萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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 真意を語り、居場所を棄てた少女。真意を知り、なおも居場所であり続けようとする少年。
 真っ直ぐな想いは信意に変わり、その想いが彼女たちに力をもたらした。
 稲妻を越え、前にしか続かぬ道を進む少年たちの未来は、如何なる空の色だろうか…。



第10話『黒き炎』 -1-

 

 - クチバシティ 萌えもんセンター -

 

 少年は戦慄した。

 何を見てか。

 時計だ。

 短針は1と2の間を、長針は7の辺りを刺していた。

 時間にして13:37。世間的に言うと、ランチを食べた後のお昼過ぎ。

 

 

 それは、少年が睡眠から覚醒して最初に見た光景だった。

 

 

 

 

 「………マジかよ………」

 「マジですよ、ご主人様。おはようございます、健やかな寝顔でした」とどこか嬉しそうな笑顔で言うノア。

 少し開いた窓からは少し潮の香りを伴う風が気持ちの良い程度に入り込み、寝起きの顔を涼めていった。天気は快晴。若干暑いぐらいの気温だ。

 「…ガッツリ6時間ぐらい寝ちまってたワケかー…」

 「いいえ、ガッツリ30時間です」

 ハッキリと返すノアの言葉に目が点になる。言葉に対する理解が完了するまで数秒を用い、それと現状を擦り合わせるのにまた数秒かかっていた。

 そこまでかけて出た言葉は、奇しくも第一声とほぼ同じものだった。

 「………マジで?」

 「大マジです。突然倒れたと思ったら今まで目を覚まさなかったんですよ、ご主人様。

 …みんな心配したんですから。私だって…」

 「……ノア、俺トイレどうしてたんだろう…!?」

 みんなの、特にノアの心配を他所にしてそんな事を言い出すダイヤ。彼女がつい頓珍漢だなぁと思ってしまうのも当然のことだろう。

 「はぁ…ジョーイさん曰く、夢遊病のようにトイレに行ってたそうですよ」と、溜息交じりに答えるノア。冗談でも尿瓶でやって貰っていたとは言わない辺り、彼女の真面目さが分かるようだ。

 言いながらコップに水を汲み、ダイヤに渡すノア。丸一日以上も寝ていたのだし、喉が渇いているはずだという心遣いである。

 それを有り難く受け取り飲み干すダイヤ。渇いていた喉が心地良く潤される。ホッと一息ついたところで、ようやく状況を認識できた。次は一先ず、他のみんなだ。

 「なぁノア、他のみんなは?」

 「外に出ています。ご主人様に元気になってもらうんだって、メルちゃんが筆頭になって木の実探しに」

 「…ジョニーも?」

 「彼は修行と言ってましたが、みんなと一緒に行ってるようです。サーシャとソーマが一緒だから大丈夫ですよ」

 「…まぁ、そうだな」

 溜め息混じりの笑顔で答えるダイヤ。話の通りならそう時間もかけずに帰って来るだろう。その間に、こっちも準備を整えておかなければ。なにより髪から顔から身体から、全部が脂っぽくて気持ち悪い。

 「ノア、ちょっと俺シャワー浴びてくるよ」

 「分かりました。じゃあ私は席の方をとってきますね」と言って、センターの方に歩いていった。

 萌えもんセンターの座席は一応フリースペースとなっているが、ジョーイに申請しておくことで予約席として一定の時間使うことが出来る仕組みである。

 そういう細かい気遣いを当然の様にするのだから、ノアはよく出来た娘である。主人含め、他のみんながそれに気付いているかはまた別であるが。

 

 

 - 萌えもんセンター 座席 -

 

 ノアが確保してくれていた席に座るダイヤ。そこに、外に出ていた仲間たちが戻って来た。

 「あっ、マスター!大丈夫?元気になった!?」とダッシュで抱きついてくるメルア。彼女のフワフワの髪を撫でながら、大丈夫だと回答する。

 「おはようございますマスター。大変なお寝坊さんですこと」

 「悪い悪い。でも、おかげで元気ハツラツだぜ」

 「ホントにっ?コレ、食べなくても大丈夫?」

 「………………(ついっ)」

 メルアとネーネが差し出したのは、もぎたてのオレンの実とモモンの実だった。

 小さな手に握られた木の実はとても可愛らしく見え、また同時に彼女らが向けてくれていた想いだと、流石の彼でも理解できる。それを拒むことなど出来るはずもなかった。

 「んじゃ、そいつは有り難く貰おうかな」

 と早速オレンの実の皮を剥き、中の身を口に運ぶ。酸っぱさと甘さの中に渋さが混じり合った玄妙な味わいが口の中に広がっていく。不味くはないのだが、決して美味しい訳でもない味だったが自分に向けられる2人分の輝く目には勝てなかった。

 「…うん、うまい。ありがとうなメルア、ネーネ」と笑顔を繕いながら優しく2人の頭を撫でてやる。2人共、気持ち良さそうな嬉しそうな顔をした。

 「まったく、2人には特に甘いんですからマスターは…」

 「サッパリFaceキメやがってYO!1発ヌいたりして来やがったかァ?」

 「やめろよホントそういうこと言うの!シャワー浴びて来ただけだっつーの!」

 「シャワーっつったらLucky-SUKEBEの宝庫じゃあねぇかYO!背中流しに入って来たノアにムラムラからの壁DONで背中以外のところも洗いっこしてYeeeeehaaaaaw!な事態になるのがスジってモンじゃねぇのかYO!!」

 「ななななななななにを言ってるんですかあなたはああああああッ!!!」

 ダイヤがツッコむよりも速く、火炎をまとったノアのツッコミパンチ(火炎車)がジョニーの顔面にブチ込まれ、窓ガラスを砕きながら外へ殴り飛ばされていった。

 息を荒げるノアの顔はこれ以上ないくらいに赤面し、髪の炎をメラメラと燃え盛っていた。

 「ナイスツッコミじゃ、ノア。じゃがパンチはもっと、内角から抉りこむように打つと効果的じゃぞい」

 「そ、そんな知識はあんまり嬉しくないです…」

 「で、本当に坊とはなにもなかったのか?」

 「ありませんッ!!」

 「なーんじゃ、つまらんのぅ」

 つまらんと言いながらも、顔を真っ赤にしながら慌てふためくノアの姿を見るソーマのその顔はにやけっぱなしになっていた。真面目というより潔癖なところがある彼女は、ついつい弄りやすいのだろう。

 一方で健全な青少年であるダイヤも、話に出されたせいでついつい助平なことを考えてしまっていた。肌色で桃色な光景を妄想していると、隣からじーーーっと見られていることに気付く。小さくも大きな存在感を示すネーネの目線だ。半目で強く見据える彼女の眼は、自分の妄想を責められているようにも感じられた。

 『………主、えっち』責めていた。

 「やめてネーネ!こんなの読まないでッ!」

 「いつまでそんな馬鹿な話してるんですか。マスターが卑猥なことを考えるのは勝手ですが、いい加減話を前に進めましょう」

 「よぉーしそうだなサーちんの言う通り!話を進めないとなー!!」

 無理くり大声を出して話題を進展させようとする。そうしないといたたまれないからだ。少年も少女も、こうやって少しずつ大人になっていく。

 

 「さて…次は何処に行くか、だな」

 「決めかねているのならば、タマムシはどうじゃ?」

 タウンマップを広げながら現状と現在位置を把握する。地図の上で見ると小さな地方であるカントーだが、実際自分の足で歩いてみると大きな世界だってことはよく分かる。まずはソーマが提言した場所であるタマムシをチェックしてみた。

 今自分たちがいるのはカントー南方の港町であるクチバ。タマムシシティはそこから北西に位置している。海があるので真っ直ぐとは行かないが、それを消しても経路は自然と絞られてくる。

 「なら直近のヤマブキを経由してすぐ西だな。これならすぐ着きそうだ」

 「ですがソーマ、なんでタマムシを?」と尋ねるサーシャ。

 「簡単なことじゃ。ロケット団のアジトが、此処にあるからでの」

 その一言で、周囲の空気が固まった。いつの間にか戻っていたジョニーの眼が、誰よりも強く鋭く輝いていた。

 「そいつぁ、マジな話か?」

 「マチスに直接聞いたからの、ほぼほぼ間違いはないじゃろう」

 「OK、なら決まりだなミスター。ヤツらを皆殺しにしてやろうZE」

 「物騒なこと言うなよ。俺たちに何がどこまで出来るかなんか、分かったモンじゃねぇんだ」

 「じゃが、こんな馬鹿げた障害は早々に越えてしまうのが良かろう。ロケット団としてのマチスを倒した以上、どんな形で狙われているか分かったものではないからな。坊が寝ておる間に喧嘩売られんで良かったわぃ」

 ソーマの嫌味ともとれるその言葉を、腹に落とすように深呼吸する。”敵”を倒した自分たちは、その”敵”達から狙われてもいい存在なのだ。今まで以上に気を引き締めていかねばならないし、ソーマの言う通りいつまでも狙われる危険と隣り合わせで居たくもない。そう思うと、彼女の提言も真っ当なものに思えてきた。

 「嫌いなものは先に食えってことか」

 「そんな感じじゃ。後々を楽にする為に、苦労は今しておけばいいと妾は思う。じゃが、飽くまでも決定権は坊、お主にある。最終的な判断は任せるぞ」

 その言葉を受けて周囲を見回すダイヤ。そこに否定的な眼は無く、ただ自分の意思表示を待ってるように思えた。

 「…それじゃ、一先ずはタマムシを目指す。やり合うかはともかく、足を止めていることもないしな」

 「分かりました、ご主人様。準備したらすぐに出発ですね」

 「だな。傷薬とか買い足したらすぐに行こうか」

 と言いながらいつもの赤いジャケットに袖を通すダイヤ。それを見て、メルアがふと呟いた。

 「マスター、服ボロボロだね」

 「そういえばそうですね。だいぶ毛羽立ってますし裂傷も見られます。帽子も汚れと穴が目立つようになりましたね」

 「そっか?なんにも気にしてなかったけど…」

 メルアとサーシャの指摘に、一度脱いで確認してみる。言われてみれば確かに、焦げたり破れたりしてるところが結構あった。思い返してみれば、旅立ってからずっとこの服で来たわけだ。山越えしたりバトルしたり、色んな道でも構わず着てきたんだった。

 そこに先日のマチス戦。ライチュウの一撃をダイレクトで喰らってしまい、普通のジャケットでは流石に大きなダメージとなってしまったのだろう。よくオシャレ服としてダメージジャケットとかあるが、ダイヤのそれはそんな良いモノではなかった。控えめに言ってもみすぼらしいレベルだ。

 「新調、した方が良いですよね…」

 「そうは言うがなぁ…そんな金ないぜ?旅の必需品や消耗品揃えとくので精一杯だ」

 「ロケット団の連中から金品強奪するか、ミスター?」

 「お前はまずその思考回路をどうにかしろ馬鹿野郎」

 溜め息をつきながら悩んでいると、向かいに座っているソーマの口がニヤリと吊り上がった。

 「フッフッフ…そんなこともあろうとな、用意しておったぞ坊。新しい装備をなッ!」

 「な、なんだってー!?」

 予想通りの反応に喜びながら机の上に服を広げるソーマ。それは、ダイヤ含む全員が一切予想していない代物だった。

 形はこれまで着ていたものとさほど変わらないジャケットとパンツ。ポケットの形とか数は前着ていたヤツより多く、より実用的な感じがする。生地も見るからに頑丈そうであり、またどんな動きにも対応できそうな柔軟性も持ち合わせているように見える。

 隣に置かれた帽子も今まで被っていたキャップとほぼ同じ形でありながら、縫い目の密度をとって見てもジャケット同様にしっかりした造りが見て取れる。どちらも、生半可なことでは破れたりしなさそうな安心感があった。

 …ただ一点を除いては。

 「…ねぇソーマさん、ナニコレ」

 「新たな一歩を踏み出す坊への餞別じゃ。勝利報酬としてマチスの私物からパクってきたモノじゃが、サイズ的に問題は無かろう」

 「いやそういう聞きたくなかった出所は置いといてですね。…なんでこれ、全部銀ピカなの?」

 「カッコイイじゃろう!!!」

 物凄いドヤ顔で言ってくるソーマに、思わず呆然とする一同。思わず見直すが、やっぱりその服はほとんど銀色だ。照明の光が反射して、燦然と輝いている。正直眩しい。

 「…俺にこれを着ろと」

 「うむ」

 「その心は」

 「カッコイイからじゃ」

 「俺に拒否権は」

 「無い」

 相変わらずの不遜顔で言い切ってくる彼女である。カッコイイと言い張るその自信は一体どこから来るのだろうか。だがどれだけ控えめに言っても、これは派手だ。真昼間にこんなギンギラギンに輝いてたらさり気ない着こなしってレベルじゃない。常時マーキングされてるようなものだし、何より恥ずかしい。なのでやんわりと拒否しようとしたのだが…。

 「…ごめんソーマさん。流石にこれは――」

 「なんじゃ、妾を信じ貫いてくれると言うのは嘘だったのか?寂しいのぅ…せっかく進化出来たというに」

 「ぬあぁー!分かったよ着ればいいんだろ着ればぁ!」

 それを言われてしまっては、ダイヤにはどうすることも出来なかった。ぐうの音も出ないとは、正にこの事だ。

 渋々ながら服一式を抱え、簡易宿泊室に入って着替えるダイヤ。部屋の中からか細く「マジかよ…」と情けない声が聞こえてくる。

 「ぬっふふー、さぁてどんな事になるかのぅ?」

 「はぁ…ソーマ、貴方すごく楽しんでますね。あんまりマスターやノアをイジメるのは止めた方が良いんじゃないですか?」

 「固いのぅサーシャ。ノアにはちゃんと戦う理由を固めておいてもらわねばならぬよ。誰よりも、お主やメルよりも気持ちの上で坊の傍らで戦えるようになっておらねば坊は守れんじゃろう。

 それに坊も、あの服自体はかなりの上モノじゃよ?色はともかく、正真正銘イッシュの軍事組織で使われとるモンじゃ。そう簡単に傷物にはならんし、攻撃への耐性も兼ね備えておる。着せておいて損は無かろう」

 笑顔を崩さずに言い放つソーマに、サーシャは初めて敵わないと思った。面白半分のところはあるだろうが、それ以上に誰よりも主人の事を考えていたのだから。

 「…ソーマ、貴方って、そんなキャラでしたっけ」

 「失礼なことを吐かすでないわ。ま、妾も一皮剥けたと言ったことじゃろうかのぅ」

 フヒヒと笑うソーマの真意を、サーシャは窺い知ることが出来なかった。そうこうしている内に簡易宿泊室のドアが開き、新しい服に身を包んだダイヤが姿を現した。予想通りその姿は、銀ピカでピッカピカだ。

 それを見た一同の反応は、まぁ当然と言えば当然のものだった。

 「ぶふぅっ!いやぁ見事!見事じゃぞ坊!!」

 「ハッハッハッハァッ!!It's so coooool!!!イイぜぇミスター、サイッコーに輝いてるッZE!!」

 「ぷっ…くくっ…!た、確かに輝いてますね、マスター…!」

 「………………(ぐっ)」

 「マスターかっこいいー!キラッキラしてるー!」

 「す、凄いですねご主人様…。あの、大丈夫ですか?」

 「……やっぱ痛い。心が」

 周囲の笑顔と自らが纏っている服に反し、これまでにない最高に暗い顔をしているダイヤ。服の見立てが良かったのか、サイズは若干大きい程度であまり気にはならない程度。元々彼自身の体型も中肉中背。つまり、ほぼ完璧に着こなしているのだ。奇しくも。

 「ひぃひぃ…妾の見立ては間違っておらんかったようじゃな。まぁあとは慣れじゃよ坊。2~3日着てれば気にならんようになるて」

 「慣れたくねぇなぁ、それ…」

 「でっ、でもご主人様、それならとても分かりやすい目印になれますよ!今後も夜の外出や洞窟を越えることもあるでしょうし、見失わないで済みます!」

 「精一杯のフォローをありがとうノア…。まぁもう仕方ないよな…。確かに着心地良いし、着てて頑丈さも分かるし、色さえ除けば十分良い服だと思うわ」

 「じゃあじゃあ、これからはコレ着ていくんだねっ!」

 「嬉しそうだなー、メルア」

 「うんっ!だってカッコイイし!」

 無邪気に笑うメルアの顔は、どこまでも嘲笑とは無縁のものだった。純粋無垢に、カッコイイと思ってくれているのだろう。そういう想いは、やはり嬉しいものだ。

 それによく考えてみれば、誰の口からも「似合わないから止めろ」という言葉は無かった。一緒に旅をする以上、この銀ピカ男とずっと一緒にいることが確定しているのにだ。否定の言葉が無い以上、みんなからは十分に受け入れてくれているのではないか…そんな風に、ダイヤも少し前向きに考えを改めるのだった。

 「そっか、カッコイイか…。ありがとなメルア。あとソーマも」

 「む、妾もかぇ?」

 「経緯は喜びたくないけど、わざわざ持ってきてくれたってことだもんな。そこについては感謝するよ」

 「…ふん、分かれば良いのじゃ分かれば」と、また前みたいにそっぽを向くソーマ。ただその顔は少し赤らみ、嬉しそうな笑顔になっていた。

 「よっし、それじゃ出発するか!目的地は、タマムシシティだ!」

 元気な声を出して立ち上がる。それに続くように他のみんなも立ち上がった。進む意志と意気は、十分に整っているようだった。

 ロケット団のアジトがあると言うタマムシシティ。そこでは一体何が待ち受けているのか…それがなんであれ、少年たちは信念を支えにし、新しく大きな一歩を踏み出すのだった。

 

 「――の前に、ちゃんとフレンドリィショップで消耗品の補充からですね、マスター」

 「あ、はい…。的確なツッコミありがとうサーシャさん」

 




補足事項:銀服は萌えもん用追加パッチの一つである主人公色変えを再現、設定追加したものです。
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