萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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 鬼子と呼ばれ八分にされた少女は、力を恐れながらもその居場所を求めていた。
 揺れる波間で少年は戦友と再会し、共に出会うは太陽を背負う老いてなお盛んなる豪傑。
 力の差をその身に受け、互いに信念を確かめ合い、其々の道へ進みだす。



第9話『空色の未来へ』 -1-

 

 - サント・アンヌ号 個室 -

 

 「――よかろう。ならば皆、その耳穴をかっぽじってよく聴いておくと良い。

 …ロケット団。その過去と、現在に至る真実をな」

 ソーマの言葉を受け、身体を起こすダイヤ。彼の隣にはノアとネーネが、椅子にはメルアとサーシャが、床にはジョニーが胡坐をかいてそれぞれ座っており、全員の目が机の上に座るソーマに向けられていた。

 茶化しや冷やかしは無く、それぞれが神妙な面持ちで彼女の言葉を待っていた。

 「…そうじゃな。先ずは、かつてのロケット団がどんな連中だったか。そこからが良かろうか」ふうっ、と軽い溜め息をつき、ソーマが語り始める。

 「元々ロケット団という組織は、トージョウ…カントーとジョウトにおける、トップトレーナーの集まりじゃった。エリートやベテランの中でも栄え抜きの連中が集い、互いにその力を切磋琢磨しながら更なる高みを目指したものよ。”ロケット”の名の通り、『何処までも果てしなく強く在れ』という事を目標としてな。

 今の蛮行を見るとそうは思えんじゃろうが、かつてはそれほどに崇高な意識を持ち掲げたトレーナー集団だったんじゃよ。…あの日までは、な」

 一度言葉を切り、ゆっくり深呼吸するソーマ。その姿は、なんとか一歩踏み出そうとしながらも恐れで身体が竦んでいる外見相応の子供のように見えた。それを見て思わず「無理に言わなくても良い」と言いそうになるダイヤだったが、先に話を求めたのは誰でもない自分自身だ。ならば、少しでも話しやすく助け船を出すべきだと、拙い思考の中で思い至った。

 「…あの日、って?」

 「……20年前じゃったかな。まだ坊が生まれてもいない頃のことじゃ。…ある悲劇が起きた。

 ……ロケット団が、崩壊した。原因は、シオンタウン全焼事件。坊も、事件の話ぐらいは聞いたことがあるじゃろう?」

 「あぁ…ニュースでやってたのを少し見たことがある。多くのトレーナーが亡くなった事故だって…。でも、ニュースでロケット団の名前は聞いたことが無かったぞ?」

 「元より非公式の組織だったしな。それに協会側としては、自分たちの元に居るジムリーダーや四天王に匹敵するほど強い組織を是とせんかったのじゃろう」

 「なので事故そのものは好都合…非公式のまま存在を揉み消そう、ってことですか。権力者の常ですね」

 「サーシャの言うとおり。表面上は偶然の連鎖で起こった悲劇的な事故で片付けられ、当時の団員は一般のトレーナーとして葬られた。…じゃが、その当時の団員の中にただ一人の生存者がいてな。

 その男は、カントーリーグでの優勝を経てロケット団に入団したヤツじゃった。まぁ可笑しなヤツでな、萌えもんを仲間以上…家族と同じほどの存在として見ておったよ。強さが全てである当時のロケット団の中では、異様な男じゃった。

 …だが、その事件がきっかけでヤツは変わった。名を変え、心を捨て、新しいロケット団を再興…そしてその総帥となったのじゃ。『己が欲望のままに、それを追い求めよ』などと言う、糞くだらん目標を掲げてな…。その結果が、お主らが今まで出会ってきた連中じゃよ」

 「そうだったんですね…。だから、好きに生きたいというのも、ただ戦いたいというのも…。それを私は…」

 落ち込んだ声で呟くノア。先日のオツキミ山での遭遇で、他者を否定して進化した彼女はつい自分の行動の傲慢さを嘆いてしまっていた。そんな彼女の肩を、ダイヤが優しく叩く。

 「ノアの想いと行動は、きっと間違いじゃないさ。俺はそう思う」

 「…ありがとうございます、ご主人様」と、主の言葉に顔を綻ばせるノア。そうだ、己が欲望の為に誰かを理不尽に傷付けることが正しいことであるものか。少年の心は、そんな想いで膨らんでいた。

 「一々イチャつくでないわ己ら。過去の話はこれで一区切り、次は現在の話じゃ」

 「現在の?」

 「うむ。ならず者を集めることに特化したが故に、組織の規模自体は20年前のそれより大規模じゃ。トレーナーの質は低くなったが、その身勝手な精神性も相まってマフィアと呼ぶ声もある。そんなものとわざわざ近寄っても、良いことなど無かろうに」

 その言葉に思わず納得しそうになるダイヤ。君子危うきに近寄らず、との言葉ではないが、わざわざ片っ端から喧嘩を売っていくわけにもいかないだろう。少なくとも自分と仲間たちは、それが出来るほど強くなんかないのだから。

 「降りかかる火の粉を払うくらいは許されよう。じゃが、火消しに回るのはお主である必要など無い。それを生業とする者もいれば、それを為す組織もある。お主のような餓鬼一人が粋がったところで、何かが変わることなど有り得ない。

 …じゃから、必要以上に関わるな。それは、坊が成長してからでも決して遅くはない」

 そこまで言い終えたソーマの顔は、少し優しい笑顔になっていた。だがそれは、どこか哀しみを秘めたような、諦観にも感じられるものだ。

 「…そっか、それぐらいの方が良いのかもな」

 どこか軽い生返事するダイヤ。ソーマの表情を察したのか、急いたことを問えなかった。

 その停滞した静かな空気に水をさすかのように、今度はジョニーが口を開く。その口調は、普段の軽いモノでは無くなっていた。

 「待てよ。そんな悠長な、生温い考えで良い訳ねぇだろ?ヤツらは敵だ。敵はぶっ潰す。悪に上下の区別はねぇんだ…!」

 「よせよジョニー。さっきもソーマが言っただろ?俺らの実力じゃ、まだ何も――」

 「変えられないのなら、変えられる程に強くなればいいだけだ。問題はそこじゃねぇ。その力を、如何に早く身に付けるかだろ?違うかッ!」

 ぐうの音も出なかった。ジョニーの言葉も間違ってなどいない。復讐を掲げる彼だからこそ、強さに固執し敵を討つことに執心している。そして成長にかかる時間を、周囲が大人しく待っていることはないのだ。

 だが、それに対して黙っているソーマではなかった。

 「付焼刃ではロケット団に…いや、あやつには勝てんぞジョニー。あやつは強い。経験も実力もなにもかもが…勝てる相手では、ない」

 諌めるように睨み付け聞かせる。だがジョニーも、それに相対するかのように強い…敵意にも似た目を向けていた。

 「…ソーマ、聞かせろ。何故お前はそんなにもロケット団のことに詳しい。敵の規模、主義、戦力…そこいらの萌えもんが持ってる情報じゃねぇだろう。

 ――お前は、何者だ」

 その場の誰もが疑問に思いながら、敢えて聞かなかった…聞こうとしなかった質問をぶつけるジョニー。周囲の空気が一層冷たく鋭いものになっていくことを全員が分かっていた。

 神妙な顔のまま、ソーマが小さく口を開く。そこから出て来た言葉は、彼らの予想にある中で最も重い返答だった

 「……今話した全てを、妾はあやつの傍で見てきた。妾はその男…今のロケット団総帥であるサカキの、かつての仲間だったのじゃ」

 その言葉を聞いた瞬間、碧緑の刃が空気を切り裂きソーマの眼前で静止した。ソーマとジョニー、交錯する両者の目線はかつてない程の敵意が剥き出しになっている。

 張り詰めた緊張感が室内に蔓延する中、先に声を荒げたのはジョニーだった。

 「テメェ…ッ!!テメェも、ロケット団の一味だったかッ!!」

 「よせ!待てよジョニー!!」と、思わず腰にしがみ付き動きを抑えるダイヤ。ノアとサーシャはソーマの前に立ち、ジョニーの動きに対し身構えている。

 「放しやがれ!アイツは敵なんだろうがよぉッ!!」

 「馬鹿違ぇよ…!ソーマは、俺たちの…!!」

 「…敵か味方か、それを決めるのはおのれらじゃよ。妾は、妾じゃ」

 そう言うソーマの声からは、突き放すような冷たさが感じられた。過去も現在も無く、自分の全てを投げ出すかのような無気力さ。冷徹に睨み付けながらも言葉から感じる諦観さは、此処で斬られて命を落としてもなにも思わぬ者のソレだった。

 抵抗する意思も恨み言を吐く意思でさえも無い無感情な瞳。目線を交錯させていたジョニーだけがそれに気付いた。

 「…チッ、放せよミスター。やってられっか」足蹴にするようにダイヤを振り払うジョニー。思わず尻餅をついてしまいながら、彼の方へ向く。その表情は苛立ちで強張っていた。

 「……ハッ、短い間だったがここまでだなミスター。ロケット団の連中をブッ潰さねぇってんなら、ここに居座る理由もねーぜ。また独りで好きにやらせてもらわぁ!あばよッ!!」

 「お、おいジョニー!!」

 言うが早いか扉を蹴り開けて跳ねるように走り出すジョニー。後を追って外に出るが、その姿は一瞬で見えなくなっていた。

 「行っちまったか…」

 「ご主人様、良いんですか?追いかけなくても…」

 「追いかけても追いつけない、だろうな…。ソーマ、大丈夫か?」

 「あぁ、問題ない。まったく、あのまま放っておいても構わんかったのじゃぞ?ジョニーの言う通り、妾はお主らの敵かもしれんものを――」と吐き捨てる言葉を遮るように、メルアがソーマを強く抱きしめた。空いた掌には、ネーネが両手でキュッと握り締めている。二人とも、ソーマの事を慕っての行動だった。

 「友だちだもん。むつかしいことは知らないし分からないけど、ソーマはメルたちの友だち…」

 「………………」

 「…やれやれ、これじゃからお子様は。のぅサーシャ?」

 話を振られたサーシャは、大きく溜め息をつきながら頭を掻く。眼鏡の奥に見える表情は、完全に困り果てていた。

 「…情報の整理は済んでいるのに、心の整理がつかないと言うのはもどかしいものですね。正直なところ、私は貴方を図りかねています。敵かも知れない。だけど、そう思いたくない…」

 「私は信じたいです。一緒に戦ってくれた、ソーマの事を…」と俯きながらも答えるノア。

 「そうだな…。ロケット団のことも隠さず話してくれたんだ。俺は、変わらずソーマを信じようと思う」

 そう言って彼女の頭にポンと手を乗せるダイヤ。慣れない不器用な撫で方だが、温もりは十分に伝わってきた。

 「……ハッ、何処までも甘い奴らめ」ただ一言、いつもの減らず口を呟く。それがどんな感情を秘めたものなのか、顔を見えないダイヤ達は気付かなかった。

 一室で起こった喧騒が収まった時、窓から覗く海原は茜色から紫紺に染まりはじめていた。日没の時間だ。それに合わせて、明るい電子音が船全体に鳴り響いた。

 『本日は、サント・アンヌ号船上パーティーにご来場いただき、誠にありがとうございます。

 本船は30分後、1900時より出航いたします。乗船券を持たない方、パーティーのみご参加された方はお忘れ物の無いよう下船をお願いします。繰り返します…』

 「…終わり、だな。俺たちも行くか」

 全員の首肯を確認し、全員をボールに戻して歩き出すダイヤ。腰に携えているボールは6個。今連れて歩いているのは5人。たった数日でもその存在を前面に押し出してきた喧しい声が無いことに対し、違和感と喪失感の入り混じった想いを胸にしながら少年は船を下りた。

 豪華客船を背にしながら街に向かって港を歩いていると、汽笛が鳴り響き先程まで自分がそこにいた船が港を離れゆっくりと海へ進みだすのだった。

 

 - クチバシティ 萌えもんセンター -

 パーティーを終え、今日はもう休むべく戻ってきたダイヤ。ジョニーの事は気がかりに思うが、元より復讐と言う目的を果たしたいが為に同行していたのだ。意識の違いで道を違えることなどあって然るべきである。

 一先ずジョニーに対する気持ちを切り替えながら、買った晩飯を持ち込んで簡易宿泊室に座り込む。当面の行動指針を決めなくてはならないのだ。

 「…よっし、気を取り直して明日はクチバジムに挑戦だな。サーシャ、相手は?」

 「クチバジムリーダー、マチス。電気タイプの萌えもんを駆使するトレーナーです」

 「…マチス、か」とソーマが小さく呟く。

 「ソーマ、知っているのですか?」

 「あぁいや、何でもない。続けてくれ」

 「…分かりました。マチスはイッシュ出身で、激しく攻撃的なバトルを得意とするそうです。この辺りは、先日のカスミさんと同じですね。

 ですが、今回はジムがプールになってると言う事はないですしタイプ相性も比較的優勢です。カスミさんの時よりは、勝ちの目は大きいと思います」

 「解説サンキュ。ネーネは相性悪いから選出しないとして、やっぱ今回もノア、メルア、サーシャの3人で戦うことになりそうだな。明日に備えて、今日はもう休んじまおう」

 「そうですね…分かりました、ご主人様」

 「ジョニーがいなくっても平気、だもんねー」

 「まぁ頑張れ。応援ぐらいはしてやるでの」

 「………………(ぐっ)」

 ソーマの軽い言葉の隣で、両手で小さくガッツボーズするネーネ。言葉には出さないが、彼女も頑張れと応援しているようだ。対する4人は笑顔で応え、早々に身体を休めに入るのだった。

 

 

 

 ――その夜。

 脇に置かれたダイヤのボールホルダーから1つのボールが自然と開き、ソーマの小さな姿が顕現した。だらしないダイヤの寝顔を見上げ、フッと小さく笑い背を向ける。

 「……これで良い」

 窓から差し込む月の光が、彼女の小さな身体を照らし出す。その光に導かれるように、小さな窓を開けて独り外に飛び出した。

 彼女が出て行った窓から入る潮の香りが混じった夜風が、安らかに眠る少年の髪を小さく揺らしていた。

 

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