萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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 出会い、敗北、そして勝利…。
 僅かな時に重ね得た多くの経験は、少年に我道を指し示す灯火の一つとなる。
 彼らの旅は始まったばかり。その歩みは、新たな街へと続く道を切り拓いていく。



第3話『覚悟、完了』 -1-

 

 

 萌えもんセンターとは、地方其々にある街や、山岳や森林などの付近道路に点在している公営施設である。

 そこでは萌えもん達の回復や治療を行う医療施設だったり、トレーナー向けのコミュニケーションルームや共同宿泊施設、大きなところだと簡易バトルフィールドまでも兼ね備えているトレーナー向けの複合施設である。

 とは言うものの、主だったところは萌えもん関係で占められているため、ヒトに対してはそこまで快適な施設とは言い難いのもまた事実。宿泊施設なんかは、高価な寝袋で野宿したほうがマシだという者も居る。

 それでも日々、多くのトレーナー達がこの施設を用いる理由は、やはり利用無料というところにあるだろう。

 無論、悪事や迷惑行為を行ったトレーナーにはペナルティとしての罰金が加算され、酷くなれば一部施設の利用禁止まであり得る。

 とある町では、再三の注意も聞かずにセンターでトレーナーが萌えもんや同室に居る異性と情事に及んだ事が発覚、ブラックリストとして載ったことまであったという噂もある。

 街にはホテルや旅館といった宿泊専門施設もあり、言ってはなんだが金のある者がそういうところを使う。トレーナー、特に男旅にとっては、屋根の下で寝れるだけでも十分なのだ。

 それは先日から旅に出始めた少年にとっても同じことで、昨晩はセンター内の宿泊施設で一泊していた。

 今日はその翌朝。日も上がり、スッキリと晴れていて良い洗濯日和だ。なお状況としては、

 「…………………」

 (ガクガクガクガクガクガク)

 太陽に光り輝く砂をイメージさせる黄金の髪を下ろしたメガネの少女の前で、少年と二人の少女が正座させられていた。

 少女の顔は、正に100万ドルの笑顔と形容するに相応しい満面の笑み。だがその頭には、これ見よがしと青筋が浮かんでいる。

 センターの一角、彼らの周囲の空気だけが重圧に支配され、まるで”ドドドドド”という効果音が鳴っているような錯覚が起きるほどだ。

 「…さ、サーシャ?あ、ああ、あの、一先ずは落ち着いて…」

 「ノアはちょっと黙っててください」

 恐ろしい笑顔で返されて、ノアは思わず仰け反って黙りこんでしまう。下手に触れたら何が起きるかわかったものじゃないというのが、有り有りと見えていたのだから。

 その証拠にか、サーシャのスカートの裾は赤や青などの彩色に染まり、足元にはどこから調達してきたのか分からない、もはや原型も留めていない木の実らしき物体が汚らしく転がっていた。

 「…マスター、私がなぜ木の実を握りつぶしているのか分かりますね?」

 「フフフ…さっきから一体何個潰しているんだか…」

 「ハハハ、いっそお菓子やフーズに変えて売り捌いて色々入用な資金の足しにしたいですよ!」

 まるで怒りが後光を差しているようにも見える。例えるなら神か…神は神でも阿修羅だろう。そして笑い声が笑い声に聞こえない。それはある意味では最上の恐怖に数えられてもいい気がする。

 「の、ノアぁ…サーシャが怖いよぅ…」

 「ぼ、ボールに隠れましょう。サーシャが怒ってる原因はご主人様にあるはずなんで…」

 ヒソヒソと話すノアとメルア。だが、今のサーシャはそんな些細な言動すらも容易く聞き取るほどの聴力を発揮していた。人それを、地獄耳という。

 「そこ、逃げようったってそうはいきませんよ。二人にも相応の責任があるのですから」

 「は、ハイイィ!!」

 「ふえぇぇぇ…サーシャが怖いぃぃぃ…」

 どこのイキモノかと思うぐらいに、素早くグリンと動いてノアをメルアを視線で射殺すサーシャ。

 彼女がなぜこうまで怒っているのかと言うと…

 「大体ですね、マスターが率先して祝勝会を挙げるからこんなことになるんですよ!食べて騒いでそのままセンターで一泊して、その間私は瀕死状態で完全放置!なんとかジョーイさんにSOSが通じたから良かったものの、あのままでは大変なことになってたんですよ!

  どこぞの世界でよからぬ事態になることだって遭ったかも知れないですのに!」

 「お、おーけいサーシャ、時に落ち着け。言ってることはイマイチ分からないが、確かに、全面的に俺が悪かった。

  とにかくゴメン、済まない、悪かった、反省してる」

 「…謝罪の言葉を並べれば許して貰えるとでも?その考えが気に入りませんね…。

  全員そのまま正座ぁッ!!」

 そのまま正座を指示され、地獄の説教タイムが開始される。

 くどくどと実に小喧しいサーシャの怒りやら説教やら愚痴やらの入り交ざった言葉の数々。メルアは泣きそうになるし、ノアもずっと困った顔をしている。

 だが悲しいかな、この馬鹿トレーナーは説教に対してマトモに聞こうとせずに、彼女の人となりを観察していたのだ。

 (…サーシャってこんなヤツだったのか…。怒ると説教臭くなって、それでいて敬語は崩さない。そしてあのメガネ…」

 「――うん、委員長だな」

 つい気を緩めたのか、そんな事を口走ってしまったダイヤの頭に、サーシャの手が神速で伸びて鷲づかみする。

 驚くダイヤ達だったが、輝きの消えたサーシャの眼鏡越しの眼を見た瞬間に全ての言葉を失ってしまった。

 脊髄反射で分かったのだ。あっ、コレは駄目なやつだ。と。

 「ますたー?きいてますかー?あたまとみみはちゃんとつながってますかー??」

 「ちょっ!痛っ、痛いっ!アイアン!アイアンクロー!!

  頭が!トマト!トマトになる!Gに耐え切れなくて爆ぜるッ!!」

 「ちゃんと話を聞いてくれないヒトの頭なんて爆ぜればいいんです。脳漿をブチ撒ければいいんです」

 ギリギリと軋む音を立てて、ダイヤの頭が圧迫されていく。その中で彼は、サーシャの背後に錯覚たる幻影を見つけていた。

 「み、見える!見えるぞ!お前の背後に居るスタンドが!!

  4本の処刑鎌で迫るセーラー服の悪鬼が!憤怒の形相でこっちを見てるぅぅぅ!!」

 「アハハハハハ、血塗れの蝋人形にしてあげましょうか」

 「ちょおおおおお願いやめて閣下ァーーーッ!!」

 

 嗚呼、阿鼻叫喚。

 

 

 萌えもんセンター前。正確には、ジョーイさんに萌えもんセンターから追い出された直後のこと。

 「…ご主人様、大丈夫ですか…?」

 「…まだ頭がクラクラする。頭蓋骨歪んでね、コレ?」

 「…メル、サーシャの前で悪いことぜったいしない…」

 「うん…俺もしない…」

 「コレに懲りたら、ちゃんとみんな居ることを確認してから遊ぶことです。…私だって、そういうのが嫌いなワケじゃないんですから」

 「はい、猛省します…」

 その言葉にサーシャが溜め息一つ。彼女の顔にはもう憤怒は無く、普段と同じ顔になっていた。

 「それでマスター、これからどうするんですか?」

 「ん、あぁ…そうだな。その事、なんだが…」

 どうにも言葉に詰まるダイヤ。だが、その困り方にはどこか恥じらいが潜んでいた。

 一つ大きな深呼吸をし、なんとか言葉を紡ぎだす。

 「…俺、もっといろんな奴と戦いたい。

  恥ずかしい話だけどさ、あの時の感覚が、どうにも忘れられないんだ。

  初めて本気でやりあって掴んだ勝利の感覚…勝利の味、っていうのかな。

  一回きりじゃ、満足できなくてさ。だから…」

 恥じらいを残したまま語ったダイヤの想いが一区切りしたところで、3人が話しかける。

 「分かりました、ご主人様。私は、最後までご一緒します」

 「メルもメルも~!」

 「まぁ、私も拒否する理由はありませんしね。行かせていただきますよ」

 「…良いんだな。俺は、知識も技術もなんもない、三流トレーナーなんだぞ?」

 思わずそう返す。それは、彼の自信が抱く無さの現れだろうか。しかし、彼女たちにとってそんなものはどうでも良かった。

 「メルはむつかしいことよくわかんないけど、マスターと一緒にいたいからいるのっ!」

 「それにマスター、ヒトをゲットしておいて、しかもこっちはちゃんと受け入れているというのにそんなことを言うのは駄目だと思いますよ。」

 「ん…そっか」

 少し申し訳無さそうに返すダイヤ。その手を取り、ノアが満面の笑みで自分の想いを口に出した。

 「ご主人様、私楽しみです。これから始まるすべてが、本当に楽しみ…!」

 「俺もだ。きっと楽しいコトばっかりじゃないだろうけどさ、それでもみんなと一緒なら、笑い話に出来そうだ。

  改めて、よろしくな。みんな!」

 小さな結束を固め、少年と3人の萌えもんが歩き出す。

 往く先は何処か。何を求めての歩みなのか。本当はそれすら分かってなどいない。

 言わば快楽を求め進む欲望の旅路。そこに是非は問うまい。往々にして、万事を動かす始まりは【喜楽】の感情なのだから。

 

 

 「ねぇマスター、いまからどこいくの?」

 「萌えもんジムに行こうと思う。このトキワシティにも在るしな」

 ボールから届くメルアの問いに答えるダイヤ。

 『萌えもんジム』とは、萌えもんバトルが競技として昇華したこの世界において普遍的に存在している、バトル向けの養成施設だ。

 バトルに特化したトレーナーと萌えもんの育成を主体としているが、初心者向けのトレーナースクールや人々の暮らしに密着した活動を行ったり、時には街の警備組織にも成る面も兼ね備えた、便利屋集団と見られることもある。

 だが、街にとってはジムの存在こそが街のステータスであり、誇りでもあるのだ。人々はジムを治めるもの…ジムリーダーに敬意を表し、それを誇りとする。

 それは時に蔑視となることもあるが、ジムリーダーと成る者は変人と呼ばれることはあっても人道に逸れた者は存在しない。そんな者は、ジムリーダーとして認められないのである。

 そのジムは各地方に協会が定めた8つのジムが存在し、現在このカントー地方ではトキワ、ニビ、ハナダ、ヤマブキ、タマムシ、クチバ、セキチク、グレンの8箇所に鎮座している。

 この全てのジムに君臨するジムリーダーと戦い、彼らに認められることで得られるバッジを揃えることで初めて萌えもんリーグへの入場権となり、リーグを目指す者にとっては決して避けては通れない道なのである。

 無論、今のダイヤみたく力試しという意味合いで挑戦するものも居る。好きなように挑み、そこで思いを固めるものも居る。

 ジムとは、そんな数多のトレーナーたちの指針となるべく存在しているのかもしれない。

 話は戻り、ダイヤ達は緑の街の中で一際大きく見えるトキワジムの方へ進んでいた。

 「うわぁ…おっきいね~」

 「初めてのジムですね…。私、頑張りますよ!」

 「ヤル気だなノア。俺もヤル気がデッドヒートしてるぜ!」

 イマイチ意味が分からないのは気にしたらいけないところだろう。

 「…あれ?でもトキワジムって今…閉まってるんじゃ…?」

 サーシャの言葉よりも速くダイヤの眼に入り込む情報。ジムの扉に貼られた一枚のプラカード。そこに書かれていたものは、

 

 【トキワジム、無期限休止】

 

 という内容だった。

 「「…………………」」

 この予想外の状況に言葉を無くしたのは、最もヤル気にあふれていた二人。ダイヤとノアだ。

 まるでどっかのジョーみたいに真っ白になっちゃった二人を置いといて、メルアはサーシャに疑問をぶつけた。

 「ねぇサーシャ、なんでジムあいてないの?」

 「ふむ…どうやらリーダーが不在だからですね。おそらくはいずれ、協会の方から代理派遣されるでしょうが…いつになるか分からないものを、このバーンアウトした二人と待っているのもなんですしねぇ」

 「むー、まってるなんかつまんなーい。ジムってべつにここだけじゃないんでしょ?」

 「そうですね…。幸い北にあるニビシティにもジムは有りますし、そちらに行きましょうか。

 マスター、聞こえてますか?立ち止まっててもなんですし、次のジムがあるニビシティに行きましょう?」

 「まーすーたー!おへんじしなきゃサーシャがおこるよー!」

 「…次のジム…ニビシティ…?」

 「そうです。トキワの森を越えた先にありますから、日が暮れる前に行きましょう」

 サーシャとメルアの言葉に、なんとか自分を取り戻したダイヤ。軽く頭を振り、思考を一新させる。

 「あ、あぁ…そうだな、切り替えないとな。ノア、今は諦めてニビシティに行こう。腕試しはそこでだ」

 「……えっ!?あ、はい、ニビシティですね! ココはちょっと残念ですが、仕方ないですね」

 「それじゃ、れっつごー!」

 

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