D・CⅡなのはstriker's漆黒と桜花の剣士 作:京勇樹
義之が麻耶の家から帰ってきて、数時間後
義之が一人で待っていると、チャイムが鳴った
義之はそのチャイムから、誰が来たのか分かった
「よ、麻耶……」
「こんばんは、義之……」
扉を開けた先に居たのは、義之の予想通りに麻耶だった
麻耶は義之に目を合わせようとはせず、終始俯いている
「寒いだろ、上がれよ」
「うん……」
義之が家に入るように促すと、麻耶は小さく頷いてから入った
麻耶を招き入れた義之は、そのまま麻耶の手を引いて自室へと向かった
麻耶も義之に引かれるがまま、義之の部屋に入った
そして、義之と麻耶は対面する形で座った
「麻耶……天枷について、話したいんだ」
「私は……話すことなんて、ないけど……」
義之の言葉に、麻耶は冷たい目をしながらそう返した
しかし、その返事は義之にも予想できた
だから、義之は数時間前に知った情報を切り出すことにした
「天枷が……また、眠りについた」
「……え?」
義之の言葉を聞いて、麻耶は思わず首を傾げた
「水越先生の話じゃあ、まだ完全には眠ってない……お前が、天枷のことを学園側に知らせるって言ってたあの時、実は背後の押し入れに隠れていて聞いてたんだ……きっと、天枷もショックだったんだと思う……」
なんでも水越先生の話では、今すぐでは無いらしい
長期間のスリープに耐えきれるかどうか、機材と美夏のスキャニングを行うらしい
しかも、水越先生曰わく
『今度は前みたいに、再起動スイッチを押してもダメよ。天枷自身の同意がない限り、再起動はしないわ。彼女の希望で、そういう仕様に変更させてもらったの』
という話だった
それを聞いた時、義之は胸を痛めた
美夏は義之達と接していく内に、徐々に優しい笑みを浮かべるようになっていた
そのことを、水越先生は嬉しそうにしていた
なんでも、水越先生や天枷研究所の職員達も暇さえあれば、美夏と話したり、食事していたらしい
だが、最初の頃は無視されたり、下手したら殴られたりしたらしい
だが、最近は微笑みながら会話に興じたり、一緒に遊ぶこともあったらしい
それは、美夏が義之達を友人を認識したかららしい
「それで……?」
義之の話を聞いて、麻耶は首を傾げながら義之に問い掛けた
「頼む……俺といっしょに来て、天枷を目覚めさせてくれ」
義之は頭を下げるが、麻耶は無言だった
「お前、あんな別れかたのままでいいのか? 明日の夜には、天枷は人工冬眠に入ってしまう。そうなったら、もう俺達には手の出しようがなくなる……次に目を覚ますのは、前と同じように五十年先か、百年先になるのか……」
「嫌よ……本人が眠りたいんなら、眠らせてあげればいいじゃない……」
その言葉を聞いて、義之は麻耶の肩を掴んで
「友達だろ?」
「友達なんかじゃないわよ……ロボットなのよ? あれはモノなの……意志を持って動いているように見えるだけなの……ただの物体なの!」
麻耶の口からそんな言葉を聞いて、義之の胸が痛んだ
「……本気か?」
「そうよ」
義之からの問い掛けに、麻耶は義之を睨みつけて
「彼女達が受け答えするのは、プログラミングでそう決められているだけなの!」
「お前、μにも感情の原型はあるって言ったじゃないか!」
「それは……研究者の理想の話をした……だけよ……理論上の話であって、本当に感情があるわけじゃないわ」
いつもは理性的なだけあり、麻耶は自制が利かない感情を、全て強引な倫理でねじ伏せようとした
だがそれでは、自分をどんどん袋小路に追い込むだけだ
義之は祈る思いで、麻耶の目を見つめながら
「なあ……本当は、ロボットのことが好きなんだろ? 天枷に眠ってほしくないって、お前も思ってるんだろ?」
「思ってない! ロボットなんて、この世からいなくなっちゃえばいいんだ!」
麻耶は泣き叫ぶように言うが、すぐにハッとして口元を手で覆いながら
「……義之、私のこと嫌いなの? ヤなことばかり言う子だと思ってる?」
と義之に問い掛けた
義之は麻耶の涙を拭いながら
「思ってないし、嫌いじゃないさ」
と答えた
すると、麻耶は首を振りながら
「嘘……だって、私の言ったことに反対してるよ……」
と言った
その言葉に、義之は
「本当のことを言わないからだ……」
と言うと、義之は麻耶の目を見つめて
「麻耶……話してくれないか? お前のお姉さんのことを……美秋さんのことを」
と言った
すると、麻耶は目を見開いて
「どうして、義之がそのことを……」
と呟いた
「麻耶のお母さん、綾さんから聞いたんだ……だから、話してくれ……お前のお姉さん、美秋さんのことを……」
義之のその言葉に、麻耶は俯いた
正直に言えば、義之がやっている事は麻耶の傷口を抉る行為だろう
本当だったら、義之としてもこんな事はしたくない
だが、今やらないと麻耶はこれ以上前に進めないし、麻耶と美夏の両方が救われない
だから、義之は心を鬼にした
麻耶と美夏を救うために
どれくらい待っただろうか
麻耶はポツポツと語り出した
そのほとんどは、綾から聞いたのと同じだった
だが麻耶視点ゆえに、より麻耶の思いを感じた
初めて美秋に出会い、一緒に過ごしたこと
桜公園で一緒に遊んだこと
勇斗の名前を一緒に考えたこと
麻耶の話から、義之は麻耶の美秋への思いを感じた
(本当に、実の姉妹みたいに過ごしたんだな……)
しかし、その幸せは長くは続かなかった
ある日、麻耶が帰宅したら、美秋が見るも無惨な姿に壊されていた
その美秋を見て、麻耶は泣きながら懇願した
お願いだから、生きてと
だが、そんな麻耶の懇願虚しく、美秋は機能を停止した
その後、故琢磨氏が記憶と人格のサルベージを行い必死に目覚めさせようとしたがそれも失敗に終わった
しかも、天枷研究所や麻耶の家にいわれ無き誹謗中傷の電話や手紙が殺到
それが原因となり、故琢磨氏は精神的に追い詰められて自殺
綾も麻耶と勇斗を育てるためにがむしゃらに働き、体調を崩してしまった
麻耶はそれら全てを、ロボットのせいにすることで精神の安寧を保つ決断を下したのだ
本当はロボットが好きなのに……
「だってそうでしょ? お姉ちゃんが死んだのに、誰も悲しんでくれなくって……お姉ちゃんを殺した奴はただの器物損壊罪で……そんなの、おかしいよ!」
気が付けば、麻耶は泣き叫ぶように話していた
そんな麻耶を、義之は無言で抱き締めていた
「義之……私、どうすればいいの……」
義之は麻耶が泣き止むまで、ずっと麻耶を抱き締めていた