アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第四十八革 古傷 -old wound-

 

 

サウジアラビア、アデン基地。港に建設された基地はそれなりの規模を誇る基地であり落下した揚陸城付近の基地でありながら存続している珍しい基地だ。

 

その揚陸城の偵察を行ってきた部隊が海上の強襲揚陸艦に帰投していた。

 

「全機帰投完了…っと、界塚准尉あとで艦長室に来てくれ、呼ばれている」

 

偵察として趣いていた部隊の隊長は鞠戸孝一郎は昔から同部隊の界塚ユキを呼び出し愛機のアレイオンから降りる。

 

「デューカリオン絡みだ、地球に戻ってくるらしい…」

 

「……」

 

デューカリオン、その単語を聞いたユキはほんの少しだけ悲しそうな顔をするのだった。

 

ーーーー

 

宇宙、トライデント基地に停泊しているデューカリオンのハンガーでは損傷したスレイプニールの調整を伊奈帆とカーム、韻子が行っていた。

 

「捕虜から何か聞けたの?」

 

「なにも…でも次は話してくれる気がする…」

 

「へぇ、そこまで行ってるのか」

 

3人の会話の内容は先の戦いでデューカリオンに運悪く擱座した機体のパイロットのことだった。

年は自分達より下であることは間違いないと言うのに親衛隊のメンバーだったというのは衝撃的だった。

 

「フィアのこと、なにか分かれば良いんだがな…」

 

「うん…」

 

「……」

 

カームの言葉に素直に同意する伊奈帆、それを見て韻子は複雑な気持ちになる。先の戦いで伊奈帆の信頼は痛いほど伝わった。それはいい、フィアの代わりになるつもりは無いが少しでも彼の手助けが出来るようになれたという証明なのだから。

 

(私は見てくれないもんね…伊奈帆は……)

 

もっと深いところであの二人は繋がっている。そんな気がしている。もちろん、伊奈帆の事については諦めるつもりなど毛頭にない。だからこそ、現れたフィアの影に対して素直に喜べない自分がいたのだ。

そんな自身を嫌悪しつつあくまでも笑顔で話を続ける韻子、そんな様子をカームは横目で黙って見守るのだった。

 

《全艦に告ぐ、UTC1300通達通り本艦は地球降下シークエンスに移行する》

 

艦内にマグバレッジの声が響く中、伊奈帆は黙々とスレイプニールの計器を操作するのだった。

 

ーーーー

 

地球、艦長室に呼ばれたユキと鞠戸は来客用の椅子に腰掛けると目の前に座る艦長を見る。

艦長は自身が淹れた紅茶を二人に差し出すと小さな小瓶も二人の前に静かに置いた。

 

「カルバトスだが」

 

「あ…」

 

「いえ、結構です…」

 

カルバトス、簡単に言えば酒だ。紅茶のアクセントとして入れるのであろうそのお酒を進められ慌てて鞠戸の方を見やるユキだが即刻断った鞠戸を見て安堵する。

 

「で、デューカリオンの護衛というのは?」

 

「あくまで補給と整備の一時的な物だがね、先の戦いで大きく損傷したらしい…指定の基地がここからさほど離れていないと言う事でもある」

 

主砲を2門大破させ、艦艇部にも穴が空いている。無重力下では本格的な修復を行えないというのもあって付近のアデン基地が選ばれたわけだ。

 

「まんざら、無縁の艦でもないんだろう?乗艦する予定だったのを断ったそうじゃないか」

 

しっとりと言う艦長の言葉には他意など全く含まれていない、純粋な疑問だ。

 

「あの艦にいると、無駄に古傷を思い出すんで…」

 

古傷、そのフレーズに反応したのは鞠戸だけでは無い。その横にいたユキもだった。大切な家族を護ってあげられなかった後悔、頼ってばかりだった騎士。

あの狼のような冷酷さと暖炉の炎ような暖かさを兼ね備えた紅い瞳が彼女の脳裏をかすめる。

 

「弟さんも乗っているそうだね、だいぶ活躍しているそうじゃないか…」

 

「ええ、まぁ…いただいても?」

 

「もちろんだとも」

 

ユキは艦長の承諾を得るとカルバトスを数滴、紅茶に落とすと一気に飲み干す。胸の内かは出てきそうな感情を呑み込むように。それを横目で見ていた鞠戸は静かに紅茶を飲むのだった。

 

ーーーー

 

月面基地、展望室のようなレムリナの部屋には伯爵服を纏ったスレインと側近のハークライトがレムリナと話していた。

 

「その後の諸侯の動きはどうなのですか?」

 

「表だって反発を示している者はいないと聞いております、ハークライトの見立てですが」

 

「スレインもそうお思いで?」

 

「伯爵の喪が明けぬ内に異を唱えるのは流石に不謹慎、そう思って当面、黙っているのに過ぎません」

 

ヴァース帝国が下卑すべき存在が伯爵の服を纏っている。他の伯爵からしてみれば耐え難い屈辱だろう。そんな事、スレインが一番よく分かっている。

 

「ザーツバルム卿の死がヴァース帝国にとって多大なる損失になるのは紛う事なき事実、私は父である二代目皇帝ギルゼリアが犯したあやまちによる娘、父の犯したもう一つの罪…ヘブンズ・フォールによって父は他界しこの月すら割れた…」

 

ヘブンズ・フォール、これさえ無ければ何も起こらなかった。ザーツバルム卿がオルレインを失うことも、マリーンが戦闘狂になることも、伊奈帆とユキが両親を失うことも。

 

「ザーツバルム卿は身寄りの無い私を見つけ忠誠を尽くしてくれました、心の奥では何を考えていたか分かりませんが…しかしそれでいいのです」

 

だがヘブンズ・フォールが起きなければ伊奈帆はフィアに出会わなかった、マリーンはザーツバルムと出会わなかった、レムリナはスレインと出会うことは無かっただろう。

 

「権謀術数を張り巡らす器量も無き者は却って信じられません、これからは妬みや嫉みを嫌でも買わざるを得ませんね、スレイン」

 

改めて前に立つスレインの顔を見やりレムリナはうっすらと笑う。

 

「ザーツバルム卿の全ての特権、アセイラム姫の後見という立場までも貴方は受け継いだのですから」

 

「覚悟しております、されど…妬まれる甲斐のある重責」

 

「その服、とてもよく似合っていますよ…忘れないでくださいね、今あなたが守らねばならぬ姫は目の前にいると言うことを…」

 

「重々、承知しております…」

 

そんな二人の会話を胃を痛くして聞いていたのはアセイラム姫親衛隊のケルラとネールだった。二人はこの部屋の警護のため部屋の出入り口の両脇に静かに立っていたのだ。

 

(ネールさん、ここから出たいです…)

 

(我慢しろ、私だってこう言うのは苦手なんだよ)

 

最年少のケルラは当然のこと、気の強いネールでさえこの空気は嫌な物だ。なぜか胃が痛くなってくる。

そんな二人は自身の尊敬するフィアを思い、耐えるのだった。

 

ーーーー

 

ヴァース帝国、本星である火星にフィアの姿があった。月面基地の謁見の間を使っているのだ。あたかもそこにいるようだがその考えはあながち間違ってはいない。

ヘブンズ・フォールにて消滅したゲートの技術を応用して造られた一種のテレポーテーションの様なものである。本人をヴァース帝国本星まで飛ばせるのだがその継続時間は短く時間が切れたら元の場所に元通りだ。

 

「これは、エルスート卿ですか?」

 

「あ、クラ…いえ、クルーテオ伯爵」

 

レガリア皇帝の謁見に向かっていたフィアは場内にいたクランカインと会った。

 

「この度の伯爵家襲名、おめでとうございます」

 

「よしてください、私はまだまだ未熟な身…クランカインで結構です」

 

「ではクランカイン伯爵で…」

 

「それでお願いします」

 

クランカインは伯爵家の中でも珍しい部類で下層階級だろうが気にしない。

実力があれば相応の態度と礼儀を取るべきという先代クルーテオ伯爵の教育の賜物だろう。

 

「しかし二年前の失踪の時はどうなるかと思いましたが、流石はエルスート卿」

 

「いえ、私は助けられてばかりの半端者です」

 

トライデント基地攻防戦の折に失ったものの断片が記憶にハッキリと残っている。それだけ見ても自身の未熟さを痛感してしまっていたフィアであった。

 

「弛まぬ努力、飽くなき向上心に自身を律する気構え、その姿は実に美しい…アセイラム姫もそんな貴方を見て強くあろうとしたのでしょう」

 

「ッ!クランカイン伯爵!?」

 

両肩に添えられた肩に困惑するフィアに対しクランカインは静かに顔を寄せる。

地球降下後にだいぶ丸くなったフィアにとって体を停止させるのに充分な距離まで近づいた。まぁ、相手が伯爵というのもあるが。

 

「お静かに…」

 

「……」

 

二つの影が重なるのはそう時間は掛からなかった。

 

ーーーー

 

「なんか金髪をぶっ飛ばさなきゃいけない気がする…」

 

「怖いこと言うなよ伊奈帆…」

 

そんな状況を伊奈帆レーダーはしっかりと察知していたのだった。

 

 





どうも砂岩でございます。
ついにユキ&鞠戸の登場でございました。次回は当然の如くシレーンとマズゥールカ卿の登場ですね。
そして早速登場したクランカインとその行動の訳とは?
次回にご期待して頂ければ幸いです。まぁ、一期に増してフィアが丸くなっている分、可愛いフィアも出していきたいですねぇ。(主に伊奈帆関係で)
では最後まで読んで頂きありがとうございました!

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