萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION- 作:まくやま
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大都市の夜更け、日が変わる程の時間にもなればこの街も夜の闇に覆われる。マンションの窓からまばらに光が出ているが、その程度では街を照らすには至らない。そんな暗い街の中、ある大きな建物の前にダイヤがいた。
「ここか…」
声を潜めて呟くダイヤ。眼前にある建物は、薄い月の灯りでも分かる程度に色彩鮮やかなものだ。大きなロケット型の看板に、ネオンサインでROCKETと銘打たれてある。タマムシシティの誇る一大アミューズメント施設、ロケットゲームコーナーだ。
ダイヤがなぜ此処に居るかと言うと、また時間は夕刻過ぎまで巻き戻る。
萌えもんセンターの席の一つで座っているダイヤ。
そこに、ゴスロリのスカートを小さくなびかせてルビィが歩いて来た。パッと見で特に外傷もなく、何事もなく無事だったと見える。
「おかえりルビィ。大丈夫、みたいだけど…」
「はい、何事もありませんでしたわ。少しばかり不審がられましたが、実力を見せれば容易いものでした」
ニコリと笑いながら掌に生み出した炎を握り潰す。仔細なく勝利を収めてきた、と言った顔だった。
「良かったです…。なにか起こってからじゃ、遅いですもの」と胸を撫で下ろすノア。
「ンなことより、ちゃんとアジトの場所は見つけてきたんだろうな?」
「はい、勿論です」
睨みつけながら威圧を込めて尋ねるジョニーに臆する事なく、ルビィは落ち着いた笑顔で返答した。そしてすぐに街の観光案内図を広げ、迷わずその位置を指し示す。それこそが…
「ロケット、ゲームコーナー…?」
「はい。正確にはここの地下をアジトにしているとの事です」
「なるほどのう。遊戯施設で活動資金を稼ぎながらの暴力団活動か。まぁ理には適っておるわ」
顎に手を添えながら、納得したように呟くソーマ。確かにゲームコーナーなら一般人にとっても入り易く、音と光が与える刺激に惹かれついつい懐より金を飛ばしていく。無論換金やアイテム等との交換もあるのだろうし、賭け事ならばその時々で勝敗に差は有るだろうが、結果として互いに得をする、所謂Win-Winの関係になっているのだろう。
そしてそれは既に、この街になんの不自然もなく浸透していることも意味していた。さすがにそれを根底から否定し変えるなどとは考えなかったが。
「ともあれ、乗り込むのなら閉店後が良いでしょうね」
「だな。客を巻き込むワケにはいかないし、人質にされたらどうしようもない」
「…遊べない、よねぇ?」と上目遣いで尋ねるメルア。無論彼女自身もその質問が無意味であると分かっていたのだが、つい口に出してしまった。
「悪いなメルア。まぁでも、片付けりゃすぐ遊べるようになるさ」
ダイヤの返答に笑顔で「頑張るっ!」と意気込みを強くするメルア。その前向きさに少し羨ましく思いながら、彼女の頭を優しく撫でる。それこそが、彼の背を押す大きな要因の一つなのだから。
「オッケェーイ!じゃあカチコミは深夜、草木もスリーピングする時間だな!ナチュラルハイにナイトレイドと往こうZE!!」
「うっさい馬鹿。…でも、予定としてはそんな感じだな」
「準備のほどは整っておりますのでしょうか?」
「あぁ、ルビィが探りを入れてくれてる間に整えたよ。あとは、今のうちに少し仮眠とっとこうか」
ダイヤの提案に一同は首を小さく縦に振り首肯した。
そこから深夜。ジョニーの言った通りに、草木も眠る半宵を越えた時刻に彼は一人ロケットゲームコーナーの裏手に回っていた。
スタッフルームへ続く非常口に近寄り、そっとドアノブを回して引く。当然のように固い抵抗があり、戸締りはしっかりしていると感じられた。
「戸締りシッカリ防犯体制…。ま、そりゃ当然だよなぁ」
『どうやって開けましょう…』
『ミーに任せな!Power of powerでブッ潰してやらぁ!』
「却下。力尽くでぶっ壊して先に大事になっても困るし、鍵だけ焼き切る事って出来ないかな…。ノア、やれるか?」
『わ、分かりませんがやってみます…!』
『ご主人様、器用な技使いなら私にお任せ下さいまし。繊細に、綿を裂くように切り落としてみせますわ』
自信無さげなノアの返答に被せるようにルビィが進言する。彼女からの言葉に思わず戸惑ってしまうが、考えてる暇も無い。進言するだけの自信があるのなら、任せても良いかと結論付けた。
「…じゃあルビィ、任せた。ノア、悪いな」
『いいえ…。下手にやって爆発させるぐらいなら、この方が…』
「気を落とすなよ。すぐに思いっきりやってもらうからさ」
ノアへのフォローを言葉にしながら、ルビィのボールを出して顕現させる。現れた彼女はすぐに鉄の扉と壁の間に手を当てて力を集め始めた。狙いは扉を固定するカンヌキであるデットボルト。数秒もしないうちに鍵の周囲が赤く熱され、やがて小さくガチャンと金属音が鳴った。
すぐさまドアノブを捻り、そっと扉を引くルビィ。鉄の扉は、少々の軋轢音を響かせながら開いて行った。壁側から小さな鉄の破片、焼き切れたデットボルトの一部が転がった。
「如何でしょう?」
「…想像以上にパーフェクト。サンキュ、ルビィ」
『しかし、これでは完全に私達が悪者ですねマスター。防犯カメラとかどうしましょう』
「…あ、考えてなかった」
『ったくこの阿呆め。メル、綿胞子でカバーしてやれい』
『わかった!マスター!』
了解、と軽く答えてメルアのボールを開け放つ。すぐにフワフワの綿毛を膨らませ、開いた扉へ向かって散らばるように解き放った。本来は相手にまとわりつけて素早さをガクッと低下させる技である綿胞子だが、使い方次第では目眩ましにもなるのだ。
非常口周囲を白く眩ませ、とりあえずの障害はクリア。労いも兼ねてメルアの頭を撫でながら「よくやった」と声をかけ、すぐにメルアとルビィの2人をボールへ戻す。そのまますぐ綿胞子の中へ入り込んだ。ようやくの潜入だ。
「ルビィ、この先は?」
『店舗の方へ出て下さい。そのまま奥へ行き、壁に掛かった額縁へ』
出来るだけ静かに動きながら、ルビィの指示に従い進んでいく。彼女の言った額縁はアッサリと発見でき、すぐにその前へ立った。大きなロケットの絵だ。
「これを?」
『赤いRの文字をゆっくり押してください』
指示通りに押す。すると、絵の下にめり込むような、押し込まれる感触が彼の手に感じられた。その直後に、ガチャンと大きな開錠音が鳴る。
「…開いた?」
『はい。引き戸になってますので、額縁を手すりにすればよろしいですわ』
言う通りに引いてみると、重たくはあったが確かに開いた。足元は下りの階段となり、その先は暗い闇が広がっていた。どこか圧迫感の感じる闇に対し、大きく深呼吸をしてそこへ一歩足を踏み入れた。
『来たぜ来たぜミスター!いよいよだなァ!!』
「…俺は別に嬉しくないけどな。でも、ここまで来たら腹括るしかないよな…!」
『マスター、一応確認しますが、作戦は?』
「正面突破でボスのところまで一直線。どうせこの先はすぐ見つかるさ。だったら真っ直ぐぶちのめす!」
戦略性皆無の作戦に、ボールの中で頭を抱えるサーシャ。しかし、それがこの少年…我らが主なのだから仕方ない。ジムリーダーや強敵との戦いでも、机上論と綿密な作戦で制するよりも状況変化を活かした戦いを主として来た彼からすれば、正面突破と言うのが最も正しいのだろう。
『わかっていただろうに、のうサーシャ。坊がここに入るまでコソコソ出来たのが奇跡みたいなもんじゃよ』
『…まぁそう言うと思ってましたよ。やることはいつも通り、マスターの指示に精一杯応えるだけです』
「頼りにしてるぜ。それじゃ、思い切って行くか!」
立っているのは既に扉の前。帽子の位置を整え、一呼吸して心を決める。そして、全力で眼前の扉を蹴破り、ロケット団のアジトへと乗り込んだ。
派手な轟音が響き渡り、その音に引き寄せられるように団員たちが集まってくる。パッと見ただけでもその数は片手で数えられる数を越えている。黒服の団員達からは、「侵入者か!?」「いい度胸だ!」などと好戦的なセリフが飛び交い、それと同時に宙へ舞う紅白のボールが開き、連続して萌えもん達が出現した。ラッタ、ゴルバット、ドガース、ベトベター、ゴーリキーなど多種多様だ。
入口を背に団員とその前に立つ萌えもん達を一瞥し、出来うる限りの速さで手を腰に添えた。流れるように行うはただ一つ。
「みんな、行くぜッ!!」ホルダーからボールを外し、3つずつの計6個、手持ち全員を解き放った。
「ハッハッハァー!!大暴れ待ったなしだァッ!!!」
狂気にも似た歓喜をその眼に宿し、真っ先に飛び込んでいったのはジョニー。ここまで溜めに溜め込んだ感情を爆発させんが如く、猛然と攻め込んでいく。
瞬間的に最高速度へと加速する電光石火で空に浮かぶドガースを踏みつけ、その反動で跳躍しゴルバットを蹴り飛ばした。
「くっ、コイツ…!」
「来やがれザコども!テメェら全員ボコにしてやんぜェ!!」
「ナメやがって!ゴルバット、エアカッター!ラッタ、必殺前歯!」
「こっちもエアカッターだゴルバット!ドガースは体当たりだ!!あいつらまとめてブッ潰せ!!」
ジョニーの一撃を皮切りに、一斉に攻撃指令を下してくるロケット団員たち。それを聞いて羽根をはためかせるゴルバット達や襲い掛かるラッタやドガースらを見回し、すぐさまダイヤも応戦の指示を出す。
「メルア、電気ショック!ソーマ、エアスラッシュ!ルビィ、火の粉!相手はゴルバットだ!!ノアはドガースに火炎車!サーシャはラッタにブレイククロー!ジョニー、お前は好きに暴れとけ!!」
「YEAHHHHHHHH!!!」
「妾達はあの阿呆のカバー役か。まぁ正しい役回りじゃな!」
腕を振り抜き風の刃を放ちながらゴルバットを撃ち落としていく。隣からルビィの放つ火の粉、メルアの放つ電気ショックも合わさり連鎖して爆発が巻き起こった。
バタバタと順繰りに、目を回して落下していくゴルバット達。その一方で地上では、ノアの火炎車とサーシャのブレイククローが其々の相手に炸裂していた。怯んだ瞬間に背後からジョニーの電光石火が喰らわされ、ドガースとラッタも戦闘不能。すぐにそれらを引かせたと思ったらすぐさま次の萌えもんを繰り出してくる。新たに出現したアーボやコラッタ、イトマルが出て来ると同時に襲い掛かってきた。
「アーボ、毒針!」「コラッタ、電光石火!」「イトマル、糸を吐く!」
「ノア、煙幕!サーシャ、砂地獄!」
互いの指示が交錯し、それを合わせて萌えもん達も動き出す。
白く輝きながらの高速突進を翠の刃が受け止め弾く。黒く爆裂する煙幕が砂塵によって巻き上げられ、互いの視界を殺しながらも構うことなく炎や電撃、風刃が撃ち放たれる。
そして上がった黒煙が晴れた時、其処に立っていたのは銀服の少年とその仲間たちだけだった。
「ふう…とりあえず、これだけ…」
小さく溜息を吐きながら呟く。少しだけでも心を落ち着かせ、次の行動を出来るだけ早く決めなくてはならない。
「流石に、数が多いですね…」
「まだこの後も来るだろうし、アジトっていうだけの事はあるな…」
「Heyミスター!だったらこんなトコで足止めてねーで先に進むんだルォ!?ナニしにカチコミに入ったんだってばYO!!Non stop go Go GO!!」
ジョニーの言うコトも一理ある。…と言うより、この場では恐らくそれが最善だ。此の期に及んで受け身の対処法ではこちらが無駄に消耗していくだけ。ならばこそ、出来るだけ最速最短で首魁へ攻め入るべきだろう。
「…確かに、ゲームなんかでも大将取ったら勝ちだもんな。その話乗った!ルビィ、ボスが何処に居るか分かるか?」
「地下4階の最奥部です。エレベーターを使えばすぐですが、エレベーター自体がキーロックされてますので、先ずはそれを手に入れなければ…」
「まどろっこしいのう…。もうこの際じゃし、ぶっ壊してしまえば良かないかのう」
「それはスマートじゃないですね。体力の温存も考えるなら、正面突破するにしても余計な事態は引き起こさないようにやるのが良いと思います。それに、そういう物なら管理室にでも行けばすぐに見つかると思いますが?」
「残念ながら、キーを持っているのは数人の団員をまとめる班長とそれ以上の役職しか居ないらしいです。管理室を狙うというご提案は良いと思いますが、その道中での戦闘、消費のロスは避けられないと思います」
サーシャの案に対してやや淡々と、だが正確な意見を述べるルビィ。どう動くにしても派手にしかならず、どちらに転んでもメリットとデメリットがある。しかもその差はほとんど変わらないと来た。優柔不断はこういう時に顔を出すもので、ダイヤの思考はまたもこんがらがって来てしまった。
「ぬあぁ〜…こんな事で迷いたくなんかないんだけどなぁ…」と頭を抱えながら呟くダイヤ。とその時、彼の服の裾が軽く引っ張られた。メルアだ。
「ねぇねぇマスター、この人達はそのキーを持ってないのかなぁ?」と倒れている団員を差して彼女は言う。
そして訪れる一瞬の静寂。無邪気さをも感じられるその言葉に、周囲の目が点になった。
エレベーター前。黒い帽子と赤いRのマークが入った黒服を着たダイヤが開閉ボタンのところに設置されてある認識器にカードを通す。ピンポーンという軽快な音と共に、重い機械仕掛けの鉄の扉が開きだした。
扉の中、重苦しい一間の中へ入り込み、すぐにB4のボタンと閉と書かれたボタンを押して行く。眼前の扉が自動で閉まっていき、一つの密室が完成。そのまま下へと動き出した。
「………ドンピシャだったな。お手柄だよメルア」
『えへへ、やったねマスター!ぶいぶい!』
『ザル警備…とまで言って良いのかは分かりませんが、こちらの予想をはるかに上回るにスムーズさで来れましたね』
どこか呆れ声の混じったサーシャの呟き。だが実際その通りで、エレベーターのキーは倒した団員のうち1人を探してみたらすぐに見つかったし、エレベーターまでの道のりはルビィが最短経路を教えてくれた。騙せるとは思ってないけども、一応ジャケットと帽子も拝借して着込んでおき、エレベーターまでの途中に配備されてた団員は奇襲攻撃ですぐに伸してしまった。
『でも、ちょっと上手く行き過ぎた気はしますよね…』
「大丈夫だってノア。上手くいくってのはそれだけ良い流れが来てるってことさ」
『そうじゃよ。心配になる気持ちも分かるが、この先に居るボス…サカキをぶちのめしてしまえば全部終いじゃ』
『That's all right!!イーズィーなことじゃねぇか!!』
『でも、ソーマ言ってましたよね…。付焼刃で勝てるような相手ではないと…』
小さく漏らした不安の種。誰よりも相手の存在を知っているソーマから、以前そんな忠告をうけたばかりなのだ。恐らく相手はこれまでにない強敵。朝方の血の上りも、状況整理の済んだ今となっては冷静さが前面に出ているせいかせっかち故の慎重な考えが彼女の脳裏によぎっていた。
そんな彼女に対し、気持ちは分かると言わんばかりにダイヤは明るめに言葉を返した。
「大丈夫だノア!あの時よりも、みんな絶対に強くなってる!負けやしないさ!」
『…そう、そうですね!私、頑張ります!そう言ってくれるご主人様の為にも!』
声だけのやり取りだが、そう言ってくれるノアにダイヤの口元が綻ぶ。大丈夫だ、自分たちなら。そう強く思いながら胸を張って前を向き直した。
まるでタイミングを計ったかのように開かれるエレベーターの扉。階層は地下4階。目的の場所だ。差し込む光と共に映ったのは、数人のロケット団員とその手持ち達。どう見ても臨戦態勢の相手を見据え、彼はそれが最後の障害物だと考えた。ここで負けてなどいられない。勝たなければいけない相手はこの先に居るのだから。
「ノア!火炎車ッ!!」
「はいッ!!」
一番の相棒の名を叫びながらボールを投げる。解放されたボールから顕現した刹那、全身を炎で包みながら突進し相手の中央で爆ぜた。奥へと繋がる広めの一本道が、一瞬で戦場へと変化していった。
その最奥…アジトの中で最も重厚な扉の奥の一室で、一人の男が大きな椅子に腰掛けていた。
扉の向こうから聞こえる爆裂音、響いてくる重振動。険しい顔付きはその眉間の皺を深くさせ、その口角を釣り上げていった。静かに、そしてどこか獰猛に。
「――…来たか」
やがて戦闘音が鳴り止んだ後、男の眼前にある大きな扉が開いていく。そこに立っていた者は、銀色のジャケットを着て同じ色の帽子を被った少年。強く固めた表情は、気合に満ちていた。
黒い男と銀の少年、互いに交錯する視線。口を開いたのは、少年の方だった。
「…あんたが、ロケット団のボス…サカキか」
出来るだけ低く、可能な限りの威圧を込めて絞り出した声。男は律儀に、その問いに答える。
開いた口から発せられた声。それは少年が想像していた遥かに強く、重く、優しさというモノを一切感じさせない声だった。
敵意が、軽侮が、感興が、何処かない交ぜになったような声で、男は答えた。
「…ようこそ少年。マサラタウンのダイヤ、だったか。
――はじめましてだな。私がサカキ。ロケット団を、率いる者だ」