突如所属不明機の攻撃を受けた地球連邦軍のアオヤギ級ポクセイのブリッジでは、艦長と同乗していた連邦軍幹部との間で口論が行われていた。
「なんでこんなところで襲われるんだよ! わざわざ通るようなとこじゃないだろ!」
「僕にもわかりませんよ。小規模クランがああやって横切っていくこと自体は珍しいことではありませんし、あんな少人数でどうこうできるとも思いませんでしたから。海賊まがいの連中でしょうかね」
憤りを辺り構わずまき散らしている幹部の男とは対照的に、艦長席に収まっている青年は極めて冷静であった。
敵が最後までブリッジへの攻撃を避けており、行動不能にさせることが目的だあったのがわかっていたからだ。
劇中の艦艇とは違い、MSが主役のGBWFにおいて操艦はほとんどの作業がブリッジで行われており、そこを狙われない限りは死傷者が出ることは稀だ。わざわざ追撃をしなかったのも、下手に噛みついては逆に痛い目を見るかもしれないからという彼の判断であった。
わめく隣に座る男に、まるで子供を慰めるように彼は言った。
「ここで怒っても、航行不能になってしまった以上救助が来るまでは無駄ですよ。それよりも、連中の狙いが気になります」
どうせ襲うのならばもっと大所帯で攻めたほうが確実なのはわかりきっている。それどころか、こちら側には損傷こそあれ一機の損害もないのだ。
相手は何の目的があって僕らを襲ったのか。
艦長席の青年は手元のモニターに映る艦の損傷を確認しながら思案を続ける。
航行不能にするのだけが目的ならば艦橋を狙わなかった理由が薄い。人殺しをしたくないからという理由も考えられるが、それではMSまで落とさなかった理由にはならない。
あれはわざと生き残そうとしていたに近い行動だった。
思考を続けていると、構ってもらえないと察して拗ねていた男がぼそりと呟いた。
「フランチェスカまであと少しだったのに……」
「フランチェスカへ行って何をするご予定だったので?」
「視察だよ視察。別のとこに委託してるから、視察ついでに観光出もしてやろうと思ったんだよ。ほら、0080でバーニィが亡命しようとしてた……」
だらだらと喋りだした男を尻目に青年は再び思案にふける。
話を聞く限りではフランチェスカに行かせないのが目的だったのだろうが、ではなぜ生かしたのか。
彼はふと思い立ち、未だうんちくを垂れ流す男に再び問いかけた。
「委託って、軍が直接しているんですか?」
「ん? この大所帯にそんな細かいことができるわけがないだろう。
サイド6はコヤナギ中将の管轄で、更にその下が管理者だ。委託するならその辺だろうな」
「なるほど……」
つまり、フランチェスカに行かれて困るのも軍というわけだ。
人が集まったときの必然か、軍は劇中のそれと同じように内部での争いが激しい。これも身内同士での潰しあいである可能性も高いだろう。
堂々と襲わなかった理由も、「所属不明機に攻撃された」ことをわざと知らせるためだろう。
結論に至ったところで、彼は頭を振り自嘲気味な笑みを浮かべた。自分ごときがこんなことを知ってもどうにもならないことはよくわかっている。
旧連邦軍時代からの軍所属である彼は、この1年と数か月で軍という組織をよく理解していた。
それでも彼が軍人をやめなかったのは、彼の目的が艦長になることでしかなかったからである。
「だけど」
彼はつぶやく。
「僕の艦をこんな風にしたのは少し許せないかな」
彼は端末から一つの連絡先を呼び出すと、少し考えてから短い文章を入力し、送信した。