萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第9話『空色の未来へ』 -3-

 

 - クチバジム -

 

 稲光が走り、鮮烈な黄光色がバトルフィールドを支配していた。

 片方…ジムの奥側には迷彩色の軍服を着て、サングラスをかけて金髪を短く尖らせた筋骨隆々の男が一人、腰に手を当ててそびえ立っていた。この男こそが、クチバジムリーダーのマチスである。

 彼の前には鉄色の円盤に乗った3人1組の萌えもんであるジバコイル、黒く尖った耳に濃いオレンジの服を着て長い稲妻型の尻尾を持っている萌えもんのライチュウ、明るい黄色に黒いラインが通り後頭部からコードのような2本の尾毛が伸びているマチス同様に筋肉質な萌えもんであるエレキブル。この3人が立っていた。

 相対するフィールドにはソーマとジョニーが傷だらけで倒れている。衆人環視は無かったが、誰がどう見ても完全敗北の様相であった。

 「HeyHeyHey!せっかくチャレンジに来たってのに、お前らの実力はそんなもんかぁ!?」

 「ガッデェェェェム…!こんな簡単にやられるたぁYO…!!」

 「…流石に、妾達2人で戦うのは無理があったか…」

 「ハハッ、まぁ安心してくれていいぜ。Msソーマ…お前はロケット・ウォンテッドリストのトップに君臨してるからな。そう簡単に潰すわけにはいかねぇんだ」

 マチスの低い声がソーマとジョニーに向けられる。彼の口振りからすると、どうにもソーマを生きたまま捕らえたいらしい。恐らくは彼女の捕らえることで得られる報奨は莫大なものになるのだろう。それを下っ端が知らないのは、利権渦巻く組織体制にあるからかもしれない。

 「でもまぁ、そっちのストライクは潰しちまって構わないよなぁ」と標的を射殺す兵士の目を倒れているジョニーへ向けるマチス。やたらに歯向かってきた面倒な相手だ。体力を奪ったのなら回復される前に戦闘力を殺ぎ落とす。そんな徹底された攻撃の指示を、エレキブルに出した。

 「脳天をカチ割ってやれ、エレキブル!雷パンチだ!!」

 「イエス、サー」

 答えと共に高くジャンプし、急降下しながら電撃を纏った拳を振りかざすエレキブル。その眼はジョニーの頭部を狙い澄ましている。直撃への諦めが入った眼で襲い来る相手の姿を見ていると、ジムの中に新たな人間の…ダイヤの大声が響き渡った。

 「ノア!電光石火ッ!!」

 「たああああああああッ!!」

 一瞬で最高速に達した光を纏うノアが、ジョニーの寸前で大きくジャンプ。襲い掛かるエレキブルを身体で叩き落とした。

 大したダメージじゃなかったのか、問題なく着地するエレキブル。それとは逆に、ジョニーを庇うような形で彼の前にノアも着地する。彼女の髪は、既に戦意の炎で燃え盛っていた。

 「What's happened!?」

 「悪いがメンバー交代だ。メルア、サーシャ!」ダイヤの声と共に、ノアに合流する形でソーマ達の前へ立つメルアとサーシャ。突然の出来事に一瞬焦りを見せたマチスだったが、改めて冷静にダイヤへ問う。

 「…ボーイ、大人をからかっちゃいけねぇよ?なんで入ってきたのかは知らねぇが、そこの奴らはこっちへ殴り込みに来たんだ。だからぶちのめした。いわゆる正当防衛ってヤツさ。

 それをわざわざ正義の味方ぶってザコの側に着いたって、ボーイが痛い目見るだけだぜ?」

 「…いくつか指摘させてもらうよ。

 一つ、そこの二人は俺たちの仲間で、俺たちはそいつらを助ける為に来た。だからアンタに殴り込みに来たのも、俺たち全員の意志だ。

 二つ、俺たちはまだ力不足だとは思う。だけど、仲間をザコ呼ばわりされて大人しく出来るほど俺は人間出来ちゃいない。

 そして三つ。…”ぶってる”んじゃない。――俺は、”正義の味方”だッ!!」

 高らかに語るダイヤ。それは虚勢だったのかもしれない。だが虚勢だとしても、ここでそれを叫ばずにはいられなかった。自分にとって大切な信念…それを教えてくれた存在が目の前にいるのだから。傷だらけで倒れているのだから。理由など、それだけで良かった。

 「…ククク、ハッハッハァー!中々いいハッタリだぜヒーローボーイ!じゃあこっちは悪党らしく、容赦の欠片もなく攻め潰してやる。覚悟は良いな!!」

 マチスの言葉に気圧されるダイヤ。同じロケット団員でも、下っ端とは格が違う…同じジムリーダーでも、タケシやカスミの時とは種類が違う大きな重圧が眼前の男から感じられていた。

 今更後悔している暇はなく、正面からぶつかった以上打ち倒す以外の選択肢も存在しない。強い重圧の中でなんとか思考を回転させ、正否も分からぬ答えを弾き出した。

 「…ノアはさっきぶつかったヤツ、サーシャは円盤に乗った3人組、メルアは残った1人、それぞれ臨機応変で当たってくれ。俺はすぐにジョニーとソーマを回復させる。ちょっとキツいけど、5人になればどうにかなるだろ…!」

 「了解ですご主人様!私たちにお任せを!」

 「…まったく、考えなしの行き当たりバッタリな作戦は勘弁してくださいなマスター。まぁ、今は愚痴ってる場合じゃないですね!」

 「あのおじさんはソーマをいじめた悪い人!メルだって怒るんだからね!」

 「頼むぞ、3人とも…!」

 「ハッ!指示も無しにどうにかできると思うんじゃねぇぞガキがぁッ!!」

 襲い掛かるエレキブル、ジバコイル、ライチュウの3人。それに対して向かい合い、迎撃を開始するノア、サーシャ、メルア。3人同時のエンカウントは、マチスの声から一瞬のことだった。

 その交戦が始まった瞬間に、すぐさまソーマとジョニーを抱えて待機エリアまで戻るダイヤ。この乱戦状態だとそんなものがどこまで通用するかは見当も付かなかったが、あのままバトルフィールドに捨て置くよりは圧倒的にマシだろう。

 そんな場所で戦ってくれている3人の心配をしながら、まずはジョニーの回復を優先させる。理由は勿論、即戦力になるからだ。が、それを簡単に受けるジョニーではなかった。

 「Heyミスター、何しに来やがった!帰んな、お呼びじゃあねぇZE!!」

 「うっせぇ暴れんな!手当てできないだろうが!!」と罵倒しながら、傷口の大きいところにスプレー形式の回復薬である良い傷薬を吹き掛け、携帯式の包帯で無理矢理傷口を縛る。小さい傷にはスプレーだけにしたり、絆創膏を貼ったりするに留める。これぐらいの傷ならば、後でセンターの治療を受ければ全部綺麗に治るからだ。

 「とりあえずこれで表面の傷は塞いだ。骨は大丈夫か?見た感じ変に曲がってるところは無いけど…」

 「お、おぅ、モーマンタイだZE」

 「じゃあすぐにコイツ食っとけ。来るまでに拾っといて良かったぜ」言いながら、鞄の中から青い木の実を3つジョニーに差し出した。体力回復が見込める、オレンの実だ。

 「ミスター、なんでそこまで…」

 「…悔しいけど、アテにしてんだぜお前を。気に入らないと思うけど…力、貸してくれ」

 「……ハンッ、しゃーねぇなぁ!食ったら加勢してきてやんZE!」

 「サンキュ。次、ソーマだ」

 可能な限り手早くジョニーの治療を終えて、今度はソーマに向き合うダイヤ。フィールドの方ではマチスの怒号にも似た指示と何度も撃ち落とされる雷撃と地面が抉れる轟音が響いている。

 ノアは電光石火の要領でエレキブルの攻撃を回避しながら、雷パンチとかち合うように火炎車をぶつけあっている。が、さすがに等倍の相性。攻撃がぶつかり合う度にそのダメージは蓄積されている。

 サーシャはジバコイルを相手にしているが、空中から放たれる攻撃に四苦八苦していた。乱れ撃たれるラスターカノンや電磁砲に足を止められ、満足に反撃できずにいる。その上響いてくる嫌な音が彼女を惑わせていた。電気タイプの技は効果が無いとは言え、一方的に攻められては不利に違いない。

 そしてメルアの相手ははライチュウだ。自分よりはるかに高い素早さで翻弄してくる上、10万ボルトや放電といったメルアよりも強力な電気技に加え、接近戦では鋼技のアイアンテールまで使ってくる。なんとか綿胞子や充電で防御を固めているものの、こちらもまたロクな反撃が出来ずにいるのは目に見えて明らかだった。

 贔屓目に見ても圧倒的に劣勢。勝ち目があると言っていた寝る前のミーティングを反省したいところ…なんてことを考えてる暇もあまり無い。

 「…悪いなソーマ、さっさと治療済ませるぞ」鞄から新しい良い傷薬を取り出しながら言う。そんなダイヤに、ソーマが呼びかけた。

 「…なんでここが分かった、坊?」

 「ネーネが、な。シンクロを使って見つけてくれたんだよ。今はちょっと疲れ切ってボールでお休みだけどな」

 「なんとまぁ…まさかそこまでの力を持っておったか。妾の目を持ってしても読み切れなんだわ」何処か力なく笑うソーマ。されるがままに治療を受けながら、言葉を続けていく。

 「…なぁ坊よ。お主は…いや、お主らはみんな、何故ここに来たのじゃ…?」

 「決まってんじゃんか、んなもん。俺たちはお前の仲間だぜ?」

 「そんな理由でか?その程度の理由で、妾を探しておったというのか…!?」

 「そんなとは何だ!俺のみんなも、ソーマが居なくなってスッゲェ心配したんだぞ!?ネーネが真っ先に気付いてくれなきゃ、どうなってたか…!」

 「じゃ、じゃからってのぅ…!それに、妾と一緒に居れば、坊たちまでロケット団に関わる羽目になるのじゃぞ!?あのマチスだってそうじゃ…知らないままならただのジムリーダーで済んだじゃろうに…!なのに、お主らは…!」

 傷薬、絆創膏、包帯を駆使してソーマの傷を覆い隠していく。異議を唱える彼女の声は、歯軋りするかのように固まっていた。

 「…きっとただでは済まぬ…。じゃから、妾は…!」

 「出ていこうと思った、のか。だったら尚更、独りになんか出来ねぇよ」

 「なぜじゃ坊…お主らが関わる必要なぞ無いと言ったろうに…。渦中に入り込み、自らを傷付けるなど、ただの愚劣な行いに過ぎんというのに…!」

 「…でも、それじゃお前を助けることは出来ないだろ?」

 ソーマを顔を向き合わせ、真面目な表情を変えずにハッキリと言う。向き合う彼女の顔は、また少し呆然としていた。

 「仲間を助けること…仲間の笑顔を守ること。身体を張ってそれをやろうとする想いが、俺の信念…俺の正義。それを知る切っ掛けをくれたのはジョニーだし、それを教えてくれたのはソーマ、お前だ。

 理由なんかそれでいい。俺もみんなも、お前を助けたかった。お前の笑顔を守りたかった。…それだけだ」

 真っ直ぐと、自然な笑顔でソーマに答えるダイヤ。彼の思う正義とは、悪を駆逐することではなく不条理に脅かされている者を救うことなのだ。自分に大した力が無くても、それぐらいなら出来ると信じたい。

 襲い来る災いから誰かを守る壁ぐらいには…共に立ち、手を差し伸べることぐらいは。

 「…まぁそれに、ロケット団ってなるとお誂え向きな悪党だ。そいつを叩き潰すなら、正義の味方の役目じゃんか」

 「――正義、か…。そうか、そうじゃったな…。まったく、そんな小恥ずかしいことを平然と吐かしよって…この阿呆が」

 そこまで言い終えたソーマの頭を軽く撫でる。それは治療の終わりを告げる仕草だった。そしてその隣には、既に元気を取り戻して小さく跳ねているジョニーの姿もある。一瞥くれるだけで、すぐに行動に移した。

 「ジョニー、メルアの相手に電光石火を叩き込めッ!ソーマはサーシャに向けて指を振る!何が出ても俺が対応するッ!!」

 「っしゃおるぁあああああッ!!」

 「フン、一丁前に抜かしおるわ!」

 すぐさま光を伴うトップスピードに持っていくジョニー。最初の標的をライチュウに合わせ、特攻する。

 「メルア、綿胞子で相手の視界を遮るんだ!」

 「マスター!りょーっかい!!」

 ふわふわの綿毛を眼前に飛ばし、ライチュウの視界を遮ってしまう。相手の技を考えれば有効な手段とは言えないが、此方はもう一人ではないのだ。

 「ライチュウ、放電で全部弾き飛ばせ!!」

 「イエッサー」と電撃を広範囲に広がる綿胞子に浴びせることで、細かな胞子が黄色い花火のように弾け飛んだ。その輝きに包まれた瞬間、響き渡る音に負けないようダイヤが叫んだ。

 「背後だ!」 「まぁかせろYOoh!!」

 刃で地面を抉り、ブレーキングを行いながら変則的な挙動でライチュウの死角に回り込むジョニー。速度を可能な限り落とさず、光の中から高速接近。空中で姿勢を変えながら、延髄切りのような足の一撃をライチュウに叩き込んだ。

 前に倒れるライチュウを確認し、小さくガッツポーズをした直後に目線をサーシャの方へ向ける。相手のジバコイルは、再度電気エネルギーを溜め込んで電磁砲を発射する体勢になっていた。そこに振った指で相手を指すソーマ。瞬間、浮いていたジバコイルの動きが固まり地面に押さえ付けられて震え出す。円盤に乗っている3人のコイルたちも、この異変に慌てていた。

 「…これは、”重力”?」

 「サーシャ今だ!マグニチュードを叩き込んでやれ!!」

 「なるほど、そういうことですか…!」一瞬だけ背後を確認し、動けないジバコイルへ突進するサーシャ。そして射程範囲に入ったところで、地面を両の拳で叩き付けてマグニチュードを発生させた。中程度の威力だったとはいえ鋼と電気という地面タイプに弱い2つのタイプを併せ持つジバコイルには想定以上のダメージとなり、たまらずマチスの元に転がっていった。

 そこまで目視で確認し、最後はノアと対するエレキブル。反撃の算段はすぐに浮かび、思考は声と変わっていた。

 「ノア、距離をとって火の粉!サーシャは砂地獄、ジョニーは真空波!アイツをブッ倒せ!!」

 「――はいッ!!」

 返事と共に後ろへ下がり、火の粉を放つノア。そこへ重なるようにジョニーの真空波が合わさり浴びせているところへ、砂塵を巻き上げるサーシャの砂地獄がエレキブルの動きを封じる。3人一組の連係攻撃に、相手のエレキブルも吹き飛ばされてダウンした。

 それを見届けながらダイヤの元へ戻るノアとサーシャとジョニー。既に戻っていたソーマとメルアに笑顔でハイタッチし、すぐさま戦闘態勢に戻した。

 「…さぁ、こいつでどうだ…!?」

 「…ハハハハハ、なるほどなぁ…バーリトゥードなサバイバルマッチとはいえ、中々やるじゃねぇかボーイ。その腕がありゃあ、ロケット団の中でも結構イイとこいけるんじゃねぇかぁ?

 ま、正義の味方やるようなスイーツボーイにはンなこと言っても無駄だろうがなぁ。おら、起きろお前ら!」

 マチスの言葉が称賛なのか嘲笑なのかは分からないが、彼の指示によって起き出した相手3人の姿を見てこれだけは分かった。これでもまだ、倒すには至らないと。

 「いいぜぇ、本物の…ガチのバトルってヤツを味わわせてやる!ライチュウ、波乗り!!」

 彼の指示と共に、ライチュウが水のエネルギーをかき集め大波に変えて解き放つ。巨大な水により全体を押し流す、水タイプの秘伝技…普通の野生種では覚えることのない技を、マチスのライチュウは繰り出してきた。

 「そんな、水タイプの技なんて…!」

 「くっそぉ!みんな集まれ!サーシャ、岩石封じでバリケードだ!!」

 「り、了解!!」

 すぐに全員を集合させ、サーシャの岩石封じで直撃を避けようとする。それが今の彼らに出来る最良の手段だった。事実重ねられた巨岩で、波乗りの直撃は遮られている。そのはずだった。

 「だがそうはいかねぇんだよなぁ!!ジバコイル、破壊光線!ヤワな岩ごとブッ潰して食らわせろぉッ!!」

 マチスの声と共に放たれるジバコイルの破壊光線。紅い輝きが真っ直ぐと岩へと伸びていき、直撃と共にバリケードの役目を為していた岩が爆裂しそのまま貫いていった。最前面に居るサーシャがそれを受け止めるものの、何故か防御にまったく力が入らなかった。

 「くっ、う、うぅ…!なんで…!!」

 彼女は勿論、他の誰も気付いていなかった。さっきのジバコイルとの戦闘で発せられた”嫌な音”、それによって特殊攻撃への防御力がガクッと下がっていたのである。

 「ノア!メルア!ジョニー!サーシャの背を押さえて固めるんだ!!」

 ダイヤの指示ですぐにサーシャの後ろに回る3人。押されるサーシャの身体をなんとか支えるが、ジバコイルの放つ破壊光線の威力は非常に強力だ。そしてそれを全員で受け止めていて、後ろから迫り来るエレキブルの事には気付けなかった。気付いた時には、全てが遅かった。

 「なっ――」

 「叩き潰せエレキブル!!ギガインパクトォッ!!」

 破壊光線の裏から現れたエレキブルが、その剛腕に最大限の力を込めて横に伸ばし、ラリアットの要領で岩ごと潰しながら振り抜いた。二重に襲い掛かる破壊の衝撃は、全員の防御を突き破り弾き飛ばす。悲鳴と轟音と土煙が収まったフィールドには、ダイヤの手持ち5人が無残な姿で転がっていた。

 「み、みんな!!」

 「ハッハァー!!パーフェクトにノックアウトだな!これでもう立てねぇだろ!」

 ダイヤがどれだけ呼びかけても、誰の反応も帰ってこない。呻き声だけが辛うじて聞こえるぐらいだ。こうなっては、とにかく一度全員をボールに戻してしまうしかない。そこからどうするかは考えもつかないが、全員の身の危険なのだ。先ずはそうすべきと思い、腰に手を添える。だがその瞬間。

 「ライチュウ、電気ショック」

 「なっ…ぐ、ああぁぁッ!」

 とマチスの声に沿い、電撃をダイヤに向けて発射。避ける間もなく直撃してしまい、身体に電撃による痛みが走り倒れ込んだ。わざわざ10万ボルトの威力を落として放たれた電気ショックだが、ヤワな人間であるダイヤの身体には十分なダメージとなっていた。

 なんとか倒れ込んだ上体を起こすものの、座るまでが精一杯で立ち上がる力は上手く出せないでいる。

 「…ご主人様に、なんてことを…!」息も絶え絶えのダイヤを見て、髪を更に燃え上がらせて立とうとするノア。残った力を猛火発動の起爆剤にするが、それでも顔を上げることが精一杯。他の仲間も同様に、主人への暴行に怒りを感じながらも立ち上がる力に変えることは出来なかった。

 (ちっくしょお……!これじゃ、逃げるのも無理かなぁ…!)

 「フン、そこそこは楽しめたぜボーイ。そのご褒美にオレンジバッジをくれてやる。良かったな、これでクチバジムはクリアってことだ。

 まぁその代わりってわけじゃねぇが、そこのトゲピー…ソーマは頂いていくぜ。なぁに、それでお前らの無事は保証してやるんだ。安いもんだろう?」

 ダイヤの眼前に捨てられるように投げられたオレンジバッジ。これを拾えばみんな無事に戻れる。

 ソーマを除いてのみんな。一つ欠けた”全員”。

 知っている。そんなものに意味はないのだと。

 仲間を守ると言うことは、どんな時も貪欲で、傲慢で、身勝手でなければ押し通すことすら出来ないのだと。

 だから、少年の返事は決まっていた。

 「――……悪いけど、それは無理だ。バッジ一つでも、もしか金を積まれても…俺は仲間を、明け渡したりはしない…!

 みんなも、ソーマも、守り抜いてやる…!俺が出来るのは、それぐらいしかないから…それだけでも…ッ!」

 必死に力を振り絞り、なんとか立ち上がった。膝は震えておぼつかないが、それでも立ち上がったのだ。そんな少年の姿を、偶然とはいえ一番近くで見ていたソーマが険しい顔で見つめていた。

 表情は崩れ、目頭には涙が浮かび、口は強い歯軋りで歪んでいる。彼女はただ憎んでいた。自分の力の無さを…主の想いに、何一つとして応えられない現実を。

 (また失うのか…?坊を…皆を…?――嫌じゃ…!妾は…妾はもう失いとうない…!

 …じゃが、あの日欲しかったものを…今欲しいと思っているものを…どれだけ強請っても足りぬものを…。こんな小さな身体で、いったい何を勝ち取れる…?一体何度、あの哀しみを味わえばいい…!?)

 必死で立ち上がろうとしても身体は動かない。再度顔から倒れ込んでしまい、その反動で目頭の涙が地面に零れ落ちた。その時、懐…その身に纏う小さな服の中に、なにかがある事を思い出した。震える手で取り出したそれは、淡く透き通る中に光を蓄えた一つの石。ずっと持っていた”光の石”だった。

 過去<いつか>の日に手渡されていた進化の石。自分には要らぬものだと思い込みながら、つい持ち続けていた代物。其れを見つめ思案に暮れる。たった数秒程度の、覚悟を固める為だけの思案だ。

 (運命を変える力…それを欲するは現在<いま>…。ならば最早、迷う暇も道理もない…!)

 「ファックジョークだボーイ。じゃあさっさと気を失わせてやる。ライチュウ、10万ボルトだ」

 興が覚めたのか、淡々としたマチスの指示で放たれる10万ボルト。流石にこれを喰らってマトモじゃすまないと思うが、それをどうこう出来る力は彼自身には存在しない。それでも容易く倒れまいと耐える意気込みを見せるダイヤだった。だが…。

 「…ぐ、あぁぁぁぁ!!」と雄叫びあげながらダイヤの前へ突進するソーマ。右手は小さく指を振っていた。辛うじて残った力で飛び込み、ライチュウの10万ボルトを身体で受け止める。気を失おうとするほどの威力だったが、なんとか寸でのところで意識を保てた。

 「そ、ソーマ…!!お前…!」

 「……”堪える”、か…。やれやれ…この期に及んで…運だけは、良いのう…!」

 「馬鹿野郎…おまえ、なんで…!」

 「……なぁ坊よ、お主にとって、妾は何じゃ?」

 突っ伏したまま尋ねるソーマ。力なく震える声は、たった一片だけ残した最後の体力でなんとか出しているような声だった。

 そんな声で尋ねられた問い。存在を尋ねるという大きすぎる命題。それでも、そんな問いをされてしまえば真っ直ぐに答えるしかない。何より、答えなんざ一つしかないのを彼は知っているのだから。

 「…そんなの決まってんだろ。――大切な…俺たちの、仲間だ」

 一切ブレることのないダイヤの言葉を聞いて、突っ伏したままニヤリと口角を上げた。

 

 ただ一つ、その言葉が欲しかった。

 どんな目に遭っても、どんな窮地に立っても、何度でもいつまでも、自分を信じてくれる阿呆が居る。

 それだけで――

 

 「くっ、ハハハハハ!…なぁ坊よ、どうするこの状況?皆が傷付き、力尽き、倒れ込み…それでも尚お主はその信念を通すと願うか?その正義、貫けるか?」

 「あぁ、勿論だ…。当然だ…!」

 「なれば如何する?運命の鍵は妾そのものじゃ。妾を棄て、敵に渡して静謐な退路を作るか…妾を信じ、安寧を棄てて進路を作るか!」

 「んなもん…お前を信じる以外に選択肢ねーだろッ!」

 「ならば何処までも信じ貫けッ!その想いこそが、何よりも強い力になるのじゃから…ッ!!」

 立ち上がるダイヤとソーマ。傷だらけのその身体で無理矢理に起つその眼には、強い光が輝いていた。

 「まぁだ足掻くか!そろそろ命の保障は出来ないぜ!」

 エレキブルたちに指示を出そうとしたマチスだってが、すぐにその声を止める。ソーマの身体に起こっていた異変に気付いたのだ。

 それは、背後から彼女の姿を見ていたダイヤにも同じことが言えた。

 まるで殻を破ろうとする青白く強い光を放つソーマの身体。今となっては何度も見てきたと言える、進化の輝き。

 その閃光の中で、彼女は満たされた想いに包まれていた。決して言葉に出さないけれど、想い止まぬ程に溢れる、大きな想いが。

 (…ずっと、あのままでいれたら良かった。突然帰ってきた穏やかで楽しい日々…ほんの僅かじゃが、嬉しかった。

 信じて良いのだな?妾を信じてくれる、お主らみんなの事を…。

 護らせてくれるな?大切な…妾の仲間たちのことを…。

 そのために覚悟を決める。もうひとりぼっちではないから…。もう2度と、失うものかと決めたのじゃから…!

 弱さも恐れも後悔も、皆がいるから乗り越えられる…。皆の為に、乗り越えるッ!!

 

 

 ――たとえそれが、未来<あした>へ辿り着けぬ運命に飲み込まれるものだとしても…)

 

 

 見開かれる眼。掲げられる手。その手の中には、大きな光を蓄えた小さな石が握られている。

 ソーマ自らの放つ輝きと、光の石から解き放たれた輝き。2つの光はその場全てを白く包み込んだ。

 

 やがて膨大な光も薄れ、まるではらはらと舞い落ちる羽根のように白く輝く雫が消えていく。

 その中心に立っていたのは、まるで見違える程に変わった女型の萌えもんの姿。

 赤と青が散りばめられた純白の衣装はどこか優雅で高貴な佇まいを見せ、それに合わせるように赤青のオッドアイが強く輝いている。

 体格は中背のダイヤとほぼ同等にまで大きくなり、女性の象徴である胸や尻…所謂ボディスタイルもそれ相応に大きくなっていた。

 だがそれ以上に目を引くのは、背中から生えた大きな翼だった。普通の鳥萌えもんとは違い丸みを帯びた特徴的な形の翼は、衣装と同じ純白さと相まってまるで天使のようにも見えていた。

 少なくともさっきまで光の中心にいた彼女と同じ存在だとは、声をかけられるまで認識出来なかった。

 「…腑抜けた顔をするでないわ、阿呆」

 「本当に…ソーマ、なのか…?」

 「妾以外になんじゃと思っとるんじゃ戯けめが」

 「エクセレントだぜ、Msソーマ…。こんな土壇場で進化してみせるなんざ、よくやるもんだ。

 だがそれがどうした?進化したその姿、フライトタイプが加わってるんだろう。俺のエレクトリックタイプの敵じゃあねぇなぁ!」

 「ふむ、そうじゃな…。相性の不利ぐらい無いとハンデにはならぬか」

 見目麗しい姿となったものの、相手を嘲笑する時の下卑た笑顔は正しくいつものソーマだった。どれだけ進化して身体が成長しても、心まではそう簡単に変わりはしないのである。

 だがそれは、ダイヤにとっては何よりも頼もしく感じられていた。

 「は、ハンデだと!?絶対的な相性の差が、ハンディキャップだとぉッ!?」

 「はんッ、舐めるなよ小童が…妾を誰だと思っとるんじゃ。

 妾はソーマ。かつては現ロケット団総帥サカキの手持ちであり、今はこの正義の味方、マサラタウンのダイヤを主として共に歩む者であるぞッ!!」

 丸みのある翼を大きく広げ、強く言い放つソーマ。それこそが彼女の決意だった。故に彼女は、進化を果たすことが出来たのだから。

 「ソーマ、お前…」

 「ほれ、代わりに啖呵を切ってやったぞ坊。…往けるな?妾と…皆と共に」

 「――あったりまえだ!あいつら全員ぶっ倒して、みんな一緒に大手を振って進んでやろうぜッ!!」

 「Fuck'in son of a bitch!!捻り潰してやるぜッ!!」

 マチスの激昂と共に襲いかかるエレキブル、ジバコイル、ライチュウの3人。それに対してダイヤは、真っ先に図鑑を開き今のソーマが使える技を確認する。その技欄からは"指を振る"が消え、新たに2つの技が使えるようになっていた。すぐにフィールドへと目を戻し、迫る相手に対する指示を出す。

 「エレキブルにあくびを食らわせ、そのまま空中に退避!」

 「ふあぁ…やれやれじゃわな!」

 迫るエレキブルに大きなあくびをかまし、そのまま空へ舞い上がるソーマ。エレキブルの拳を躱しながら空中で静止した。

 「ジバコイル!ラスターカノン!!ライチュウ!10万ボルト!!」

 「波動弾で相殺だッ!!」

 ジバコイルの解き放った収束された輝きと、ライチュウから放たれた高威力の電撃が重なり合ってソーマに襲いかかる。だがそれに慌てることもなく、胸元で両手を合わせるように揃える。

 溜め込まれた精神エネルギー…波動の力は球体へと形作られ、すぐに相手の攻撃に合わせて撃ち出された。

 3つの技がぶつかり合い、空中で大きな爆発がおこる。その状況を利用すべく即座に反応したのは、マチスの方だった。

 「そこだライチュウ!アイアンテールで爆風ごと打っ飛ばせェ!!」

 「ッ!!」

 空を切り裂く鋼の尾撃を繰り出すライチュウ。言葉通り相殺で生じた爆風は真っ二つになったが、そこに標的の姿は見えなかった。

 否、そのアイアンテールより一瞬遅れて、白い影が高速で相手に迫っていた。

 「まずはお前じゃ移動砲台!そのクソ厄介な火力、落とさせてもらうぞ!」

 「クッ!?エレキブル、雷パンチでーー」と言ったところで、エレキブルの意識が落ちて倒れ込んでいる事に気付く。相手の眠気を誘い、一時の間を置いて時間差で眠らせる技が"あくび"なのだ。

 「く、クソがぁッ!!ジバコイル、電磁砲!!」

 「遅えッ!ソーマ、波動弾ッ!!」

 「逃がしはせんぞッ!」

 翼を畳み、急降下の速度を最大にまで高めながら右手には既に波動が溜め込まれていた。ジバコイルの攻撃態勢が整わないこの瞬間、ソーマの手から勢い良く投げ付けられた。

 スピードスター同様、必中を謳われるのがこの技。青白く輝く波動弾が真っ直ぐ突き進み、ジバコイルに直撃し、マチスの傍らにまで吹き飛ばしノックアウトした。

 「ふっ、まず一人目じゃ」

 「チィッ!ライチュウ、10万ボルトッ!!」

 「次だ!躱してエアスラッシュッ!!」

 「応さッ!」

 背後から迫る電撃に対する指示に即座に反応し、ジャンプと共に翼を大きく羽ばたかせて空を舞う。電撃の軌道を尻目で確認し、回避と共に腕を大きく薙ぎ払った。空をも切り裂く真空の刃が、ライチュウに襲い掛かる。

 周囲の空気を巻き込み刃の一撃を喰らうライチュウだったが、飛行タイプの技故にダメージ自体は軽微。すぐに反撃に出ようとした、その時だった。エアスラッシュで発生した真空が身体を押さえ付け、怯んで動けなくなっていた。

 「ほれほれ、ちゃんと避けねば反撃出来ぬぞ!?」

 怯んだ隙を逃さずに再度エアスラッシュを放つソーマ。連続して放たれる真空の刃は、ライチュウにダメージを与えながら怯ませ続け、動きを抑えていった。

 「What's happened!?いくらなんでも怯みすぎだろぉ!」

 「そうか…天の恵み!」

 そう、それはソーマの持つ特性。通常の攻撃と共に毒や麻痺、火傷と言った追加効果をもたらす技の効果を倍加、より高い確率で相手に追加効果を与えるといったものだ。

 元よりエアスラッシュには攻撃と共に発生した真空で相手を怯ませる効果があるが、通常の萌えもんが使ってもこんな連続で効果が発動するワケではない。天の恵みを持つソーマだからこそ、この状況が生み出されていたのだ。

 「左様!妾に一時でも隙を見せた事が運の尽きよッ!

 一方的に蹂躙される、苦痛と恐怖を教えてやろうか!?ほぉれほれェッ!!」

 まるでどっちが悪役だと言わんばかりに、空を飛び回りながエアスラッシュを連発するソーマ。一方的に怯ませ続けるその戦況は、バトルと言うにはおこがましい…戦略や相性などと言うモノを全て奪い去る惨状にも見えた。だがそれでも、彼女の手が止まることはなかった。何故なら――

 「――マチス、お主は妾の仲間を相応に甚振ってくれたでのぅ…。これはその礼じゃ!」

 「ソーマ、お前…」

 「さぁ二人目じゃ!散れィッ!!」

 最後の一撃を撃ち込み、ライチュウを倒すソーマ。圧倒的に不利な状況を、本当にたった一人で覆していた。

 余りにも予想外な出来事に思わずたじろぐマチス。そんな彼の前に、睡眠状態から目を覚ましたエレキブルが立ち上がった。最早マチスにしても、ここからは意地の戦いでしかない。が、そこに言葉をかけてきたのはソーマだった。

 「さぁどうするマチス?無様に土下座して赦しを請い、幾つか情報を寄越すのであればこれ以上甚振るのは止めてやろう。なに、お主にも立場の1つや2つあるであろう?そいつは守っておいてやる。この街で暮らす分には問題ない程度にはのぅ。

 それとも、イッシュに逃げ帰って御膝下で甘えて暮らすか?落ちぶれた敗残兵にはそれが似合いじゃろうて」

 饒舌にマチスを煽るソーマ。この行為に、ダイヤは覚えがあった。先日のカスミ戦で、状況を一変させた立役者の得意技…"悪巧み"である。

 特殊攻撃力をぐーんと上げる効果を持つ所謂積み技であるが、この最中は無防備になると言う欠点も存在していた。

 「ッザケんじゃねぇぞ畜生ンの野郎ォ!!エレキブル、雷ッ!!」

 「拙いソーマ!避けろ!!」

 ダイヤの声に反応して空を舞うソーマ。だが、天井から連続して降り注がれる極太の雷撃は最初の2発を躱したものの3発目に直撃してしまった。

 「ダメ押しでブッ殺せッ!!ギガインパクトッ!!!」

 「ソーマぁぁぁッ!!」

 最高威力を乗せた一撃を叩き込むべく、力を溜めながら墜落地点へ走り込むエレキブル。ブッ殺す。その命令を遂行すべく空中からの一撃に切り替えてジャンプした。

 ――瞬間だった。砂塵に覆われた墜落地点から、先程の倍の大きさを持った真空の刃…エアスラッシュが飛んで来たのは。

 「ッ!!?」

 「……まぁ分かっておったよ。貴様のようなヤツが、頭を下げて赦しを請うなぞ考えられぬことだとな。

 それに――元より妾は、貴様を赦す気なんざ無いわ」

 笑顔すら浮かばずに告げるソーマ。それが最後の言葉だった。

 天に掲げた右手に収束される波動の力。悪巧みで特殊攻撃力を上げた今、その大きさは倍以上に膨れ上がっていた。だがその引鉄を引くのは彼女ではなく…

 「坊ッ!!」

 「――あぁ!波動弾ッ!!!」

 肥大化した波動の塊…もはや砲弾と呼ぶべきシロモノを、迷う事もなく全力で撃ち放つ。

 うねりをあげながらも真っ直ぐエレキブルに突進し、防御も間に合うこともなく直撃。爆裂と共にエレキブルを吹き飛ばす。威力の高まった波動弾の一撃は、相手を倒すのに十二分な力を誇っていた。

 「…3人目。これで終わりじゃ」

 爆風が作り出した砂塵が晴れたフィールドに、ただ一人ソーマだけが立っていた。ジバコイル、ライチュウ、エレキブル。マチスの萌えもん達は全て倒れていた。

 マチスの選出した萌えもんは彼の主力部隊。実際にダイヤの手持ち達とは大きな力量差があった。だがそれを、ただ一人…ソーマが覆したのだ。マチスの方に油断や侮りがあったのもあるだろうが、それでもだ。

 つい先ほど…ジムに乗り込んだ時とはまるで違う、ソーマの大きな背中を見ながらダイヤは声も出さずに倒れ込んだ。体力も緊張も、限界だった。

 「坊ッ!この…いきなり倒れるやつがあるか…!」

 「……わりぃ。でも…やったんだよな…?」

 「…あぁ、うむ。勝ったのじゃ、お主は」

 ソーマの回答にニッコリと笑いながら、彼女の肩を借りて立ち上がるダイヤ。その表情は、とても満足げだった。そんな彼の笑顔が、ソーマにとっても嬉しいものだと思えるようになっていた。無論、そんな事は言葉に出さないが。

 「ったく…ほれ坊よ、お主にはもう一仕事残っておるぞ。さっさとみんなと回収し、センターで身体を休めるのじゃよ」

 「あぁ、だな…。流石に疲れたぜ…」

 言いながら腕に力を入れて、4個のボールをかざして倒れていたノア、サーシャ、メルア、ジョニーの4人を回収した。

 「…良かった、みんな無事だな」

 「あぁ、本当にのぅ…。…坊、一人で戻れるか?妾は少し、あやつと話がある」そう言って彼女が目線を向けた先は、仰向けに倒れ込んだまま動こうとしないマチスの姿があった。

 「……何か、するのか?」

 「案ずるな、別に首を取ろうとまでは思っておらぬ。…妾がケジメを付ける為に、聞いておきたい事があるだけじゃ」

 「……ちゃんと、帰ってくるか?」

 「…当然じゃ。妾をこんな身体にした責任、ちゃあんと取って貰わねばならぬでのぅ」

 意味深な笑顔でそんな事を言い出すソーマに、ダイヤは思わず慌てふためいてしまった。

 「なっ、おっ、お前っ…!!」

 「カッカッカ、帰る途中に転ぶでないぞ童貞坊主。ノア、歩けそうなら坊を支えてやれ」

 『あ、はい…!』とさっきボールに戻ったばかりのノアが飛び出した。すぐにソーマに代わってダイヤを支えるよう隣に立つ。…どうにも肩を貸すと言うより腰を支えるといった状態だ。悲しいかな、身長差。

 「…ノア、大丈夫か?俺ならたぶん、大丈夫だから…。ノアだって、ダメージ大きかっただろ?」

 「だ、大丈夫です…!ちゃんと、ご主人様を支えてみせます…!」

 たどたどしく歩きだすダイヤとノア。二人の姿を見送って、ソーマは独りゆっくりとマチスの元へ歩いて行った。

 「…起きておるのじゃろう?」

 「…何が聞きたい」

 「知れたことよ。ロケット団のアジトの場所、構成人数、企画中の作戦。あるなら全部教えろ」

 マチスの胸座を掴み引き起こしながら、声のトーンを低くしてマチスに問いかけた。ダイヤにああは言ったものの、その気になればいつでもその命を奪い取れると分からせる意味も込めて、だ。

 「さぁ、どうする?」

 「…アジトはタマムシシティ。それ以上詳しい場所はテメェらで探すんだな。そこの構成人数は60人そこらってところじゃねぇかな。具体的な数なんざ知らねぇよ。作戦についてもそうだ。俺もあいつらもやりたい事しかやってねぇからな。以上だ」

 「………フン、少しでも期待した妾が間違いじゃったわ」

 投げ捨てるように掴んだ胸座を放す。そんな彼女の姿を見て、マチスが思った事を口にした。

 「随分あのガキを買うんだな。青クセェ正義ってヤツにほだされたか?」

 「――まさか。妾もあの馬鹿どもも、サカキのヤツと何ら変わらぬ。…ただ偏に、己が成したい事を為そうとしておるだけじゃ」

 素気ない答えに肩を竦め答えるマチス。何故そんなにもあの少年に肩入れするのかは、進化した彼女の姿こそが回答なのだろう。そして彼女たちは自分を倒して先に進んでいく。ジムリーダーであり、ロケット団員の一人としてでも敗北し負け犬となった彼は、これ以上開く口は持たなかった。

 

 「勝利報酬は貰って行くぞ。どうせこの先必要になるものじゃ」

 「あぁ、好きに持っていけ」

 「フン…。もう二度と、貴様と会うこともなかろうよ」

 別れの言葉もなくジムを出ていくソーマ。いつの間にか空は白み始め、夜明けが近いことを報せていた。

 激闘を終えたクチバジムを後にし、独りゆっくりと歩きながら萌えもんセンターへの帰路に就く。その足取りの中で、自身の放った言葉を思い出していた。

 (もう二度と、か…。いつか皆とも、そのように別れる日がくるのじゃろうな…。

 …その時、笑顔で別れることが出来るじゃろうか…。皆は…坊は、笑顔で送ってくれるじゃろうか)

 思案に暮れながら歩み進んでいると、気が付けばそこは萌えもんセンターのすぐ近くだった。ネガティブな考えを続けながら、もう着いてしまったのかと自嘲する。

 「……ハッ、女々しいのぅ、我ながら」

 分厚いガラス張りの自動扉が開いたそこには、まるで待ち構えるかのようにダイヤとその手持ち達が佇んでいた。ソーマの帰還を見るや否や、みんなして駆け寄ってきた。

 涙を浮かべ顔を崩しながらも喜びを隠そうとしないメルア、まだ表情は硬いながらも小さい身体で必死に走るネーネ、馬鹿みたいにガハハと笑いながらのジョニー、怒っているようでありながら眼鏡の奥の瞳は優しいサーシャ、安堵しながら素直にこちらの身を案じてくれるノア、そして――

 「おかえり、ソーマ」と、明るく元気な笑顔で出迎えてくれたダイヤ…。

 ただそれだけが、彼女にとって何物にも代えがたく喜ばしいものだった。純粋に、嬉しかった。だから…。

 (いつかの別れより、今は皆との明日を生きよう。その為の力…その為の進化なのじゃから。

 

 

 今だけは皆と、空色の未来<あした>を――)

 

 

 

 

 

 - ロケット団アジト -

 

 光源を絞った薄暗く大きな一室で、団員の男が背筋を伸ばし姿勢正しく立っていた。向かい合う先には、相手を射殺さんとする程に威圧的な眼をした男が座っている。

 重苦しい雰囲気の中、団員の男は決して詰まらぬように声を上げた。

 「…ご報告いたします。クチバジム突破者の所持萌えもんの中に、最重要指名手配者である”ソーマ”が居たとのことです。

 ただ、確認した時はトゲピーではなく、トゲキッスにまで進化していたようです」

 「…トレーナーは誰だ?」

 「マサラタウン出身の、ダイヤというトレーナーです。…如何なさいますか?」

 「捨て置け。恐らくは、向こうからやって来る」

 「了解しました、そのようにいたします。…報告は以上です。失礼します、サカキ様」

 大きく一礼をして、早足で部屋を後にする団員。

 彼が報告していた相手…現ロケット団総帥サカキは、陽の光も入らない暗い部屋で一人、思い出すように呟いた。今はまだ見ぬ、かつて自分の傍らに居た彼女を想いながら。

 「……20年ぶり、か。

 ようやく会えるな…ただ一人残った、我が戦友よ…」

 

 

 

第9話 了

 




=トレーナーデータ=

・名前:ダイヤ
 所持萌えもん…ノア(マグマラシ ♀)
        メルア(モココ ♀)
        サーシャ(サンドパン ♀)
        ソーマ(トゲキッス ♀)
        ジョニー(ストライク ♂)
        ネーネ(ネイティ ♀)
 所持バッジ…グレーバッジ ブルーバッジ オレンジバッジ

=萌えもんデータ=

・名前:ノア
 種族:マグマラシ(♀)
 特性:猛火
 性格:せっかち
 個性:ものおとに びんかん
 所有技:電光石火、火炎車、煙幕、火の粉
 所持道具:無し

・名前:メルア
 種族:モココ(♀)
 特性:静電気
 性格:おだやか
 個性:ひるねを よくする
 所有技:電気ショック、充電、電磁波、綿胞子
 所持道具:無し

・名前:サーシャ
 種族:サンドパン(♀)
 特性:砂かき
 性格:わんぱく
 個性:うたれづよい
 所有技:ブレイククロー、岩石封じ、砂地獄、マグニチュード
 所持道具:無し

・名前:ソーマ
 種族:トゲキッス(♀)
 特性:天の恵み
 性格:ひかえめ
 個性:イタズラがすき
 所有技:エアスラッシュ、波動弾、あくび、悪巧み
 所持道具:なし

・名前:ジョニー
 種族:ストライク(♂)
 特性:テクニシャン
 性格:ようき
 個性:あばれることが すき
 所有技:電光石火、真空破、気合溜め、高速移動
 所持道具:太陽の石

・名前:ネーネ
 種族:ネイティ(♀)
 特性:マジックミラー
 性格:おくびょう
 個性:ものおとに びんかん
 所有技:ナイトヘッド、つつく、テレポート、おまじない
 所持道具:無し
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