萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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 遠回り、回り道。修練を重ね高め、辿り着いたは尊き色を祀り死を悼む町。
 異能の少女は怨嗟と繋がり、少年たちは悪逆非道の現実と直面することとなる。
 沸き上がるは義憤。正義を滾らせる彼らの前に、黒き炎の少女が現れ誘うのだった。



第11話『慟哭の曇天』 -1-

 

 

 タマムシシティ。タマムシは虹色、夢の色。虹色の大きな街。

 その標語が示す通り、ここはカントー地方で最も大きな街として賑わいを見せている。

 他地方の製品も取り扱う大型デパート、夜まで賑わいを見せる娯楽施設、旅行の拠点にもなる大きなホテルなど、最も文化的に栄えた街として知られている。

 それは人の憧れの1つであり、生涯を裕福に暮らすため、また立身出世し大きな存在となるために、多くの人がタマムシという街に夢を馳せていた。

 先程この街に来た少年も、タマムシと言う街に対する憧れはあった。マサラと言う町が良く言えば閑静な…悪く言えば田舎めいた町なのだから、そんな思いを抱くのも必然。状況が状況ならば、素直にこの街に足を踏み入れたことを楽しめていただろう。

 …だが、それを許してくれる状況ではなかった。

 「…着いたな」

 街の入口に立ち呟くダイヤ。これまで見ることのなかった大きな建物の群れにやや圧倒されていた。固めた目付きだけはなんとか変えずに、周囲を見回していく。その姿はまるで田舎者のお上りさんだ。

 都会であるタマムシではそれはある種日常的な光景であり、それを気にするものなど誰も居ない。街往く人の眼からは、彼が萌えもんセンターを探しているように見えているのだろうか。しかし、実際に彼が探していたものは真逆のモノだった。

 「この何処かに、ロケット団のアジトが…」

 『ですね…。一体何処にあるんでしょう…』

 『構う事ァねぇぜミスター!そこいらのヤツを締め上げてゲロらせりゃいいんだ!』

 「はぁ…気持ちは分かるけど穏やかじゃねぇな。事件を起こす連中を前にしてこっちが事件起こしてどうすんだ。とりあえず、萌えもんセンターに行ってみよう」

 最も過激なメンバーの過激な言葉に落ち着きを取り戻したのか、先走ることなくとりあえずセンターへ足を運ぶこととなった。

 

 

 - タマムシシティ 萌えもんセンター -

 

 いつものように一席を借りてミーティングを始める。今回場に出ているのは、ノア、メルア、サーシャ、ソーマ、ルビィの5人だ。ジョニーはというと…

 『HeyYoミスター!!なしてミーを出さねぇんだYO!!』

 「出したら一人で行きかねないからだ」

 『ファーック!こんな時だけアタマが回りやがるZE!』

 このように、一人だけ監禁状態にしておいた。自力で出ないようにするボールのロックに加え、テーブルの上に乗せて全員が監視の目を向けられるようにしておく。そうでもしておかないと、どう動くか分かったもんじゃない…との、サーシャとソーマからの入れ知恵だった。

 「進めるか。これから、どうするか」

 「目的は変わらず、で良いんですね。でしたら、何よりもロケット団のアジトの場所を探さねばなりません」と、てきぱきとマップを広げるサーシャ。

 「広い、ですね…」

 「半分探すだけでも日が暮れちゃいそう…」

 マップを見てノアとメルアが溜め息交じりに言う。カントー最大の街であるタマムシは、トレーナー一人とそれの手持ち萌えもんだけで探せる範囲を大きく超えていた。

 探して、見つけて、整えて攻め込む。その行程に一体どれだけ時間がかかるのだろうか。考えただけでも悩ましいところだ。

 「普通にやっては時間がかかって仕方ないのう。ならばここは、新入りに頑張ってもらうところか?」

 そう言ったソーマの言葉と共に、全員の目線が先ほど仲間として加入した萌えもん、デルビルのルビィへと向けられた。

 「ルビィ、何かアテはあるか?」

 「そうですわね…正直なところ、私もハッキリと分かっていないところはあります。ですが、連中がたむろしてるところは幾つか把握しています。そこに行って聞き出してきますわ」

 「そんな事をして、大丈夫なんですか?一人で行くよりみんなで行った方が…」

 「皆さまはおそらく面が割れておりますので、乗り込んでいっても素直に教えてくれる事は無いでしょう。その点私ならばかつては所属していた身、こういうことは容易いです」

 粛々と、表情を変えずに話をするルビィ。ノアの心配もどこ吹く風で、それは自分の仕事であると言わんばかりの態度だ。

 実際のところ確かに彼女の言う通りだ。これまで何人もの団員を倒し、同じく一員でありながらジムリーダーでもあるマチスをも倒したのだ。さすがに下っ端の団員でも知らないなどと言う事はあるまい。

 それは分かるのだが、アジトを探るという役目をルビィ一人に頼むのは危険が過ぎるのではないか。そんな不安が、彼らの顔にありありと浮かんでいた。

 「…ご安心くださいませ、ご主人様。私、皆さまが考えているようなヘマは致しませんわ」

 「…じゃあ、頼まれてくれるか?」

 「お任せあれ。ご主人様は、万全の体制を整えておいてください」

 「分かった。なんの手掛かりも掴めなくても、夜までには戻ってこいよ」

 「承知致しましたわ」とスカートの裾を小さく上げながら会釈するルビィ。急ぐワケでもなく、悠々とセンターから出て行った。

 自動扉に遮られて彼女の背中が見えなくなったところで、ダイヤは大きく溜息を吐いた。

 「だいじょうぶ、マスター?」

 「あぁ、まぁな。…でもやっぱ、1人に任せるのって気が重いなぁ…」

 「信用問題と言ってしまえばそれまでですがね…。でも、彼女の言う事も一理あります」

 「顔が割れすぎたと言うのも面倒な話よのぉ。その上そんなクソ目立つ服まで着てるとなれば、尚更か」

 「誰がこの服持ってきたんでしたっけソーマさぁん…?」

 テヘペロ♪と言わんばかりの軽い笑顔で悪戯っぽく笑いごまかすソーマ。

 悪気の所在については先日散々言及したのだからこれ以上は何も言わないものとし、ルビィの言った通り彼女が戻って来るまで準備を整えることにした。

 所持道具、回復薬、現予算。トレーナー1人で一組織と戦うとなればどれだけのものが必要だろうか…。それは少年には想像に難く、また余計に頭を悩ませる一因となった。

 「…ぬあぁ〜、万全の体制ってなんだ一体!?どこまで揃えりゃ良いんだ!」

 「まぁ分からんのも仕方あるまい。どうせなら有り金全部叩いて回復薬を揃えておくのが妥当じゃろうかのう」

 「穴抜けの紐も幾つか持っておきましょう。あるだけで撤退も容易になりますしね」

 「…了解だ。茹だってても仕方ないな、ショップに行って揃えるか」

 

 

 - タマムシデパート -

 

 タマムシシティを代表する建物の一つがこのデパート。5階建ての百貨店であるここは、高さは勿論だが全体的な大きさと広さも目を引くところだ。

 この施設の中にはそれぞれの階層毎に別の店舗が出店されており、豊富な品揃えが約束されている。だがそれは来店者を楽しませると同時に迷い悩ませることとなる。それは街に来たばかりの少年にも同じことが言えた。

 デパート2階のトレーナーズショップで傷薬や状態回復薬、穴抜けの紐を一通り買い揃えたダイヤが足を止めていたのは、3階の技マシンショップ。店の名前通り技マシンを取り扱っているのだが、これがまた品揃えが多いのだ。

 まず攻撃技と補助技で分類され、そこからそれぞれに安価な使い捨てマシンとやや高価な使用無制限マシンの2種類がある。陳列されている数々のマシンを、誰が何を覚えられるのか、技の効果やタイプと見るべきところはキリが無い。ズラッと並んだ棚を眺めていたら、すぐに頭が痛くなってきた。

 「…ねぇ、俺もう諦めたい」

 「頭部マッサージしましょうか?血行が良くなって考えがまとまるかもしれませんよ」

 途方に暮れた笑顔で振り向くダイヤの頭にサーシャの手がめり込んだ。ミシミシと軋む嫌な音を出す彼女の顔は、暗くも最高に良い笑顔だ。

 「やめてサーシャさん、せっかくヤル気になってたのにここで終わっちゃう」

 「終わりたくないならちゃんと考えをまとめて下さいな」

 「おっしゃる通り、だけどなぁ…」

 「今度はどんなお悩みですか、ご主人様?」と、ノアの問いに少し頭を捻るダイヤ。

 「んー…いやさ、何度図鑑と睨めっこしてもこれ以上技を揃えられないんじゃないかって思っててさぁ…。

 確かにここには破壊光線みたいな強力な技マシンもあるけど、今の資金じゃ買えないのが現状。補助技にしても、みんなが覚えてる分で十分だと思うし」

 図鑑をプラプラと揺らしながら、少し諦めの混じった嘆息を込めてダイヤは答えた。

 それにここに置いてある補助系技マシンは【いちゃもん】や【威張る】といった一癖ある補助技ばかり。こだわる訳ではないが直球勝負が得意な少年にとって、このような搦め手は使いこなす自信が無かったとも言える。分かりやすい能力向上、下降型の補助技ならばまだ使えるのだが、と。

 ならば下手に使えぬ技を腐らせるより使い慣れた技を使う方が良いのではないか、と言うのが彼の出した結論だった。

 「ふむ、存外マトモなこと考えておったか。それに、新たな技を得たところで慣らす暇は無いと思って良いかのう」

 「無駄足だった、ってことでしょうか…」

 「そうでもないさノア。現状把握って意味じゃ良い時間になったよ」言いながらぐぐぅっと大きく背を伸ばすダイヤ。しばらくしゃがんでいたせいか、色んな筋肉が強張っていたのがよく分かる。

 頭の整理が済んだところでホッと一息吐いたところに、メルアとジョニーが二人で帰ってきた。2人の手には眼前の棚に陳列されているものとほぼ同じ小さな箱…技マシンが握られていた。

 「マスター!これ買って!!」

 「コイツも頼むZE!安心しろミスター、ちゃんと使えるヤツ選んできたんだZE?」

 「…いや、さっき予算も少ないからやめとこうって話してたんだけど…」

 「えぇっ!ダメなの!?」

 「あァん、なにシケたこと言ってんだYO。まだカネはあんだろ?HeyHeyちょっと跳んでみろよメーン」

 「カツアゲはやめろ馬鹿ッ!!」

 ジョニーに対して激しいツッコミをしながらメルアに目を向けると、その顔は残念そうに歪んでいた。泣きそうという訳ではないが、落胆の色がありありと浮かんでいる。

 メルアにそんな顔をされると異常に罪悪感が高まるのは何故なのか。おそらくはナチュラルに愛され上手なのだろう。彼女自身は打算的にそう言う事を出来るタイプではないのだから。

 だからまぁ、ダイヤだけでなく他のメンバーもメルアに甘いのは仕方ないとも言えた。

 「マスター、少しぐらいならよろしいのでは?元より購入目当てでここに来てたんですし」

 「妾はどっちでも構わんがのぅ。まぁメルにこんな顔をさせたままで良いのならじゃが?」

 「…ご主人様、その…私もその、無理でなければ…」

 三者三様の目線が痛い。駄目な時はハッキリと駄目と言うべきなのだろうが、どうしても甘やかしたい気持ちが勝ってしまっている。なんとか拮抗する気持ちを堪えながら、メルアに目線を合わせるよう中腰になった。

 「メルアの欲しいそれ、どんなヤツか見せて貰ってもいいか?」

 「ん…はい」

 差し出された箱を手に取って確認する。パッケージには、『技マシンNo.27』と書かれていた。丁寧に使用無制限タイプとも強調して表記されている。その技とは…

 「【恩返し】、か…。メルア、この技使いたいのか?」

 「ううん、みんなに使ってもらいたいなって思ったの。メルみんなの事大好きだもんっ!」

 屈託ない笑顔で言った言葉に、思わずソーマがメルアを抱き締めた。全力で持ち上がった口角からは嬉しさと愛おしさが溢れ出てるのがよく分かる。

 「あぁぁもうなんじゃいこの可愛い奴は!坊、買え。買わんとどうなるか分かっておるのじゃろうな?」

 「私も賛成です。買いましょうマスター。買いましょう」少し赤くなった顔を背けながら、眼鏡をクイっと持ち上げてサーシャも言う。隣のノアもまた、同様に嬉しそうな顔で首を縦に振っていた。

 確かにダイヤからしてもそんな言葉を聞いてしまっては買わざるを得ないと思っていた。だが、肝心のお値段だ。値札を見てみるとちょっと額が多い。具体的には財布に入っている残金の4倍ほど。

 そんな物理的な無理を見せつけられて、ダイヤは妥協案を取ることにした。

 「…メルア、みんな、ごめん。今は本当に金が無くてこっちは買えない。だから、あっちの使い捨てタイプにしてくれ」

 恥ずかしい物言いにサーシャとソーマからは非難の目が向けられる。だがメルアからは、さっきと打って変わっての明るい喜びの顔に変わっていた。

 「良いの!?やったぁ!ありがとうマスター!!」

 「またちゃんと金が溜まったら、そっちのを買おうな。それまではこっちで、誰が覚えるかは今後のお楽しみだな」

 「うんっ!!」えへへと嬉しそうに笑うメルアを囲むようにし、みんなで一緒に会計に向かう。その時に。

 「待てィ!!ミスター、ミーの分をスッキリバッサリ忘れてんじゃねぇかYO!!!」

 「あー、うん。忘れてた。可愛いは正義だからな」

 「Shock!!どうせだるォ!?ミーの分も買えってんだYO!!」いやに必死で食い下がってくるジョニーに、どうしても呆れ顔で接してしまうダイヤ。態度の差が露骨だとは思うけど、当然のことだと思う。

 「…一応聞くけど、お前のは?」

 「ウィムッシュ!マシンNo.31、【瓦割り】だZEッ!!」

 瓦割り。パッケージの説明文を流し読みしてみると格闘タイプの技だと分かる。特殊攻撃が苦手で物理攻撃は電光石火しか覚えていないジョニーにとっては、真空波の上位互換として習得するに丁度いいのだろう。

 それに一応はこっちの懐事情を理解してくれていたのか、持ってきた技マシンは使い捨てタイプ。お値段の方もメルアの【恩返し】と合わせても予算内に収まる程度だった。不安要素としては残金が心許なくなることだが。

 実際のところ、ニヤニヤと肩を組みながらのたまうジョニーの言葉にも一理あるんだし、決心はすぐに着いた。

 「なぁ、いいだろミスター?どうせヤツらとヤり合うんだ。少しぐらい強い技にしといて損はネーってばYO」

 「……はぁ、分かったよ」と、少し呆れながらジョニーの持ってきた瓦割りの技マシンを籠に放り込む。後ろで馬鹿がヒャッハーと声を上げて煩いことこの上ないが、仕方ないと割り切ることとする。

 レジで会計を済ませてデパートの外に出ると、もう日が沈みかけていた。夜が近いことを全身で理解しながら、ルビィにかけた言葉を思い出していた。夜までには戻ってくるとの約束ならば、早ければ既に…遅くとも日没過ぎには戻ってくるだろう。

 捕まっている、とは考えれないし考えたくもない。堂々と「ヘマはしない」と言ってのけたルビィの事を、ダイヤはただ信じているしかなかった。抜かりはないとは言えなかったが、こちらも今出来る限りの準備は済ませたつもりだ。大丈夫、成し遂げると心を強く固めていく。

 気持ちと共に表情を固め直し、茜色の夕焼けを背に受けながら少年たちは萌えもんセンターに戻って行った。ロケット団と、戦うために。

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