萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION- 作:まくやま
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一行が進んでいった先は、トキワシティの北にある小さな森。トキワの森と呼ばれる、多くの植物が覆い茂る場所だ。
トキワとニビを繋ぐ道の一つであり、綺麗に舗装されているわけではないが、多くのヒトが通るため萌えもんの住処と折り合いを付けながらある程度の整備はされているので通りやすい場所ではある。
ただ、そうは言ってもやはり森。暗くなると迷い込む恐れもあるので、注意が必要である。
そんな身近な森の中に、一人の少年が立った。
「さて、それじゃサクッと抜けちゃいますか」
日はまだ頂点にも達しておらず、日の光が木々の間を縫って差し込んでいく。思った以上に森の中は明るく、静かだった。
そんな森の中を散策しながら歩いていく。道の端には誰かが落としたのであろうか、空のモンスターボールや木の実が転がっていて、再利用とばかりに使えそうなものは拾っていく。
割とみんなやっている、暗黙の了解な部分でもある。
草むらからはメルアやノアよりも一回り小さい、虫の特徴を持った萌えもんのキャタピーやビードルなんかも飛び出してくる。それとバトルしたりじゃれあったりしながら進んでいく。すると、割と早く大きく開けたところに出てきた。
「ん、もう着いたのか?」
見回すダイヤ。だが、どうにも周りの景色に見覚えがある。
「って言うか入口に戻ってません!?」
鋭いサーシャのツッコミ。ダイヤもそこでようやく気付くのだった。
いや、まさか自分が素で元の場所に気付かなかったとは。
「な、なんてこった…。これがまさか、かの有名な孔明の罠…」
「諸葛亮孔明がそんなチンケな罠を仕掛けますか…。どっかの樹海とは違ってある程度しっかりした道なんですから、迷わないでくださいよ…。日ももう降り始めてますし、早めに抜けなきゃ迷い込んじゃいますよ?」
てきぱきと物事を進める中にもしっかりとした知識を加えるサーシャに、皆は一様に感嘆の念を覚えていた。
「…サーシャって、物知りですよね」
「すっごいねー。メルなにいってるのか分からないことあるもん」
「さすがは委員長キャラだな。似合いすぎてるメガネがステキだよ」
「マスター、フザケたこと言ってないで進みますよ。進まないとアイアンクロー、夜になったらアイアンクローです」
「お願いやめて栗○さん。よっしゃ、一分一秒でも早くこの森を抜けるぞ。でないと俺の頭がぶっ壊される」
「え~?もっと遊びたい~~!」
「メルちゃん、ご主人様の命が危ないんで今は先に行きましょう。お願いだから…」
「う~…」
不満そうなメルアの声。そういうところは、やはりみんなよりも年下に見える。
彼女の願いも叶えたいが、今はとりあえず脱出を優先すべく早足で森の中を進む。途中で短パン小僧や虫捕り少年にバトルを申し込まれるも、みんなの活躍(特にメルアの腹癒せ)で難なく勝利を収める。
バトルの後、彼らにも道を尋ねながら少年は先を急ぐ。流れる汗を拭い、時々息を切らせながら進んでいった。そして…
「つ、着いたぁ~…」
「良かった、なんとか無事に着きましたね」
トキワの森北部ゲート。ニビシティとの間をつなぐ関所であり、森を抜けたトレーナーの休憩所としての意味合いも持っている。
すぐさまゲート内のベンチに腰掛け、ホッと一息。壁にかかっている時計を見たら、もう5時を超えていた。
「結構時間かかったなぁ…」
「にゅぅ~…メルもうつかれたぁ~」
「ニビシティはもうすぐそこだから、あと少し頑張ってね」
「さ、行ってしまいましょうご主人様」
「おっし、ラストスパート!」
口に含んだドリンクを勢い良く飲み、すぐ立ち上がって歩き出した。目的地は、もうすぐそこである。
「ここが、ニビシティか…」
ニビシティ。【ニビは灰色、石の色】という標語の通り、石で出来た道路がそこかしこに広がっていて、公共施設も石を模した色彩で統一されて街に馴染んでいる。
だがそれと同じくして、街には多くの緑が見られ、大きな共営花壇も存在していた。
東のオツキミ山と南のトキワの森。2つの自然に挟まれることで、両者の良い所を組み合わせた街づくりが行われてきたのだろう。
2つの自然が調和した街、それがニビシティなのである。
街には博物館が有り、そこではオツキミ山から発掘された化石を展示してある。なんともニビらしい観光スポットだ。
「さって…みんなも疲れてるだろうし、今日はもうこのままセンターで泊まるか」
「そして翌日にジム戦、ですね。それが良いでしょう」
「ご主人様、私は今からでも…」
「そうは言うがな、既に一人ダウンしてるんだ。無理させる訳にはいかないだろ?」
逸るノアを諭しながら、メルアの声に耳を傾ける。彼女は、ボールの中で小さく可愛らしい寝息を立てていた。連戦の疲れだろうか、出口に着くいくらか前からこの調子だ。
「…な?」
「あ……そうですね」
「休むこともまた戦の準備と言います。逸りすぎるのもどうかというところですね」
「だな。よし、明日は頑張ろう!」
意気込みを入れて萌えもんセンターへ。一先ずは森を抜けた疲れを癒やし、明日のバトルへ備えるのだった。
迎えた翌朝。ダイヤは街にそびえる大きな建物の前に居た。看板にはニビジムと書かれてあり、その下にはジムリーダーの紹介も載っていた。
「ニビジムリーダー、タケシ…。強くて硬い、石の男…ですか」
「石ってことは岩タイプが多いんでしょうか?だったら、私はちょっと苦手だなぁ…」
「むー、メルむつかしいことわかんなーい」
萌えもん同士のタイプ相性をして、ノアたち炎タイプは岩タイプに弱いとされる。また岩タイプは防御力が特に固く、物理攻撃の効きもあまり良くない。加えて岩タイプには地面タイプを複合してるものも多く、電気技も効果が低いと見られている。
総合的な相性としては、明らかに不利といえるだろう。
「マスター、何か対策や作戦はあるんですか?」
「すまん、今色々考えてるんだ」
「やはり相性の不利がありますものね。相手の手持ちも分からぬ以上、万事に備えられる作戦を練らないと…」
「そうだよなぁ…やっぱり俺一人で行くしかないよなぁ…。でも、最後のカート戦には戦力が要るしなぁ…」
呟くように思案するダイヤ。が、言ってることはなんというかかなり的外れだった。
「えーっと…ご主人様?」
「それにアレだよ…竜神池はみんなでチャレンジしてこそネタ的な意味がある難関だからなぁ…悩む」
「なになに?ジムってそんなにおもしろいものがあるのっ!?」
「ありません!何処の風雲城ですかそれはッ!!?」
サーシャの鋭いツッコミが響き渡る。
皆さんは御存知だろうか。かつて一世を風靡したアトラクションバラエティ番組を。筆者はぶっちゃけよく知りません。
「そんなゆとり世代ガン無視なネタを引っ張りだして、一体何処の読者が喜びますかッ!
大体ですね、他所の地方じゃあるまいしジムにそんな愉快な施設があるはず無いじゃないですか!」
「じょ、冗談だよサーシャ。それに、全く何も考えてないわけじゃないぞ」
「どういう作戦なんですか?」
尋ねるノアからの問いに軽く咳払い、自分の持っている作戦を言い渡す。
「サーシャは砂かけで、相手の視界を奪いながら攻め立てる。ノアはスピードで撹乱しながら火の粉で攻撃。メルアは悪いけど、出番は無いかもな…」
「えぇー!?メルはお休みなのぉ!?」
「メルちゃん、時には我慢もしなきゃいけないのよ。相性が良くないと、どうしてもそうなっちゃう時があるの」
「むーー…」
サーシャの説得に、理解はしたけど納得はしない、そんな具合の不満の声を上げるメルア。だが、彼女には素直に諦めてもらう他なかった。
「まぁ、あとは当たって砕けろだ。いくぞみんな!たーのもー!」
元気よくジムのドアを開ける。そこには数人の少年トレーナーと、その指導に当たる一人の男の姿があった。
「ようこそ、ニビジムへ。その意気込み、ジム戦の挑戦者かな?」
「あぁ、まぁそういう者だ。ジム戦、お願いできるか?」
「ふむ、良いだろう。俺はここのジムリーダー、タケシだ。君は?」
「マサラタウンのダイヤだ」
「へぇ、またマサラからの挑戦者か。面白い、受けて立とう!」
タケシのその一言から、すぐさまジムのバトルフィールドが展開。タケシ自身は一歩も動かず、その対面にダイヤが立つこととなった。
「準備はいいか?」
「もちろんだ」
「では、ニビジムリーダータケシ、相手になろう。バトルだ!!」
その掛け声で、初めてのジム戦の幕が切って落とされたのだった。
中略。
「…で、見事フルボッコにされたわけだが」
萌えもんセンターで3人を外に出し、反省会開始。なお、結果としては惨敗もいいところだったようだ。
「完全に負けちゃいましたね…一人も抜けないなんて、残念です」
「うにゃー!でんきショックきかないからきらーい!」
「作戦ミス…と言うより、力量差が著しく出ていたと思いますね。力も素早さも、あちらの方が上でした」
悔しがるノアとメルアに対して、こんな時でも律儀に分析するサーシャ。だがそれは、ある意味心強くもあった。
「…やっぱり、ちゃんと鍛えなきゃ駄目か」
「力の底上げですか…。まぁ一番妥当なところだと思いますが…」
「俺は戦術家でもないしさ。鍛えたりなきゃ、鍛えるだけだってヒビキさんも言ってたし」
(ヒビキさん…?)
「よっし、それじゃ今日はトキワの森でしっかり鍛えさせてもらいましょうか!」
「おーっ!」
威勢よく再度森の中へと入っていくダイヤたち。打倒ジムリーダーを掲げ、鍛錬に乗り出したのだった。
虫捕り少年や短パン小僧、野生の娘らとのバトルを繰り返し、そして日も暮れ始めた夕方ごろ。
「おっし、みんなお疲れ。今日はもう戻るか」
「つーかーれーたー…」
「でも、良い訓練になったと思います。今日はゆっくり休んで、明日頑張りましょう!」
メルアとノアの言葉を聞きながら、サーシャも含む3人をボールへと戻す。
そのままセンターへと帰り、談笑しながら夕食を済ませ、特訓を済ませた3人を寝かせておいた。
「…ふぅ、よっし」
暗くなったセンター内。スタンドライトを付けて、ダイヤは図鑑を見ながらメモをいじり回していた。
時折頭を掻きながら、慣れないように書いては消してを繰り返している。
「まだ寝ないんですか?」
「うぉっ、サーシャ!?なんだ起きてたのか…」
突然耳に響くサーシャの声に驚きを隠せないダイヤ。それに意を介さず、サーシャは言葉を続ける。
「明日のジム戦の戦略ですか?」
「ん、うん。今朝駄目だったところも反省しなきゃだしな」
「…意外と熱心なんですね、マスター」
「意外ととは何だ、意外ととは」
すこしムッとした声で反論する。その声に対し、サーシャは可愛らしい笑い声で彼に返した。
「フフフ、失礼しました。でも、どうするつもりですか?小手先の手段や付け焼き刃じゃ、あのジムリーダーには勝てないと思いますが…」
「あぁ…まぁやっぱ、真正面からぶつかって行くしか無いかなぁ…」
図鑑を眺めながらそう愚痴る。特訓を終えた3人のステータス、覚えた技を何度と無く確認している。
確かに新技は増えたし、能力も上昇している。あとは…
「…俺がしっかり出来るか、だな」
今朝のジム戦を思い返す。タケシと相対して行ったバトルで、ダイヤの指示は常に後手に回っていたように思う。
もっと上手く指示が出せれば、みんなはきっともっと上手く戦えるのだろう。なればこそ、もっと自分が――
「気負うのも結構ですが、それが原因でヘマだけはしないでくださいね?
マスター、ノアに言ったじゃないですか。…独りじゃない。みんながついてる、と。ならば、一人で気負うより私達を頼ることも考えてくださいな。
少なくとも今は、私達はマスターとともに戦う仲間なんですからね?」
彼女にとってそれは、些細な言葉だったのかもしれない。だが、その程度の言葉が今のダイヤには有りがたかった。
仲間を…みんなを頼ること。そんな簡単な事を、今の今まで気付けなかったのだから。気付かせてくれたのだから。
「…そうだな。サンキュ、サーシャ。よっし、寝るか」
「えぇ、おやすみなさいマスター。明日は頑張りましょう」
軽い挨拶を交わして、ダイヤも布団に包まった。考えることも必要だが、行動することはそれ以上に重要な事なのだ。
今はただ、勝利を目指しての休息の時…。