アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり 作:砂岩改(やや復活)
「これがグラニかぁ」
「ずいぶん良い物を回して貰えたわね」
ギランディアとの戦いで大破したアレイオンの代わりに回された3機のグラニに韻子とライエは感心の声を上げていた。
ユキの分も含む3機は宇宙における戦闘のために急遽手配された代物だが地球軍における最新の機体だ。
操作性はアレイオンとまったく変わらないため転換訓練を必要としないこの機体は知る人ぞ知る傑作量産機だろう。
「グラニか…」
「あ、伊奈帆」
納入されたグラニを見た伊奈帆は懐かしげにその名を口にした。
「そう言えばこの機体ってスレイプニールを参考にして造られたんだよね」
「うん、テストパイロットは僕がやってたから」
「え、どこに行ったかと思ってたらテストパイロットやってたの!?」
「うん」
揚陸城の戦いから1年近く、伊奈帆が何をやっているかと思っていたがそんな事をやっていたなんて初耳だ。
「なるほどね」
驚く韻子を横目にライエは若干、納得気味だ。
明らかに機動力を主眼に置いた設計は伊奈帆の考え方に沿った物だ。
「まぁ、この機体で伊奈帆の役に立てるように頑張るから!」
「うん、頼りにしてるよ」
「えへへ」
伊奈帆の言葉に韻子は思わず顔を赤くして笑う。
「これよりデューカリオンはサテライトベルトへと向かうための最終確認を執り行う。担当者以外は部屋に待機し発進を待て」
艦内放送で響き渡る不見咲の声と共に韻子たち3人は先程とは打って変わり緊張の面持ちになる。
「いよいよ、月面基地に」
「決戦てわけね」
「フィア…」
目を細め悲しそうに伊奈帆はその名を口にする。それを聞いた韻子は若干落ち込むとライエが肩を軽く叩いてくれるのだった。
ーーーー
月面基地、カタフラクトハンガーの中には惑星間航行用の大型輸送船が入りその空間を圧迫していた。
その輸送船から降りたったのは金髪の少年、クルーテオ伯爵の息子、クランカインだった。
「…」
ハンガーに並ぶ機体たち、フィアのシナンジュの横にはスレインが保有しているタルシスが格納されていた。
本来は父が操っていたであろう機体、だが今は違う。あの機体の主はあのスレイン・トロイヤードなのだ。
ーー
「クルーテオ伯爵?」
「継承された御嫡男だそうで…」
「クランカインか」
「皇帝に対する忠誠心は極めて高いと聞いております」
ハークライトの話を聞きながらスレインは二年ほど前の事を思い出していた。最後は分かり合えると思っていたのだが…。そればかりは仕方がない。
「いまだこちらに靡かぬ連中は言わば皇帝派だ。彼をこちら側に引き入れることが出来れば一気に裏返る可能性もある」
「はい」
「だが、果たして信用に足る物か否か」
皇族に対する忠誠心は彼の息子故に心配ないだろう。心配なのはこちらの思惑に賛同するかどうかだ。
ーーーー
その頃。地球、アデン港から出港したデューカリオンはサテライトベルトに到達指定された合流ポイントに辿り着いていた。
「攻撃目標は敵月面基地、アセイラム姫がいる敵の本丸だ」
地球連合軍宇宙要塞《パルナッソス基地》そこには各基地の防衛戦力を除いた全ての宇宙軍の戦力が集結していた。
「そして近接する敵の揚陸城は月面基地が攻撃を受けた際、アセイラム姫の避難先として使われる可能性が考えられるため。この二つの拠点に同時に攻撃を加える必要がある。」
作戦の説明を行うのはエーリス・ハッキネン中将、この作戦の指揮のために地球軍本部から出向いてきたのだ。
「よって本作戦においては部隊を二つに分け、ブルトン中隊およびデューカリオンは地球標準時2200を侍し揚陸城に攻撃を開始。月面基地の戦力が揚陸城に割かれたことを確認した後にトリケラー中隊は周囲に点在する大型岩石を流用。その背後に隠れつつ敵基地に接近、強襲をかける。」
ヴァース帝国の地球圏の本丸、月面基地への攻撃作戦。戦時下における最後の大規模作戦と言っても過言ではないだろう。
「以後作戦名を《オペレーションルナ・ゲート》と呼称する」
大きな戦いが始まる。その事は彼の話を聞いていた者全てが感じたことだった。
ーーーー
「すいません姫様。私が至らなかったばかりに」
「いいえ、責任を負うべきは私です。事の全ては私から始まったこと」
月面基地展望室には軟禁状態に置かれたアセイラムたちの姿があった。
「そうよ…。貴方が居なければ、貴方があのまま眠っていれば全ては丸く収まった。泣く者なんていなかったのに、あの人も心乱さずに済んだのに」
「隊長?」
「なんでもない」
3人の会話を聞いていたフィアは思わず悲しい顔をする。
2年前のあの時、自分がもう少ししっかりしていればこんなことにならなかったたくさんの人々が死ぬことはなかったのだ。
「止められた立場にあったと言うのに…。私の至らなさが全ての原因だ」
「隊長…」
懺悔にも等しい言葉にリアは何も言えなくなる。彼女の気のせいかもしれないが記憶を取り戻してからというものフィアの心が少し弱くなったような気がしていた。
「心から思っているのですね、スレインのことを」
「貴方は、貴方はどうなの。誰のことを思っているの!?」
「私が思いを捧げるのはヴァースと言う星とそこに住む人々。そう教えられ、生きていました」
「かわいそうな人」
女王となる身としては正しいかもしれない、だが人間として、1人の女性としてはあまりにも悲しいとレムリナは苦言を漏らすのだった。
ーーーー
「本艦はブルトン中隊と共に揚陸城を攻撃。月面基地との攻撃を合わせて二正面作戦の一端をになう。司令部からデューカリオンに与えられた作戦は以上です」
デューカリオン、ブリーフィングルームに集まった者達はマグバレッジの作戦説明に対し大きなざわめきを返した。
「二正面作戦って」
「要は敵の分散を誘っているだけの話だ。またこの艦を囮にしてな」
その作戦に対し鞠戸は明らかに不機嫌そうに言葉を漏らした。その言葉はその場に居た者全ての思いを代弁したものだったが。
「しかし、その役割に無意に甘んじる気は毛頭ありません。みな、無駄に命を落とすことなく再び地球に戻るその時まで最善を尽くしてください…以上」
「各員、所定の配置に付け!」
「艦長」
「来るだろうと思っていましたこちらもお話しがあります」
不見咲の言葉に全員が一斉に動き出す中、伊奈帆はマグバレッジに話しかけた。
ーーーー
「此度は我が父ザーツバルムへの弔問のためわざわざおいでいただいたとか」
「クルーテオ卿の襲爵のお祝いを申し上げぬまま失礼を」
「クランカインで結構です。まだどうも馴れず」
月面基地、執務室ではクランカインとスレインが軽く握手を交わし話し始める。
「ではその様に、アセイラム姫様もクランカイン卿に久々にお会いできる事を楽しみにしておりましたが」
「ご体調を崩されているとか」
「さほどの事もないのですが大事を取りまして」
「エルスート卿にもお目通りしたいのですが」
「姫様の看護をしておりますが、本人にはお伝えしておきます」
「ありがとうございます」
フィアとは月面基地に着いたすぐ後に合流する手筈だった。それは彼女がヴァース帝国の城内で会ったときに交わした約束だ。
やはり何かを隠しているこの時点でクランカインは確信を得ていた。
「お父上には大変お世話になりました」
「ご苦労されたのでは?厳格すぎるほどに厳格な人でありましたから」
「沢山の事を学ばせていただきました。私がいまあるのもお父上のおかげと思っています」
スレイン自身、クルーテオには良い思い出はないが彼を嫌っているわけでもない。
なんだかんだ言いながらも地球人である自分を真っ先に引き取ってくれたのは彼だ。
それに最期に別ってしまったが彼の忠誠心は深く、同じような思いを持っている者には平等だった。
「タルシスを見ました。今はトロイヤード卿のお役に立てているようでなによりです」
「地球圏に王国を築かれるという宣言をされたとか」
「それがアセイラム姫様の望みでしたから」
「皇帝陛下にとってでもですか?」
いきなり斬り込んできたクランカインに対しスレインも表情を一切変えず切り返す。
「ご体調が思わしくないとか」
「最新の医療機器と最高の医療スタッフで対応しています。ご心配には及びません」
「それはよかった。アセイラム姫様のご希望が叶えば陛下もさぞやお喜びになることでしょう」
「そうであればいいですね」
「クランカイン卿にもお力添えいただければ大変心強いのですが」
「期待しています。新たな王国がヴァースの未来を変えることを」
お互いが目線で牽制し合う空気の中、執務室で警報が鳴り響いた。
「殺気…」
それとほぼ同時、警報の鳴っていない展望室にいたフィアが空気が変わったのを肌で感じ取っていた。
-ついに決戦の火蓋が切られる瞬間だった。
月面基地攻防戦が次回ついに開幕、一体どうなるのか?
最後まで読んでいただきありがとうございました!