萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION- 作:まくやま
3
- サント・アンヌ号 甲板 -
豪華客船の甲板は、その名に違わぬ豪華さだった。広く大きく、隅々まで綺麗に清掃されていて吹き付ける潮風も爽やかなものに感じられる程だ。しかもその広さは、萌えもんバトルをやるのにも十分すぎるサイズでもあった。
おそらく、金持ちやハイレベルなトレーナーが行うエキシビションマッチを観戦する用途も兼ねているのだろう。そんな野良バトルやジム戦とは一風違ったバトルフィールドに、3人のトレーナーが立っていた。片方にはアデクが、相対する方にはダイヤとロイが並んでいる。
「さぁバトルだ!二人とも存分にかかってこいッ!!」
「いや、なんで俺がダイヤとタッグバトルだよ」
「こっちのセリフだコノヤロー。バトルしあう事はあってもタッグ組むとかないわ」
「そう、だから良い!互いに切磋琢磨しあうには、時には肩を並べることも大事なこと!相対しているだけでは見えぬものも見えてくるというものだ!」
「で、でも2対1はフェアじゃ…」
「案ずるな。君たちのような若人に後れを取るほどヤワな人生を送ってきておらん。臆せずかかってこい!」
「…じゃあ、望み通りにしてやるか。降りたきゃ降りろよダイヤ。俺はやる」
「うぅぅ…あーもうしゃーない、やってやる!」
アデクに対し身構える二人。フィールドの外では、互いの萌えもん達が傍で待機していた。
「ワシはコイツだ!往けぃ、ウルガモスッ!!」
「了解よ、ダディ!」声と共に現れたのは、6枚の赤い羽根を持ち胸元は白いファーに覆われたた衣装を纏う女性。端の吊り上がった色眼鏡と、黒いショートヘアから伸びる赤い触角も印象的だ。これがアデクの繰り出してきたイッシュに棲息する太陽萌えもん、ウルガモスである。
「アンタの実力、試させてもらうぜ。来い、モココ!」
「あいさー!先陣はお任せだよ!」
「こっちはお前だ、ジョニー!」
「ィイヤァッハァァァァァ!!Nice choiceだミスター!野郎からフィーリングするビシバシスペシャルプレッシャー!!こいつぁヤリ合わなきゃ損ってもんだZE!!」
「さぁ先行はくれてやる!打ってこい!!」
「言ってろ…!モココ、エレキボール!!」
「ジョニー、電光石火!!」
ロイの指示と共に彼のモココの尻尾、その先の珠に電撃が溜め込められる。それを一瞥することもなく駆け出すジョニー。すぐにその速度が高まっていく。すぐさまジョニーの背後より撃ち放たれるモココのエレキボール。それを見て、すぐに指示を付け加えるダイヤ。
「背後からエレキボールがくるぞ!引き付けて相手にブチ当てろ!」
「オッケェイこうだなぁッ!」とエレキボールの前を走り出すジョニー。光を纏い最高速へ至るその背後には、モココが放った電撃の玉がピッタリと付いて来ていた。
そしてウルガモスに近付いた瞬間、上下左右に揺れ動いたかと思うとその場から消え去るジョニー。次の瞬間ウルガモスの眼前にはエレキボールが飛来し、中空に移ったジョニーが相手の背後を斬りつけた。
電撃と斬撃の挟撃を直撃を受け、ウルガモスを中心に爆風が巻き起こる。それに乗じてすぐにジョニーがダイヤの元へ戻ってきた。が、その爆発の煙を強い風が吹き飛ばした。ウルガモスが、その6枚の羽根を羽ばたかせたのだ。
「へぇ、即興にしてはちゃんとしてるじゃないの」と、余裕の笑みでホコリを払う。与えたダメージは無いようなものだった。
「…マジかよ」とこぼすロイ。ダイヤがどこで覚えたのか知らないが、状況を活かしたさっき攻撃は間違いなく高い効果があったはずだ。なのに、それでもほぼ無傷。この一瞬で、ロイは圧倒的な力量差を感じ取っていた。
「くっそ、なら次だ!ジョニー、真空波!」
「馬鹿!作戦もなく先走りやがって…!モココ!電気ショック合わせろ!」
二人の指示が交錯し、ジョニーが両の腕を素早く振り払い真空波を撃ち出す。それを追うように、モココも電気ショックを繰り出した。相対するアデクは片手を前に出し、ウルガモスに指示を一つ出すだけだった。
「炎の渦だ!」
「了解!」
ウルガモスの6枚の羽根が交互に動き出す。炎を伴う羽根が生み出す気流を渦と化し、巨大な炎の渦が真空波と電気ショックの両方を掻き消してジョニーとモココの二人を飲み込んだ。
「モココ!」「ジョニー!!」
二人して眼前の炎を見つめてしまう。下手に手出しも出来ないもどかしさが、二人の胸中を占めていた。
やがて数秒後、炎の渦が収まったそこには、飲み込まれた二人の萌えもんが其々目を回して倒れ込んでいた。たった一撃でノックアウトである。
すぐさまそれぞれをボールに戻すダイヤとロイ。直後に突っかかってきたのは、ロイの方だった。
「チッ…!おいダイヤ、どういうつもりだよ!」
「ど、どういうって…何が!」
「相手の力量も分からなかったのか、って言ってんだよ馬鹿が!せっかくお前にしては上手い攻め方したと思ったのにコレかよ!」
「…んだよその言い方は!いつもいつも上から目線で余計なことばかり言いやがって!」
「馬鹿に馬鹿つって何が悪い!力量差ぐらい読み切れ!その上で頭使ってバトルしやがれ!そんなだからそんな連中でマグレ勝ちしか出来ねぇんだよ!!」
「だっ、誰がマグレだこの野郎!!俺のバトルの腕はともかく、俺の仲間を馬鹿にするのは許さねぇぞロイ!!」
「喝ァッッ!!!」と、ダイヤとロイの罵り合いに一喝で割り込むアデク。二人の喧騒が一瞬で冷めていくようだ。
「…良い喧嘩だ、結構結構。だが、君たちが立っているのは何処だ?向かい合っているのは誰だ?傍にいるのは誰だ?まずはそれと向き合え若人よ!そして君たちの想いを、信念を、魂を…全てを以て打ち込んで来いッ!!」
強く豪快な笑顔で説教するアデクの言葉を、ただ茫然と聞くダイヤとロイ。
互いに互いを気に入らないと思う部分もある。だが幼い頃から何度もバトルしてきたのだ、互いの長所だってよく分かっている。先ほどの攻撃一回だけでも、ここまでのトレーナー旅で得たものがハッキリと視えている。
相手の力量を正しく察知し、適切な行動を選択できる素質を伸ばしたロイ。
偶然の状況を有利に変える、攻撃的な臨機応変さを習得していたダイヤ。
互いに理解しているのなら、それを組み合わせれば良い。ただそれだけなのだ。
「…俺ら言われっぱなしだな、ロイ」
「ったく、お前と組むとロクなことになりゃしねぇぜ。…相手は炎タイプな上にこのレベル差、マトモにやり合って勝てる相手じゃねぇな。俺はアリゲイツで行くぜ」
「じゃあ、俺は――」
「勝ちを狙う時は、情を脇に置いとく事も必要だぞ。優位なタイプがいるなら出し惜しむなよ」
ノアを選ぼうと思っていたところに釘を刺された感じだった。アリゲイツはノアの幼馴染なら、共に戦いたい気持ちもあるだろう。こんな機会は次いつやってくるか分からない。
ならば自分は、彼女の想いを叶えてあげたい。あげたいのだが…。そんな迷いの目を、思わずノアに向けてしまう。そんな主に対し、彼女はただ声を上げて言うのだった。
「大丈夫です、ご自身の判断を信じてください!それが、ご主人様の信念に…正義に基づく判断ならば!」
「…サンキュ、ノア。っしゃあ行くぜ、サーシャ!」
「お前もだ、アリゲイツ!」
サーシャとアリゲイツ、二人の萌えもんがバトルフィールドに立つ。相対するウルガモスは、未だ余裕の笑みを浮かべていた。
「そうか、君の信念は”正義”か、ダイヤくん!」
「…えぇ。ちょっとまだ、小っ恥ずかしいですけどね」
「良いではないか、その信念。それを抱えて進む君は、”正義の味方”になるんだな!ではロイくん、君の信念はどうなんだ?」
「…俺は、”最強”を目指す。誰よりも強いトレーナーになる。それが、俺の信念だ」
「うむ、それもまた良し!”正義の味方”と”最強の戦士”、大いに目指せ若人たちよ!その果てに見る光景がなんであるかは、自分の目で確かめるのだ!!このバトルを糧に、もう一段上へ進んで来い!!」
戦闘態勢に入るアデクとウルガモス。それは時に旅人を照らし闇を裂く導となり、またある時には向かう相手を焼き焦がす大いなる炎にもなる。そんな二人の姿は、まるで本当の太陽みたいだった。
「……なぁロイ、もしかして俺ら、えらい人とバトルしてんじゃね?」
「さぁな、今更だ。お前のサンド、炎に効く技持ってるな?」
「勿論」
「だったら余計なこと考えずにそいつをパなせ。タイミングとか状況判断は任せる」
「OK。どこまでやれっか知らないけど…!」
二人のトレーナーに合わせ、アリゲイツとサーシャも戦闘態勢に入る。相性的に有利はあるだろうが、それだけでこの力量差を埋められるのだろうか…そう思ってしまったサーシャが、呟くように声にした。
「……貴方は、あの相手に勝てると思います?」
「…うん、正直無理だと思う。でも、だからってマスターの期待に応えないわけにはいかないしね。俺はただ、マスターを信じて全力を尽くすだけさ。…来るよ!」
再度ウルガモスを見つめ直す。その羽根は、再度大きく揺らめき始めた。
「ウルガモス、炎の渦!!」
「アリゲイツ、水の波動!!」
「サーシャ、岩石封じ!!」
3人の声が交錯し、それぞれが同時に動き出す。ウルガモスの炎の羽根が蠢き放たれる炎の渦。その渦が広がる前に、アリゲイツの水の波動が相殺するように炎へ直撃する。が、それだけでは威力を殺しきれず、渦がさらに迫ってくる。その直撃の瞬間、サーシャの岩石封じが発動。甲板より隆起した岩石がサーシャとアリゲイツを守るように飛び出した。
「…へぇ、上手いこと防御するじゃない。でもまだよ!」と、更に炎の渦を巻き起こすウルガモス。今度はその威力を殺されることなく、先程と同じように渦に飲み込まれてしまった。
「くっそ、マズいか…!」
「任せろロイ!サーシャ、岩石封じで打ち消してやれ!!」
届いた指示と共に甲板を叩きつけるサーシャ。再度周囲に岩石を隆起させるも、それだけで炎の渦は打ち消せなかった。
「まだ、もう一発…!」
「無理しないで!俺は水タイプだからまだ耐えられるけど、キミは…!」
「…いいえ、マスターの指示ですから…!それに、一矢報いるならば貴方の水の波動の方が、確率は高いでしょう…?」
体力が削られ続ける中で、何度となく甲板を叩き付けるサーシャ。隆起した岩が重なり合い分厚くなってくるも、炎の渦は一向にその威力を弱めることはない。外からその状況を眺めながら、業を煮やしたロイがついに声を上げた。
「何が任せろだ!全然駄目じゃねぇか!」
「…確かに俺の指示は駄目だけど、こんな駄目な指示でもあいつらは何とかしてきてくれたんだ!ノアは、メルアは…そして誰よりも、あのサーシャは!だから!!」
(――だから私は、そんなにも私を信じてくれる馬鹿なマスターに応えたい。…いいえ、応えるのよ…ッ!)
炎の渦の中、青い光がサーシャの身体から発せられる。隣にいたアリゲイツだけが、彼女の異変にすぐさま気付いた。そういえば自分の時もこんな感じだったと思いながら、彼女の変化を黙って見守っていた。
「――そうよ。岩で遮るのが無理なら、爆風と砂塵で吹き飛ばせばいい…。力がみなぎってる今なら、それぐらいやれる!」
「俺に手伝えること、あるかい?」
「反撃の姿勢をとっててもらえば、それで十分です。あとは互いのマスターがなんとかしてくれる、ですよね?」
「…うん、そうだった。じゃあよろしく!」
「――だあぁぁぁぁぁッ!!」
気合と共に岩へ打ち込まれる両手の一撃。マグニチュードが発せられる振動が重なった岩を伝い、粉々に砕け散った。そして掻き上げるように腕を下から上へ振るうサーシャ。高められた力は瞬間的に巻き起こる砂嵐と化し、同じ回転で炎の渦を掻き消したのだった。
「…ッ!よっしゃ、やったぜサーシャ!」
「その隙を逃すなアリゲイツ!水の波動!!」
「でぇぇぇりゃあぁッ!!」
一発目よりも巨大な水の波動を両手で作り上げ、ウルガモスへ撃ち放つアリゲイツ。全身に漲るように高まっている水の力は、御三家種特有の特性…体力減少時に、その力を大幅に上げるもの。ノアの猛火に対し、アリゲイツのそれは激流と名付けられている。
その激流の力を足して巨大となった水の波動を迎え撃とうとするウルガモス。だが同時に、彼女に向かって走り込む気配もすぐに察知していた。変わり映えのない…しかし確実に有効な手段である波状攻撃。水の波動の裏に隠れたその気配…炎の渦を放った時のそれより、遥かに大きくなっている。それに気付いた瞬間、ウルガモスの口角が自然と吊り上がっていた。
防御姿勢は取ってはいるが、激流の乗った水の波動が直撃。爆発するように溢れた水蒸気を目眩ましに、もう一つの影が近付いていた。
黄砂色の長く尖った耳。同じ色の着ぐるみはノースリーブと化し、肘から下は大きく鋭利な二本爪が伸びている。たなびく髪は流れる黄金色ではなく、太い針のように固まったダークブラウンの髪となっていた。そして標的を見据える彼女の顔には、変わらぬ眼鏡が輝いている。
サンドパンへと進化したサーシャがその姿を見せた刹那、白いオーラを纏い肥大化した右腕をウルガモスへと振り下ろし、一撃を加えるのだった。
「サーシャ!…進化、したのか!」
「そのようですね。力の入り方がさっきとは段違いです。新しい技も使えるようになりましたし、バトルの幅も増えるでしょう。…ですが、それでもあの相手を倒すには至らないでしょうね」
「マジかよ…」
「私たちはまだまだ力不足という事でしょうね。正義を為すにも、信念を押し通すにも」
「…どうしよっかマスター。降参する?」息を切らしながらロイに進言するアリゲイツ。彼の問いに、ロイは答えられなかった。
降参は最後の手段、そう簡単に取れるものではない。だが、ここまでしても相手のウルガモスはまだまだ余裕がある顔だ。ロイは勿論、ダイヤですら流石に敵わないという事実を察していた。
ふとロイの横顔を見るダイヤ。歯を強く噛み締めたその表情は、意地を張って言葉に出せないという風に見えた。そんな、昔と変わらぬ幼馴染に何を思ったのか…先に肩の力を抜いたのは、ダイヤだった。
「降参です、アデクさん」
「ほう、良いのか?」
「俺は構いません。喧嘩やジム戦じゃないんだ、白黒つくまでやり合う必要もないでしょう」
「なるほど。君がそう考えるのなら、ワシもそれで構わん。ロイくん、君はどうかな?」
「……チッ、分かったよ。降参だ。ったく…お前が先に降参するせいで、俺まで道連れじゃねぇか」
「元はと言えばお前がバトルに引っ張り込んできたんじゃねぇか。これでおあいこだバーカ」
二人して座り込んでの罵り合い。その周囲にはそれぞれの手持ち萌えもん達が集っている。それは、アデクが常に望んでいるとても明るい光景だった。
「よくやってくれた、ウルガモス。戻ってくれ」
「はーいはい。あー偶には本気でバトルもしたいわダディ」
「そう言うな、若人の本気を受け止めるのも面白いではないか。まぁ、今は休め」
そう言ってウルガモスをボールに戻し、言い争いを続けるダイヤとロイの元に近付いてドカッとその場に腰掛けた。
「お疲れだ。やはり、バトルは良いな!どんな形であろうとも、そこに居る者同士の想いを忌憚なくぶつけ合える!」
「…アデクさんは、俺たちにどんな想いをぶつけてきたんですか?」
「うむ…ワシらはいつでも、バトルの時は”己”をぶつけている。己をぶつけ、相手にワシらの存在を認めてもらいたいという想いをな。ただそれは強制ではなく、お願いみたいなものだ。認められず、相容れなかったことなど星の数ほどあった。何度となくこの鍛えた力で捻じ伏せてきた。
だがそれでも、ワシはこの世界に無数に存在する繋がりを…絆を信じている。ワシにとってバトルとは、絆を生み出し繋ぎ合うためのものなのだ」
ダイヤもロイも、彼らの萌えもん達全ても、アデクの話をただジッと聴いている。
「この世界はとても広く、あまりにも面白い。ヒトと萌えもん…似ているようで全く違うもの達が、こうして互いを認め合い共に在ることは本当に素晴らしいと思うのだ。だが悲しいかな…それが通らぬ場合が、この世界には必ず存在するのだ」
一呼吸おいて、ダイヤの方を向くアデク。その表情は、どこか哀しげな神妙さを見せていた。
「ダイヤくん、君は”正義”が信念だと言った。だが”正義”とは、相対する”悪”がいて初めて成り立つものだ。君にとって”悪”とはなんなのか…それとどう向き合うのか。悩み多き道だろうが、これからの人生で、ゆっくりその答えを見つけて行ってほしい」
ダイヤへの言葉を語り終えた後、今度はロイの方へ向く。
「ロイくん、君は”最強”が信念だと言ったな。力を求めることは決して間違いではない。多くのトレーナーが一度は目指すものだし、大いに目指してほしい。だが、強くなる為に君は一体何を捨てるのか…それを、忘れないでいてほしい」
言葉が終り、みんなの顔が見える場所へ向くアデク。再度持ち上げたその顔は、最初と同じ明るく元気な笑顔だった。
自分の何倍もの年月を重ねた、圧倒的な強さを持つ優しい男のその笑顔は、いったいどんな道を歩んで作られてきたのだろうか。それを推し量るには、ダイヤもロイもまだまだ若すぎた。ただこの人生の先駆者の言葉を受け止めるだけで、今は精一杯だった。
「さぁ、辛気臭い話はここまでにしようか!ワシとのバトルに付き合ってくれた礼をしないとな!」言いながら二つの石を取り出したアデク。黒く渦巻くような見た目の石をロイに、太陽のような形をした橙色の石をダイヤに、それぞれ手渡した。
「これは?」と尋ねるロイ。
「うむ、ロイくんに渡したそれは『闇の石』。君はヒトモシを手持ちに加えているようだしな、彼女の最終進化の為に必要となるだろう。
そして、ダイヤくんのそれは『太陽の石』。こいつはストライクを進化させる為のものだ。なんでも、昔は別の方法で進化するらしかったが、今はこれが必要みたいでな」
「進化の石、か…。良いんですか、こんなものを頂いて?」
「うむ、存分に役立ててくれ!…ダイヤくんにはもう一つ、トゲピーの最終進化に使えるこの『光の石』と悩んだんだが…おそらく、これは要らなさそうだったのでな」
そう話すアデクの目線は、ダイヤの後ろでそっぽを向いていたソーマの方へ向けられていた。だが彼女は、アデクは勿論ダイヤや他の誰とも目を合わせようともせず向き合おうともしなかった。
「ワシはまた何処とも知れぬ旅に出ることにする。じゃあみんな、縁があればまた会おう!ウォーグル!!」
呼ばれて出て来た大きな翼を持つ鳥萌えもんのウォーグルに掴まり空へ飛ぶアデク。豪放磊落な笑い声と共に、彼は空へと飛び去って行くのだった。
「…はぁー、なんか凄い人だったなぁ、ロイ」
「だな。凄いと言う以外、なんて言って良いのか分からねぇジジイだ。うちのじーさんも見習ってほしいもんだぜ」
そんな、ただただ感嘆するだけだったダイヤとロイの元に、一人のジェントルメンが近寄ってきた。
「ホッホッホ、君たちは良い出会いをしたね。あのアデクという人は、先代のイッシュ地方のリーグチャンピオンにしてこの世界で最も『萌えもんマスター』に近いニンゲンと言われている男だよ」
「――…ち、チャンピオン!?あ、あの、アデクさんが…!!?」
「………あぁクッソォ!行くぞお前ら、旅の再開だ!」
「ちょっ、どうしたよロイ!」
「居ても立っても居られないだけだ…!なるほどまったく…あんなのが上に居るんじゃ”最強”になるのも楽じゃないな…!」
手持ち全員を足元に寄せて歩き出すロイ。少し進んだところで、おもむろにダイヤの方へ振り向いた。
「…ダイヤ、俺はまずカントーのチャンピオンになる。カントー最強の座を手にしたら、次は他の地方のチャンピオンを倒す。そして…あのジジイを超えてやる」
キッパリとそう告げて立ち去るロイ。見据えるものを漠然とした現在から明確化した未来に変えて、強さを追い求める少年は力強く歩き出すのだった。
- サント・アンヌ号 個室 -
ロイと別れ、とりあえず休憩しようと戻ってきたダイヤ。日も暮れはじめ、パーティーはもう終わりに近付いている。
茜色の光が差し込む一室に据え付けられたベッドへ横になり大きく溜め息を吐く。色々思い返そうにも、この一日は余りにも濃すぎる一日だった。
「…ロイさんたち、先に行っちゃいましたね」
「また会えるよね、マスター?」
「そうだな、きっとどっかで会うだろうな」
「その時は…きっと、今日より遥かに強くなってるんでしょうね」
「なぁーに!その分ミーたちも強くなってりゃいいってこったZE!」
「…まぁ、それも一理あるわな。っとそうだジョニー。お前用の進化の石…『太陽の石』を貰ったんだが、使うか?」
「ミーが、Evolution?ハッ、悪いがミーはそんなモンに興味はねぇZE。不燃ゴミにでもツッコんどけYO」
「…そっか。まぁでも、折角だし持っとけよ。お前が自分の意思で進化したくなった時、あった方が何かといいだろ」
「こぉの心配性め!しゃーなしだZE、ミスターがそう言うのなら持っててやっか!」
そうしてアデクから貰った太陽の石をジョニーに持たせておく。別に深い理由はない。自分のタイミングで進化できるなら、ジョニー自身の判断に任せて良いのではないかと思ったからにすぎなかった。
そして、進化の石と言えばもう一つ…。
「……なぁ、ソーマ。お前、『光の石』持ってるのか?」
「……だとしたら、どうする?」
「別に、どうもしない。ただ何処で手に入れたのかなって思っただけだ」
寝ころんだまま他愛ない返しをする。だがダイヤの目は、決して閉じることなく天井を見つめていた。
「……ソーマ、良かったら教えてくれないか?」
「……何をじゃ?」
「………ロケット団について。…ソーマの知ってること、全部」
静寂の室内で、波の揺れる音だけが響いている。誰も、何も言おうとはしない。
現在の正義を見つめる為、未来の正義を形づける為…少年たちはその焦点を、過去に移していく。あとは、今必要な一つのピースを持つ、ソーマ次第だった。
小さな銀色の肩が揺れ、溜め息を一つ付いて口を開く。それは諦めか、覚悟か…彼女の表情からは、どちらとも取ることは出来なかった。
「…坊、先に聞かせろ。ロケット団とは関わらず、至極平和に過ごそうとは思わんのか?」
「……それはそれで良いのかもしれない。でも、きっと関わり合いになっていくんだと思う。
俺が”正義”を目指す以上…きっと、逃れられない」
「――よかろう。ならば皆、その耳穴をかっぽじってよく聴いておくと良い。
…ロケット団。その過去と、現在に至る真実をな」
第8話 了
=トレーナーデータ=
・名前:ダイヤ
所持萌えもん…ノア(マグマラシ ♀)
メルア(モココ ♀)
サーシャ(サンドパン ♀)
ソーマ(トゲピー ♀)
ジョニー(ストライク ♂)
ネーネ(ネイティ ♀)
所持バッジ…グレーバッジ ブルーバッジ
=萌えもんデータ=
・名前:ノア
種族:マグマラシ(♀)
特性:猛火
性格:せっかち
個性:ものおとに びんかん
所有技:電光石火、火炎車、煙幕、火の粉
所持道具:無し
・名前:メルア
種族:モココ(♀)
特性:静電気
性格:おだやか
個性:ひるねを よくする
所有技:電気ショック、充電、電磁波、綿胞子
所持道具:無し
・名前:サーシャ
種族:サンドパン(♀)
特性:砂かき
性格:わんぱく
個性:うたれづよい
所有技:ブレイククロー、岩石封じ、砂地獄、マグニチュード
所持道具:無し
・名前:ソーマ
種族:トゲピー(♀)
特性:天の恵み
性格:ひかえめ
個性:イタズラがすき
所有技:指を降る、あくび、悪巧み
所持道具:光の石
・名前:ジョニー
種族:ストライク(♂)
特性:テクニシャン
性格:ようき
個性:あばれることが すき
所有技:電光石火、真空破、気合溜め、高速移動
所持道具:太陽の石
・名前:ネーネ
種族:ネイティ(♀)
特性:マジックミラー
性格:おくびょう
個性:ものおとに びんかん
所有技:ナイトヘッド、つつく、テレポート、おまじない
所持道具:無し