アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第七十二星 地球 ーEARTHー

 

 

 全ての始まりである種子島の基地、そこには大破したスレイプニールとタルシスの姿があった。

 頭、胴体と右足だけを残し後は床にその破片をまき散らしたスレイプニールと所々、装甲をまき散らしたタルシスの2機は1ヶ月前の激戦を物語る機体たちを伊奈帆は静かに見つめていた。

 

「伊奈帆…」

 

「韻子…」

 

 黙って立ち続ける伊奈帆に声をかけた韻子は微笑みながら歩み寄る。

 

「随分と感傷的じゃない?」

 

「そうかな、まぁ少し昔のことを思い出してはいたけど」

 

「やっぱりね。戦いが始まる前に比べたら随分と表情豊かになった」

 

「そう?韻子が言うなら本当なんだろうね」

 

 1ヶ月前のあの戦いのあと。伊奈帆は地球に降下しフィアも戦闘中の損傷により宇宙を漂流後、帝国軍に回収して貰っている。

 あれから2人は1度も顔を会わせていないのだ。

 

「結局、会えたのはたった1度だけか…」

 

「こっちは地球軍の兵で向こうはヴァース帝国の騎士、会えたのが奇跡だよ」

 

「そうか、伊奈帆の言う通りだ…」

 

 伊奈帆は右手を上げて静かにそれを見つめる。あの時の彼女の温もりを忘れはしない、むしろ忘れられなかった。

 

(あれほど安堵したのは生まれて初めてかもしれない)

 

 もう会うこともない、そんな当然のことを考えたらなんとなく不愉快な気持ちが沸き上がってきた。

 

「なんだろう、この感じ…」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない。行こう、韻子」

 

 理解しがたいこの感情に疑問を持ちつつも伊奈帆は静かにその場を後にするのだった。

 

ーー

 

 同じく種子島基地の地下、そこではデューカリオンの凍結作業が行われていた。

 

「ついにこの船ともお別れですか」

 

「戦争は終わったのです。過度な力を誇示すればややこしいことになる。デューカリオンの凍結も妥当な判断でしょう」

 

 不見咲の言葉に対しマグバレッジは相変わらずの態度で答える。

 

「今後の予定は?」

 

「こと後はデューカリオン所属のメンバーが本部からの通達を受けそれぞれの配属先に移されるそうです」

 

「そうですか…」

 

「軍に徴兵された人たちで社会復帰する人は少なくありません。指揮系統の混乱を避けて丸ごと移動という可能性もあります」

 

「そうでしょうね」

 

 不見咲の言葉にマグバレッジは安堵の吐息を漏らす。会えなくなるのは寂しいがこれで彼らも軍人ではない未来を模索することが出来る。

 大人としては子供たちを戦わせずに済むと言う事は微笑ましい限りだった。

 

ーーーー

 

「と言う事です、本部の通達により現時点から強制徴兵の任は解除され貴方たちには選択権が与えられます。軍を辞め戦争前の生活に戻るのも良し、軍に所属しながら何かをする予備軍人になるのも良し、そのまま軍人として生きるのも良し…全ては貴方たちが決めることです。以上、解散」

 

 しばらくの間、種子島基地に待機とされたデューカリオンのメンバーたちはマグバレッジの言葉で改めて終戦を感じたのだった。

 

「ライエはどうするの?」

 

「私はこのまま続ける。それ以外に出来る気がしないし」

 

 その後、伊奈帆たちのメンバーは今後の話について基地の食道で話していた。

 

「私は勉強をし直して大学に行くよ。やりたいことがあるし…韻子は?」

 

 相変わらずの笑みでカレーを頬張るニーナは想像通り軍を辞めるようだ。彼女には戦いは似合わないだろう。

 

「私は軍には一応残るけど、学業もしたいと思ってる。教師になりたいんだ」

 

「韻子は学園で二位だったからな、教師なんてすぐなれるだろう?」

 

「そんな簡単じゃないわよ。バカわねカームは」

 

「はいはい、俺は馬鹿ですよぉっと…伊奈帆はどうすんだ?」

 

 カームの言葉に全員が伊奈帆に視線を向ける。

 

「僕は残るよ。色々とやりたい事もあるし」

 

 伊奈帆は特に夢というものを具体的に思い浮かべたことはなかった。

 これは良い、これは自分に合っているかも知れない、そんな事を思ったことはあるがこれをやりたいなどとは思った事は無いのだ。

 

「界塚少尉、アリアーシュ軍曹、本部からの通信です」

 

 そんな会話を繰り広げられていた時、不見咲が現れそう告げた。そんな内容に伊奈帆とライエは顔を合わせるのだった。

 

ーー

 

「まずは界塚少尉、アリアーシュ軍曹には聞いておこうか。軍に残る気はあるかね」

 

「「はい」」

 

 通信を寄越したのはハッキネン中将だった。月面基地の功績もあり近々昇格される予定らしい。そんな彼の問いに答えた二人を見てハッキネンは満足そうに頷くと話を進める。

 

「実はヴァース帝国から友好のため客将が来ることになった。君たちにその監視と補佐をやって欲しい」

 

「客将ですか?」

 

 ハッキネンの言葉に反応したのは伊奈帆だった、ライエもその考えは同じようで画面に映るハッキネンを見つめる。

 

「そうだ、界塚伊奈帆中尉」

 

「中尉?」

 

「 連絡は後に来るだろうが君は本日から昇格して中尉だ。界塚中尉そしてライエ・アリアーシュ准尉」

 

 含みのある笑みでそう告げられライエはその顔に僅かながら嫌悪を滲ませる。

 

「今回の客将と関係が?」

 

「そうだ、彼女は今回、大尉としてこの地球軍に所属することが決まっている。」

 

 伊奈帆の指摘にハッキネンは淡々と答えその名を口にする。

 

「名はフィア・エルスート卿、アセイラム姫殿下の騎士だ」

 

「え…」

 

 その名を聞いた瞬間伊奈帆は目を見開きライエは言葉を漏らすのだった。

 

ーーーー

 

「期限付きでヴァース帝国の追放か…」

 

 帝国議会から届いた書類を読み上げフィアはそう呟く。

 

「こちらも動いたのですがこれまでの譲歩を獲得するので精一杯でした」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるクランカインにフィアは慌てて頭を上げさせる。

 

「地球軍も貴方を客将として丁重に迎えると言ってきています。ヴァース帝国の騎士が期限付きとは言え地球軍に行くのです、お互いの和平交渉が上手くいっていることを分かりやすく誇示したいのでしょう」

 

「しかし私には姫様をお守りせねば」

 

 やはり一番重要な問題はフィアがアセイラムから離れることになってしまうというものだ。親衛隊の実力は折り紙付きだがやはりなんとなく心もとないと言うのが現状だ。

 

「私は構いません。それが貴方の勤めならそれを果たして下さい」

 

「姫様…」

 

 完全な追放ならこっちもとるべき行動を取るだろうが5年という期限付き、クランカインもかなり苦心してやってくれてのだろう。

 

「地球軍からエルスート卿をサポートする人員の資料が送られてきました」

 

 議会の通知書と地球軍の書類が同時に送られてくる辺りカーティアスを含むフィア反対派が地球に送る手筈を整えていたのがよく分かる。

 

 

「伊奈帆…」

 

 写真付きの資料には一ヶ月前に再開できた伊奈帆の姿がありフィアはそれに釘付けになった。

 

「はい、地球軍のエースパイロットでオレンジ色の悪魔で知られる期待によって乗っていたとかで」

 

 クランカインの説明も余所にフィア、アセイラム、エデルリッゾは顔を合わせ驚きの表情を作る。そしてアセイラムは若干興奮気味にフィアの肩に手を乗せ、叫ぶ。

 

「行って来なさいフィア!」

 

「え、えぇ…」

 

「そうですよフィア!これはもはや運命です!」

 

 アセイラムの叫びに便乗して叫ぶエデルリッゾ、2人のテンションの上がりようと言ったら今までに無いほどだったという。

 

 一ヶ月前のデューカリオンでの出来事はフィア本人から聞いている。アセイラムもエデルリッゾも年頃の乙女、そう言ったものに疎いが興味が無いと言えば噓になる。

 伊奈帆とフィアの関係性は見たり聞いたりする方が楽しいのだ。

 

「しかし」

 

「行って来なさい!」

 

「はぃ…」

 

 こうしてフィアの地球行きが決定したのだった。

 

ーーーー

 

「隊長ぉぉぉぉ」

 

「アレからこの調子だよこの副隊長(バカ)

 

「上司に向らってしてらいだぞ!ネール!」

 

 大号泣しながらネールを叱るリアだが顔が悲惨な状態になっておりなにを言ってるのか分からない。

 せっかく2年越しに会えたというのに更に5年間会えなくなるのはリアにとって地獄にも等しい状態だった。

 

「5年の間に我々が隊長に相応しい人材にならねば」

 

「はいはい、優等生、優等生」

 

「……」

 

 ジュリの言葉に冷やかしを入れるネールとそれに頷いて便乗するシルエ、彼女は一ヶ月前の月面基地の防衛戦で腕を撃たれ今だに腕を吊っていた。

 

「そう言えばケルラは?」

 

「あの後の消息が掴めていない」

 

 月面基地の防衛戦での行方不明者は多い、ハークライト、スレイン、バルークルスそしてケルラとレムリナだ。

 

「最後に根性見せてどこか行ったか…。釈然としねぇな」

 

「まぁ、生きては居るだろうがな」

 

 ネールは用意してあった紅茶を掴んで飲みつつ大きなため息をつく。

 

「下品だぞ。これからは我々が隊長の行ってきた事を肩代わりするんだ」

 

「食事会だけは外してくれ、食ってる感じがしねぇ」

 

「無茶言うな」

 

 親衛隊の面々もそれぞれの覚悟を決めて来るべき未来を見据える。

 アセイラムを含め完璧超人のフィアに頼りすぎていた節があった者達にとってフィアの本格的な不在は成長を促す良い機会かもしれなかった。

 

ーーーー

 

「私がですか?」

 

「そうだ、君も主を救うために働く機会を得たと言う事だ」

 

 地球某所、軟禁されていたケルラは突然寄せられた通信に驚き耳を傾ける。

 

「分かりました。それでレムリナ様が歩けるのなら」

 

「それは約束しよう」

 

 通信が切れ、部屋には再びの静寂が訪れる。

 

「隊長もこんな心境だったのかな」

 

 再び巡り会うことも知らず尊敬するフィアを思う彼女は静かに言葉を漏らしたのだった。

 

 





次回、フィアはついに地球へ。

と言う事で今回は終わりでございます。フィアが政治的な取引に利用されたと言う事ですがアセイラムがまだそう言った物が疎いが故に発生した事態だと言っても良いでしょう。
フィアが離れることでアセイラムも大きな成長への転機となるので決して無駄なことではないのですが。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!

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