「さて、誰に案内させるか……」
チュワンが手元の端末を弄り呟く。
しばらくの後、部屋の外から小走りで何かが近づいてくる音とともにドアが開き、一人の少女が現れる。
チュワンは彼女を見やると顎でヨハンをしゃくり怒鳴った。
「おい、新しい俺の仲間だ、空いてる部屋に案内してやれ」
「はい……」
ヨハンが少女に近づくと、少女は肩を強張らせながらお辞儀をし、ヨハンをドアの外へ連れ出した。
彼らはコロニー「フランチェスカ」にある、基地とは名ばかりの豪邸にいた。一応はMSハンガーや港が隣接してはいるものの、内装は貴族の屋敷を思わせる豪華なものであり、バルバロスの規模ではとても手に入らないであろう代物であることは想像に難くない。
だがヨハンが気になったのは屋敷の内装ではなく、先ほどから少し前を歩いている彼の半分ほどの身長の少女についてであった。
「あー、新入りのヨハンだ。君は?」
子供に話しかけるのが不慣れなヨハンはぎこちなく口を開いた。
「え、あ。ユキです。タカシロ・ユキ」
ユキの方もぎこちなく答えた。しかし、ユキのそれはヨハンのものとは違いどこか怯えを含んでいるようであった。
当然だろう、ヨハンは思った。自分は30歳のおじさんで、彼女はその半分もいかないような少女なのだ。そんな相手に突然話しかけられたらおびえるのは道理だろうと。
彼は結局それ以上話しかけるのをやめた。これ以上怖がらせるのは申し訳ないと。
通された部屋は屋敷の印象に違わず、基地の部屋とは思えない豪華絢爛なものであった。床には真っ赤な絨毯が敷かれ、キングサイズのベッドや巨大モニターが置かれている。浴室やキッチンなども一通りそろっており、さながらホテルのスイートルームのようであった。
一通り見終わりヨハンがソファに腰かけたところでユキが口を開いた。
「自由にお使いになっていいとのことです。ご必要なものなどがあれば私におっしゃっていただければご用意いたします」
「……例えば食べ物とかはあるか?」
実を言えばヨハンは朝から何も食べていなかった。緊張のあまり朝食を食べ損ね、昼はチュワンとの面接があったため、食べる時間がなかったのだ。
時間はすでに15時ごろを回っており、ヨハンの空腹は限界をむかえていたのだ。
すがるように情けない声を出したヨハンは、顔を上げ、今度目を丸くして何とも間抜けな顔になってしまった。
これまでずっとうつむいて硬い表情であったユキが噴き出していたのだ。笑われるとは思っていなかったが、それよりも彼女の笑顔を見れたことがなぜか嬉しく思えた。
しかし、彼女の笑顔はみるみるうちに恐怖に怯え、今にも泣きそうなものに変わってしまった。
何かしただろうかと慌て固まるヨハンにユキは大きく頭を下げて震えながら言った。
「も、申し訳ありません! あっ、うっ。ごめんなさい」
ヨハンはやっと自分を笑ったことに対して謝っているのだと気づくと、手をぱたぱたと振って大慌てで答えた。
「そ、そんなこと気にしてないよ。怒ってないって」
このぐらいの歳の子は扱いづらいと聞いていたが、ここまで不安定だとは知らなかったとヨハンは心の中でつぶやいた。
現実世界での彼にも子供はおらず、子供との接点がなかった彼には彼女をなだめるのに手いっぱいであり、それ以上を考える余裕はなかった。
彼女がようやく落ち着きを取り戻すと、ヨハンは今度はわざとおどけて飯の在りかを聞いた。
「……っ、冷蔵庫の、中です」
すすり上げながらであったが、ヨハンの目論見通り今度は素直に笑って、答えてくれたのだった。