アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

21 / 92
第二十星 譲れぬものーNonnegotiableー

 

 

マリーンside

 

地球軌道上にあるザーツバルム卿の揚陸城…そこの独房にはスレインの姿があり彼は静かに暗闇の中、体育座りをしていた…静かに時間を過ごしていたスレインの元に一人の人物が訪れた。

 

「頭は冷えたか?」

 

「…マリーン卿」

 

黒髪を一つに束ねたポニーテールが特徴のマリーンは部屋に居るスレインを見て隣に座り込むとそのまま黙ってしまった…その間に耐えられなくなったスレインはマリーンに話しかける。

 

「マリーン卿…何故…アセイラム姫を狙うのですか?」

 

「……私は…姉さんの無念を晴らす為にここに居る…」

 

「お姉さんが…」

 

「あぁ…居た…私が生まれて間もない頃にヘブンズ・フォールで亡くなったのだ…姉さんは優しかった…幼い頃の記憶のせいでおぼろげだが姉さんの笑顔はまだ覚えている」

 

マリーン自身、家柄とそれを取り巻く状況のせいでまともな愛を受けずに育った…そのせいでマリーンは歪み全てに対して恨みを持つようになったのだ…ただ数人を除いて…。

 

「しかし…」

 

「確かに…それだけではお前は納得しないだろうな…だがな…これは私にとって復讐であり、恩返しでもある…」

 

「恩返し…ですか?」

 

「あぁ…ザーツバルム卿にな…あの方は私を本当の家族のように扱ってくれ…命を助けてくれた…私にとってそれで十分…」

 

スレインの質問にマリーンは当然の様に答えるがその顔には少し影が入った…その原因はザーツバルムが時折見せる悲しい顔だ…ザーツバルムの婚約者でありマリーンの従姉妹であるオルレイン…それを自分自身を通してザーツバルムが見ているのはマリーンも知っている…。

 

(ザーツバルム卿…私は貴方の娘になりたかった…)

 

悲しそうに顔を俯けるマリーンを見てスレインはそれを静かに見つめる事しか出来なかった。

 

ーーーーーーーー

 

ザーツバルムside

 

 

「マリーンは居らぬのか?」

 

「はい…スレイン・トロイヤードの部屋に行ったのは見ましたが…」

 

「そうか…」

 

ザーツバルムはスレインの元に向かおうとマリーンを探していると兵士が既に向かった事を伝えられ自身も向かう事にした…そしてスレインが居る独房の前に立ち扉を開けようとすると声が聞こえた。

 

「これは私にとって復讐であり、恩返しでもある…」

 

「恩返し…ですか…」

 

「あぁ…ザーツバルム卿にな…あの方は私を本当の家族のように扱ってくれ…命を助けてくれた…私にとってそれで十分…」

 

ザーツバルムの耳にはマリーンの言葉が悲しみに満ちていたのがよく分かった…マリーン自身も自身が通してオルレインを見ているのが分かっているのだろう…。

 

(すまぬ…マリーン…私のせいでお前も傷つけてしまった…)

 

ザーツバルムは独房の前でフッと昔の事を思い出したのだった。

ーーーーーーーー

 

ヘブンズ・フォール一週間前、月のハイパーゲート周辺にザーツバルムが保有する揚陸城は滞在しており先鋒としてオルレインのデューカリオンとザーツバルムのディオスクリアが作戦に向けて最終調整が行われていた。

 

「ザーツバルム卿…オルレイン子爵が帰投いたしました…」

 

「分かった…すまぬがここを頼む…」

 

「ハッ…」

 

揚陸城の司令室にいたザーツバルムはオペレーターの報告を聞くと司令室を任せてオルレインを迎えに行くと輸送艇から降りてくるオルレインの姿があった。

 

「オルレイン…」

 

「ザーツバルム卿!わざわざお迎えに上がらなくとも…」

 

「よい…どうだった?久しぶりの母星は?」

 

「はい…実に楽しかったです…」

 

月と火星はハイパーゲートのお陰で手軽に行き来が可能でありオルレインは物資の運搬の指揮を兼ねて作戦前に一旦、家に顔を出して来たのだ。

 

「そう言えば…ザーツバルム卿また私に従姉妹が出来ました!まだ産まれたばかりでとても可愛らしかったです!」

 

「ほう…今度は男の子か?女の子か?」

 

「女の子です!私に目と髪色がとても似ているのですよ!名前は地球の海にちなんで『マリーン』と言うそうです!」

 

「マリーンか…良い名前だ…」

 

嬉々として話すオルレインを見てザーツバルムは自然に笑顔になりその生まれたばかりの女の子の話に夢中になる。

 

「あの子が大きくなる前に名前の由来である海を見せてあげたいものです」

 

「あぁ…我らが先鋒を預かったのも巡り合わせ…その子に海を見せる為にもこの青き星を手に入れねばな…」

 

「はい…必ず…成功させましょう…」

 

生真面目な性格のオルレインは余り笑顔を見せないがその時の笑顔はザーツバルムが見た中で一番笑っていた気がする…。

 

ーーーー

 

(オルレイン…今の私を見ても…まだ笑ってくれるか?…いや…悲しむだろうな…)

 

間違っているのは分かっている…これで本当にオルレインが報われるのか分からない…だが引き返さない…これが自分に出来る唯一の手向けなのだから…。

 

ザーツバルムは静かに独房の扉を開け…部屋に入るのだった。

 

ーーーーーーーー

 

「マリーン…ここに居たか」

 

「ザーツバルム卿…」

 

マリーンがスレインと一緒に居るとザーツバルムが入室しマリーンはそれを見て立ち上がる…それを見たザーツバルムはスレインを一瞥すると部屋にモニターを表示させる。

 

「ソナタが回収された種子島からのデータだ…巨体なドックと造船設備…船を見たな?」

 

「…はい」

 

「それはアルドノアを持つ船だな?」

 

「恐らくは…」

 

「そのアルドノアドライブを起動したのは…アセイラム姫殿下か?」

 

「………」

 

ザーツバルムの質問に素直に答えるスレインだがアセイラムの事になると固く口を閉ざし何も言わなくなる…それを見たザーツバルムは少し笑うと話を続ける。

 

「姫殿下の身を案じて黙するか…これを知っているか…」

 

「ッ!」

 

そう言うと解体されたデューカリオンの姿がモニターに映され、それを見たマリーンは悲しそうな顔をする。

 

「これは?」

 

「デューカリオン…重力制御能力を持つ…オルレイン子爵のカタフラクトだ…」

 

「オルレイン子爵?」

 

「マリーンの従姉妹であり、我妻となる女性であった…」

 

ザーツバルムの言葉にスレインはハッとするがザーツバルムは気にせず話を続ける。

 

「我らは尽力した…皇帝陛下から賜ったアルドノアの力を使い…民を統べ、ヴァースの荒れた地を開拓し、領地を広げ、富を築こうとした…しかし…何をしようとも我らには限界があった…」

 

「限界…」

 

「水と空気だ…アルドノアを作った古代文明人の時代は…まだ水と空気が豊富であった…しかしヴァースは真空に近い薄い大気と地下に残った僅かな水のみ…むしろ、薄い大気のせいで常に砂嵐に見舞われる…」

 

豊かな地球と比べるとその火星の現状はまさに雲泥の差…新たな星で新たな可能性を求めた人達を待ち受けていたのは希望では無く…どうしようも無い絶望感だけだった。

 

「これではどんなに土地があっても得られる実りは僅か…民が増えれば増えるほど…生産が消費に追いつけず困窮していく…あの惑星に住むには…最初から無理があったのだ…」

 

この現状は地球に来るまでオキアミやクロレアしか知らなかったフィアの反応が最も物語っているだろう…姫殿下の騎士である立場のフィアでさえその存在すら知らなかったのだから。

 

「しかし…ニ代目皇帝、ギルゼリア陛下はアルドノアの力を信奉し…工業力の発展ばかりに力を注いだ…アルドノアを支配する王族の権力を絶対の物とし…民衆の苦しみには耳を傾けられなかった…」

 

封建制度に置いてはギルゼリアが行った事は決して間違っていない…封建制度は国王・領主・家臣の間の主従関係に基づく統治制度だ…その一番上に居る国王の権力が落ちてしまった場合、ヴァースその物が崩壊する恐れがあるからだ…しかしそのやり方は自然と民の不満を溜め込む事になる。

 

「そして…民の積もる不満の矛先を地球に向けられたのだ…ヴァースに対し主権を主張し、独立を阻み、遠く離れた場所から統治しようとした地球こそが我らの敵であり…苦難の源であると…ヴァースの民を先導されたのだ…恐ろしい事に…その妄言は皆に支持された…」

 

もちろん、最初はそれに疑問に持った者は決して少なくは無かっただろう…だがヴァースの民は生きていけなかったのだ…死の恐怖に押し潰されないように地球を呪い、奪うことで無意識に生きる為の希望を見出していたのかもしれない…。

 

「自らこそが優秀な民族であり、豊かさを握っている劣等民族こそが悪であると…我らは地球侵攻を企て…ハイパーゲートを経由し月に戦力を結集した…愚かにも…それを正義と信じて…」

 

ザーツバルムは悲しそうな顔をするとマリーンは心配して近づくが手で制止されマリーンは立ち止まる。

 

「そして先鋒として飛行能力に長けた我がディオスクリアとオルレインのデューカリオンが種子島に降下した…」

 

ザーツバルムは辛いであろう十五年前の出来事を静かに話していく。

 

ーーーーーーーー

 

ヘブンズ・フォール当日、種子島…そこでは大破した戦車部隊の残骸を前にして立っていた巨大なカタフラクト『デューカリオン』と変形し空を飛んでいた『ディオスクリア』が居り…そのパイロットであるオルレインとザーツバルムが通信で話していた。

 

『なんと貧弱な…これでは覚悟を決めて降下した意味がございません…そう思いませんか?ザーツバルム伯爵…』

 

「あぁ…肩透かしを食らったな…オルレイン」

 

『この惑星…思ったより容易く手にすることが出来ましょう…』

 

「…皇帝陛下ももとより我らが民も喜ぶ事だろう…あの子にも海を見せてやれそうだな…」

 

『はい…』

 

ザーツバルムの言葉にオルレインが嬉しそうに答えると突然、コックピットに警報が鳴り響き衝撃が襲う…状況を確認しようとザーツバルムは計器を見ると時空の計器が異常値を示していた。

 

「強力な時空歪曲波…よもや!…ハイパーゲート!!」

 

ザーツバルムが叫びながら空を見上げると地球を優しく照らしていた月が粉々に砕け散った瞬間だった。

 

「月が!割れた!!離脱するぞオルレイン!!」

 

突然の異常事態にザーツバルムは撤退して立て直しを図ろうとするがオルレインのデューカリオンだけが少し身じろぎするだけで動かない。

 

「どうした!早く離脱せよ!地上は危険だ!」

 

「時空の歪みが反重力デバイスに影響を!飛べません」

 

オルレインの言葉にザーツバルムは助けようと向かうがオルレインはそれを拒み早く脱出するように進言する…そう言っている内に巨大な月の破片がディオスクリアとデューカリオンの真上まで迫っていた。

 

「オルレェェェェイィィィィィィン!!」

 

ザーツバルムが叫ぶ中、隕石のせいで荒くなった通信でオルレインは静かに涙を微かに溜めながら笑いかける…砂嵐の中、その笑顔はザーツバルムの脳裏にしっかりと焼き付いている。

 

ーーーー

 

「我は必ず…オルレインの無念を晴らす…」

 

「伯爵…ザーツバルム伯爵!!」

 

話は終わったとばかりにザーツバルムは部屋を出る…スレインは何を思ったのかザーツバルムの名を叫ぶがザーツバルムは止まらずマリーンもそれに続くのだった。

 

ーーーーーーーー

 

スレインと話した後、ザーツバルムは黙り込み司令室で立っているだけだった…それを見ていたマリーンはザーツバルムに話しかける。

 

「ザーツバルム卿…」

 

「………」

 

「私は…ついていきます…例えそれが地獄であろうとも…どこまでも…」

 

マリーンの言葉にザーツバルムは振り向きマリーンを見て優しく頭を撫でる。

 

「本当は巻き込みたくなかった…だが…これからも頼む…私はお前を信用しているぞ…」

 

「はい!」

 

ザーツバルムの言葉にマリーンは言い様の無い幸福感に包まれているとオペレーターがザーツバルムを呼び、報告するとその内容は彼が最も待っていたものだった…アセイラムの月面基地への通信だ。

 

「私は…アセイラム・ヴァース・アリューシア…ヴァース帝国皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの孫娘、第一皇女です…祖国ヴァースに告げます…この無意味な戦争の即時停戦を求めます…私は無事…生きています…私の命を狙ったのは地球人ではありません…地球侵略を求める軌道騎士の策略です…地球人に罪はありません…今すぐ戦争を止めて下さい…そして地球と和平を結んで下さい…どうか…この不幸に終止符を…」

 

純粋な優しさが詰まったアセイラムの言葉にザーツバルムは何とも言えない表情をするがすぐに切り替えて覚悟を決める。

 

「発信元は?」

 

「ハッ!ノヴォスタリスク地球連合本部です!」

 

「そうか…スレイン・トロイヤードをタルシスの格納庫へ!マリーン…ついてこい」

 

「ハッ!」

 

ザーツバルムはオペレーターから発信元を聞き出すとマリーンを連れて回収したタルシスの格納庫へ向かう…そこには連れられたスレインが居り突然の事で何が何だか分からないようだった…ザーツバルムの指示でマリーンが格納庫の照明をつけるとスレインは驚きザーツバルムが説明する。

 

「クルーテオ卿の揚陸城からマリーンが持ち帰った…奴には過ぎた機体だ…月面基地へのレーザー通信でアセイラム姫殿下の所在が特定された…月面基地は我が同士の管理下にある…姫殿下の声明は誰にも届くことは無い…これより…敵、本拠地にて決戦となる…揚陸城の戦力を持ってしても無事では済むまい…」

 

ザーツバルムは説明を終えるとマリーンから手渡された拳銃をスレインに向けて発砲…スレインは驚いて避けようとするも銃弾は手錠を繋いでいた鎖を見事に破壊する。

 

「父君への義理は果たした…地球に戻るのもよし…我が軍につくのもよし…好きにせよ」

 

そう言って立ち去るザーツバルムをスレインは見ているとマリーンが近づき話しかける。

 

「お前は自分が最も後悔しない道を選べ…それに私は何も言わない…」

 

「マリーン卿…」

 

そう言うとスレインに拳銃を渡して立ち去るのだった。

 

ーーーー

 

「ザーツバルム卿…発進準備、整いました…いつでも行けます!」

 

ザーツバルムが司令室に到着するとオペレーターが報告し、マリーンがちゃんと戻ってきたのを確認し黙祷する…しばらくそうしていると目を開き腕を振るい指示を出す。

 

「揚陸城降下開始…目標!ロシア、ノヴォスタリスク地球連合本部!!」

 

 

ー役者は揃い舞台は整った…開演はもうすぐだー

 

 

 




どうも砂岩でございます!
ついにここまでやって来ました!大きな山場です!
本当にザーさんは恨めない!ザーさん本当にいい人だと自分は思いますね!そして格好いい!アセイラム姫の演説の時のザーさんの表情は見ていたらとても複雑な感じになりました!
それとオルレインの死に際の最後の笑顔は完全に妄想ですね…あんなに仲良いんだからやってるだろう!って事で…さぁ!次回はノヴォスタリスクの攻防です!
最後まで読んでいただきありがとうございました!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。