アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり 作:砂岩改(やや復活)
「それで、それだけではないはず…」
月面基地付近にある揚陸城の応接室ではエデルリッゾのいれた紅茶を前にフィアとマズゥールカが相対していた。
「えぇ、彼は姫様と貴方の身を案じていました。そして状況が変わるであろう事も予見しているようでした。」
「確かに、私もこのまま黙っているつもりはない。しかし、これはチャンスだと捉えています」
「チャンス?」
その言葉にマズゥールカは思わず疑問を口にする。本物のアセイラムにとっては不利な状況、一体何がチャンスだと言うのか。
「姫様が望んでおられたヴァース帝国の改革。それをスレインの改革を乗っ取る形で行います」
「乗っ取る…」
「幸いなことにスレインの改革と姫様の改革は同じ道を辿っている。当然、目的地が違いますが…」
アセイラムが望んでいたのはヴァース帝国の民が平等に幸せに暮らせること、対するスレインの改革もアルドノアドライブの保有の有無による格差をなくすこと。
そこで違うのはヴァース帝国王族の立場だ。アセイラムは民に寄り添う形によって統治する。スレインはアセイラムの絶対的な権力下による統治が目的だ。
似ているようだがあり方がまったく違うのだ。
「この改革の波に乗ればヴァース帝国は変わる。姫様の為にも成さねばならない…」
「エルスート卿」
自分より年下だというのにしっかりとしている。そんな彼女の姿にマズゥールカは感心を隠せない。
「姫様の記憶がお戻りになれば…」
復活したフィアの姿はほんの数分前の彼女とは全く別人に見える。
そんな彼女の姿にリア達は思わず息を飲んだ、記憶をなくしていた状態でも以前と変わらぬ姿だったというのに取り戻した瞬間、更に凜々しくなった。
地球でかなりの辛酸を舐めてきたのだろう。
ーー
「ではこれで失礼します」
「もしもの時は頼みます」
「えぇ…。私が言うのもなんですが姫様を頼みます」
「はい…」
あまり時間が経ってはスレインに感づかれるかもしれない、早々に話を切り上げた2人は固い握手を交わす。
「貴方のような方がヴァースに居て良かった」
「私はまだまだ未熟者です。学ばねばならぬ事も経験せねばならぬ事もたくさんあります」
「それでも貴方は私の知る中で最高の騎士ですよ」
「ありがとうございます」
マズゥールカの言葉を聞き、微笑む彼女の顔は本当に誇らしそうだった。
ーーーー
マズゥールカが揚陸城から去った後、フィアとエデルリッゾは彼から預かっていたペンダントを持ちアセイラムの元を訪れた。
「あら…。フィア、エデルリッゾどうかしましたか?」
「いえ、実は姫様に贈り物が届いておりまして…」
「贈り物?」
エデルリッゾの言葉にアセイラムは首をかしげる。今日は特に何も無かった筈だが…見舞いの品だろうか。
「……」
エデルリッゾから受け取った小さな箱を確かめそっと蓋を開ける。その様子を見つめる2人……。
そこに現れたのは地球に発つ時にスレインが彼女に渡した御守りだった。
「っ!」
突然のフラッシュバック、揚陸城での激戦の記憶が次々と噴き出してくる。血まみれの伊奈帆、目の前で倒れるフィアの姿がまざまざと思い出される。
「フィア!」
「姫様!?」
突然胸に飛び込んできたアセイラムを受け止め驚くフィアだが彼女はさらに目を見開いた。
「よく…よく生きていてくれました。私は貴方がいなければ…」
「姫様…」
失礼なことは分かっている、だが自身が今の彼女のしてあげられることは目に涙を浮かべた主の体を優しく抱きとめる事だけだった。
ーー
それと同時期、月面基地のアセイラムが眠っているはずのアイソレーションタンクの部屋を訪れていたのはレムリナだった。
「どう言う事か…説明してくれますか?」
「……はい」
レムリナは後ろに控えていたケルラに質問すると彼女は静かに返事をするのだった。
ーーーー
地球、デューカリオンブリーフィングルーム。
「なぁ、界塚弟…。この相手、お前のとんちでなんとかならないのか?」
「難しいですね。高電圧を武器とするエレクトリス、透明になるスカンディアどちらも手強いです。オルテギュアの分身能力に関してはデータが少なすぎます」
「雷に分身にドロン、まるでソニー千葉の映画だな」
相変わらずの火星カタフラクトの異能性に舌を巻くカーム、それとは対称的に伊奈帆は冷静に分析する。
「観測から分かっているのはオルテギュアは一体が2体に分身すること、1度に3体には分身しない2機目が現れる範囲は半径30メートル以内…」
「どんなに分身しようとも敵が乗ってる本体は一機でしょう、他は偽者」
「なら本体を見つけて倒すしかないな」
「どうやってですか?」
「分身する前の敵をマークして追跡するしかないわね」
ライエの言葉に全員が暗黙の賛同をする、至極単純な方法だがそれしかないというのが現実だ。
「スカンディアに関しては煙幕で敵の位置を割り出せる」
「雷は、打つ手はあるの?」
「あいつを喰らったら電子回路もアクチュエーターも一撃で暴発する」
「絶縁体とかは?電気通さないやつ」
「はぁ?ばっかじゃないの。小学生でもあるまいし」
「なんで!?どこが間違っているの?」
まさに名案と言わんばかりの彼女の姿にカームは呆れ馬鹿にする。対するニーナもこれのどこが間違っているのか分からずに思わずムッとしてしまう。
「すでに空気が絶縁体なんだ、その分厚い絶縁を破壊できる高電圧には対抗できない」
伊奈帆の言葉にニーナも納得し黙る。そらそうだ、空気が絶縁体でなければとっくの昔に人類は滅んでいるのだから。
「なにより厄介なのは、このめんどくさい相手が連携を取っているということだ」
「一機ずつでも大変なのに…」
「もしかしたら、手はあるかも」
「また…その目を使うの?」
伊奈帆の言葉に思わず韻子が声を出す。当然だろう、目の前に居る想い人は明らかに無理をしているのだから。
「心配しなくても大丈夫だよ。いつもミューテーションコードをはしらせてるから、時間が経つ度に最適化が進んでるんだ。演算能力は前より上がっている」
「……」
心配させまいと振る舞う伊奈帆の姿に韻子は何も言う事は出来なかった。
ーー
「はぁ…」
ブリーフィング終了後、韻子は食堂で飲み物を飲みながら大きなため息をついていた。
「何してるの、ため息なんかついて…」
「ライエ…」
そこにやって来たのは韻子の様子を心配して来てくれたライエだった。
「伊奈帆を止められなかった。絶対に無茶してるのに…何も言えなかった」
「……」
誰もが分かっている。伊奈帆は無茶をしている、それがどこまでの無茶なのかは分からないし言ったところで彼は止まらないだろう。
「フィアなら…無理矢理にでも止めたかな?」
「さぁ…」
韻子の問いにライエは口を濁す。分からないのは本当だ、彼女の思考など自身にはとうてい理解できないものだろう。
だが自分なりにフィアが取りそうな行動はある程度想像できる。彼女は止めない、信念の元で行動する彼を止めはしないだろう…。
彼女がするのはただ一つ、友に死線をくぐり抜け伊奈帆に無理をさせる必要をなくすことだ。
韻子にも分かっているだろう、そして自身には到底出来ないことだと落胆する。
「追いかけるべき背中があるって言うのも楽じゃないわね」
「その背中が立派である程ねぇ……」
韻子とライエ、この二人は心底敵わないと思いながらも笑みを浮かべるのだった。
ーーーー
月面基地展望室。
「レムリナ姫、地球への侵攻。滞りなく進んでおります」
「そう、流石ねスレイン」
「つきましては戦果を上げた軌道騎士に対して御言葉を頂けないでしょうか?」
「“私”が?」
「はい、“アセイラム姫”が御言葉をおかけになればこちらに与する軌道騎士も増えることでしょう」
あくまでもレムリナ姫ではなくアセイラム姫としてしか話さないスレインに対し彼女は僅かに顔をしかめるが肝心の彼は気付いていなかった。
「良いでしょう…。時にスレイン、お姉様の容態はどうかしら?」
「危篤状態が続いているとの報告を受けております」
「そう…」
「ここは医療スタッフを信じて委ねるしかありません」
「そう、スレインも気に病まぬように」
「優しき御言葉。痛み入ります、それでは失礼いたします」
通信が切れ、展望室に静寂が訪れる。
「ケルラ、お姉様の元に案内して…」
「……姫様」
レムリナはほんの少しだけ顔を後ろに向けそう告げる。ケルラは彼女の言葉に一瞬戸惑いを見せたがすぐに答えるのだった。
「分かりました…」
ーーーー
地球、ヴィクトリア湖の近くにある平原にて地球軍の第二次侵攻隊が投入された。
規模は9個小隊、つまり大隊規模と言う前回の倍以上の数の部隊が動員されていた。
「クライスデールリーダーより各機、全機展開」
「マスタングリーダーよりマスタング00、なおくんそっちは?」
「暫定値が出た。座標とタイミングを送る」
「マスタングリーダーより11、22…。移動開始」
「了解」
囮として配置されていたデューカリオンの部隊だが各機が伊奈帆の立案した作戦に従い行動する。
「オルテギュアのマスターは最初の1機だ。一斉に攻撃しマスターを叩く。ゾロイヤ小隊前へ、ゴトランド小隊は西に回りこめ」
「ゾロイヤ小隊、了解」
「ゴトランド小隊、了解」
「マスターは右から3番目の機体だ……攻撃開始!」
侵攻隊部隊本隊ははオルテギュアを破壊すべく行動を開始、すぐさま戦闘状態へと以降。
「本体を狙ったつもりか…違うな。あのお方の到着はいつになるのだ?」
「もう間もなくかと…。現在は海にいるようです」
オルガの言葉に対し答えたのはラフィアだった。そう、彼らには勝てると言う確信があったのだ。
ーー
アフリカ近海、そこの港を警備していた地球軍の部隊は言葉を失っていた。
「な…」
敵の反応を探知し部隊が出動するまでは良かった。だが敵がこちらの想像を遥かに超えていたのだ。
アレイオンが小さく見えるほどの巨体、そしてドラゴンを連想させるその姿に誰もが恐怖を覚える。
「これは…機体なのか……」
咆哮に似た駆動音が鳴り響くとドラゴンは港の防衛部隊に襲いかかのだった。
4体目のカタフラクト強襲、果たして伊奈帆たちの運命は…。
どうも砂岩でございます!
まさかの4体目の来襲、一体どうなるのか?
そして次回はレムリナとアセイラム姫の対面。
流石にアニメのものをそのまま描写しているのも読んで頂いてる皆様に失礼だと思いましてオリジナリティを加えてみました。
この展開は2期を書き始める前から考えてましたが…入れるかどうか迷ってました。
一応、新敵のイメージを言えば、ダンボール戦機に出てくるキラードロイド(ワイバーン)が個人的なイメージです。
では最後まで読んで頂きありがとうございます!