萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第1話『始まりの君と』 -3-

 

 

 

 「なんだ、もう爺さん見つけたのか。意外に早かったな、ダイヤ」

 「見つけたっつうか、見つかったっつうか…まぁそんなとこだけどな」

 「そんなことよりも、ホレ。そこにボールが3つあるじゃろう?」

 博士の言葉で、ダイヤとロイは二人してテーブルの上に置かれたボールを注視する。

 全く動かない左端、時々、脈動するように動く真ん中、どこか落ち着かない様子で動いたり止まったりする右端と、ボール越しでも三者三様だった。

 そんな彼らを見ながら、博士は話を続ける。

 「ジョウトのウツギくんが渡してくれた萌えもん達でな。この子らを、お前達二人に預けたいと思う」

 「俺達二人でこの三人を世話しろってか?」と返すロイ。

 「そうではない。お前達はこの中から一人ずつ選んでパートナーにすれば良い。残った一人は、研究助手としてワシが育てるさね」

 「つまりは俺たちには一丁前のトレーナーになれと。でも、なんで突然そんな事を俺たちに?」

 「ワシももうジジイだからのぅ。ヤル気があっても身体がついて行かんのじゃよ。それにこの子たちはまだこれから…老いぼれと一緒にいるよりは、お前達のような若者と一緒に外の世界を知った方が良かれと思ってな」

 優しく笑いながらそう告げる博士。その言葉にいち早く理解を示したのは、孫のロイだった。

 「なるほどな。で、どうするダイヤ。トレーナーやるか?」

 「んー……正直面倒くs」

 「はて、ワシとこの子たちの一週間…どうやったら帰ってくるんじゃろうかのぅ?」

 ダイヤのネガティブな意見を遮るように、またも”一週間”をタテにしてきた。

 どうやら拒否権はないものであるらしい。

 「是が非でもやらせていただきますとも博士」

 脊髄反射と思わんばかりの返答速度。崩れない博士の笑顔がとても不気味だ。

 「うむ、よろしい。それじゃあ二人とも、選びなさい」

 「…だってさ。どうする、先選ぶか?」

 「気ィ使うなよ気色悪い。ほら、さっさと決めちまえよ。どうせまた長くなるんだろ?」

 「…む、言いやがったなこの野郎。見てやがれ、たまにはバシッと即決してやるぜ」

 売り言葉に買い言葉、ちゃんと考えてるのか分からないダイヤの言動に、ロイはやれやれといった感じでテーブルに向かう姿を眺めていた。

 テーブルに相対するダイヤ。並べられたボールにしまわれた萌えもん其々の状態と姿を、ボールから出していくことで一つずつ確認していく。

 「………?」

 「……草萌えもんのチコリータ、か……」

 (うわ…スッゴい見てるよこの人…。やだなー...まさかあたしを選ぶんじゃないよねぇ…ダッリィ)

 楽な格好で座りながら、ダイヤの視線に対し冷ややかな、露骨に嫌そうな顔で返すチコリータ。

 インドア派の彼女にとって旅は苦痛以外の何物でもない。そのクセ、ストレートに意志と感情を表現できる図太さは、彼女の長所とも言えるだろう。

 しかし、さすがに察しの悪いダイヤでも彼女の顔には気付いたようで、少し不安を抱えながら彼女を選ぶのは保留し次のボールを開ける。

 願わくば、後の二人は良い子でありますように。

 「……水萌えもんの、ワニノコ……」

 「はい、俺がワニノコです。こんにちは、はじめまして」

 「お、おう。こん、にちは」

 元気で快活な返事が聞こえてきた。凛々しく礼儀正しい声を聞く限り男性型のようで、その顔つきからはどこか勇敢なイメージを持てる。返事は予想外だっただけに、軽く狼狽えてしまい返す言葉もしどろもどろだ。

 (この人がダイヤ君、か…。

  良い人そうではあるけど、随分迷ってるなぁ…。大丈夫かな…?)

 初対面の萌えもんにも心配されてしまうほど、ダイヤは切羽詰まってるように見えるんだろうか。

 それでも彼は16歳。一人前に旅立っても良い年齢である。

 そしてダイヤは、最後のボールに手をかけた。強い拍動のようなモノを手から感じながら、中央の開閉ボタンを押して開放した。

 (わっ、私の番だぁ…!)

 「で、コレが最後のヒノアラ、シ―――」

 飛び出た彼女は、後ろで結った黒髪と細い目。背中だけが黒く他はクリーム色のダボッとした着ぐるみを着た、小さな萌えもんだった。

 …目と目が合う瞬間。ダイヤの中では時が止まったように感じた。電流が流れるような衝撃。

 なぜこんな事になったのか、激しい衝動が彼の脳内を直撃する。

 「………………」

 (あ、あれ…なんだろうこの人…?私の前から動かないし…なんだか、眼の色が違うような…?)

 異変に気付くヒノアラシ。不安げな顔できょとんと小さく首を傾げ、ダイヤを見つめ返す。

 だがそのアクションは、ダイヤの脳へと更に追撃をかけることとなったのは知る由もない。

 そしてそれは、身体の反射としてすぐさま現れることになったのだ。この場の誰もが、あらゆる予想を反したモノとして。

 

 「        ジュルリ       」

 

 「「ジュルリ!!?」」

 (ジュルリっつった!?今ジュルリって言ったよコイツ!!)

 (…え、えーっと… ど、どうしよう…どうしたら良いのかなぁ…?)

 驚愕する一同。いや、それも当然だろう。如何な反応が有るかと思いきや、意外、それは唾液を啜る音。

 理知的なワニノコでさえドン引きするその光景を眼前で見ていたヒノアラシも、引いていたことに変わりはなかった。

 (よ、よだれ!?な、なんだろう…変な人だ、この人…!)

 ダイヤの形相に畏れを覚えるヒノアラシだったが、周囲の如実な反応で取り戻した僅かな冷静さで改めて彼の姿を見る。

 …うん、どう贔屓目に見ても異常この上ない。だけど彼女は、どこか少しだけズレた見え方をしていた。

 (………でも、すごく真っ直ぐな目をしてる人なんだなぁ…)

 「……失礼、取り乱しました。まぁそんな事より、俺はこの娘に決めますが構いませんよね。

  答えは聞いていませんがッ!!」

 「あ、あぁ…。って言うかもう手にしとるのう、それ…」

 ヒノアラシのボールを天に掲げ、ダイヤが宣言する。そのガッツポーズは、完全勝利したなんとかクンにも見えるかもしれない。

 それを見て呆れるチコリータと、苦笑いをするワニノコ。当のヒノアラシはまだ何処か戸惑っていた。

 一息入れてヒノアラシの方へ振り返るダイヤ。その顔は普段の顔付きに戻り、目線をヒノアラシと同じ高さに合わせてニッコリと微笑んで挨拶する。いや、本人としては軽くキメ顔してるのかもしれないが。

 「…はじめまして、だな。俺はダイヤ。今から君のトレーナーになる人間だ」

 「は、はい!はじめまして!私はヒノアラシの、えっと…」

 「ん?…あ、そっか。ニックネームはまだ無いんだな。じゃあそれを考えることが、俺のトレーナーとしての初めての仕事というわけか」

 思考を巡らせるダイヤ。だが、これはそんな簡単なものではない。名前を付けるとは、ある種の儀式と言っても過言ではないのだ。

 「そうだな…『ヒノアラシ』だから…」

 何度か推敲するように小さな独り言を繰り返した後、ダイヤはニッコリと微笑んで彼女の名を決めた。

 「――うん、『ノア』だ。どうかな、イヤじゃないか?」

 (ノア…私の、名前…)

 たった二文字のシンプルな名前。それを噛み締め、砕き飲み込むヒノアラシ。

 次の瞬間、その顔はパアッと明るくなり、ヒノアラシ…ノアは嬉しそうにダイヤへと返答した。

 「…はい、ステキです、すっごく!こんな良い名前…ありがとうございます、ご主人様!」

 (ご主人様、か…。なんかこそばゆい響きだなぁ)

 呼ばれなれない敬意溢れる呼び方に少しモヤモヤするダイヤ。互いに初々しい、萌えもんとトレーナーである。

 と、ダイヤがロイの方を向いて自慢気に話しだした。

 「さぁ俺はスパッと決めたぞロイ。お前はどうすんだ?」

 「ジュルっとの間違いじゃねぇのか…。まぁいいや。それに、俺が貰うヤツはもう決まったしな」

 呆れた顔もすぐに戻し、強い視線を萌えもん達へ向ける。ある意味この選択は必然だったのか、ロイの目線に通じたのは青い髪と服の彼だった。

 「ワニノコ、俺のパートナーはお前だ。来い」

 「えっと…お、お呼びですか、マスター?」

 「あぁ。俺はロイ。爺さんから名前ぐらいは聞いてるだろう?」

 「はい。えと、よろしくお願いします」

 ダイヤとノアに比べてやや堅苦しい挨拶を交えた末に、ロイもまたワニノコのモンスターボールを自分のモノとして登録した。

 今此処に、二人の新人トレーナーが誕生した瞬間だった。

 「さって…それじゃあダイヤ、やろうか?」

 「やるって、何をだ?」

 突然のロイの言葉に戸惑うダイヤ。彼の一言が何を意味しているのか、全く気付いていないようだ。

 「決まってんだろうが…バトルだよ、萌えもんバトル。せっかく貰ったんだぜ?

  練習用の躾けられた奴じゃない、俺達だけの萌えもんだ。やらなきゃなんだってんだよ」

 「…戦わせるだけが萌えもんの価値じゃないと思うけどな。それに、いきなりじゃこの二人の準備もあるだろ?」

 「こっちは準備出来てんだよ。な、ワニノコ?」

 「うん。マスターが望むなら、すぐにでも戦える」

 ロイの問いに即答するワニノコ。それに誇らしげになるロイ。

 「ほらな。そっちはどうなんだよ?」

 臨戦態勢になった二人を見て、ダイヤはノアへ心配そうに言葉をかける。

 「…ノア、いきなりのバトルだけど…やれそうか?」

 「は、はい!大丈夫です、お任せください!」

 「本当に大丈夫か…?無理なら遠慮せずに…」

 「や、やれます!必ずや、ご主人様に幸先良い白星を送ってみせましょう…!!」

 血気盛んと言うにはぎこちなさ過ぎるノア。そこでダイヤはようやく気付きだした。彼女…ノアは、強過ぎる責任感で空回りする、所謂せっかちな性格なのだろうかと。

 (…大丈夫かな…)などと、他人事のように馬鹿が思う。

 「決まったようだな。んじゃ、やろうぜ!」

 

 

 研究所の裏地にある小さなバトルフィールドで対峙するノアとワニノコ。

 この二人にとってもダイヤとロイにとってもここは馴染み深い場所だったが、その捉え方は大きく違う。前者達にとってはただの遊び場、後者達には何度か模擬戦を重ねたホームグラウンドである。

 しかし、どちらにとっても今は全く違う気持ちで此処に立っていた。生まれて初めての『ちゃんとした』バトルなのだ。

 「…先行は貰う!ノア、体当たり!」

 「は、はいっ!」

 ダイヤの指示に従い、ワニノコに向けて走りだすノア。そのスピードは同じ体格であるヒトの子供のそれより圧倒的に速い。

 人を超える身体能力。それもまた萌えもんがヒトに酷似していながらもヒトならざるモノであるという証でもある。

 その速さを以ってワニノコに迫るノア。だが…

 「避けろワニノコ!」

 「――ッ!」

 ロイの声を聞くやいなや、即座に横へ転がり回避するワニノコ。勢い余ってそのまま転がってしまったノアの大きすぎる隙を付き、

 「ひっかく!」と飛び込むロイの指示。爪を立てたワニノコの手が力を増して光り、ノアに向かって振り下ろされた。

 「きゃあっ!!」

 吹っ飛ばされるノア。思わず尻餅をついてしまう。

 「ノア!だ、大丈夫か!?」

 「は、はい!

 (やらなきゃ…やるんだ…!だって、そうしなきゃ…!)」

 前を見据えるノア。だが、眼前のワニノコとロイの姿は、彼女にとってとても大きなものに映っていた。

 「そのまま行けワニノコ!」

 「ノア、もう一度体当たり!」

 今度はワニノコの攻撃を耐えて、そのまま突っ込んだノアの体当たりがヒット。一瞬よろけるも、ワニノコの爪が再度ノアにヒット。続けざまに攻撃を繰り返して攻め立てる。

 そんなワニノコに対し、ノアの心には小さな恐怖が芽生えていた。つい昨日まで、一緒に笑いながら遊び合っていた、兄のような彼がこんなにも強い目で自分に向かって攻撃しているのだ。

 (兄さん、なんで…なんでそんな、怖い目をしているの…!?

  …やっぱり、私は……私、なんかは…)

 現実離れした現実に、ただただ募っていく焦り。バトルに身が入らなくなった時点で、この勝敗は決していたと言える。

 「トドメだワニノコ!水鉄砲!!」

 「ノア!避けろ!!」

 ロイの声に合わせて突き出された右手。そこから放たれる水流に、ノアは避けることも叶わず直撃。そのまま倒れ込んだ。

 ダイヤが何度かその名を呼ぶものの、ノアからの反応はない。戦闘不能による、ダイヤたちの敗北だった。

 「ノア、大丈夫か!?」

 「ぅぅ…ごめんなさい、ご主人様…」

 ダイヤに抱きかかえられながら、弱々しく答えるノア。対するロイは、得意気に笑っていた。

 「ヘヘッ、俺の勝ちだな。ま、お前が俺に勝つなんざ100年早いって事だ」

 敗者に背を向けて、手を振りながら歩き出すロイ。その眼が見据えていたものは、此処よりもっと高い場所だった。

 「んじゃ、俺は行くぜ。もっと…もっと強くなるつもりだからな。ワニノコ、行くぞ」

 「ん、うん…分かったよ、マスター」

 立ち去る二人。そして、バトルフィールドには静寂が戻る。地面にへたり込んだノアはただ呆然と、かつて兄のように慕った萌えもんの背を見つめていた。

 「…負けちゃった、な」

 「…ごめんなさい、ご主人様…」

 「うん、まぁ初戦だし…俺の指示も悪かったんだ。ノアが気にすることじゃないって」

 「…でも、勝てなかったのは私の責任です…。私みたいな弱い萌えもん…要りません、よね…。

  ……グスッ…ヒック……」

 小さな胸に募るは不安と悲しみと無力感。自然と眼の端から零れ落ちる涙と、それを堪えんとする鼻声は、彼女の心を表すにそれ以上必要としないほどだった。

 「あぁもう泣かないでってば!

  …博士、こういう時ってどうすれば…」

 「それをワシに頼るのは、筋違いじゃぞ?ダイヤ、お主はもうそのヒノアラシ…ノアのパートナーなんじゃからのう」

 厳しいその言葉に、ダイヤはようやく気付かされた。トレーナーとは、萌えもんと共に生きるとは…。

 今はまだその片鱗に過ぎないのだろうが、確実な一歩でもある。

 (…そっか、そうだよな…。この娘はもう、俺のパートナーなんだもんな…。

  だったら…俺が、何とかしなきゃ…!)

 小さく芽生えた決意を胸に、ダイヤはノアと向かい合う。

 「…ノア、こっち向いて?」

 「……え?うゎっ…」

 脇に手を入れて、そっと抱き上げる。幼子のような彼女の身体の重みは、ダイヤ自身が背負うべきモノの重さだった。

 「あ、あの…ご主人様、何を…?」

 「大丈夫だノア、俺に任せろ。この町に生まれて16年…俺が得てきた経験の全てを使って、お前に敗北を乗り越える魂を…

  全力で教えてやるッ!!」

 …正直よく分からない理屈である。だが、そんな言葉でも今のノアには力強いものに感じるのだから分からんものだ。

 「…それで私、強くなれますか…?ご主人様のお役に立てるようになれますか…?」

 「なれる。…いいや、してみせるさ。――約束だ、ノア」

 「……は、はい…ッ!」

 ほんの少し、ノアの顔に光が戻った。

 

 「…うむ、善きかな善きかな」

 

 

 

 

 

たった一つの他愛ない約束

 

そこから全てが始まった

 

この日彼に芽生えた衝動は、多くを巻き込み螺旋しながら拡がり

 

固く抱く、熱き結束となる

 

 

時に焦り、されど共に歩み、心はいつも寄り添って

 

それは、愛情に程近い感覚で――

 

 

約束の炎と運命に導かれ、ここから始まる物語

 

 

 

第1話 了




=トレーナーデータ=

・名前:ダイヤ
 所持萌えもん…ノア(ヒノアラシ ♀)
 所持バッジ…無し

=萌えもんデータ=

・名前:ノア
 種族:ヒノアラシ(♀)
 特性:猛火
 性格:せっかち
 個性:ものおとに びんかん
 所有技:体当たり、睨みつける
 所持道具:無し
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