其々から聞いたことだ。
だが、ジョニーとネーネはどうだ?ジョニーは最初から、復讐のために自分たちに同行していると明言している。ネーネは…喋らないからこそ、解らない。今後仲間が増えるとなると、みんなそう考えるのだろうか。それぞれが自分の意思を持ち、自分の考えがあるのではないか。それを強制するトレーナーとは、一体なんなのか。
「あーむっずかしいなぁ…脳ミソ沸きそう…」
机に倒れ込む。考えれば考えるほど袋小路に入っていきそうな感覚。トレーナーとは、萌えもんとは、主従とは、仲間とは。そんな答え無き自問自答を繰り返していると、頭にポンと小さなものが乗る感触が伝わった。見上げてみると、机の上でネーネが小さく座りながら撫でるように手を当ててくれていた。
「………………(きょとん)」
首を傾げてどうしたの、大丈夫?と言わんとするような表情をするネーネ。その可愛らしい表情にほだされたのか、ダイヤも自然と笑顔になっていた。
「…何でもない、大丈夫だ。ありがとうな」
優しく頭を撫で返す。彼女の表情は小さく笑っているように見えた。
(…ネーネは、何を満たそうとして俺に付いてくことを決めたんだろうな…)と、撫でながらそう思うのだった。
「ハッハー!!ミスター、レベルアッパーの時間だZE!!」
「よからぬクスリをキメるみたいな言い方はやめろ。…まぁ今日は元々そのつもりだったし、行くかネーネ」
「………………」
- 11番道路 -
ネーネを仲間に加えたこの場所にやってきたダイヤ達。とりあえずはそこで、力量を確かめ鍛えるのだ。ジョニーの方は既に分かっているから、今回の主体はネーネだ。
「よっし、ネーネ出てこい」言葉をかけながらポンと投げると、ボールが開いて飛び出してくる。背丈の小さなネーネに合わせ、しゃがんで話をしだした。
「それじゃネーネ、この辺の野生の萌えもんと戦ってみるか」
「………………(ふるふる)」首を横に振る。
「ん、嫌か?まぁ出身地で戦うのは嫌なこともあるか…。じゃあ近くにあるディグダの穴で、ディグダたちとやるか?」
「………………(ふるふる)」また、首を横に振る。
「んー…ネーネ、バトルは嫌いか?」
「………………(こく)」いくらか悩んだものの、小さくゆっくりと首肯する。
思わず苦い顔で頭をかくダイヤ。まさか、近い時間でこんなハッキリと対極な者を迎え入れることになるとは思いも寄らなかった。加えて昨日のソーマの言葉だ。余計どうしようと考えてしまう。
(やりたくないなら別に良いんだけど…そういうわけにもいかないもんなぁ…)
『HeyHeyミスター!ソイツにやる気がNOならばミーを出せYO!手当たり次第に経験値に変えてやるZE!!』
「わぁってるからちょっと待てよ馬鹿!…じゃあ、みんなのバトル見てるか?それなら大丈夫だろ」
「………………」
物言わず俯いたまましばらく考え、またゆっくりと首を縦に振るネーネ。とりあえず、バトルに対する恐怖心は無さそうだ。
「じゃ、ゆっくり見てよう。ほら、出てこいジョニー。あと他のみんなも」
言いながら残り5個のボールを放り投げる。一斉にパカァンと音を立てながら、控えていた5人が飛び出してきた。佇む5人の萌えもん。だがすぐに、人一倍大きな体格のジョニーが物申してきた。
「What's!?なしてミーのオンリーイベントじゃねぇんだミスター!」
「数日前にお前を仲間に加えて、今日までその行動を見て思った。お前がなんかやらかしそうになった時は他の誰かに力尽くで止めてもらう」
「Oh…信用ねーなミスター。ミーは悲しいZE!そんなんじゃそこらで行きずりパコることも出来やしねぇ!」
「サーシャさん、岩石封じ」
「了解マスター」
「4倍クリティカルヒィッツッ!!」
指示に対し瞬時で応えたサーシャの岩石封じがジョニーに直撃。隆起した岩石が股間と言うヒト型をしているが故の万物共通の急所にダイレクトアタック。こうかは ばつぐんだ。
そもそもジョニー…ストライク種は虫と飛行の複合タイプ。岩タイプ技の岩石封じとは相性が良過ぎるほどに良い。せめてもの救いは、技のタイプがサーシャ本人のタイプと一致してなかったおかげで100%の力で攻撃出来なかったことだ。
股座を押さえながら白くなる馬鹿を見ながら乾いた笑いを浮かべたり鼻で笑ったりする中、いつの間にかネーネがダイヤの後ろに回り込んでいた。変化の薄い顔は余計に固まっており、青ざめながら震えていた。完全にビビってる顔だ。
「…ネーネ、大丈夫。サーシャはあんなだけどふつーにしてれば怒られることないから」
「そうですよ、大丈夫大丈夫」
フォローになってるのかなってないのか分からない言葉をかけるダイヤとノア。そう簡単に震えが収まる訳ではなかったが、小さく首肯してくれたんで大丈夫だと思いたい。
「ほれジョニー、さっさと起きぬかボケが。お主が言い出したんじゃろう?レベルアップすると」
「That's all right!オッケェーィしかとその眼に焼き付けろよネーネ!ミーのSexyなバトルをYO!」
などと言いながら両手を天に掲げながら走り出す馬鹿。そのテンションがどこまで持つのだろうかと思いながら、一同はただあの馬鹿の奇行に注目していた。大体ツッコミの為に。
そうして周りに喧嘩を売りはじめるジョニーと、それに応じて次々飛び出してくる萌えもん達。ニドランやコラッタ、アーボが多い。対して一人ずつ速攻で倒していくジョニー。得意の電光石火は今日もキレが良いようである。
「………………(くいくい)」
「ん、どうしたネーネ?」
袖を引っ張ったネーネが、ジョニーの方を指差した。が、いまいちそれだけでは何を言いたいのかはよく分からない。
「ジョニーが、どうかしたか?」
「………………(ついっついっ)」とダイヤに指を差し、その手をジョニーの方に向けて開いて閉じてを繰り返した。
「…ん、んー…?」
「多分…ご主人様が指示しなくて良いのか、という疑問だと思います」
「そぉなの、ネーネ?」
「………………(こくん)」
「そっか、わりぃ。でもよく分かったなノア」
「いいえ、なんとなくです」
「いや、助かるよ。んじゃ、ネーネの疑問に対してだが…」言いながら、座る向きをネーネに向かい合うようにする。小さな身体の真正面に陣取り、その答えを話し始めた。
「…まぁ、特に理由らしい理由はないんだ。俺が面倒だってのが一つと、野性とのバトルならアイツに任せて問題ないってのが一つ。アイツは馬鹿で強さに貪欲だけど、無作為に萌えもんを襲ったり下手に傷付けたりはしないからな。その辺をちゃんと弁えてるの分かるから、手放し出来るんだ」
「ですが、念の為に私たちが監視している。といったところですね」
「サーシャの言う通り。懸念材料はあるけど、昨日の今日でいきなり遭遇するとは思えないしな」
「ロケット団の輩、じゃのう」
「昨日ロケット団のしわざって聞いた時、ジョニーちょっと怖かったもんね…」
「あやつは誰よりもハッキリとロケット団に対して敵意を持っておるでの。本当は近寄らんのが一番なのじゃが…このままでは、そうもいかなくなるじゃろうな…」
語るソーマの顔は暗い。やはり何か、心当たりがあるのだろうかと思うのだった。
「…なぁソーマ、お前ロケット団のこと…」
「お、坊よ。なにやら強敵のようじゃぞ?」
遮るように告げるソーマ。少し口惜しく思いながらもジョニーの方を見ると、これまで戦っていた萌えもんとは一回りは大きな相手と向かい合っていた。濃紫の身体、その半身は蛇のような着ぐるみになっている。大きく丸く広がった服と同じ色の髪には、まるで顔のような模様が出来ていた。鋭い牙と紅い眼でジョニーを睨み付けるその萌えもんは、アーボの進化形であるアーボックだ。
「ハッハー!こいつぁヤリがいがありそうだZE!蛇サーのprincessにLet's Rock!!」
「威勢だけで勝てると思うな!食らって痺れな蛇睨み!」
「ノンノンノーン!踏み込みが甘いッZE!!」
アーボックの蛇睨みをヒラリと躱すジョニー。だが、その攻撃はジョニーの横を通り抜けその先に居るダイヤに向かっていった。言うて蛇睨み、相手を麻痺させる技。ヒトが食らったところで大したダメージになりはしない。それでもさすがに食らうとマズいと直感するが、避けられるタイミングでもなかった。
「…あ、やっべ」
「ご主人様ッ!!」
「………………!」
状況を察し、スッと前に出て来たのはネーネだった。小さなその眼と身体が輝いていき、腕を前に突き出す。そこへ迫る蛇睨みが、ネーネのか細い腕に…正確にはそこに届くことなく遮られた。まるで、鏡に防がれているようだ。
「ネーネ、これは…」
「………………!」
もう一度力を込めると、その場で遮られている蛇睨みが甲高い音を立ててそのまま反射、アーボックへ打ち返された。
驚愕する一同。それはジョニーと相対していたアーボック自身もそうであり、その驚きが回避を疎かにしていた。
「なっ、なぁ、にぃ!?」
「オッケェイ隙ありァ!!最速必倒パーリィナゥ!!」
アーボックが麻痺により動けなかったところに、ジョニーが速度を上げて白く輝きながら突進する。ノアも覚えている技、電光石火だ。高スピードから振り下ろされる刃の一撃はアーボックの脳天に直撃し、ノックアウトさせたのだった。
なお余談ではあるが、ストライクの両腕は鋭利な刃となっているにも関わらず攻撃しても”斬れない”のは、使用する技や萌えもん自身が行う力加減が関係している。
野生で他の萌えもんと共生する中で、互いが命を軽んじることの無いように…つまり、殺し合わないように加減し合うのだ。彼らはそうやって、この生態バランスを保っているのである。だが逆を言うと、彼らは本気を出せば相手の命を容易く摘み取れるほどの力を秘めているとも言えるのである。
閑話休題、倒されたアーボックがゆっくり起き出してきた。流石に今は戦意は無いらしく、気さくな笑顔でダイヤ達の方へ寄ってきた。
「あのストライクは君の手持ちかい?強いねぇ」
「あの馬鹿の相手してくれてありがとう。ダメージは大丈夫か?」
「よく効いたよ、良い腕してるねぇ。それに、そこのおチビちゃんも予想外だった」
と言って目線を下にやるアーボック。目線の先に居たネーネは、ダイヤの脚に隠れるように立っていた。
「なるほどね、アンタはこのヒトの手持ちになったのか」
「ネーネのこと、知ってるのか?」
「この辺の縄張りじゃ有名な子だよ。ま、鬼子としてだけどね」
「鬼子、って…」と尋ねるはノア。サーシャとメルアも神妙な表情でアーボックの方を向いている。
「特異な子ってことさ。具体的には、その種族が本来持ってないような特性を持って生まれた子だね」
「特性…昨日ソーマが言ってたな。ネーネの特性はシンクロだって…」昨晩の事を思い返しながら図鑑を開き確認する。そこには間違いなく”シンクロ”と書いてある。だが、それに加えてもう一つ…”マジックミラー”という覚えのない文字が表示されていた。
「マジック、ミラー…?」
「――他者から放たれる異常や状態変化といった、自分を害するモノを反射する特性じゃ。妾も、話に聞いてただけでそんな特性を持ったヤツ…しかも本来の特性までも併せ持っておる二重特性所持者なぞ初めて会うたがの」
アーボックとソーマ以外の、周囲の目がネーネに集まる。驚きに満ちた目が。
「そういうこと。まー私も、此処に棲むネイティの中に村八分されてるのがいるってことしか知らなかったけど、さっきのを見たら納得だわ。可哀想だとは思うけど、ネイティは言葉以上に心を通わせ生きる萌えもん。多分その子、そういうのも遮ってきちゃったんじゃないかな。自分は相手の心を読めるのに、自分の心は相手に読ませないように」
アーボックの言葉に対し、答える者はいない。共感など出来ようもないのだが、思わずネーネに同情してしまったのだ。ジッと下を見つめているネーネの姿は、恐怖と依存を併せたとてもやり場のないものに見えた。
「んじゃ、腹も減ったし私は棲み処に戻るよ。元気でやんなねー」
最後まで気さくに、手を振って草叢へ戻っていくアーボック。きっとその性格は、同種の萌えもん以外からも好かれて仲間も多くいるのだろう。それに対して、足元の小さなネイティはこれだけ大きな草叢、多くの野生が棲まう場所で独りぼっちだったのだろうか。そう思うと、昨晩ソーマが言っていた言葉が自然に一本に繋がっていた。
「…そっか。そうだったんだな、ネーネ」
「………………!」ビクッと震えるネーネの前に座り込むダイヤ。彼のその顔は、少しぎこちないものの決して恐怖や侮蔑といったものではない、優しい笑顔だった。
「あー…上手い言い方とかカッコイイ台詞とかなんも思いつかないけどさ、俺はネーネが仲間になってくれたのは嬉しいと思ってる。
仲間になってくれたから、俺はずっとネーネの味方だ。それだけは、間違いない」
「メルもメルも!ネーネはずっと友だちだよっ!」
「ふぅ…まぁ心は読めても、わざわざそれで悪さするような子じゃないでしょうし。ソーマやジョニーに比べれば可愛いものですね」
「Why!?ナニを言うのかYou!みんながLOVEしたミーだZE!?さてはツンデレだなサーシャ!」
「ツンギレで良いですね。いや、クーギレですか?」
「あはは…。でも、大丈夫だよネーネ。みんな、いいひとばかりだから」
ネーネの小さな手を握るノア。見つめる顔は、主以上に優しく穏やかな笑顔だ。その顔とその空気、多くの暖かさに触れて、ようやくネーネは笑顔を取り戻すのだった。
「………………(にこ)」小さくか細く、だがとても素直な笑顔を。
「…まったく、甘ちゃんどもが…」