萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第9話『空色の未来へ』 -2-

 

 - 11番道路 -

 

 月光と街灯が輝き照らす草叢の中、小さな白い萌えもん…ソーマが足早に歩いていた。静かな道路からは野生の萌えもん達の気配は少なく、別段襲ってくるような事もなかった。

 丁度良い、そう思いながらさらに足を速める。小さい歩幅を補うように、駆けるように歩むその姿はその場から逃げ出そうとしているようにも見える。

 …いや、彼女は逃げ出したのだ。自分を買い取った少年の元から。どんなに傍若無人で不遜な態度と行動をとっても自らを仲間と、友と呼び受け入れようとしてきた者達の元から。

 (――これで良いんじゃ。あやつらは、これ以上は知る必要などない。正しい心と信念があるのだから、あとは時があやつらを鍛えてくれる。…そこに、妾が居てやる必要はない)

 反芻するように頭の中で言葉を繰り返す。思考の片隅でそれは自己弁護だと浮かんでくるたびに、強く首を振って棄てようとした。そんなことで捨てられるものではないと言う事も、分かってはいるのだが。

 俯いたまま歩いていると、ドンッと何かにぶつかった。思わず見上げてみると、逆光になった月の光でも分かる見知った姿がそこにあった。碧緑の体躯と鈍く煌めく双刃を持った――

 「…ジョニー。この首を掻っ捌きに来たのか?欲しけりゃくれてやるが、迷惑にならんところで頼む」

 ソーマの自嘲めいた軽口に対し、何も言わずに左腕の刃を彼女の首に寄せるジョニー。だが、それ以上刃が進むことは無く、代わりに開いたものは彼の口だった。

 「…お前、なんで逃げようとしないんだ」

 「惜しくないからのぅ。こんな命、あって得などありゃせんわ」

 「なら何故今までのうのうと生きてきた。惜しくもねぇ命を捨てる手段なんぞ、そこかしこに転がってるじゃねぇか」

 「…確かに、お主の言う通りじゃな。この20年間…未練ばかり残してきたのかもしれん。「いつか」「きっと」、”過去<あの日>”に帰れるのだと…。

 本当に可笑しなものじゃわぃ。ならば何故、”現在<いま>”はこんなにも惜しむことが無くなってしまったのかのぅ?ハッハッハ」

 カラカラと、どこか乾いた笑い声をあげるソーマ。その声を聞き、ジョニーは左手の刃を首から遠ざけてその場に座り込んだ。

 「む…ジョニー?」

 「はぁ……なぁソーマYO。おめー、なんでミスターと一緒に居たんだ?」

 「坊に買われた。それだけじゃ」

 「マジにか?あのクソ甘っちょろいクソガキを利用するつもりとか、あったんじゃねぇか?」

 「…まぁ無かったと言えば嘘になるか。売られ買われで生きてきた20年だったからのぅ、マトモにニンゲンを信じることなぞ出来やしなんだわな。ボックスにでも入れて貰って、適当に機を見て逃げればいいかぐらいは考えておったのぅ。元々妾は押し付けられて坊の元に渡ったのじゃし、歓迎はされないと思っておったわい。

 ノアとサーシャなんかも、最初は妾の加入に反対しとったんじゃぞ。特にサーシャじゃ。あの堅物はユーモアというものが知らん。ノアはまだ自分を持たず坊に従っておるだけじゃし、メルは賛成じゃったがあのお天気思考にも困ったもんじゃ。

 …なのに、坊は妾を連れていく選択をした。打算があるのではないかと思った。オツキミ山でなにかやっておったロケット団の下っ端をけしかけることもやってみた。周りが非難の目を向ける中でも、あやつは自分の危機よりも仲間の安全を気にかけた叱責をしてきたわ。

 まったく…どうしようもない甘ちゃんめ。綺麗事だけで世の中を渡って往けると思っておる」

 止め処なく出て来たソーマの言葉を一つ残らず傾聴するジョニー。彼女の言葉は、まだ続いていた。

 「まったく腹立たしい馬鹿者じゃ。誰かが傷付くのならば、代わりに自分が傷付けばいい。誰かが危機にあるのなら、自分の危機を顧みずに助けに行く。誰かが涙を流すなら、自分の全てで止めてやる…。本当は誰よりも弱っちいクセに、何処までも”誰かの為”に立つ愚か者めが。それに感化され、妾を仲間と受け入れた馬鹿者どもが。

 …じゃから、妾のような面倒事を呼び寄せる者が共に居るべきじゃなかったのじゃ」

 最後までソーマの独白を聞き終え、ジョニーが大きな溜め息を吐いた。その姿に、船の中で見た怒りと殺意は感じられなかった。

 「んで、逃げ出したってワケか。ミスターやあいつらの傍から。最悪、その命を棄ててでもあの場所から。ったく、トンだ期待外れだZE」

 「…そう、じゃな。妾はあやつらから逃げた。でもそれで良いんじゃよ。妾なぞ居ない方が――」

 「ちげぇだろ、ソーマ」ジョニーの声が少しだけ低くなる。その眼はソーマの方へ強く向けられていた。

 「さっきオメェ、自分で言ってたじゃねぇかYO。アイツは、何処までも”誰かの為”に立つ愚か者だって。そんな奴の元から何も言わずに逃げ出して、どうなるか想像つかねぇか?どう考えたって探しに走るだけじゃねぇかYO。付き合いの短いミーでもそれぐれぇ分かるZE?

 掴まって逃げてを繰り返すぐれぇなら向き合ってみろよ。それが本当にユーのやりてぇことか、考えてみろよ。…また未練を残して、逃げ回るだけか?」

 「じゃが…じゃが如何すれば良い!?妾には真っ当に戦う力なぞ有りはしない…。必ず坊らの足を引っ張ることになる!…そうなった時、坊の信念に歯止めをかけるのは妾じゃ。そんな愚行、妾は望んでおらん…」

 「だから一人で背負って、独りで全部終わらせればハッピーエンドだと!?知るかよそんな理屈はYO!足を引っ張るんじゃねえかと思うなら、どうやったら引っ張らないかを考えろ!戦う力が無いってんなら、どうやったらそれを得られるのか考えろ!強請んな、勝ち取れ!そうじゃなきゃ、どんなモンでも与えられやしねぇんだよ!

 …今まで未練で動いてたくれぇなら、なんかあんだろ?勝ち取りてぇモンが…おめぇが今まで、ずっと強請ってきたモンがYO」

 「妾がずっと…強請ってきたもの…」

 呆然とした顔で暗い夜空を見上げ思い耽る。彼女の眼に浮かんできたのは忘れようとしても忘れることなど出来なかった懐かしい者達の笑顔。そして、つい先ほどまで傍にいた者達の笑顔。

 数多の絶望、恐怖、後悔に押し潰されて見失っていたもの。楽しさ、喜び、安らぎ…憧憬と化していたいつか見た青空を、彼女は雲の無い暗夜に見ていた。未練を、強請ってきたものを――

 「――それを勝ち取れ、か…。出来ると思うか?妾にそれが」

 「さぁなぁ。でもよ、やり始めなきゃ出来ねぇことと同じだZE!」

 馬鹿の馬鹿らしいほどに明るい笑顔に、思わず顔が綻んでしまう。さっきまで敵意と殺意に満ちていたのに、なんでコイツはこんなに切り替えが早いのか。いや、きっとそうでもなければ復讐に執着することなど出来ないのだろう。コイツはコイツなりに、強請るのではなく勝ち取ろうとしているのだから。

 「まったく…ジョニー、お主は馬鹿の癖に人を乗せるのが中々上手いではないか。人生はEnjoy and Excitingか…それもそうじゃ。どうせ惜しくないのなら、勝ち取りに行くのも一興じゃのう」

 「ザッツオーラィ!んじゃ、ヤル気も無くなったんでミーはオサラバさせてもらうZE」

 「ちぃと待てよジョニー。せっかくじゃし、少し妾に付き合わんかぇ?」

 背を向けたところに声をかけられ、怪訝な顔で振り返るジョニー。彼が見た顔は、不敵で傲慢不遜な笑みを浮かべたいつものソーマだった。

 「…そいつぁ、面白いことか?」

 「あぁ。妾にとってもお主にとっても、互いの利益に通じる面白いことじゃ。…命の方は保証せんがの」ニヤリと告げるソーマに対し、獰猛な笑みを返すジョニー。彼女の過去と自分の目的を照らし合わせ、互いの利益になると言うのならば拒否することなど有り得なかったのだ。

 「――ハッ、最高じゃねぇか」

 

 

 - 萌えもんセンター 簡易宿泊室 -

 

 だらしない顔で熟睡するダイヤ。落ちた意識の中でなにかが聞こえてきた。今まで聞いたことのない、何処か儚くか細く掻き消されそうな…しかし美しく透き通った声。

 『………起きて。………はやく、起きて』と響く声に薄目を開けてみるが、そこには誰も居ない。変な夢だと思いながらもう一度眠りに落ちようとするが、声は一向に止まる気配はない。如何に心地好い声であっても、何処からともなく延々と脳内に響き続けるとそれは不快感に変わるのだ。遂に苛立ちが溜まってしまったダイヤは、止まぬ声の主を探すべく起きだした。その瞬間、声はピタリと静止した。

 「…なんだってんだよ。誰だ、こんな夜中に?」

 ボヤきながら見回す。が、残念ながら周囲に心当たりのありそうな姿は見えない。苛立つままに頭を掻きむしりながら隣のボールホルダーに目をやる。きっちり入った6個のボール。その中の一つがユラユラ動いていた。これは…

 「……ネーネ?どうした、出て来い」

 「………………!」

 「さっきの頭に呼んでたのはお前か?一体どうしたってんだ…」

 「………!………!」と一つのボールをトントンと叩く。それは、ソーマのボールだった。

 「ソーマがどうかしたのか?アイツも結構寝る方だし、安眠妨害したらスゲェ怒られるぞ…?」

 嫌な顔をしながら渋々ソーマのボールを開ける。昨日ここで回復してもらった時は、正常なバイタルと出ていたんだしボールの中なのだから急病とかそういうことは考え辛かった。それよりも無理矢理起こしたこの後の制裁が怖いだけだったのだ。次の瞬間までは。

 「……ソーマ?」

 ボールからは何の反応もない。カチカチという開閉スイッチの音だけが空しく響いている。

 「――あれ?お、おいソーマ!?」嫌な寒気が背筋を走り、眠気が一瞬で覚めた。すぐさまボールを開いて中を見てみると、そこはガランとしたもぬけの殻になっていた。

 さっきまで居たはずの者が居ない。何故どうしてという思考に包まれたダイヤは、思わずその場に固まってしまった。それを呼び戻すように、ネーネが手を握り引っ張る。思わず向いたダイヤの焦り顔と、交錯した。

 「…ネーネ、いつ知った?アイツが居ないことを、いつ!?」

 「………………(ふるふる)」思わず首を横に振るネーネ。知らない、と答えたつもりだったのだろうが、今のダイヤにそれを解する余裕は無かった。

 「言わなきゃ分かんねぇだろ!」

 「!!」

 思わず布団を殴りながら怒鳴りつけてしまう。それに驚いたネーネの顔を見て、ハッと我に返るダイヤ。これではつい先日の、ハナダの時と同じだ。落ち着けと心の中で唱えながら深呼吸一つ。

 「…悪い、すまん、ゴメンよ、ネーネ…。こんな簡単に謝って済むようなことじゃないけど…。クッソ…」

 本気で悔いているのか、顔を左手で覆うダイヤに、ネーネが再度手を添えてきた。指先だけ触れた小さな手は小刻みに震えており、未だ恐怖を残していると察することが出来た。

 ゆっくりネーネの方へ眼をやると、彼女の空いた手がどこか彼方を指差していた。そこに見えたのは、小さく空いた窓だ。

 「…ソーマ、あそこから出て行ったのか?そうなんだな、ネーネ?」

 「………………(こくん)」

 「よっし…。ありがとう、ネーネ。あと、怒鳴ったりして本当にゴメン…。ソーマを探すの、手伝ってくれるか?」

 「………………(こくこく)」

 重ねる首肯に笑顔で返し、小さく震える手を優しく握り返した。せめてもの謝罪ではないが、自分の馬鹿さを悔いるのは後回しだと思うようにしたのだ。

 すぐにボールホルダーを腰につけ、ボール用無線イヤホンを耳に取り付ける。空いた窓から身を乗り出し、すぐに周囲を確認する。無論、近くに姿が見えるわけがない。当然の結果に慌てることもなく、窓から外へ飛び出した。駆け出しながらイヤホンのチャンネルをノア、メルア、サーシャの3人に合わせてすぐに声をかける。

 「悪いみんな、起きてくれ!緊急事態だ!!」

 『んゅぅ~…なぁに、ますたぁ~…』

 「…ソーマが、居なくなった!」

 『…えぇっ、ソーマが!?ご主人様、それは――』

 「本当だよ!こんなことで嘘なんか吐けるか!今探しにでたところだから、みんなにも手分けしてもらう!」

 『了解ですマスター。すぐに出してください』

 「3人とも頼む!」声と共に3つのボールを放り投げ開放するダイヤ。それぞれの中から3人の萌えもんが飛び出して、ダイヤの前に現れた。

 「ご主人様、指示を!」

 「あぁ。ノアとサーシャは北の6番道路を、俺はメルアとネーネを連れて11番道路に向かう」

 「了解です。見つけたらふん縛ってセンターに連行しておきますね」

 「頼むな。メルア、ネーネ、行くぞ!」

 「はーいっ!ぜったい見つけるんだからっ!」

 「………………!」

 二手に分かれて走り出す一同。駆け出すその足はこれまで以上に急いていた。

 

 - 6番道路 -

 

 「ソーマ、どこですか!?居るなら返事してください!」

 髪を燃え上がらせ、自らを松明代わりにしながら呼びかけるノア。だが周囲から返事は無い。安易に草叢を燃やす訳にはいかないので、そっちはサーシャに任せて目印になることを心掛けていた。だが一向に変わらぬ状況に、徐々に焦りが襲い掛かってくる。

 額に滲んだ汗を拭って一息ついたところで、眼前の草叢からサーシャが出て来た。

 「サーシャ、どうでした!?」

 「ふぅ…残念だけど、こっちにも居なかったわ」

 「そんな…!」

 「落ち着いてノア。まだマスターの方もあるわ」

 落ちた肩を叩きながら、ノアを励ますように言うサーシャ。サンドパンに進化したことでその体格はマグマラシのノアよりも大きくなり、優しさに力強さも合わさっているようだった。

 「…でも、なんでソーマまで…」

 「ジョニーには元々ロケット団に復讐するという最大目標があったし、離れるのは納得いくわ。でもソーマは…」

 「ロケット団総帥の仲間だったっていう過去を打ち明けて、それを負い目に感じたとか…?」

 「かもしれないわね。でも、本当にそれが負い目ならば今このタイミングで脱走する理由が薄い。

 何故今、何も言わずに?一緒に居たくないだけなら最悪ボックスに隔離することだって出来るはず。みんなは嫌がるだろうけど、パーソナルを消してソーマを逃がす提案と選択も出来るはずよ。

 なのに、ソーマは何をそんなに急いだのか…」

 二人して思案する。ソーマの行動と言動に彼女の真意を知るポイントが無いかどうか。

 「…明日を一緒に迎えたくなかった?明日私たちは、クチバジムに挑戦するだけだったけど…」

 「クチバジム…そういえば、あの時…」

 ノアの呟きでサーシャが思い返す。夕食の時にジムの話をしていて、その中でソーマが過敏に反応した瞬間があったことを。

 「クチバジムリーダー、マチス…。ノア、確かその名前を聞いた時、ソーマが呟いてたわよね?」

 「えぇ、たぶん…。ポツリと呟いただけだったから、あまり気にはしてなかったけど…」

 「きっと何かあるのね…。ノア、先にマスターのところへ戻ってあっちを加勢してきて。私、少し調べてくる」

 「…うん、分かった。気を付けてね、サーシャ」

 サーシャの考えは読めなかったが、聡明な彼女が言うのだ。きっと無駄なことではない。そんな確信がノアにはあった。

 彼女を信じて走り出すノア。持ち前の高い素早さが、少しありがたく感じていた。

 

 一方、11番道路。

 「ソーマぁ、どこぉー!?ねーえー!!」

 声を上げて姿の見えない相手を呼ぶメルア。定期的に電撃を天へ放出することで自分の居場所をダイヤに分かるようにしながら、草叢を潜り続けていた。

 また別の草叢には、ダイヤとネーネが一緒に草を掻き分けながら辺りを見回している。だが何処にもまったく、探している小さな彼女の姿を見つけることは出来なかった。

 「ちっくしょう…どこに居んだよソーマぁ!」

 ただがむしゃらに探すダイヤ。右往左往しながら、しかしその全てが徒労に帰していた。そんな彼の元に、1人の萌えもんが飛び出してきた。大きな紫色の髪と服が印象的な、アーボックだ。

 「やれやれ、うるさいねぇ…こんな夜中に迷惑だと思わないかい?」

 「お前、確か昨日の…?」

 「顔はちゃんと覚えてるんだね。まぁいいよ。そんなことよりさっきからうるさくて困ってんだ。野生の暮らしを侵すってんなら容赦しないよ」

 「わ、悪い…!でもソーマが…うちのトゲピーがどっか行っちまったんだ。だから探さないと…!」

 「なんでだい?」睨むような顔を続けたまま、アーボックがダイヤに平然と質問した。

 「なんで、って…だって、ソーマは俺の仲間、だし…!」

 「仲間なら萌えもんを拘束しても良いって言うのかい?都合の良い時だけ仲間面して、萌えもんから自由を奪うことがトレーナーのやることだもんね」

 アーボックの言葉が胸に突き刺さる。彼女の言葉は何も間違っていない。ソーマが自分の元を去ったのが自由意志なら、自分の行いは傲慢以外のなんであるのか。その傲慢を押し通すのなら、ジョニーが去った時も今と同様に探して捕まえるべきではなかったのか。

 自分の行動の傲慢と矛盾を突き付けられ、思わず歯軋りして動けなくなるダイヤ。しかし、戦う必要が無いのなら構ってなどいられない。ソーマを探したいというのが、彼の頭にある最優先事項なのだから。

 「…そっちが戦う気が無いのなら邪魔しないでくれ!俺たちは、あいつを探さなきゃいけないんだ…!」

 「だから何度も言わせんなよ。アンタらニンゲンは、そうやって手前勝手に萌えもんを束縛したいだけなんだろうが」

 蔑むようなアーボックに睨まれながら、それでもダイヤは自分の意見をただ口にした。

 「確かに俺は、自分の勝手で都合の良い仲間面してるのかもしれない。気にしてるつもりでも知らずにみんなの自由を侵してるのかもしれない。でも、だからこそ理由が知りたい。出ていくってんなら、ちゃんと理由を聞いてからにしたいんだ…!」

 「ふーん、大したご高説だ。だがその理由を聞いて、アンタは素直に納得するのかい?身勝手に手放したくなくて、すぐに仲違いするんじゃないかねぇ。縄張り同士、仲間との和を重んじるあたしら野生と違って、ニンゲンの想いってのはいつだって身勝手だものなぁ」

 「…かもしれない。でも、仲間を心配する気持ちは野生のそれと何が違う?種族が違って、力が違って…それでもみんなで笑い合えることは、想い合えることは、君らのそれと何処が違う!?

 俺はそれを守りたい…。いや、守るって決めたんだ!仲間たちの笑顔を!それが俺の信念…”正義”なんだから…ッ!!」

 只々真っ直ぐに思いの丈を言葉に変えて解き放つダイヤ。難しいことは分からないし分かりたくもない。それでも仲間が心配というこの気持ちに嘘なんかないのだ。今はもうハッキリと断言できる。この気持ちこそが、彼にとっての”正義”であるのだと。

 胸を張ってそんな信念を語るダイヤの前に、ネーネが小さな手を広げて出てきた。

 「ふぅん、やる気かい?いくら特異能力を持ってたところで、バトルも碌に出来ないぼっちが私に勝てると思うなよ」

 「そうだネーネ。お前、バトルは嫌だって…」

 「………………(ふるふる)」

 首を横に振るネーネ。彼女は決して退こうとはしなかった。やはり声は出さないし、表情の変化に乏しい顔は、何を考えているのかやはり読み取りづらい。だが手を広げ続ける彼女の姿から、なにか頑ななまでの意志は伝わってきた。それを察したのは、相対するアーボックだった。

 「…恩義かい?自分を迎え入れてくれたそのニンゲン達に対しての」

 ネーネは身体を動かさない。首肯すらしないが、それはある意味肯定しているようなものだった。

 「私には分からんね。自由を奪い取り、仲間から引き離すニンゲンに対し、何をそんな恩義に感じることがあるのか」

 「………………」

 「聞く耳持たず、って感じだね。でもね、私と戦ってどうする?そんな暇あるのかい?小さな鬼子のお嬢ちゃん、アンタがやることはそれで良いのかい。もう分かってんだろ?探し物の居場所、その行方、見つけ出す方法を」

 「………………」

 「本当なのか、ネーネ…!?」

 ダイヤの問いに、思わず目を逸らすネーネ。彼女のその仕草は少し怯えているようにも見えた。さっき不用意に怒鳴ってしまったからか、それとも彼女の持っている”力”のことか。

 本当のところは分からない。だが、今のアーボックの言葉と先日聞いたソーマの言葉、その2つが蘇ってきた。

 『自分を迎え入れてくれた恩義』 『目的を満たす為に、身体と命を預けている』

 それらを繋ぎ合わせ、彼なりの不器用な結論を考え至る。そしてダイヤはまたその場に座り込んで、ネーネと目線を合わせた。

 「…ネーネ、頼む。本当にソーマを見つけ出せるんなら、その力を使ってくれ」

 「………………」

 「怖いと思う。そいつのせいでずっと独りぼっちだったんだもんな。だけど…月並みだけど、俺は絶対にネーネを独りにはさせない。拒絶も否定も、絶対にしないから。…だから、頼む」

 自然と頭が下がっていた。そうする以外に頼み方を知らなかったからと言うのもあるが、只々誠心誠意、トレーナーが手持ちの萌えもんに頭を下げるという異様な光景が広がっていた。

 少しの間を置き、ダイヤの頭にふわりとした感触が広がる。一瞬の思考停止の後に分かったのは、ネーネがその小さな身体で自分の頭を優しく抱いていたという事だ。ハッと頭を上げると眼前には小さな彼女の顔。か細い笑顔に、眼には涙が浮かんでいた。そして、小さくその口を動かした。

 『あ、り、が、と、う』

 やはり声は聞こえなかったが、ダイヤの頭には確かにそう聞こえた。さっき自分を起こしてくれた、儚く美しく透き通ったあの声で。それで、十分だった。

 「…こっちこそ、ありがとうネーネ。やってくれ」

 「………………!!」

 ダイヤの指示を受けた直後、ネーネの身体から桃色の光が揺らぎ溢れ出した。精神の感応を行う特性であるシンクロ。本来は他者…生物を対象にするものだが、彼女の持つ異能はそこに留まらなかった。”世界”にシンクロする事で過去と未来を幻視する…。それは、進化態であるネイティオの力でもあった。ネーネはその小さな身体に、それほどまでの力を秘めていたのだ。マジックミラーという稀少特性を併せ持ちながら。

 ネーネを中心に光が広がり、やがてその念力は彼女の小さな身体を宙に浮かせていった。燦然と輝く大きな瞳に何が見えているの分からないが、きっとそれは、自分たちが今求めているものだと思う。

 その異変を察知したのか、ダイヤの元にやって来たメルア。少し遅れてノアもこの場に現れた。

 「ご主人様、これは…」

 「ネーネだ。ソーマを探すために、ちょっと本気でシンクロを使ってくれてる」

 「キレイ…ネーネ、すっごい…」

 「そうだな…。なぁノア、メルア、ああやって心を読むネーネ、怖くないか?」

 「なんで?なんにも怖くなんかないよ?」

 「純粋に、凄いと思います。私たちの仲間が、こんな誰かを助けられる力を持ってるなんて…誇らしいじゃないですか」

 「あぁ、そうだな…!」

 3人でネーネを見守る。やがて光が収まり、降りてきたネーネがその場でグッタリと倒れてしまった。

 「ネーネ!?お、おい!」すぐに駆け寄り抱きかかえるダイヤ。小さく軽い身体に、力は感じられなかった。小刻みに息を切らしながら、そっと目を開けてなんとかダイヤに目線を合わせた。するとすぐ、彼の脳裏に声が響きだした。

 「ネーネ、しっかり!」

 「だいじょうぶ!?平気!?」

 『………ごめん、なさい。………つかれ、ちゃい、ました』

 「――えっ、ネーネ…お前、ちゃんと話が…!?」

 思わず頓珍漢な事を聞くダイヤ。だが隣にいるノアとメルアは、彼が何を言っているのか分からないというような疑問符の浮かんだ顔をしていた。

 『………念、話、です。………あるじ、だけに、しか…でき、ない…』

 「あ、わ、悪い」

 『………ソーマ、ここ、いた。………ジョニー、一緒。………まちの、ほう、いった』

 「…街の方?クチバに戻ったってことか…。でも、ホント凄いなネーネ。そこまで分かるなんて。もうボールで休んでてくれ。何かあったら、またこっちでな」

 「………………(こくん)」笑いながら頭を指差し、念話をジェスチャーするダイヤ。ネーネの小さい首肯を確認し、彼女をボールに戻す。これほどまでに疲労させてしまっては、もう彼女に負担を負わせることは出来ない。

 「ねぇマスター、何がどうなったの?」

 「あぁ、悪い悪い。ソーマは街の方に行ったんだってさ。ジョニーも一緒だそうだ」

 「ジョニーも!?ご主人様、ソーマは大丈夫なんでしょうか…」

 「ネーネのシンクロじゃ、別に酷い光景は見えなかったってさ。急がなきゃいけない状況なのは変わらないけど、まだ大丈夫だろう」

 「そうですね…。急ぎましょう!」

 そう言って急かすノア。走り出す前に、ダイヤはアーボックの方へ向いた。

 「…ありがとう、って言った方が良いのかな?」

 「さぁね、アタシはただ起こされて腹立ったから出て来ただけさ。でも、その鬼子ちゃんの光を見れて満足しちまった。この辺のネイティどもへの良い話のネタになりそうだよ。アンタらが忌み嫌い棄てたヤツは、アンタらよりも遥かに仲間想いの良い娘だってね」

 相対していた時とは打って変わった気さくな笑顔で草叢へ去るアーボック。改めて彼女の野生としての強さと優しさを心に刻みつけ、ノアとメルアを連れて走り出した。

 

 クチバの街に着いたところで、手荷物を抱えたサーシャと合流した。彼女が持っていたものは、ダイヤの上着と鞄、キャップだ。

 「マスター、こちらを」

 「サンキューサーシャ、流石用意が良い。来る途中ノアから聞いたけど、マチスのことでなにか分かったのか?」

 「…まったく嬉しくない事実が分かりました。嫌な予感が当たらないことを祈るだけです。そちらの成果は?」

 「ネーネが頑張ってくれて、足取りは掴めた。…サーシャの口振りからすれば、悪い予感はドンピシャだろうな。

 …ソーマは今、クチバジムにいる。ジョニーも一緒だ」

 「はぁ…その名前一つでこんなにも状況が読めなくなるとは、思いも寄りませんでしたよ」

 走りながらそこまで話を済ませる。装備もちゃんと済ませてあるが、目的の建物が近付くにつれて不安ばかりが募ってしまっていた。

 港の傍に建てられたトレーナー施設であるクチバジム。深夜にもかかわらず、窓からは光が漏れだしている。

 ジムの扉の前に到着したダイヤ達。草木も眠る時間になおも輝くその施設に、少年は初めて強く戦慄するのだった。

 「…ここを取り仕切るジムリーダー、マチス。彼はジムリーダーでありながら…ロケット団の、一員です」

 

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