アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第五十二星 ケジメ -Distinction-

 

 

月面基地の廊下では緊迫した状態が続く、殺気を振りまいているマリーンと銃口を突きつけられたスレイン。

 

「隊長…」

 

「まぁ、待て…」

 

それに居合わせた親衛隊のメンバーはもしもの場合に備えて銃を手にする一方、フィアは何もせずにただ壁にもたれて傍観している。

 

「エルスート卿はなぜ落ち着いておられるのですか?」

 

「いや、私に聞かれても困るんだけどなぁ」

 

そんなフィアの様子にハークライトがネールに疑問を投げかけるが彼女自身も知るよしがない。

我らの隊長である彼女の思考は我々親衛隊の者達を遥かに凌駕するものであるのだ。

そう思うからこそ親衛隊も有事に備えているがそれ以上の行動はしない、一見忠実な部下とも取れる行動だが言い方を変えれば崇拝に近いものとも言える。

 

(随分器用なことを…)

 

どちらかと言えば脳筋思考のマリーンにそぐわない行動にフィアは軽く息を漏らす。

 

「本当のことを言うんだな…」

 

「はい…」

 

スレイン現在の立場は伯爵だが下の立場であるフィアに敬語を使うようにマリーンに対しても敬語を使っている。

それは昔から世話になってきた彼なりの感謝の気持ちなのだろう。

 

「僕がザーツバルム卿を殺しました」

 

「ッ!!」

 

スレインの言葉に対しその場に居たもの全てが息を飲む、ザーツバルム卿が戦死ではなかったこと、それに現状でその事を告げる意味を考えたからだ。

 

「そうか…」

 

 それに対しマリーンはただ静かにそう呟くと拳銃を構え直す。

 

「まずい…」

 

「ッ!」

 

限界だと思ったハークライトは静かに行動を開始する。

ハークライトの行動は近くに居た親衛隊のネールですら知覚するのが遅れてしまうほどのものだった。

隊長が待てと言ったなら自身は他の者を止めなければならない、その対象はハークライトも例外ではない。

 

「しまった。ッ!」

 

一番止めなければならない彼を止め損ねたネールは慌てて止めようとする。

その瞬間、視点がひっくり返り強制的に床に伏せさせられていた。

 

「なにが…。」

 

親衛隊で一番の体術の持ち主であるネールが一切反応できなかった、これがハークライトの実力である。

 

「落ち着けハークライト…」

 

「ッ!エルスート卿…」

 

やけに透き通る声、彼の目の前に現れたのはフィアだった。

一瞬とはいえ、ネールに意識を向けていた時に全く知覚されずハークライトの目の前に現れたフィアに対し彼は驚きを禁じ得ない。

だが彼女は攻撃するわけでもなく静かにマリーンとスレインの居る方向へと指を指した。

 

「あれは…」

 

「……」

 

フィアに促されハークライトは改めてマリーンを見ると、そこに写っていたのは拳銃を棄てる彼女の姿だった。

 

「やっぱりな…」

 

「殺さないんですか?」

 

「殺したいのは山々だがな…」

 

軽く笑みを浮かべて敵意がない事を示したマリーンは話を続ける。

 

「ザーツバルム卿に頼まれた。後は頼むとな…」

 

「それでも貴方は殺したいはずです」

 

「道は違えどザーツバルム卿とお前は同じ所へ向かおうとしている。なら私はお前に手を貸しザーツバルム卿の夢を叶えるだけだ」

 

「……」

 

マリーンの言葉を聞いてスレインは言葉を失う。

彼女と言い、フィアと言い、なぜこうも真っ直ぐ突き進んで行けるのだろうと。

 

「お前を殺すかは、全てが終わったらだ…。」

 

「分かりました、覚悟しています」

 

彼女につられてスレインの顔にも笑みがこぼれる。

そんな光景を見てフィアも軽く頷く、そんな様子を見ていたハークライトは彼女に話しかける。

 

「貴方はここまで予測していたのですか?」

 

「予測と言うより信頼だな。マリーンは従える主君は違えどここまでやってきた仲だ。私がそうしたように、アイツもそうするだろうと思っただけだ」

 

「なるほど…」

 

一度は殺し合ったと聞いているが、この信頼関係は半端な物ではない。

単なる友情という物ではなくもっと大きなもので二人は繋がれているのだとハークライトは実感したのだった。

 

ーー

 

「マズいですよ、レムリナ姫」

 

「貴方は私の言う通りにしていればいいの」

 

「トロイヤード卿もハークライトさんも居ないのにマリルシャン卿と通信なんて」

 

マリーンとスレインが対峙している時と同じくレムリナは親衛隊のケルラを連れて玉座の間へと向かっていた。

 

「ハークライトがいない代わりに貴方を連れているのでしょう。貴方それでも親衛隊なの?」

 

「それはそうですけど、下っ端ですからぁ」

 

マリルシャンがアセイラムへの面会をしつこく要求していることを聞きつけたレムリナはレムリナ担当のケルラを連れていたのだ。

 

「ほら、堂々となさい」

 

そうこうしているうちに玉座の間へとついてしまったケルラは腹をくくるしかなかった。

 

ーー

 

「アセイラム姫様におかれましては、ご機嫌麗しゅう。突然の無礼をお許しください」

 

「ごきげんよう、マリルシャン伯爵。それでどのようなお話でしょう?トロイヤード卿の許可を得ずの通信、よほど火急のようですね」

 

画面上のマリルシャンは横で控えているケルラを一瞥する。そのことに疑問を持ったレムリナは思わず疑問を表情に出してしまう。

 

「いやはや、やはり御身だけとは参りませんか。しかし見張りをつけるとは、エルスート卿とトロイヤード卿は過保護でいらっしゃる」

 

やけに身振り手振りが大きく話すマリルシャンは困惑の表情を浮かべるレムリナに対し気にせず話を続ける。

 

「見張りは語弊がありますかな。さしずめ塔に閉じこめられた姫を守る騎士(ナイト)と言ったところか」

 

「く、口が過ぎると思われますよ。マリルシャン卿…ひっ」

 

流石にマズいと思ったケルラは空気を変えるために口を挟むがマリルシャンに睨まれ口を閉ざす。

 

「おっと、これは無礼を申し上げました。姫殿下を籠の鳥のように」

 

「籠の鳥?」

 

「地球では自由を奪われた者をそう形容するそうです」

 

ーーーー

 

「基地本部より通信です。捕虜が脱走したと!」

 

「……」

 

地球、アデン港基地に鳴り響くサイレンと共に発せられた通信を読み上げた不見咲の声にマグバレッジは何かを察したような表情をするのだった。

 

「なんとか逃げられましたが、厳しいですね」

 

「そのようですね」

 

サーチライトが各所を照らし兵士たちがせわしなく駆けめぐる。

その様子をコンテナの隙間で様子を伺うがその警備の分厚さに手を焼いていた。

 

「しばらくここで…」

 

「仕方ないでしょう…ッ!」

 

ジュリの言葉に賛同するマズゥールカの背後に人影が現れ銃口を向けるのだった。

 

ーー

 

「もー、勘弁してよ。夜中の警報」

 

警報によって目を覚まされた韻子は愚痴をこぼしつつ、アレイオンに乗り込むためにパイロットスーツに着替えていた。

パイロットスーツは操縦者の生存率を上げるのが目的である、だからこそ体にぴったり張り付くように着なければならないのだがそれが原因で非常に着にくいと言うのが欠点だろう。

 

「ライエ、早く出動しないと…」

 

けたたましい警報に対して全くベットから出てこない同僚を心配した韻子はベットの仕切りを開ける。しかしその中には誰もいなかった。

 

「ライエ?」

 

ーー

 

「…お前か」

 

銃口を突きつけられたマズゥールカはゆっくりと振り返ると安堵する。銃口を突きつけた人物はライエ、彼女はマズゥールカとジュリを一瞥すると静かに話す。

 

「来て…」

 

ライエに連れられ道に出た途端、目の前に車が停車する。それに対しジュリとマズゥールカは冷や汗を流すが車内から伊奈帆が現れると再び安堵する。

 

「急いで…」

 

伊奈帆に促されるがまま二人は車内に入るのだった。

 

「なぜ、この様な事を…」

 

伊奈帆とライエの行動に疑問の声を上げたのはジュリだった。貴重な捕虜を逃したとばれれば大変だ。場合によっては銃殺刑も適用される重罪なのだから。

 

「貴方たちにはアセイラム姫の安全を確保して貰いたいのです」

 

「安全を…」

 

「僕が思うにスレイン・トロイヤードとアセイラム姫の信念が違います」

 

「……」

 

何より人命を尊び戦争を早期終結させようとしたアセイラムと目的のために戦争を操作し始めたスレイン。

端から見ても対立しているこの考え、伊奈帆から二年前の話を聞いた二人にはよく分かった。

 

「つまり、二人は結果的に対立する可能性があると」

 

「僕は高いと考えています」

 

「なら隊長は間違いなくトロイヤード卿と戦う事となる」

 

「フィアなら戦うでしょうね」

 

「それと…」

 

「分かっている」

 

淡々と話す伊奈帆の言葉を遮ったのはジュリだった。彼女は険しい表情から一転、ほんの少し笑みを浮かべて話す。

 

「隊長のことは任せて貰う。界塚伊奈帆が隊長を心配していたと伝えておく。」

 

「ありがとう。銃は必ず返しに行くとも言っておいて」

 

「分かった。承ろう」

 

ジュリの言葉に安堵したのか伊奈帆は少し疲れたように息を吐く。

目的地に着いたのか車が停車し伊奈帆とライエが降りる、それに従って二人も降りる。

 

「ここから北に進めば火星の揚陸城です。後は歩いてください」

 

「はい」

 

説明の後、ライエから大きなバックを受け取った。

 

「水と食料、逃げ切る前に干からびて死んだら困るから。私は死んで貰って構わないけど」

 

「感謝する。改めて名乗っておこう、私はヴァース帝国軌道騎士37家門の1人、マズゥールカだ」

 

「マズゥールカ…。地球にも似たような民謡音楽があります」

 

「この名の意味を調べるうちに私は深く地球のことに興味を持ったのだ」

 

「私はアセイラム姫親衛隊隊員、ジュリです。私が言うのもなんですが、隊長を救ってくれた件はありがとうございました。」

 

「いえ、こちらも助けて貰ったので」

 

「僕も自己紹介を、界塚伊奈帆です」

 

伊奈帆はマズゥールカ、ジュリと固く握手を交わす。

 

「アセイラム姫とフィアの件はお願いします」

 

「承知した界塚伊奈帆」

 

「任せてください」

 

揚陸城へと向かう2人の背中を見送ると伊奈帆とライエは車に乗り込み基地へと戻る。

 

「伊奈帆…どうして」

 

そんな様子をアレイオンで見ていた韻子は湧き上がる疑問を口にすることしか出来なかった。

 

ーー

 

「あなたって本当にフィアにぞっこんよね」

 

「ぞっこん?」

 

基地への帰り道、ライエが放った言葉に伊奈帆は疑問の声を上げる。

 

「あなたの頭の中を覗いてみたらどうなるでしょうね。フィアの事しか頭になさそうよ」

 

「そんなことはない。僕も色々と考えてるよ」

 

「ほんとかしらね」

 

ライエにジト目に対し伊奈帆はただ疑問を増やすだけだった。

 

ーーーー

 

「どういう事だ!揚陸城の入港など誰が許可した!」

 

「それが…」

 

月面基地に迫る二つの揚陸城に対しスレインが怒号を発するが傍にいたハークライトの哀れむ目がフィアによしよしされているケルラに向けられていた。

 

「す"い"ま"せ"ん"ぅぅぁ」

 

「よく頑張ったな、よしよし」

 

フィアに抱きついて泣きじゃくるケルラに対し彼女は優しく頭を撫でる。彼女の年齢はまだ15歳だ、仕方がないと言えばないだろう。

 

「と"め"よ"う"と"し"た"ん"て"す"ぅ」

 

「ケルラは許さないぃ!」

 

号泣するケルラに対しリアは怒りを露わにしてネールとシルエに体を抑えられている。

 

「私も隊長に頭を撫でて貰いたいぃ!」

 

「そっちに怒ってるのかよ!てめぇいい加減にしろ!」

 

「うるさい、ネール!副隊長に向かってその言い方はなんだぁ!」

 

「今のてめぇはただの変態だろうがぁ!」

 

ネールとリアが格闘しているのを背景に現れたのはレムリナだった。

 

「許可したのは私です」

 

「レムリナ姫」

 

「マリルシャン伯爵はアセイラム姫に直接謁見したいと願っていました。ですから許可したのです。私がアセイラム姫…。ヴァースの皇女として」

 

「なぜその様なことを…。」

 

レムリナの独断にスレインはただ驚くしかない。

 

「行きましょう、客人を待たせるのはマナー違反です」

 

彼の問いに対してレムリナは何も応えずにカタフラクトハンガーへと向かうのだった。

 

ーーーー

 

場所と時を移してカタフラクトハンガー、そこにはアセイラム姫に変身したりレムリナとスレイン、ハークライト、フィアとシルエの姿があった。

ケルラの涙のせいでダメになった上着をリアが回収した後、彼女はネールに引きずられていってしまい代わりに新しい上着を持ってきたシルエが来たのだ。

 

ハンガーに着地したハーシェルとオクタンティスから出てきたのはマリルシャンとバルークルスだ。

 

「アセイラム姫におきましては、この様な突然の謁見のお許しを頂き恐悦至極に存じます」

 

「マリルシャン伯爵、バルークルス伯爵には軌道上の守りを固めて頂き大変感謝しています。本来なら地球に降りて領地を広げたい所でありましょう?」

 

「地球の占領は志同じくする者に任せております」

 

「そう、それは良かった」

 

「それよりもアセイラム姫に折り入ってお話がございます」

 

本題に入ってきたマリルシャンに対しスレインとフィアは警戒の色を強くする。ヴァースの現状を象徴するような伯爵である彼の事だ、碌な事は言わないだろう。

 

「先代ザーツバルム卿亡き後、この宮殿とアセイラム姫殿下をお守りする近衛兵の任についてでございます」

 

「その件については心配に及びません。近衛兵はエルスート卿が、基地の管理は私が滞りなく引き継いでおります」

 

マリルシャンに対し牽制するように言葉を発するスレインに対し彼は不愉快な表情を表すがすぐに消し話を続ける。

 

「アセイラム姫殿下のお側にお使いする栄誉、私に授けて貰えないかとおねがいにまいりました」

 

「姫様の護衛は昔から我ら親衛隊が」

 

「口を挟まないで貰いましょうか!犬の分際で!」

 

マリルシャンを止めようと言葉を発したフィアに対し彼も大声で言い放つ。

 

「ここはヴァース帝国の御旗を掲げる砦、姫殿下救出の功労者であるザーツバルム卿であるなら遺憾ながらも容認しましょう。しかし養子とはいえ、地球人がどさくさに紛れその任を引き継げるとでも?」

 

明らかにスレインをバカにする問答にハークライトの顔が凄いことになっている。

 

「誇り高き皇族が住まう場所に卑しき血筋が足を踏み入れる事自体、許されぬ所業。揚陸城を持たぬ者が伯爵を名乗り、卑しく薄汚れた雌犬が殿下の傍にいるのも筋違い」

 

マリルシャンの言葉に対し普段無表情であるシルエも怒りを露わにし凄い形相で睨む。

 

「姫殿下の横で威張り顔を散らしていた貴方は目障り極まりないものでした。雌犬は雌犬らしく大人しくしていればいいのに」

 

マリルシャンはフィアの前に立ち睨みつける。

 

「私のハーシェルと貴公のシナンジュ、どちらが姫を守るにふさわしいか明らかにしましょう。私はこの場でエルスート卿に決闘を申し込む!」

 

マリルシャンが決闘の相手に選んだのはフィア、周囲の人は驚愕の表情を浮かべる。それはマリルシャンと共に来たバルークルスも同様だ。

 

「良いだろう、受けて立つ」

 

 

 





どうも砂岩改でございます!
今回は書いていたら膨大な量になってしまいこんな感じになりました。
次はセルナキス伯爵か…それとも決闘をするか…。悩みどころですね。
まぁ、マリーンはあんな子です。彼女のコンセプトはザーツバルムに着いたフィアと言う事なので元々似たもの同士です。なのであの行動は彼女なりの前に進むためのケジメだったんです。
アルドノアの女は強いですね。
最後のシーン、リアがいたならマリルシャンはその場で殺されていましたね。
そしてマリルシャンの運命はもう決まってますね(遠い目)バカだねぇ。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!
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