アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第六十四星 決意 -Resolution-

 

「エルスート卿!」

 

「敵が来たのか?」

 

「はい!」

 

 展望室の出入り口から現れた女性の兵は息を切らしながら状況を説明する。

 

「ご要望があれば用意いたします」

 

「全員分の対人装備一式を頼む」

 

「はい!」

 

「隊長、ここに敵が来ると?」

 

 要望に対し一番先に反応したネールが質問を投げかけると鋭い目付きになったフィアが答える。

 

「本土の防衛に専念していた地球軍の大規模攻勢。奴らは本格的に我々と戦争をするつもりだ」

 

 その言葉を聞いた親衛隊全員が目を鋭くする。

 

「カタフラクトでやり合うだけが戦争じゃない。お前たちはよく分かっているだろ?」

 

「「「「はい!」」」」

 

 アセイラム姫警護のために選び抜かれた対人戦のエキスパートたちがアセイラム姫親衛隊。彼女達の本分は元々対人戦なのだ。

 

ーーーー

 

 巨大なデブリに身を隠し月面基地まで接近したデューカリオンを含む地球軍戦力は臨戦態勢を整えようとしていた。

 

「敵軍隊、あと7分で射程距離に接敵します」

 

「防戦しつつ戦線を下げ、敵戦力を月面基地から遠ざけます。全艦戦闘配置」

 

「これより発進シークエンスに入る」

 

「フライホイール接続、カタパルトアーム回転開始」

 

 デューカリオンに装備されたユニットが展開し回転を始める。

 

「ハッチ開放、クライスデール小隊。発進位置へ」

 

「了解、クライスデール小隊、発進位置へ」

 

回転を続けるカタパルトアームに近づくのは4機の宇宙装備型アレイオン。

 

「アンカーエンゲージ。カタパルトアーム回転正常。加速開始、発進可能まで二十秒。」

 

「クライスデールリーダー、クリア・フォーランチ」

 

「ラジャー。クリア・フォーランチ」

 

 機体のワイヤーを接続したカタパルトアームに牽引されたアレイオンは徐々に速度を増し加速していく。

 

「全機発進!」

 

「ブラストオフ!」

 

 マグバレッジの命令と共に鞠戸は機体のワイヤーをカタパルトアームから開放する。

 カタパルトアームから解放されたアレイオンは月面基地にぶん投げられるようにかなりの速度で飛ばされるのだった。

 

「続いてマスタング小隊、発進準備」

 

「ブルトン中隊とデューカリオンは予定通り攻撃を開始」

 

「了解。こちらも行くぞ!」

 

 司令部からの命令によりデューカリオンの周囲に待機していたシャトルからもアレイオン、グラニが発進しクライスデール小隊の後を追う。

 

ーー

 

「天秤座の方角に敵カタフラクト多数!」

 

「迎撃しろ」

 

 月面基地の司令部に着いたスレインの指示と共に基地の防空設備が一斉に火を噴き、迎撃に出たステイギス隊とアレイオン、グラニ隊との戦いが始まった。

 

 戦端が派手に始まった頃を見計らい月面基地の一角でひっそりと行動する者達が居た。フィアとスレインが予想したとおり隠密のアサルト部隊だ。

 

「いいか、今回の目標は敵の首領であるアセイラム姫とその騎士だ。騎士はカタフラクトに乗せてはならない、機体の制圧も優先だ」

 

「「はっ!」」

 

 隠密のアサルト部隊の中にはマリネロス攻防戦の時の生き残りフォルドの姿があった。

 

ーー

 

「始まった、やっぱり敵の防御は固い」

 

「初めから苦戦することは目に見えていた。それでもこの作戦を強行する必要があったのは、司令部にはもっと重要なミッションがあったからだ」

 

 作戦参加の部隊にも伝えられない作戦内容、つまり公にされては困る内容だというのは察しがつく。それを考慮して韻子が導き出した答は…。

 

「暗殺任務」

 

「恐らくね…」

 

「狙いはお姫様?」

 

「うん、それと可能性としてはフィアも」

 

 十分考えられることだ。撃墜数とこれまでの功績を見ればフィアが他の火星騎士より突出しているのは見なくても分かる。

 彼女を機体に乗せては手に負えないのなら…。

 

「カタフラクトに乗り込む前に叩けばいい」

 

 韻子の言葉に伊奈帆は静かに頷いた。

 

「2人が襲われる前に合流してデューカリオンに誘導しよう」

 

「うん。でもフィアは記憶が…」

 

「大丈夫だよ、きっと」

 

 頭に浮かぶのは親衛隊の少女と火星騎士の姿、あの二人は信用に足る人物だと思っている。

 

「準備しよう」

 

「うん」

 

 スレイプニールと韻子のグラニはデブリの裏にピッタリ張り付き月面への降下を試みていた。

 

「最接近まで90秒…。韻子、元々一人で来る気だった。ここから先は危険だ、だから」

 

「あぁーあ、やだやだ。またそう言うの」

 

 大切にしてくれるのは嬉しい、それは本音だ。だがそれ以上に彼の力になりたい、頼られたい。もうこれ以上、のけ者扱いは嫌なのだ。

 

「今までやって来たことを認めて、艦長が私をサポートにつけてくれたんだから。伊奈帆やみんなと一緒に戦って来たこと」

 

「ごめん韻子…よし、行こう」

 

 そこまで言われて拒める者も居ないだろう。仕方がないと思いつつ伊奈帆の顔は無表情のくせにとても嬉しそうだった。

 

ーー

 

「もう大丈夫、この辺りから降下する」

 

「危険よ、まだ高度が高い」

 

 気付かれないように確実に降下するグラニの手には伊奈帆が待機しており機体自体は丸腰に近かった。

 

「っ!敵機だ!」

 

 最悪のタイミング、伊奈帆の義眼とグラニのレーダーが敵を察知したのはほぼ同時だった。

 ステイギスが10機、恐らく基地防衛のために伏せていたのだろう計40の機銃が韻子のグラニを狙う。

 

「僕を降ろせ、このままでは対応できない!」

 

「大丈夫、風も強い。この機体の推進力なら振り切れる!」

 

「韻子!」

 

「あと少し!」

 

 珍しく声を上げる伊奈帆の声さえ彼女の行動を止めることは出来ない。

 最愛の人を送り届けることぐらい出来ないほど自分の覚悟は甘い物ではないのだ。

 

…あと少し…あと少し…あと少し!

 

 視界に広がり続ける月面、迫る敵機。グラニの高い推進力で着実に引き離していた。

 

 その瞬間、背後での爆発。ステイギスの横合いから現れたのはもう一機のグラニ。

 

「ユキさん!」

 

「こっちは任せて!」

 

 グラニの高い機動力を生かし次々と撃墜するユキに対してステイギス隊も応戦せざる得なくなった。

 ステイギスを振り切った韻子は月面のクレーターにある大きなシャフトに機体を寄せる。

 

「ありがとうユキ姉、もう大丈夫だ韻子」

 

「了解」

 

 機体の手から降り、月面基地に入っていく伊奈帆。

 

「気をつけて…」

 

 韻子は静かに彼の安全を願うのだった。

 

ーーーー

 

 月面基地攻防戦、主戦場。

 そこでは数に押され徐々に劣勢になっていくステイギス隊の姿があった。

 

「行ける、このまま敵機殲滅も!」

 

 自軍の優勢に歓喜の声を上げた兵はその瞬間、光の球によって蜂の巣にされた。

 

「月面基地に仕掛けてくるとは良い度胸だ。だが甘かったなぁ!」

 

 カメラのスリットが光り、いとも簡単にアレイオンを撃破していく白い機体。

 レギルスのコックピットでマリーンが狂気に彩られた顔で笑う。

 

「これでは馳せ参じた甲斐がないというもの」

 

「クウェル子爵」

 

 彼女に合流したのは応援に駆けつけたバルークルスとハークライトだった。

 

「獲物は早い者勝ちですよ。伯爵」

 

「分かっている。とやかく言うつもりはない」

 

 ヴァース帝国の真のカタフラクトが地球軍に牙を向いた瞬間だった。

 

ーーーー

 

「目標発見!」

 

 アセイラムを揚陸城に避難させるため月面基地を走るフィアたち、だが運悪く敵の暗殺部隊とかち合ってしまった。

 

「ネール!」

 

「分ぁかってるよ!」

 

「姫様を!」

 

「「了解!」」

 

 示し合わせ先行するネールとジュリ、フィアは二人のカバーのために前進しリア、ケルラ、シルエは身を挺してレムリナとアセイラムを守る。

 

「フィア!」

 

「姫様、危険です!」

 

 リアが飛びつくようにアセイラムを伏せさせる瞬間、スレインのペンダントが廊下の隅に落ちる。

 

「子供だと!?」

 

「しゃあ!」

 

 突然の接近に驚くアサルト部隊員の首筋にネールは迷いなく刃渡り20㎝はあるであろうナイフを突き立てた。

 

「ガァ!」

 

「貴様!」

 

 首を押さえ倒れる部隊員、その様子を見て激昂する仲間だったがサポートに来ていたジュリの拳銃の銃弾が仲間の額を撃ち抜いた。

 

「しねぇ…っ!」

 

 接近した二人の後ろに居た部隊員が銃を構えるがその横合いからフィアが現れヘルメットを蹴り飛ばす。

 防弾仕様のヘルメットはフィアの脚力に負け粉々になると部隊員の首からゴキッと言う嫌な音を立てさせ難なく沈黙させた。

 

「さすが隊長、一発も使わずに…」

 

「ハァハァ!そのおみ足で私を…ハァハァ」

 

 フィアの圧倒的な力に感嘆の声を漏らす一同、約一名が怪しい反応を見せているが触れないのが身のためだ。

 そんな中、フィアは首の骨をやった兵から無線機を探し音声を聞き取っていた。

 

「格納ブロックに侵入!」

 

「赤い機体を占拠しろ!パイロットの発見を急がせろ!」

 

「アセイラム姫も大切だが優先的に騎士の方をやるんだ!機体に乗り込まれる前に!」

 

「どうですか?」

 

「潜入部隊は私も狙っているのか…」

 

 ハークライトのハーシェルは地球軍にあまり遭遇されていないはずだ。地球軍に狙われる赤い機体となればシナンジュしかないだろう。

 

「機付き長も心配だが任せるしかないか…リア」

 

「駄目です!隊長!」

 

 フィアの声を遮るように声を荒げたのはリアだった。彼女はフィアの言わんとしていることが分かっている故の行動だった。

 

「いくらなんでも基地制圧も視野に入れた部隊に対して囮なんて自殺行為です!」

 

「フィア、あなた…駄目だと言ったではありませんか!必ず生きて私を守り抜きなさいと!」

 

「姫様…」

 

 地球とヴァース帝国との開戦した時、当時乗っていた船《わだつみ》で交わした約束。

 大切な主君との約束を彼女が忘れるはずがない、だがこの状況を乗り切るためには最善を尽くさねばならない。

 泣きそうな顔をして見つめるアセイラムの手を取り膝を立ててフィアは語りかける。

 

「私は姫様の矛であり楯であります。姫様のために最善を尽くし姫様をお守り通すのが使命です。レムリナ姫、それは貴方に対してもです」

 

「フィア…あなた」

 

 彼女の言葉にレムリナは目を見開き驚く、彼女にとって私はあくまで繋ぎだと思っていた。

 でも違ったのだ、フィア・エルスートと言う騎士にとってレムリナも護るべき存在だったのだ。

 

「二人の姫様をお守りする栄誉は私にとっては超えるもののない誇りです」

 

 優しく微笑みながら立ち上がるフィア、そんな顔をされては誰も何も言えないではないか…。

 

「リア、ネール、ジュリ、シルエ…。姫様たちを頼む」

 

「はい、お気を付けて…」

 

「待ってますよ!」

 

「先に行って待っています」

 

「生きてお会いしましょう」

 

 リア、ネール、ジュリ、シルエの表情には暗い影はない。隊長から授かった姫様の護衛という栄誉、無駄にしてはならない。

 

「姫様の命は必ずお守りします」

 

「フィア!」

 

 必死に手を伸ばすアセイラム、しかしそれはフィアによって閉められた隔壁によって阻まれるのだった。

 

「どうか無事でいてください」

 

 涙を流しながら発せられたアセイラムの言葉を背にフィアは大きく息をすいながら奪い取った無線に音声を流す。

 

「Bー27地点にて目標の騎士を発見。姫殿下も確認した至急応援を…」

 

「了解した。こちら第三班、すぐに向かう」

 

 すった息をゆっくりと吐き出し持っていた装備を確認する。

 

「かかってこい雑兵ども!」

 

ーーーー

 

「Bー27地点にて目標の騎士を発見。姫殿下も確認した至急応援を…」

 

「了解した。こちら付近の部隊は直ちに集結しろ!」

 

「この声は、フィア!」

 

 月面基地に潜入し義眼であるアナリティカルエンジンにてアサルト部隊の通信と基地内の地図を取り込んでいた伊奈帆は突然流れた声に驚く。

 

「駄目だフィア!」

 

 条件反射のごとく行き先を変更する伊奈帆、彼の向かう先はBー27地点。

 

ーーーー

 

「さっきの映像を戻せ」

 

「はい!」

 

 月面基地、司令部。

 そこに映し出された監視カメラの映像からスレインはある人物を見つけた。

 

「界塚伊奈帆…」

 

 また奪いに来たのか、大切なものを…。お前の思い通りには決してさせない。

 

「しばらく空けるぞ!」

 

「トロイヤード卿!」

 

 懐にしまった拳銃を確認し司令部を後にするスレイン、彼の顔はひどく恐ろしいものだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます。
次回はフィアの孤軍奮闘と月面基地攻防戦、伊奈帆は?スレインは?一体どうなってしまうのか!?
次回もお楽しみにして頂けたら幸いです!

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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