アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり 作:砂岩改(やや復活)
月面基地カタフラクトハンガー
そこに置かれている機体、レギルスの調整をザーツバルムの騎士、マリーン・クウェルが行っていた。
マリーンは頭にヘッドマウントディスプレイをつけてビームビットの調整を行い整備班に指示を飛ばす。
「キツくありませんか?」
「まぁまぁだな…そっちはどうだ?」
「脳波には目立った乱れはありません…しかし常人の設定を大きく上回っていますので」
「私を常識の範疇にいれるな、それだけの訓練もしている」
「す、すいませんでした…クウェル卿」
「まぁ、いいが……ザーツバルム卿の元へ行く…調整は頼むぞ」
「り、了解です!!」
落ち込む整備員を見て言い過ぎたと悟ったマリーンは目をそらしながら機体を後にする。
「ハァ……」
やってしまった…っとマリーンは自身の行いを悔やんだ、彼女がイライラしているのには理由があった。
それはほんの少し前、いつも通りザーツバルムとお茶をしていた時に彼が発した言葉が原因だった。
《マリーン…》
《どうされたのですか?》
《我もこれからは戦地に赴く事が多くなるやもしれん…その時、我にもしもの事があれば…》
《お止めください!!》
《聞け…その時はスレインを立ててやってくれ…》
《スレインを……》
《あやつは我を恨んでおるが、目的は同じ困窮する者達の救済だ…その時は……》
《…分かりました……しかしこの話題は今後一切行わないでください》
《すまぬな……》
ーー
思い出すだけで言いようのない不安が焦燥感を掻き立てる。
「この胸騒ぎ…ザーツバルム卿も感じておられるというのか……」
寂しげに呟いたマリーンは俯き自身の世界に入って行こうとした時、視線の端から人影が出てくるのが見えた。
「ッ!」
咄嗟のことで反応できなかったマリーンはその人影とぶつかるが大きな衝撃は来なかった。
不思議に思っていたマリーンだったが声を聞いたとたんそんな疑問はすぐに解消された。
「おぉ、マリーンか…」
「ざ、ザーツバルム卿…すいません、少し考え事を」
壁にぶつからないように抱きかかえられたマリーンは恥ずかしさと焦りで顔を真っ赤にして必死に謝る。
「ハハッ、まぁそう慌てるでない」
そんな姿を見たザーツバルムは微笑みながら頭をなでるとマリーンは大人しくなったのだった。
ーーーー
輸送艦隊の護衛を終えたスレインは横の通路から出てきたマリーンをなだめるザーツバルムを見ていると少しばかりの羨ましさと罪悪感に駆られていた。
「………」
「本当の家族のようですね、スレイン様」
「そうですね、ハークライトさん」
そんな様子のスレインを知ってか知らずかハークライトは耳に軽く口を近づけて話す。
その言葉に素直に返事を出せる自身にほんの少しばかり嫌悪した、いつか殺そうと思っている人物を大切に思っている人がいる。
「……」
心のどこかでは、この人を殺したくないと思っているのだろうか……。
そんな思いを抱きつつスレインは“今の”姫様、レムリナ姫の元へ向かうのだった。
ーーーー
地球、ヴァルト伯爵の揚陸城
「ヴァルト伯爵、ヤーコイム男爵は間もなく目標の索敵範囲に入ります」
「うむ、スカイキャリアは?」
「高高度から敵の艦を補足、主モニターに出します」
揚陸城の司令室のモニターに映ったのは一枚の静止画、そこにはハッキリとデューカリオンの姿が映っていた。
「監視を続行せよ…ザーツバルム君の予想通りだったな…」
紅い伯爵の服を纏った初老の男性は満足そうに顎を触る。
ヴァルト伯爵の揚陸城は機能している揚陸城の中で地球連合本部に最も近い位置にある。
あの戦いの後、スレインがザーツバルム達を連れてやって来たのが彼の揚陸城だった。
彼はアセイラム派筆頭の男であり穏健派の筆頭でもある、彼は極力、地球に被害を与えずに静観を決め込んでいたが今回初めて連合国軍迎撃以外でカタフラクトを出した。
「彼の健闘を祈ろう…」
ヤーコイム男爵の目的は敵のアルドノア搭載艦への威力偵察が主な任務だが可能であれば敵艦の撃破、制圧が上級目的だったりする。
その主、ヴァルト伯爵は揚陸城で臣下の無事を静かに祈るのだった。
ーーーー
その時、デューカリオン艦内ではライエ、韻子、ニーナが廊下を歩いていた。
「生きて…帰れるといいね……」
「死ぬわけないでしょ…」
ライエの言葉に若干落ち込み気味だった韻子とニーナは俯けていた顔を上げてライエの顔を見る。
「火星人に勝つ、勝って地球に平和を取り戻す…絶対に……死んでる暇なんてないわ……」
淡々と話すライエだがその言葉には二人に向けての励ましの色が強く含まれていた。
そんなライエの言葉に韻子とニーナの表情は随分と明るくなっていた。
ビィィィィィ!!ビィィィィィ!!
突然鳴り響く警告音、その音に全員が顔を見上げ近くのモニターを見る、そこにはWARNINGという緊急事態を告げる文字が刻まれていたのだった。
ーーーー
「敵襲!火星のカタフラクトっす!!」
「南南西20㎞に機影確認、時速50㎞で接近中!!」
通信士である祭陽希咲が艦内と基地に向けて通信を発すると同時に同じブリッジにいるマグバレッジに報告、レーダー手である詰城祐太郎が敵位置の詳細な内容を伝える。
「全艦戦闘態勢、ドックを離れます!」
「重力デバイスのメンテ中ですよ!」
「構いません」
「遅れてすいませ~ん」
緊迫した空気のブリッジに遅れて入ってきたのはデューカリオン操舵手のニーナだった。
だがその格好に副長である不見咲副長は声を上げる。
「ちょっと待て!支給された制服はどうした?」
「だって可愛くないし…」
「かわッ!?」
軍の制服を可愛くないと言う理由で着ないニーナに不見咲は言葉を失い振り向いた。ニーナの後ろに座っていた帰還士の筧至剛も口を開けて驚いていた。
「操船に異常がなければ許可しましょう…」
「艦長!」
「不見咲くん…君がモテない理由を教えましょうか?」
「若さでしょうか…」
「………」
不見咲のまさかの答えにマグバレッジは黙り込み周囲にどうしようもないほどの気まずさが生まれた。
(((気まずい……)))
その空気を察した筧、祭陽、詰城は戦闘とは違う意味で汗を掻くこととなった。
ーーーー
そんな時、韻子とライエはデューカリオンのハンガーから揚陸艇に乗り込み進行している敵に向かっていた。
「敵の情報は!?」
「これだわ、ヤーコイム男爵のカタフラクト…氷結のエリシウム……」
制圧されたザーツバルム卿の揚陸城から得られた火星側のデータは大変貴重な物だった。敵機やパイロットの名前、特性など多くの物が得られたのだ。
補足で言うと宇宙での高級量産機グラニの開発は大破したゼダスの解析データの恩恵を受けている。
「武器は…エントロピーリデューサー……って何?」
「半径1㎞のフィールドに入った物質の分子運動を奪うの……空気が変化するどころか…凍りつく程の超低温よ……」
「厄介な敵ね……」
草木どころか風力発電のための施設まで凍り付き倒壊している、凍ることによって強度が下がるのは目に見えていた。
「今の速度だと後15分でデューカリオンのドックに到達するわ」
「何とか足止めしないと」
「足止め?冗談…倒すに決まってるでしょ」
韻子の言葉にライエは淡々と当然のように言い放つとアレイオンを揚陸艇から降ろすのだった。
「さぁ、地球人よ…アルドノアの力にどう抗ってみせる?」
エリシウムのパイロット、ヤーコイムは不遜な態度ながら敵がどう動くか興味深そうにしていた。
『こちら、ハービィンジャー小隊、目標を確認……寒冷地モードで行く…タービン出力最大…除氷装置オン……攻撃開始』
通信と共にハービィンジャー小隊は典型的な陣形でゆっくりと前進し攻撃を開始する、そして凍りつく草木を踏みしめ、更に敵へ進もうとする。
上手くいったと思った刹那、アレイオンの足が氷に覆われ関節が凍り付く。
『なんだ?動かない…除氷装置が効かない……』
ある意味当然の結果であろう、エリシウムの能力は分子運動を奪い空気すら凍りつかせる物だ気温が下がっているのとは訳が違う。
『電圧低下?バッテリーの化学反応が止まったのか!?』
凍てつく寒さは機体内部すら浸食し中に居る人間すら凍らせる。
『て、手が!うわぁぁぁ!!』
自身が凍るのをただ叫び見ることしか出来ないパイロットはその恐怖ごと凍り付いてしまった。
「ハービィンジャーリーダー!!」
韻子の叫びも虚しく倒れたアレイオンはエリシウムにいとも簡単に踏みつぶされた。
「手も足も出まい、氷結のエリシウムの名は伊達ではないわ……」
エリシウムは何事もなかったかのように進行を進める、それを阻止しようと韻子とライエはライフルで撃つが弾が逸れ当たらない。
「弾が当たらない?何で!?」
「シールド…そんな筈は……ッ!」
エリシウムの撃破に気を取られていた時、コックピット内で機体温度の急激な下降に対して警告音が鳴るとライエと韻子は大きく後退する。
よく見るとつま先辺りが完全に凍り付いてしまっていた。
「危なっ!!」
「マズいわ…足止めする方法を考えないと…」
「やっつけるって話は!?」
「下方修正!!」
「たくっ……」
韻子は強気だったライエに一言いってやりたかったがこの様な状況だと自身も何も言えない。
二年近く前に戦った次元バリア並みの能力に二人は対処が出来なくなっていた。
「くっ……」
二人が海辺まで追いつめられライエがエリシウムを睨み付けた瞬間、横合いから一発の銃弾がエリシウムの眼前を通り抜けた。
突然の出来事にエリシウムは歩みを止め横に体を向けるのだった。
ーーーー
「あれは…」
突然の攻撃にヤーコイムが見たのはオレンジ色の機体、その特徴的な色は知っている。
地球との戦いが始まった時、破竹の勢いで火星騎士を倒し、挙げ句の果てに英雄であるザーツバルム卿に重症を追わせた機体…。
「ふっ……」
その姿を見たとたん笑いが溢れる…この様な者と戦いたかった…さぁどう来る?正々堂々と迎え撃ってやる。
「面白い…来るがよい……」
ヤーコイムはエリシウムを堂々と立たせオレンジ色に向き合うのだった。
ーーーー
「奴自身は…何故凍らない?」
AP弾とHE弾を撃ち分け敵の能力を計算する。モニターをサーモグラフィーに切り替え更に根を詰める。
「エントロピーリデューサーのフィールドは半径30メートルから始まっている…奪った熱は何処へ?分子運動のエネルギーを次元の裏側に隠している?」
自問自答を繰り返し計算し一つの答えを導き出す。
「弾頭の電子時限信管が作動するの飛距離は50メートルと言う所か…奴のフィールド半径は1㎞……つまり…20発あれば行ける」
スレイプニールの腰にマシンガンを両手にはグレネードランチャーを持たせる。
『伊奈帆!?』
「敵に突っ込む」
『凍っちゃうわよ!』
「凍る前にたどり着けばいい…」
なんとなく懐かしい韻子の声に安心感を感じながら伊奈帆はスレイプニールをフィールドに突っ込ませる。
(3…2…1……今だ…)「ファイヤー」
機体が凍り付き始めたのを見計らってグレネードを発射、時限信管により空中で爆発したグレネードは高熱の爆炎を産み出す、その高熱の爆炎にスレイプニールをあえて突っ込ませる事により機体温度を上げ凍り付くのを阻止する。
荒っぽいやり方だが即席で突破するならこれ以上ない方法であった。
瞬く間にエリシウムの眼前に姿を現した伊奈帆はグレネードランチャーを捨て腰にマウントしていたマシンガンを向ける。
「ふっ…おみごと……」
眼前にある銃口を見たヤーコイムは静かに笑い賞賛の声を上げた。その表情に悔いや後悔はなくただ穏やかだった。
(この様な者が最後の相手に…ある意味贅沢なのかもしれんな……)
ヤーコイムの意思を知ってか知らずか伊奈帆はその直後、マシンガンの引き金を引いたのだった。
ーーーー
エリシウムのアルドノアドライブ停止と共に巨大な爆発が起こる。次元の裏側に隠されていた熱が戻り凍っていた空気が一気に気化したからだ。
「伊奈帆!」
巨大な爆炎に驚いた韻子が叫ぶがその中心部にはスレイプニールの堂々とした姿があった。
「想定以上のダメージだ…カームに怒られるかな……」
そんな韻子の心配はよそに伊奈帆は壊れた機体の心配をするのだった。
ーーーー
夕焼けが美しく草原を照らす中、伊奈帆はスレイプニールから降り韻子たちと久しぶりに顔を会わせた。
「大丈夫!?伊奈帆?」
「界塚伊奈帆少尉、到着いたしました…総司令部の命令により貴艦に着任します」
二人を前にして敬礼、挨拶をすませた後に伊奈帆は笑いかける。
「もう…なにそれ……変わらないね…伊奈帆は」
「韻子こそ、元気そうで良かった…」
「変わったわね、随分」
放った言葉に疑問の表情を浮かべた伊奈帆を見てライエは少しだけ笑いながら言葉の続きを言う。
「人を気遣うような事、言えるようになったんだ」
「それ、褒めてないよね……」
「ふっ…褒めてるわよ」
そう言って笑みを向けられた伊奈帆は今だ疑問の表情を浮かべていたが抱きついてきた韻子に驚き見る。
「お帰り…お帰り伊奈帆……」
「ただいま…韻子」
泣きじゃくる韻子を宥めるように頭を撫でる伊奈帆を見てライエは面白そうな物を見る目で見ていたのだった。
しかし、韻子が抱えていた不安と孤独は予想を遥かに上回っていたのだろう…あの決戦の後から。
ーーーー
19ヶ月前
暗くなったデューカリオンのブリッジにユキと伊奈帆を運び込んだとき……。
「頭部に銃創、弾丸は左目から側頭部を貫通!意識不明!応急処置としてアドレナリン3ミリを投与!!」
「これは酷い…」
耶賀来の言葉に思わず悲鳴を上げそうになる韻子だが無理やり呑み込む。
「今すぐ外科的治療も必要ですもちろん輸血も!」
「道具や設備なら地下シェルターに揃っています!マグバレッジ艦長!デューカリオンの発進命令を!」
悲鳴に近い声を上げるユキだがマグバレッジは申し訳なさそうに目の前にある球体の装置を見る。
「アルドノアドライブ…停止しちゃってる……」
アルドノアドライブが停止する理由はただ一つ、起動した人物の心臓が止まった時だ。
そしてアルドノアドライブを再起動したのは…。
「ッ!フィア!!」
「界塚准尉…フィアは……姫殿下は何処に?」
あぁ…失ってしまう……大切な人をかけがえのない友人をそんな事が頭を過ぎり韻子はただ大声で泣くしかなかった。
ーーーー
だが今は違う。伊奈帆にも会え、フィアも生存している事が分かっている。
デューカリオンが大気圏を突破する振動に揺られながら韻子の表情はしっかりと引き締まっていたのだった。
どうも砂岩改でございます!
しゅ、主人公がでねぇぇぇぇ!!
スレインの帰還とザーツバルム&レムリナの場面は泣く泣くカット。(カットしたらフィアが居なくなった)
特に変更点は考えて無かったので…その代わりマリーンのシーンとヤーコイム男爵の心情的な物をやっときました。
ヤーコイム男爵は火星騎士の中で4番目に好きですからね頑張りました(一番はセルナキス伯爵)
最後の方は韻子視点を中心に盛り込んでみました、韻子は絶対に寂しかった(確信)
13話最後の方は次回にやりますので(流石にそこはカット出来ない)
補足で説明するとヴァルト伯爵はアセイラム姫の事は知ってますが地球人にやられたと勘違いしてます。
でもまだ穏健派なのはアセイラムの意思を尊重する為に現状維持してるだけ。(レムリナの事も知っている)
では最後まで読んで頂きありがとうございました!ではまた次回に!!