萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第10話『黒き炎』 -2-

 

 - ヤマブキシティ 南方ゲート -

 

 クチバシティより北方、カントー地方の中心にして最大のオフィスタウンであるヤマブキシティに直結しているゲート。その前に銀色の少年が佇んでいた。その顔は、服の輝きに反比例して少し暗い。

 佇む彼の眼に見えているものは、黄色も黒の縞模様テープとヘルメットおじさんが頭を下げている看板。それらが表しているものはただ1つ。

 「…工事中って、なんでだよ…」

 ゲートの周りにはヘルメットを被った現場作業員の人と、それを手伝うワンリキーやゴーリキーが作業をしていた。

 『これは想定外でしたね、マスター』

 「最短経路を潰されるとは思いも寄らなかったよ…。しゃーない、地下通路回って北側から行くか」

 「あー駄目だよ兄ちゃん、北側も今通行止めなんだよ。なんか建設検査が始まってなぁ」

 「えぇっ!?じ、じゃあタマムシに行くにはどうやって…!」

 「シオンまで行って地下通路を通るしかないなぁ…。行くなら気を付けてな」

 「マジかー…ありがとうございます」

 作業員の男に感謝を告げ、重い足取りで渋々歩き出すダイヤ。タウンマップを確認しながら迂回路を確認していく。

 「んー…南からの方が平坦な道みたいだし、クチバから回った方が楽かなぁ…」

 『Noだぜミスター。なぁんか11番道路にカビゴンどもが居座りやがって、道を塞いでやがんだYO。ありゃあテコでも動かねぇZE』

 『あー、そりゃ難儀じゃな…。あの大食漢どもに居座られたらどうしようもないわ』とジョニーに次いで答えるソーマ。経験豊富な彼女が言うのだから、まず間違いは無いのだろう。

 「…つまりそっちも無理ってことか…」

 『ん〜、じゃあどうやって行けば良いのかなぁ』

 『ハナダからイワヤマトンネルを通ってシオンに行くルートしか無いですね。かなり大回りになっちゃいますが』

 サーシャの言葉を聞いてうんざりとした顔になるダイヤ。決意も新た、装いまで新たにしての出発だと言うのに、いきなり出鼻を挫かれた気分だ。自分の盛大な寝坊のせいで、もう既に陽は傾き始めている。今からだとハナダで1泊するハメになることは火を見るよりも明らかだ。

 それにイワヤマトンネルを通るって事はまたも山越えだ。使うであろう日数を考えると余計にうんざりしてしまう。軽い失意に心が落ち込み、少し長めの溜息が出て来てしまった。まぁ実際の大きな理由としては、

 「面倒クセェ……」に尽きるのであったが。

 『ま、前向きに考えましょうご主人様!目的地まで時間はかかるけど、その分私たちのレベルアップ期間にもなります!』

 『ノアの言う通りじゃわな。少しでも鍛える時間はあった方がええでのぅ。回り道も時には必要な定めと知れぃ』

 「仕方ない、か…。まぁ立ち止まるよかマシか」

 両手で顔を軽く叩き、再び歩き出す。旅もレベルアップも同じ、一歩一歩進んで行くしかないのだ。

 そう思いながら、ダイヤはまたハナダ〜クチバ間をつなぐ地下通路に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 結局ハナダシティに辿り着いた頃には陽はほとんど沈んでおり、夕暮れ時となっていた。

 予想通りの時間展開ではあるが、休むには早く進むには遅い時間帯。となると鍛える事に時間を使いたかった。

 「…だからってわざわざウチに来る?」

 迷惑そうな怒り顔で出迎えてくれたのは、競泳水着にパーカーを羽織った少女であるカスミ。

 そう、ダイヤが今いるところは数日前に激闘を繰り広げたハナダジムだ。既にジムバッジは持っているから挑戦する必要はないのだが、この時間でも戦ってくれそうな相手は彼女ぐらいしか思い浮かばなかった。

 「悪いけど頼むよ。なんとなく、時間を無駄にしたくないんだ」

 「こっちの事情は無視ってこと?私だってそれなりに忙しく――」

 「デートをドタキャンされたんで自棄食いするところだったんだよねー☆」

 「うっさいスターミー!ったく…いいわ、腹癒せに相手してあげる。後悔するぐらいにね!」

 青スジを立てながらダイヤに指差して勝負を宣言するカスミ。お怒りの理由からしても、虫の居所が悪かったのだろうと思うダイヤだったが、得られる経験はこれ以上ない相手でもある。それにこれまで何回もボコられて来た相手だ。今更黒星が増えようと構うものではない。だから、そう言ってくれることは素直にありがたかった。

 「サンキュー。でもこっちだって、前ほど簡単にやられやしないさ!」

 

 …数十分後…

 

 「簡単に、なんですって?」

 怒気を孕んだカスミの声。ダイヤの前には倒れ込んだ手持ち達。いつかの第一戦を思い出す惨敗っぷりだ。ただ違うところと言えば――

 「手持ち6人フルメンバーでボコボコにしといて言いますかウチのリーダーは…」と嘆息するスターミーの言葉にあった。

 カスミの前に居たのは相方であるスターミー以外に、4つに分けて尖った青髪と切れ長の赤い目、手足のヒレと額の赤い宝玉に目が行くゴルダック、優雅な錦柄の服と艶めく黒髪と大きな角が印象的なアズマオウ、青と黄色の浴衣を纏い提灯を手に持ったランターン、つぶらな瞳に緩くのっぺりと持ち上がった口角が特徴的なヌオー、青いロングヘア―の上から長く伸びた耳と水玉模様の青い服、薄水色のスカートから伸びる鍵尻尾が可愛らしいマリルリ。以上カスミが本気でバトルする時のフルメンバーが総出で出迎えてくれたのだ。

 スターミー1人でもあの惨状だったのだ、同レベルの萌えもんがあと5人も居るとなると結果は自ずと見えてくる。唯一ソーマだけは1対1だと対等以上の戦いが出来たのだが、数の前では敗北必死。敢え無く全滅という訳だ。

 「…参った。うぁー、足元にも及ばねぇかぁ…」

 「そんな事ないわよー。ちゃんと私たちに攻撃当てれてるし、キミの状況判断やキミの手持ちたちの反応速度もちゃんと上がってるわ。いっちばん多く戦ったアタシが保証してアゲル☆」

 嬉しそうに話すスターミー。まるで師匠のような気分なのだろうか。彼女の評価はトレーナーであるカスミよりも優しく正確だった。

 「褒め過ぎよスターミー。調子に乗ったらどうするの」

 「カスミは褒めなさ過ぎなのよ。後輩たちのカウンセリングを一手に引き受けてあげてるの誰だと思ってるのよ」

 などと言い合う2人。それだけで2人の仲の良さが伝わってくるようだ。果たして自分は、みんなとあんな風に付き合えているのだろうか。ふとそう思うダイヤだった。

 「ほら、アンタもボーっとしない。そっちから願い出てきたんでしょ?回復が済んだらまたやるわよ」

 「うえっ!?い、いやもうみんな結構――」

 「ノォープロブレッ!!まだまだヤるぜぇイケイケドゥンドゥンだヒャッハー!!!」

 と突如興奮しながら跳ね起きるアクロバット馬鹿野郎。それに続く形で、他のメンバーもゆっくりと起き出した。

 「カスミさんの言う事も一理ですよ。自分でやると言ったのですから、最後までやりましょうマスター」

 「まだまだやれるもんねっ!頑張ってレベルアップしなきゃ!」

 「メルちゃんの言う通りです、ご主人様。頑張りましょう!」

 「………………(ぐっ)」

 全員の激励に押され、ダイヤの顔つきも真剣なものに変わる。時間的体力的に何戦やれるかは分からないが、それも経験量の一つとして積み重なるはず。強くなりたい互いの意志にブレが無いのなら、その手を止めることもないのだ。

 「よし…それじゃもう一本、お願いしまっす!」

 「威勢だけじゃないことを祈るわ。来なさい!」

 

 

 …そうして数時間後。もうどっぷりと夜も更けたハナダの街道を、ダイヤがとぼとぼと歩いていた。今日は珍しく、隣にはソーマ一人が付いている。理由は単純。他の全員が疲れ切ってボールの中でお休み中なのだ。そうしてセンターへ戻る道すがら、カスミとのバトルの反省をしていた。

 「…やっぱ、どうしても水タイプは苦戦するなぁ」

 「何の因果かこの構成、メル1人じゃカバーしきれんところがあるのう。ネーネが草技を覚えればフォローもし易くなるじゃろうが、生憎使える技マシンもありゃせんしなぁ」

 「難しいなぁ…」

 「どうせお主の事じゃ、メンバー補充なぞ考えておらんのじゃろう?なれば、持ってる手札で出来ることを増やして行かんとのぅ」

 それもそうだ。それ以上にもそれ以外にも、自分に出来ることは無いのだと改めて思うダイヤだった。

 少し俯き気味になり思考を巡らせる彼の隣で、ソーマは羽を広げて伸びをしながら天を仰いでいた。暗夜の中に一つ、大きな光が街を照らしている。いつか見たような月の光だ。

 「しかし、今宵は月が綺麗じゃ。その銀服もよく輝いておるわ」

 「ぐぅ…いくらか慣れたとはいえ、やっぱまだ辛いよコレ…。でも、なんで銀を選んだんだ?」

 「言ったじゃろう?カッコイイからじゃと」

 「いやまぁ、それは聞いたけど…」とつい言葉を濁らせるダイヤ。カッコイイということは確かに大きな理由となる。自分でもそういう判断で嗜好品を買う時だってあるのだし、別にオカシイとは思わない。

 だが、彼女の行いには何か意味があるのではないか。そんな風に思うようになっていた。その考えを上手く言葉に出せない少年の気持ちを察したソーマが、小さく微笑みながら言葉を重ねだす。

 「…そうじゃな、確かに銀というモノに個人的な趣向があるわな。

 知っておるか坊、古来より銀は”しろがね”と呼ばれ、その輝きは”純真”や”無垢”といった印象を与える。そしてそれは神を象徴する金に対比される、それ以外の精魂…神聖な色とされており、さる宗教ではその神事に用いる物品を銀で作ったと言われておる。また同時に、外邪を祓う守護の力を持つとされるのも銀じゃな。

 他にも銀は月と同一視されることが多い。これは太陽を金と見立てたが故の対比じゃが、それについても中々面白い話があってのぅ…」

 「お、おーけー分かったよ。それだけ好きなら銀を選んだってのも納得だ」

 「む、これからが面白いところだと言うに…。『あいつ銀の話になると早口になって気持ち悪い』とか考えておらんじゃろうな?」

 「わざわざそこまで考えねーよ。早く戻って休もうぜ」

 『マスターまってまって!メルその話聞きたい!いいでしょ!?』

 「っとメルア!?起きてたのかお前…大丈夫なのか?」

 『うんっ!だいじょーぶいっ!ねえねぇソーマっ!面白い話ってどんな!?』

 「うむ、センターに戻ったらたくさん話してやる。そうじゃなぁ、メルには他にもジョウトに伝わる銀翼の海神のことも話してあげようかのう」

 『わぁ、やったぁ!』

 「何その話、俺も興味ある」

 「お主はちゃんと寝て回復しとけぃ。イワヤマトンネルはオツキミ山よりもハードになるからな」

 「ぬぅぅぅ、しゃーないか…」額を小突かれながらの注意に素直に従うダイヤ。考えてみれば、寝て起きれば今度は山越えなのだ。そう考えるとなんだか急に忙しくなったように思う。

 そんな事を考えながら、2人で萌えもんセンターに入っていくのだった。

 

 

 …そうして迎えた翌朝。ダイヤたちは日の出と共にセンターを出て、イワヤマトンネルへと向かって9番道路を歩き出した。

 険しい岩場の道中には朝から元気な虫取り少年や短パン小僧が萌えもんたちとバトルしたり走り回ったりしている。その内数人の血気盛んなトレーナーと勝負をしながら、山道をどんどん進んでいった。

 やがて日はその高さを増していき、麓の萌えもんセンターに到着する頃にはだいぶ上になっていた。お昼前、といったところだろうか。山を越える前に、一先ずは休憩だ。

 (―――――)

 (………?なぁに…?だれか、なにか、言った…?)

 センターの一角、昼食を囲ったテーブルの一席。声を出さぬ少女の心が、その異能が、なにかを捉えだした。…まだ今は、僅かに袖すり合う程でしかなかったが。

 「ネーネ、どうした?」

 「………………(ふるふる)」なんでもない、と言ったように首を横に振る。

 「これから山越えだし、ちゃんと万全にしとかないとな。ネーネの力もアテにしてるんだしさ」

 「………………(こくん)」

 ランチを頬張りながら皆が其々話をしている。内容は主に、今から越えるイワヤマトンネルについてだ。オツキミ山より長い道のりになるってことはみんな分かっている。だからこそ地理に詳しいソーマやシンクロを使えるネーネの存在はありがたいのだ。手探りよりもずっと安全に越えられる。

 越えた先にあるのはシオンタウン。そこから8番道路を進み、目的地であるタマムシへと向かうのだ。スムーズに進めば今夜までにはシオンに辿り着けるだろう。

 「スムーズに進んでくれれば、なぁ…」

 「大丈夫ですよご主人様!トラブルの一つや二つぐらい蹴散らしてみせます!」

 「おう、頼りにしてるぜノア!」

 そう言ったダイヤの言葉に、嬉しそうにその顔を綻ばせるノア。彼女の顔を横から、様子を確かめるようにサーシャが眺めていた。昨日のソーマの言葉を見極めているようだった。

 最初から共に旅を始めた仲であり、名実ともにダイヤが一番信頼している相棒であろう。先日も彼が起きない間も一人ずっと傍で様子を見続けていたのは彼女であり、いつだって彼の為に真っ先に動いてきたのも彼女だ。そんな行動の端々を思い返してみると、やはりこう、主に対する秘めた想いを感じざるを得ない。だがまだ不確定、あとは確証に足るものを得られればいいと思い、小さく彼女に声をかけた。

 「…ねぇ、ノア」

 「はい?」

 「今更聞くことじゃないかも知れないけど…貴方、マスターの事が好きよね?」

 ヒソヒソと声を潜めて言うサーシャの言葉。それを理解、把握した途端にノアの顔が一瞬で真紅に染まり、後ろ髪も爆裂するように燃え上がった。

 「――なっ、なっ、なにを言うんですかいきなり!そっ、そっ、その、そんなそんなこと!」

 「あーハイハイ分かったよぉく分かりましたよー」手をひらひらとさせながらぞんざいに返すサーシャ。まさかここまで分かりやすい反応をされるとは思いも寄らなかった。

 「ううぅ~…!で、でもなんでいきなりそんな…」

 「ただ確かめたかっただけ。メンバーも増えて、ノアもうかうかしてられないんじゃないかなーって思って」

 「よ、余計なお世話です…!」ぷいっと顔を背けるノア。髪の炎は収まっているが、その顔はまだ赤面したままだ。

 「…どうしたんだ、ノアは?」

 話題の渦中にいる少年は、一体何が起きているのか分からずにただ不思議な顔で二人を眺めているだけだった。愚かなり。

 「っしゃあ!喰うもん喰ったし、Let's go away!居並ぶ連中全員ボコにしてやんぜァ!!」

 「トラブルメイカーここに極まれりじゃな。ノアや、さっき蹴散らすと言っておったが、あの阿呆も蹴散らせられるかぇ?」

 「…で、出来るかなぁ…」と思わぬフリについつい苦笑いになってしまうノア。昨日の派手なツッコミが記憶に新しく、気が動転したとはいえ(一応)仲間に対し思いっきり手を上げてしまったことに彼女は後悔していたのだった。

 「話を面倒臭くしないでくださいソーマ。馬鹿の処理も大変なんですから」

 「それより行かないのー?早く山越えちゃおーよー」

 「そうだな、馬鹿話は道中でってとこか」

 サーシャとメルアの言葉を受け、立ち上がるダイヤ達。昼食を片付け終わったらそのままみんなをボールへと戻していった。よし、と一言呟いてセンターの自動扉を開けて外へ出る。そのすぐ隣にある大きなゲート状の穴が、イワヤマトンネルの入口だ。

 荷物の確認は済んでいる。心の準備も大した程ではない。深呼吸を一回だけ行い、ダイヤは暗いトンネルの中に入っていった。

 

 トンネルに入って数分、一つ目の角を曲がったところで少年はその先の光景に顔を歪めた。一面に広がる黒い景色。僅かに入る陽光がなんとか壁の存在を理解させてくれる程度のこれは、誰がどう見ても暗闇だった。

 「うっわぁ…」と思わず変な声が漏れてしまう。照明設備とかどうなってるんだと問いたくなる暗さだ。一先ずは灯りが無いとどうしようもない。そう思いおもむろに一つのボールに手をかけた。

 『暗いですね、ご主人様…』

 「…うん、ノア頼む。出て来て周りを照らしてくれ」

 『分かりました、お任せください』

 いつも通りの礼儀正しい返事と共に、ボール開放時の光に包まれてノアが現れた。すぐさま力を込めて、後ろ髪を軽く燃え上がらせる。その炎で周囲が照らされ、少なくとも足元と壁は見えるぐらいの光源にはなった。

 「うーん…まぁ先に進むにはこれで大丈夫か。それじゃソーマ、悪いけどまた道案内頼むよ」

 『ふむ、それは構わんがボールの中からで良いじゃろう?』

 「ん、別に良いけど…外出た方が分かるんじゃないか?」

 『戯けめが。こんなクッソ狭いところではマトモに飛ぶことも出来やせんではないか』

 「それもそっか…じゃあそっちで頼むな。ノア、行こうか」

 「ハイっ!」

 元気よく返事をして一歩前を歩き出すノアと、彼女の僅か後ろを付いて行くダイヤ。二人の暗い山越えが始まるのだった。

 (…暗いところでほぼ二人っきり…。なるほど、そういうことですかソーマ。でもノアったら、この絶好の機会に気付いてないみたいですねぇ…)

 (坊が元々鈍いのは分かるが、ノアも大概じゃのう…。こりゃ先が思いやられるわい…)

 口には出さずに思うサーシャとソーマ。ノアがダイヤに対し想いを秘めているということは、二人とも知っていることだったのだが、肝心の本人にどれだけその気があるのか分からない状態。ノアに至っては、さっき発破をかけたばかりだというのにあまりこの状況を気にしていないようだった。まだ色恋と言うよりは義務感や使命感と言った想いの方が強いのだろうか。不安のような残念なような、そんな事を考えるボールの中の二人だった。

 

 

 暗闇の広がるイワヤマトンネルを越える道中は、オツキミ山よりも遥かに大変だった。視界が悪いことに加え、入り組んだ道も多く行き止まりに当たることも少なくない。しかもその暗闇に紛れてバトルを仕掛けてくるズバットやイシツブテ、好戦的なワンリキーやマンキーもよく現れるのが困りものだ。

 中にいるトレーナーも意外に多く、ダイヤと同じように道に迷っている者から修行場にしている者、珍しい萌えもんを探している者や山という空間そのものを楽しんでいる者もいる。そんなトレーナー達と、時にバトルしたり道の情報を聞いたりしていった。

 『なんじゃ、意外と道も変わってるもんじゃのう』と、山男からの情報を聞いて呟くソーマ。彼女の記憶の中の道筋とはいくらか違うのだろう。それも開発の賜物なのだろうか。

 「ソーマがここを通ったのってどれぐらい前なんですか?」

 『…忘れたわ。10年以上も前じゃったかのぅ…?』

 「だったら間違えることもあるか…。この分かれ道、どっちだと思う?」

 『うむ、右じゃな』

 「了解だ」ソーマとそんなやり取りをしながら歩を進めるダイヤとノア。とりあえず、今の分岐の選択は正しかったようだ。

 特に変わり映えもなく、変なハプニングでさえ起こるはずもなくある意味悠々と洞窟を進んでいく。ロケット団が潜んでいるということも無かったし、トレーナー戦が特別苦戦したということも無い。ジョニーが一人やたらとハッスルしていたせいか、先日行ったカスミとのスパーリングが良い方向で活かされているのかダイヤ自身は分かっていなかったが。

 何はともあれ、そのまま歩いていると外から差し込む光が見えた。出口だ。足を少し速めながら、そこへ向かうダイヤとノア。流れてくる風と新鮮な空気が一際心地よく感じられていた。それに導かれるように、二人並んで出口を飛び出した

 「ご主人様!」

 「あぁ、越えたな~…!」

 大きく背伸びと深呼吸をする。やはり洞窟の籠った空気よりも、広々とした山の空気の方が気持ちよい。正午ぐらいに出発したのにもう日が暮れ始めている辺り、かかった時間も大体予想通りだったと言える。

 茜色の陽光を浴びながら辺りを見回すと、山のふもとに萌えもんセンターなどの建物が見えた。間違いなく、今日の目的地であるシオンタウンだ。

 「あともう一踏ん張りだな。ノア、ボールで休んでていいぞ」

 「いえ、折角なので最後までご一緒させてください」

 「それは良いけど、大丈夫なのか?山歩きなんか初めてだったから疲れてるだろ」

 「えぇ、すごく疲れました…。でももうすぐですし、ここまで来たら一緒にゴールしたいです」

 笑顔で振り返るノアの笑みに、ダイヤは思わず見惚れてしまった。夕焼けで赤くなった顔、疲労を滲ませながらも素直な想いで表れる健気な微笑みでそんな事を言われてしまったからか…よだれを垂らすような普段の反応ではなく、ただ強くドキッとした、気がする。そんな感覚に戸惑い、つい生返事になってしまった。

 「――……あぁ、うん」

 「ご主人様、どうかされましたか?…あっ!ま、まさかご迷惑だったとか!?で、でしたら私すぐに戻りますから!」

 「あぁいやいやそんな事ないから大丈夫、大丈夫だ!よっしゃ、それじゃあと少し、センターまで行っちまうか!」

 駆け出し進むダイヤと、すぐに追いつき隣に付けるノア。夕焼け空の下、二人はイワヤマトンネルの出口と同じように並んで街へ辿り着いた。

 シオンタウン…シオンは紫、尊い色。尊さの滲む町。町の外れには大きな塔がそびえ立ち、この小さな町の全てを見下ろしているようだった。そんな中で…

 (―――…………テ……)

 (………また…?だれか、いるの…?呼んで、いる…?)

 ダイヤの腰で揺れるボールの一つ、ネーネだけがまた何かを感じていた。それはまだおぼろげだが…イワヤマトンネルを入る前よりもハッキリとしていた。それは決して気の紛れではない。何処からか、何かを感じ取ったのは間違いないと彼女は確信する。

 …だが、そこまでしか解らなかった。誰が、何処から、何を感じ取ったのか…。

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