アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第五十星 覚悟と不安 -Preparedness and anxiety-

「犯人が彼女か調べたいのですね?」

 

「はい…」

 

「それがどのような意味を貴方にもたらすか分かっているのですか?」

 

マグバレッジの言葉に伊奈帆ほんの少しだけ目を細める。伊奈帆にしては珍しく完全に理解し得れないと言う事ことだ。

 

「もし貴方が推測したとおり彼女が記憶障害に陥っているのなら我々には希望があります…二年前と同様、彼女と共闘し得るという希望が…」

 

二年前、あのアセイラム姫を見ればこの状況は違和感しか残らない。何かしらの事態が向こうで起きているのは確信を持っている。なら最大の要点となるのは彼女の騎士であるフィアだ。

 

「確かにフィアは大切でしょうね、彼女がいればセラムさんも動きやすくなる」

 

「しかし彼女は万全ではない、記憶障害にはトリガーがある、それは軽いものもあれば重いものもある、あるいは存在しないかもしれません」

 

「……」

 

マグバレッジの言葉に流石の伊奈帆も言葉を失ってしまった。トリガーが存在しない…その可能性は考えなかった、"考えようとしなかった"。

 

「それを我々が確認できるのがこのデータだと、私は思っています。記憶障害のトリガーは貴方たちであることは間違いありません、それと接触した戦いのすぐ後にこのデューカリオンを襲い、トライデント基地を墜としたのだとしたら?」

 

余りにも冷静すぎる。精神的に余裕がなくなっているはずのフィアの行える行動とは思えない。だとしたら?二年前のあのことは全て…。

 

「無かったことになる…フィア・エルスートは貴方の知るフィア・エルスートではなくなってしまうと言うことです」

 

「……」

 

マグバレッジの宣告は伊奈帆にとってとても冷たく感じられたのだった。

 

ーーーー

 

アデン基地、地下牢。連行されるマズゥールカ卿は先に牢屋にいた少女を見つけた。

 

「貴方は…親衛隊の」

 

「マズゥールカ卿…」

 

ーー

 

二人は地下牢に閉じこめられ壁越しに背中を合わせながら話をしていた。

 

「そうですか…エルスート卿は地球でそんなことを……」

 

「信じて頂けるのですか?」

 

「親衛隊である貴方が言うのですから間違いないでしょう…しかし、どうやって確証を得たのですか?」

 

ジュリが話したのは伊奈帆から伝えられたことだ。それが嘘である可能性は限りなく高い、それでも彼女はその言葉を信じた。それは何故かマズゥールカはそれが気になっていた。

 

「一番の理由は拳銃でした…」

 

「拳銃?」

 

予期せぬ単語にそのまま返してしまったマズゥールカを見てジュリは頷く。確かに端から見れば意味不明なのだろうが彼女にとってそれは何よりも大切だった。

 

「奴は隊長の拳銃を持っていました…」

 

「それだけなら、まだ不安だと思うけど…」

 

「はい、しかしそれだけではありません。隊長は地球に降りられてから黒い拳銃を離さなくなったのです」

 

銀色の拳銃はアセイラム姫親衛隊隊長を示す重要な物の一つである。フィアもそれを大切にし扱ってきた、だが地球に降りられてからというもの彼女は新しい拳銃を受け取らなかったのだ。

 

「気にはなっていたんです、拳銃を御守りのように持つ隊長の顔はとても穏やかでした…」

 

「そうですか…」

 

地下牢に閉じこめられた者同士のちょっとした話のつもりがこんな事を聞いてしまったマズゥールカは壁にさらに深くもたれた。

 

「その少年、界塚伊奈帆に会ってみたいですね……」

 

マズゥールカはそう静かに呟くと天井に吊された丸裸の電球をぼんやりと見つめるのだった。

 

ーーーー

 

デューカリオン、医務室。結局データこそ貰ったもののマグバレッジに言われたことが後を引きポケットの中で弄んでいた伊奈帆は耶賀頼の検査を受けていた。

 

「これ、伊奈帆君が自分でプログラムしたのかい?」

 

「元々あったファームをカスタマイズしただけです」

 

「領域も拡張されている…気分は?」

 

「特に変わりは…」

 

相変わらずいつも通り淡々と話す伊奈帆に対して耶賀頼は苦笑する。そんな彼を見て伊奈帆は首をかしげると理由を話してくれた。

 

「ごめんね、バカにしたわけじゃないんだ…表情が出やすくなってるって思ってね」

 

「そうですか?いつもと変わらない気がしますけど」

 

伊奈帆自身、鉄仮面なのはしっかりと認識してるし変えようとも思わない。そんな自分が分かりやすくなっている…あり得ないことだ。

 

「端から見れば無表情なのは変わらないよ、でも2年前と比べたら大違いだ」

 

「参考までにお聞きしますが、どんな顔をしてましたか?」

 

「とても悩んでる顔をしてたよ」

 

顔を手でペタペタ触っている伊奈帆を横目で見つつ耶賀頼はカルテに検査内容を書き込んでいく。少し驚いてるであろう彼に耶賀来は一つアドバイスを差し出す。

 

「現実というのはとても残酷です、鞠戸大尉の過去もそうであったように…。でもその現実を受け止め変えていけるのが人間だと思っています。今、なにで悩んでいるのか知りませんが……君は他人のために不可能を可能にしてきた、今度は自分自身のために足掻いていくのも悪くはないと思いますがね」

 

「……」

 

「私には助けられてばかりの君にこれぐらいしか言ってあげられない…すいません、なんか説教みたいになってしまって」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

誰だって怖くて進めない時がある。でもそれはほんの少しの後押しで進めたりするものだ。伊奈帆は心から感謝を述べて立ち上がる。

やることはいっぱいある、少しでも可能性があるなら賭けてみよう。そんな彼の元に訪れたのは姉である界塚ユキであった。

 

「ナオくん、ちょっといい?」

 

ーーーー

 

デューカリオン廊下、静かなこの廊下には主機が稼働中であることの証である振動のみが響いていた。

 

「どうしてこの船に乗ったの?」

 

「どうしてって?」

 

ユキは思っていた心の内を吐露する。理由など分かってるけど聞かずにはいられない。誰が喜んで家族を決死の戦場などに送るものか…。

 

「貴方はわざわざ戦う必要はないでしょう?怪我が治ったらそのまま避難すべきなのに…」

 

「それはユキ姉だっておなじでしょ」

 

「同じじゃないわ、私は軍人だもの!」

 

「そもそも軍人になる必要なんてなかったんだから同じだよ」

 

「違うわ!」

 

ユキが声を荒げ叫んだ瞬間、伊奈帆の顔は驚きに染まった。いつも優しく穏やかな姉とはかけ離れた一面だったからだ。

 

「私、後悔してるの…。貴方を軍人にしてしまったこと、あの時血まみれで倒れている貴方を見て…なんで貴方のこと止めなかったんだろうって。私はね貴方と、貴方の住む世界を守りたくて軍人になったの…それなのに」

 

守りたかった。小さな、とても小さな幸せを韻子ちゃんたちと当たり前のように過ごしていたあの日々を…。だからこそ軍人になったのに、結局は助けられてばかり。そんなナオくんに心のどこかで甘えていたのに気づけたのはあの時。我ながらなんてバカな姉だろう。

 

「ごめん、でもじっとしていられないんだ」

 

「やっぱり…フィアちゃん?」

 

まっすぐ見つめる紅い瞳には強い覚悟と大きな不安が入り混じっているようにユキは感じた。

 

「あの子は私達の知ってるフィアちゃんじゃない…彼女は敵になってしまった…いえ、敵に戻ってしまった」

 

「フィアは本当の意思で行動してはいない」

 

「どうしてそんなことが分かるの!?」

 

「……分からない、確証なんてない」

 

「……っ」

 

初めて見る、自身の弟が気持ちにこれほど素直に動いているのを…。理論や根拠を元にして常に動いていた弟が…他人ではなく自分のために動き始めている。

 

「でも、僕はフィアを信じる…フィアがそうしてくれたように」

 

腰に下げられた拳銃を軽く撫でる伊奈帆の姿は実に悲しげだった。

 

「ナオくん…」

 

ユキは言葉を紡げないまま立ち尽くしていると伊奈帆は廊下を歩き始める。その背中を彼女はただ見つめるしか出来なかった。

 

ーーーー

 

月面基地、スレインの私室。そこには部屋の主であるスレインとフィアの姿があった。

 

「まさか、たった1機で基地を墜とすとは…」

 

「フィアさんの真似をしただけです、貴方には遠く及びません」

 

この二人の私的な関係はスレインが伯爵となっても変わらなかった。呼び方も相変わらずだ。

 

「私は姫様の矛であり楯だ…そう簡単に追いつかれては困る」

 

「そうですね」

 

伯爵になって彼の行動はドライな部分が多く見られ始めたがその分覚悟が決まったと言う事だろう。少なくともこの二人の間にはそう言った空気は発生していなかった。スレインにとっても言葉はリラックス出来る貴重な時間だった。

 

「そう言えば花を育てていたのですが、ようやく花が咲きまして…」

 

「ほう…綺麗な花だな」

 

スレインが取り出したのは紫色の花、花と言っても小さくよく見れば小さな花の集合体のようだ。

 

吾亦紅(ワレモコウ)と言う花です、小さい花なので置きやすいと思いまして」

 

「すまない、良いものだな」

 

「えぇ、花はいいものです」

 

ワレモコウの花を愛でながら紅茶を楽しむ。見渡す限り無機質の壁と床だった執務室とは違い。私室には他にも花瓶に生けられた花たちが部屋を彩っている。

 

「実はバラを今育てていて、上手く咲いたらローズティーを作りたいと思っているんです」

 

「ローズティー?なるほど、面白そうな紅茶だな」

 

穏やかな空気の中、フィアはこの間皇帝陛下に命じられた内容を思い出す。

 

(皇帝陛下は一体何を恐れているんだ…)

 

「どうしました?」

 

「いや…なにもない」

 

ほっておけばすぐにもろく崩れてしまいそうなスレインを何とかできるのは自分だけ、そう思い行動している。スレインと穏やかに接することで思い出す。スレインと同等、いやそれ以上に気の許せる者がいたと言うことを。

 

「何故か懐かしい…」

 

「え?」

 

「スレイン…」

 

「っ!」

 

静かにゆっくりと名前を呼ばれたスレインは何故が背筋を伸ばしてしまう。

 

「自分をあまり追いつめるなよ…」

 

「あ…」

 

"とても知っているが知らない誰かに"似ているスレインに発した言葉は彼の心に大きく突き刺さる。すいません、心の中の懺悔は彼女に届く事なく消えていく。

これから自分が行うことは貴方を絶望させるだろう事でもやり遂げる。それがアセイラム姫に出来る奉公なのだから。たとえ貴方を敵に回しても。

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
あとがき書くの忘れてました、すいません。
今回は目立った動きは無しですね。次回は伊奈帆とマズゥールカ辺りを。
伊奈帆の表情の辺りは原作に比べ本当に柔らかくなっています。だいぶ仲間を頼るというのも覚えてきたので手強くなるでしょう。フィアの記憶は緩やかに開放されつつあります。
後ワレモコウの花言葉は感謝とーーーの意味を込めて登場させました。気になる方は検索してみてください。

フィアと伊奈帆を会わせたくてこっちもうずうずしています。中々筆が進まないのが残念でありません。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!

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