D・CⅡなのはstriker's漆黒と桜花の剣士 作:京勇樹
仕事が忙しいんです
毎日、二時間残業なんです……
誰か、時間をくれ!!
それは、新学期が始まって早々だった
どんっ!
勢いよく教卓が叩かれた
叩いたのは彼女
「みなさん、静かにしてくださーい!」
付属3年3組の委員長こと、沢井麻耶である
「今日は、卒業パーティーについていろいろ決めたいと思います」
「え? もう?」
「早くないかな?」
麻耶の言葉に、小恋とフェイトが驚きの声を出した
まあ、それも仕方ないだろう
卒業パーティーまでは、まだ2ヶ月もあるのだ
麻耶は(表面上は)にこやかに、説明を始めた
「前回のクリパでは、ギリギリまでなにも決まらなかったからね。なので、その反省を活かして、今回は実行委員を決めようかと思います」
確かに、前回のクリパでは、決まったのは本番一週間前である
よく間に合ったものだ
「いいんちょが仕切るんだからさ、いいんちょが兼任すればいいんじゃないの? 去年の卒パはどうだったんだよ? やっぱ、いいんちょが決めてたんじゃないのか?」
そう言ったのは渉である
渉は去年、義之達とは違うクラスだったので、なにが起きたのか知らないのである
「去年かぁ……」
「俺は学校に居なかったが、どうだったんだ?」
裕也は思い出したのか、遠い目をしていて、蓮華は肘を突きながら問いかけた
「去年は確かに、私が中心になって準備を進めていました」
「だろぉ? だったら……」
麻耶の言葉に、渉が何かを言いかけた時
「でも! 私と同じクラスだった人は覚えてると思いますが………」
そう言った麻耶の額に、青筋が浮かんだ
「直前になって、桜内と杉並が出し物の内容を勝手に変更してしまったのです!」
その言葉に、教室中がうぅーむと唸り
「義之~お前か、諸悪の根源は」
「お前、なにやってんの?」
渉と蓮華の非難の眼が義之に向いた
「いや、あれは主に杉並がな……」
「やだ、なんのこと?」
義之は視線を逸らしながら、頭を掻いていて、杉並はすっとぼけている
とはいえ、二人がそんな行動を取ったのにも理由がある
当時の生徒会長は磯鷲という女生徒だったのだが(音姫は普通の役員だった)
その会長が『この卒パで優勝したクラスには、豪華商品を与えるわ!』
と言ったのである
それを聞いた義之と杉並(ほとんどが杉並だが)が、出展内容を事後承諾の形で変更したのだ
「あの時は、もう決まっていた仕入れ先に謝ったりとか、大変だったんだからね!」
麻耶が頬を膨らませながら怒ると
「フフン! では、昨年の責任をとって、桜内を委員長のサポートにつければよかろう?」
と、杉並が提案する形で発言した
それを、麻耶は睨みながら
「どういうこと、杉並?」
「なぁに。最初から桜内が実行委員になっていれば、卒パ直前になって企画を変更しよう。などとは言わないだろう?」
「おいおい、俺だけかよ。おまえは?」
むしろ、諸悪の根源はお前だろ? という目つきで義之は杉並を睨むが
「卒業式はなにかと忙しいのでな。辞退させてもらう」
何を企んでいるのか、杉並はニヒルに笑っている
去年の磯鷲会長と違って、今年は杉並にとっても手強い音姫が会長なので、杉並も正面きっての戦いは避けたいのだろう
「じゃあ、とりあえず桜内が立候補ということで」
なんと、麻耶は杉並の提案をアッサリと受け入れてた
「俺、立候補してないんだけど………」
義之がせめてもの抗議をするが
「まあ、いいじゃない。たまにはみんなの役に立ってみるのも悪くないわよ」
義之の抗議を麻耶は軽くスルーして、黒板に書き出した
「お前も、沢井の苦労をしっておけ」
「うんうん。ついでに、私達の苦労もね?」
裕也とフェイトの言葉に、義之はうなだれた
「あと一人、女子で立候補する人はいますか?」
「委員長でいいじゃない?」
「異議な~し!」
麻耶の言葉に、杏と茜が即答した
「……まあ、いいけど。ちゃんと協力してよね?」
麻耶は自分の名前を黒板に書いて、実行委員決定
と書いた
黒板には、二人の名前が仲良さげに並んでいる
義之には、麻耶がどこか上機嫌に見えていた
そして、放課後
さっそく、麻耶の提案でホームルーム後にミーティングとなったのだ
「今の内に方向性だけでも決めちゃえば、あとあと楽でしょ?」
それは如何にも、麻耶らしい合理的な思考だった
夏休み前半に、きちんと宿題を終わらせるタイプだ
と義之は思った(義之はギリギリまで残すタイプである)
義之も家に帰ったところで、ヒマなので承知した
「やっぱ、模擬店で行くわけ?」
「そのほうが楽だとは思うけど……」
義之の質問に、麻耶は唸った
「それとも、教室借りて喫茶店みたいな感じにすっか?」
「なにを売るかによるわね。だって、いろいろあるでしょ? 鉄板や火を使うなら外でやったほうがいい………とか」
麻耶の言葉に義之も、そうだなと思った
「じゃあ、なにをやるかを先に決めないと話しが進まないな。ほら、クリパのときに杏や杉並がプッシュした企画があったろ?」
「人形劇とお化け屋敷だっけ?」
「ああいう出し物系もいいと思うんだよね。健全さをアピールするならさ」
生徒会対策も必要だった
前回のクリパのように、裕也やフェイトに情報操作を頼むわけにもいかない
だが、麻耶は気が乗らないようだった
「人形劇はともかく、お化け屋敷は……最初の動機を考えると、健全とは言えないでしょ?」
「ああ、そういえば……」
なにしろ、発案者の杉並のあおり文句が
『気になるあの子を誘って、暗闇で告白できる! 二人の密着度MAX!』
という、煩悩全開の不健全さである
「それに、私達は卒業生サイドなのよ? ほとんどの人が本校に進学するだけだけど、あまり準備するヒマないと思うのよね」
「まあ、確かにそうだな」
「人形劇なら稽古が必要だし、さすがに手がまわら……くしゅっ!」
麻耶が可愛らしく、くしゃみした
「どうした?」
「な、なんでもない。ちょっと……調子がよくないだけ」
麻耶は恥ずかしそうに顔を赤くしながら、鼻の先を手で押さえた
「風邪か? 帰って横になったほうがいいんじゃないか?」
「ありがと。でも、そういうわけにもいかないから……」
麻耶の気丈な言葉に、義之は苦笑して
「無理はするなよ? 俺だって、無理なら無理って言うし」
「ええ、そうよね。うん……気をつける」
麻耶は微笑むが、少しだけ辛そうだった
こういうところが彼女は真面目すぎるのだ。責任感が強く、少しくらいのことなら歯を食いしばって頑張ってしまう
義之としては、そこがほっとけなかった
意地になりそうだが、義之がさらに帰宅するように促そうとした
その時だった
「優しいじゃな~い、義之くーん♪」
茜と杏がニヤニヤしながら近づいてきた
「なんの話だよ?」
「あの義之が、委員長のために立候補するなんてね………」
杏が眼を細めながら、意味深に呟いた
「お前らが押し付けたんだろ? ま、誰かがやんなきゃいけないことだけどさ」
「でもでも~、さっきも杏ちゃんとアヤシイよねって噂してたんだよ」
「アヤシイ? なにが?」
「だからぁ……」
茜は、そのグラマラスな身体でモジモジとしてから
ズバリと切り込んだ
「義之、委員長のこと好きなんじゃないの? ……ってこと」
それに対して、義之がコメントしようとした
その時
「な、なに言ってるの! んもう、そんなことあるはずないじゃない」
なんと、麻耶が否定の言葉を叫ぶ様に言っていた
しかも、顔を真っ赤にしてそっぽを向いている
「あらら、私は義之くんをからかってただけなのに………」
「そうね……」
茜と杏は呆れたように、顔を見合わせた
(どっちにしろ、これじゃミーティングにならないな)
義之はセクハラ二人組みを無視して、麻耶に提案した
「なあ、外でミーティングしないか? 模擬店とかやるんだったら、商店街とか参考になるかもしれないし、いいアイディアが生まれるかもよ」
義之の言葉に、麻耶は小首を傾げると
「いいわ。私は話さえできれば、どこでもいいから」
麻耶の言葉を聞いた義之は、かばんを掴んで椅子を立った
「最近の義之、委員長と仲がいいわね」
「沢井さん、ちょっと戸惑ってるようにも見えるけどね」
「委員長は、義之の何気ない気遣いの言葉とかに慣れてないのよ。言うでしょ? たまに、女殺しの一言……」
「あー、言う言う。慣れてる私達でも、たまにキュンってなるヤツ。でも、本人は自覚ないんだよね~」
「そういう意味では、義之って女の敵よね」
「免疫のない娘は、コロッといっちゃうよね」
(好き勝手言いやがって……ってか、女殺しの一言ってなんだよ)
義之の背後では、小悪魔のようにクスクス笑いが聞こえた
義之と麻耶の二人が、揃って教室を出た時
本当に熱があるのか、麻耶は耳まで真っ赤になっていた