萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第8話『波間に揺れる過去と現在』 -2-

 

 綺麗に晴れ渡った朝。澄み切った青空の下で歩き出したダイヤ。香る潮風と看板を頼りに進んでいったそこは、カントー地方最大の他地方との連絡地点であるクチバシティの港だ。

 少年の眼前には、自身の想像を超える大きさの白い物体…豪華客船サント・アンヌ号が海に浮かんでいる。一年に一度、ここクチバ港に停泊し世界各地のセレブや業界に名を馳せる者が集い交流を重ねる立食パーティーを行うのである。

 このパーティーを切っ掛けに多くの研究者やトップトレーナーが更なる高みへ昇るだろうと言われ、実際に歴代の地方チャンピオンやリーグ四天王ら、地方を代表する著名な博士や功績者は一度は参加している。…のだが、こういうパーティーにはどうしても金の話が付き物。スポンサーになろうとする者が期待を込めてすり寄ってくるのだ。そういうモノに嫌気が差した者は必然的にパーティーから足を遠ざけていった。

 無論、大人の付き合いと割り切って参加する者もいるが、マナーの欠いた者達の行いはいつだって煙たがれるものである。

 だが、そのような話を全く知らぬ少年は表面上冷静を保っていても内心は緊張と期待で膨らみ切っていた。俗にいう、おのぼりさん状態だ。

 「ようこそ、サント・アンヌ号船上パーティーへ。招待券を拝見いたします」

 「はっ、はい!え、えっと、これ、ですよね!?」

 「………はい、拝見いたしました。ではごゆっくり、パーティーをお楽しみください」

 タキシード姿の若年紳士に優しく微笑まれ、更に緊張を増しながら船内へ進んでいくダイヤ。耳に付けたイヤホンからは、ソーマの呆れ声だけが聞こえてきた。

 『固まり過ぎじゃ阿呆。堂々とせんか』

 「今はその強靭なメンタルが羨ましいよソーマさん。こちとらただの一般小市民ですよ?」

 『とって喰われるワケじゃなかろうに。天上のボンボンどもが自称一般小市民に注目するか?自意識過剰というのじゃよ其れは』

 「なんか今日は一段とキツいな…。来るの嫌だったか?」

 『別にそういう訳ではない。…まぁ加えておくなれば、この手の場所には坊みたいな田舎モンを餌にして私腹を肥やす汚い輩も居るという事じゃ。ハメられてからでは遅いでの』

 「…おーけー、気を付けるよ」と溜め息交じりに返すダイヤ。しかしこんな指摘でも、緊張は解けるもんだと思うのだった。

 手に持ったチケットを見なおすと、当日限定の休憩室として専用の個室もあてがわれているらしい。なので、とりあえずはそこに行くことにした。

 

 「――…うっわ」

 ただそれだけ。年若く人生経験も少ない少年から発せられたものは、絶句するような感嘆の言葉しか出てこなかった。

 煌びやかな船の一室は隅々まで美しく保たれており、インテリアが完璧な芸術に思えるほどだった。身体を休める為のベッドにすら、軽々しく座ることも畏れ多く感じてしまう。これは本格的に、場違いな場所に着てしまったのではないかと只々思っていた。

 「…とりあえず、みんな出てこーい」と、何処か投げやり気味にセットしてあった6個のボールを全て解放。扉の前で7人が立ちつくす。

 「なるほどのぅ、休憩用の個室でコレかぇ」

 「ワーヲ、こいつぁスゲェ。マネーがバーストしてんな」

 「ほわぁぁぁぁぁ…すっごぉぉいぃ…キラキラしてるぅ…」

 「………………(きらきら)」

 「…んんっ、確かに見事な内装ですね。流石は豪華客船といったところでしょうか。写真でしか見たことのなかったものをまさか目にすることが出来ようとは思いませんでしたが、このような機会に恵まれたのは幸運と言わざるを得ないのでして云々…」

 「でも、本当にすごいです…。すごくて、すごすぎて…あぁぁなんて言ったら良いんでしょうこれ…」

 「この驚きを共有できただけで満足だよ俺は。マサキさんに感謝しないとなー」

 「うわの空で何を言っておるのか坊。はよ行かねばパーティーも終わってしまうぞぇ?」

 「ええぇっ!?そんなのダメダメぇ!早く行こうよマスター!」

 「そうだぜミスター!どうやら此処にはブルジョワなトレーナーも多そうだし、旅費稼ぎに搾取してやろうZE!!」

 いの一番に声を上げるメルアとジョニー。声には出さないものの、その眼は期待で輝いているノア、サーシャ、ネーネ。つまり、満場一致でパーティーを楽しもうというハラだ。ならばこそ自分が臆している場合ではない。だって、自分だって楽しみだったことに違いはないのだから。

 「…よっしゃ!じゃあ徹底的にパーティーを楽しんでやろうじゃねぇか!行くぜぇー!!」

 半ば自棄になったかのように声を張り上げ歩き出すダイヤ。しかし、その顔は外の晴天に負けないような明るい笑顔で、自然と他のみんなも楽しそうな顔に変わっていた。

 行く先々で交わされるなんか高貴っぽいご挨拶に圧倒されながらも、バトルとなると特別ハッスルする馬鹿がいるからか何度挑まれても特に問題なかったのはありがたかったと言える。中でも、ホウエンやシンオウ以外の地方…イッシュやカロスといったところのトレーナーと戦えたのは、ダイヤの見聞を広げる良い機会になっていた。

 それらトレーナーとのバトルを終え、腹の虫も鳴ってきたところで立食会の会場に入っていくダイヤ達。話題はずっと、此処で戦ったトレーナーとのバトルについてだ。

 「スゲェな…初めて見る萌えもんばっかりだったな!」

 「ヨーテリー、マメパト、ダンゴロ、コロモリ…この辺りがイッシュの萌えもんらしいですね。そしてホルビー、ヤヤコマ、シシコ、フラベベ…こっちがカロスの萌えもん」

 「図鑑、なんにも出ないんだね~」と、サーシャの隣から覗き込んだメルアが呟く。

 確かに萌えもん図鑑には、外観写真だけでその習性や生態についてはなにも表示されていなかった。些細な疑問に答えるかのように、ダイヤの後ろから少年の声が聞こえてきた。

 「この図鑑、全国対応してねーんだってよ」とやや上から目線で告げた声。それには聞き覚えがあった。

 「あ、ロイ。なんだ、お前も来てたのか」

 「じーさんのコネを使わせてもらってな。つかお前はどうやって来れたんだここに」

 「あー、なんか成り行きでマサキって人に助け助けられて…何故か来させてもらうことになった」

 「はー…よく分かんねぇなホント。まぁ、俺はここに来たお蔭で海の向こうの萌えもんを交換してもらうことも出来たぜ」

 「交換か…。俺にはちょっと無理かも」

 「お前は変に感情移入しすぎなんだよ馬鹿。互いの気持ちとメリットが合えば交換してやりゃいいんだ」

 「そう言うもんなのかね…。で、どんな萌えもんを交換したんだ?」

 「ヒトモシってヤツと、オンバットってヤツ。ほら、出て来い」

 言いながらボールを二つ放り投げるロイ。そこから出て来たのは、純白の肌の上に同じ色の服を纏い、柔らかな濃い紫炎のような髪を揺らす片目の少女と、淡い紫色の髪と頭に大きな耳のようなものが付いた、腕が蝙蝠の羽根のようになっている黒服の金眼少女だった。

 「Excuse me。ヒトモシと申します。この度、マスター・ロイにお仕えすることになりましたので、どうかよろしくお願いします」

 「あたいはオンバットだよ!よっろしくぅ!」

 おっとりした口調で自己紹介するヒトモシと、無邪気に元気よく挨拶するオンバット。どちらも、ダイヤが見るのは初めての萌えもん達だ。

 「初めまして。俺はロイの幼馴染のダイヤってんだ。またバトルする機会もあるだろうし、今後ともよろしくな」

 笑顔で挨拶するダイヤ。傍にいたノアたちも一緒になって彼女たちに挨拶していった。海の向こうの萌えもんとはいえ、特に不便なく言葉が通じるのはありがたいことだ。

 「ワニノコたちは元気にしてるのか?」

 「お前のとこと同じで何人か進化してるがな。せっかくだ、出て来い」

 そのままの流れでロイも残りの手持ちを全て解放し、互いの萌えもん同士の和気藹々とした団欒の場となる。その中にアリゲイツの姿を見ると、ノアとメルア、サーシャがすぐに彼の元へ寄って行った。

 「数日振りです、兄さんっ!」

 「うん、数日振りだひーちゃん。無事にブルーバッジも手に入れたようだね。良かったよ」

 「特訓のおかげだよぉ~。でも、いっぱい頑張ったもんねっ!」

 「メルアちゃん、この前はまだ進化してなかったもんね。その成果が進化って形で表れてなによりだ」

 「それは、私に対するあてつけですか?」

 「あぁごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。でも、サーシャさんも十分進化できる力量はあると思うんだけどなぁ…」

 「…きっと、まだ切っ掛けが足りないんでしょうね。ノアやメルちゃんが進化した時のような、強い切っ掛けが…」

 話し込む4人を眺めるジョニーとソーマとネーネ。どうにも、コミュニケーションに入り込むのが苦手な3人になってしまっていた。すこしぼんやりしている時、前を通ったロイの手持ちのモココを呼び止める。

 「HeyHeyボーイ、ちょっとええかな?」

 「ん、どーしたの?」

 「いやなに、あのアリゲイツ、ウチの連中からも随分慕われてんだなーと思ってYO」

 「あー、まぁあの兄さんなら仕方ないと思うよ。うちでも兄さんは中心的な存在だしねー。頼りになるし面倒見も良い。マスターが強面な時も間に入ってくれるし、なんかこう、つい頼りたくなるタイプなんだよねぇ」

 「随分とよく出来た性格をしとるんじゃのう。うちの盆暗にも見習わせてやりたいわ」

 「………………(ぷーー)」ソーマの軽口に、ネーネが頬を膨らませる。どうやら少し、怒っているようだった。

 「…坊を悪く言うな、ってことかぇ?あぁあぁ、分かったから睨むでない」

 やはりまだ、ソーマはネーネが苦手だった。心の内を読まれたところで、彼女がそれを誰かに話せるような性格でないことはもう分かっている。が、それでも”読まれている”ことそのものに恐怖感を抱いていた。

 「あのアリゲイツ、強いのか?」

 「ウチのメンバーの中じゃ一番ねー。相性が良い僕でも勝つのに苦労するよ」

 「ほぉう…一発バトッてみるのも面白そうだZE!」

 「………………(ふるふるふる)」と、今度はジョニーの言葉に対し首を横に振るネーネ。やはりその顔は、小さいながらもしかめ面だった。

 「…オーライオーライ、いきなり襲い掛かったりなんざしねぇYO」

 どうやら、ネーネは上手い具合にこの二人を抑えられているようだ。言葉は出さなくても、表情変化は小さくても喜怒哀楽をちゃんと出す彼女をちゃんと仲間だと認めているように見えた。

 その様子を嬉しそうに眺めていたダイヤと、隣の席に当然のように座ってくるロイ。二人にとっては、久し振りに顔を合わせて話す機会になる。

 「元気そうだな、ロイ。しっかし、未だにニックネーム付けないのねお前んトコは」

 「面倒だからな。一人につけたら全員に付けなきゃいけないし」

 「それも一つの楽しみだと思うけどな。あ、そういえば俺もハナダジムをクリアしたぜ」

 「俺はもうクチバジムを突破した。あそこのジムリーダーも強かったが、まぁなんとかだな」

 自慢するわけでもなくバッジケースを開けて見せるロイ。グレー、ブルーの次に仕舞われた3つ目のバッジである、オレンジバッジがケースの中で輝いていた。

 「さっすが、早いなそっちは。だってのにこの前はあいつらの特訓に付き合ってくれたみたいで、ありがとうな」

 「ま、こっちはお前らと違っていつでも修行中だからな。野生の連中より良い経験になるし。つーか、お前は何やってたんだあの時。萌えもんの傍に居ないでよ」

 「あー…まぁ、色々だよ色々。さっきも言ったけど、マサキさんに助けて貰ったりしてたの。その原因がそこのストライクだっただけで…」

 「…アイツか。俺が言うのもなんだけど、お前よくあんなのメンバーに加えようと思ったな」

 「物騒なとこあるけど悪い奴じゃないしなぁ…。まぁ、アイツの目的に手を貸せる間までってとこさ」

 「目的?」

 「ロケット団に復讐するんだってよ。物騒なもんだぜまったく」

 平然と言うダイヤに、思わず大きな溜め息で返すロイ。どうもこの幼馴染は、話をしてる事の大きさを理解してないように思うからだ。

 「そんなモンに関わんなよ…。お前が成長しねぇのは勝手だけど、それで痛い目見るのもお前自身だぞ」

 「うるせぇやい。俺は俺のやりたいようにやるんだ。お前だってそうだろ?」

 「…ま、そりゃそうだけどな」

 二人して手元のソフトドリンクを飲みながらまた溜め息をつく。思春期特有の、他者の言葉を聞かない頑固さが二人の間を広げているように思えた。そんな二人のテーブルに、向かい合い相席する形で一人の男が座ってきた。

 初老の顔つきに似合わぬ、大柄で筋肉質な体躯。被る様に着ているポンチョの中からはボロボロの布服の裾が見えている。そして何よりも印象深いのは、まるで太陽のように広がった赤と橙色の髪と、首に下げた一繋ぎになっているモンスターボールの束だ。もちろん腰にもボールは装備されてある。ボックス管理が整った今ではあまり見られない古風な姿でもあった。

 そんな、二人の少年とは二回り以上は歳が離れてるであろう男が豪快な笑顔で話しかけてきた。

 「随分難しい顔してるじゃないか、少年たち。せっかくのパーティーが台無しだぞ?」

 「…誰だよ、オッサン」と睨み付けながら返答するロイ。怒りというより、面倒臭さが前面に出ている感じだ。

 「ワシか。ワシの名はアデク。イッシュから旅をしてきてな、船長とは旧知の仲だから少し羽根休めさせて貰っておったのじゃ。で、君らはなんと言う名なのだ?」

 「…ロイ。マサラタウン出身のトレーナーだ」

 「ダイヤです。コイツと同じ、マサラ出身のトレーナーです」

 「ロイと、ダイヤか。何やら難しい話をしていたようだが、そんな険悪な雰囲気だと萌えもん達も怯えてしまうぞ?同郷の出身なら尚更だ。仲良くとまではいかずとも、互いを尊重してみてはどうだ」

 「尊重、ねぇ…」ロイの呟きと共に目線を合わせる二人。どうにもまだ、そう上手く行かない空気が漂っている。それを察したアデクが、思わず笑みを漏らした。

 「フフっ、若いなぁ若人よ…。互いの思想を素直に認められないのは、若さと見分の狭さ故に許される大切な時期だ。だがそれは同時に、ただ闇雲に鬱憤を溜め込むだけの悪循環でもある。

 うむ、そういう時はバトルだな!そうと決まれば甲板へ向かおうぞ!」

 「あっ、ちょ、ちょっと!」

 「強引なジジイだな…。行くぞお前ら」

 言うが早いか、立ち上がり大股で歩き出すアデク。思わず団欒中の萌えもん達を呼び寄せ、アデクを追いかけるダイヤとロイだった。

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