アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第七十三星 始まりの始まり -The beginning of the beginning-

 

 

 

 ヴァース帝国と地球の和平条約が締結されてから二ヶ月後。

 復興した成田空港に降りたったヘリから姿を現したのは地球軍の制服に身を包んだフィアの姿だった。

 

「地球か…改めて見ると青いものだ」

 

 紺を主体にした上着とズボンをしっかりと着込んだ彼女の襟元には新品の大尉の階級章が光っていた。

 

「エルスート大尉、こちらです」

 

「あぁ」

 

 地球軍に客将として扱われると言っても彼女の存在は特異だ。一般の兵と同じように作戦に従事する訳ではない。

 彼女の行う行動は火星に居ようが地球に居ようが変わらない。アセイラムのために自分が行えることを行う、それだけだ。むしろ地球側から解決できない事案片付ける事が出来る絶好の機会だ。

 

(着心地が良いな)

 

 制服に腕を通す時から思っていたが地球軍の制服は肌触りも着心地も良い。こんな制服一枚でも地球の資源の豊かさが窺える。

 

「姫様…」

 

 青く澄み渡る空を見上げながらフィアはアセイラムの事を思うのだった。

 

ーーーー

 

「なに緊張してるのよ」

 

「そうかな」

 

 成田空港の第2ターミナル国際線出発ロビー、そこでは伊奈帆とライエは地球軍の制服を纏いながら彼女の到着を待っていた。

 少しだけ怠そうに立つライエに対し妙にソワソワしている伊奈帆、端から見ても緊張しているのは丸分かりだ。

 

「来たわ」

 

「……」

 

 人混みの中、付き添いの兵と共にフィアが銀髪をなびかせながらその姿を現す。

 

「ここまでで良い」

 

「分かりました」

 

 サングラスを外しフィアは待っていたライエと伊奈帆に目を向ける。付き添いの兵が去って行き3人が改めて対面するのだった。

 

「お久し振りね」

 

「あぁ、まともに話すのは2年振りだな。自殺は止めたのか?」

 

「お陰様でね」

 

 握手を交わす2人を静かに見守る伊奈帆。それに気づいたフィアは彼に静かに笑いかけた。

 

「話したいこともあるけど場所を変えよう」

 

「そうだな」

 

ーー

 

 ライエが用意した軍用ジープ。それに乗り込んだ3人は再会早々に本格的な話しを始めるのだった。

 

「念入りな検査はしておいた。それに走行中の車両の盗聴は難しい」

 

 仮に盗聴器をつけられていたとしても電波の届かないところをリサーチして走行している。聞けたとしても断片的なものだろう。

 

「で、地球に何しに来たの?貴方は意地でもヴァースに残ると思ってた」

 

「ヴァースの政治文官どもを敵に回したからこうなった」

 

「どうせ本当のことでも言ったんでしょ。逆に腹立つのよねそれ」

 

「私のミスだ。先に片付ければ良かった」

 

「ゾッとしないわ」

 

「フィアらしい」

 

「あんたたちおかしいわ」

 

 この二人は全く理解できない。そう改めて思い知ったライエは前を向いて運転するのだった。

 

「それでどうするつもりなの?」

 

「この1年で地球軍が私を信用するための戦績をたたき出す」

 

「それほどの実績をどうやって出すのよ?」

 

「揚陸城か」

 

「あぁ…」

 

 伊奈帆の予測にフィアは静かに頷く。それを横目で見たライエは納得した。

 終戦から二ヶ月経った今でも居座る揚陸城の問題は地球側には大きな問題だ。確かにアセイラムの騎士である彼女なら戦いと言う方法以外で立ち退きをさせることが出来るかもしれない。

 

「私が実績を残せばヴァース側の交渉材料になる。私が活躍すればするほど地球はヴァースに借りが出来る。戦争が終わった今、私が戦う事で姫様のためになるのはそれしかない。ある意味、地球に来て正解だったな」

 

「貴方が言うと夢物語では無くなるわね」

 

「当然だ、騎士は現実主義者(リアリスト)でなければ務まらん」

 

 彼女の口から発せられると1年で揚陸城を全て降伏させてもおかしくないと思えてくるのは恐らく自然なことなのだろう。

 

「とにかくハッキネン中将に会う必要があるな」

 

ーーーー

 

「再建計画?」

 

「はい、月面にハイパーゲートを再建する計画で地球軍との合同再建となります。あくまでまだ予定ですが」

 

 地球に再び降り、現地の人々のとの交流を主目的としているマズゥールカ卿は通信越しに交渉で持ち上がった計画をアセイラムに報告していた。

 

「確かにそれで地球と火星の渡航時間が大幅になくなりますね」

 

「ヴァース帝国の下層階級のものを作業員として雇えば多くのものが流通してヴァース帝国の活性化にもなる」

 

「人員を多く送れば交渉材料にもなるし」

 

 送られてきた関連資料目を通しマズゥールカが報告してきた内容にエデルリッゾ、リア、ジュリは賛成の声を上げる。そんな中、ネールは1人、異を唱えた。

 

「完成したらどうする?戦争が起きたらヴァース帝国が戦場になるぜ。なにせ距離が縮まるんだからな」

 

「ネール!」

 

「事実だろ。地球と火星が遠いからヴァース帝国の本土は無傷で済んだ」

 

 第三次惑星間戦争の発生時の場合の判断、その言葉を聞いたアセイラムの表情は少し暗い。それを見たジュリは彼女を咎めるがネール自身も意地悪を言っているわけではない。

 

「ジュリ、ありがとうございます。しかしそう言ったことも考えねばならないと言うネールの言葉は理解できます。この件は慎重に決議しましょう」

 

「分かりました」

 

 あくまで冷静にいるアセイラム、フィアはもういない。それはとても寂しい、しかしそれは自分を律する糧となる。そして考える彼女なら私になにが必要か、なにが足りないと考えるだろう。

 

「リア」

 

「は、はい」

 

「ヴァース帝国に1度帰還しましょう。そして火星にあるハイパーゲートについての調査を行いましょう。そして惑星間戦争の影響で調査を中断した遺跡にも再調査を」

 

「分かりました。計画書を作ってみます」

 

《ヴァースだ。古代文明人はこの星のことをそう呼んでいた。私は発見したぞ…火星の超科学を…。その名をアルドノアという、素晴らしい…人類は更なる躍進を遂げるだろう…。アルドノアは人を幸せにする夢の技術だ…》

 

《大きな力だ…道を誤ることなく大切に育てよ》

 

 もはや会話すら出来なくなったお爺さま。レイレガリアの最後とも言うべき言葉。今だに生きているが彼はもはや生きる屍と化している。

 

「アルドノアやヴァースについて私は何も知りません。ですからまず知ることから始めましょう」

 

「姫様…」

 

「地球で実際に目で見て感じた経験があるからこそ、この戦争を止められたと思っています。ですからヴァースを治め導くためにヴァースをもっと知りましょう」

 

 アセイラムの言葉にリア達は立ち上がり黙って敬礼をするのだった。

 

ーーーー

 

 地球、新芦原。そこに到着したフィアたちは随分と変わり果てた街の光景を目にしていた。

 

「随分と平らになったな」

 

「大戦中も復興は行われてたからね。瓦礫とかはほとんどないよ」

 

 人が賑わっていた光景はなりを潜め港と一体化した軍事基地と内陸部にも小さな基地の周辺に家屋がまばらにあるというものだった。

 

「家屋があるけどあれは基地の関係者たちの家よ。土地も安いしちょうど良いんでしょうね」

 

「被害はどれ程だったんだ?」

 

「死者は一桁。重軽傷者は多く居たけど軽症者の方が多い、あらかじめ避難していたからこんな奇跡的な数字になってるんだよ」

 

「そうか」

 

 2年前に訪れた新芦原はもっと賑わっていたが仕方がない。むしろ隕石爆撃をされても今だに復興可能という点を見れば上等だろう。

 

「しばらくはここでゆっくりすることになるわ。ゆっくり出来るかは知らないけど」

 

「あぁ、寝床は?」

 

「それは僕…」

 

「私と一緒の部屋よ」

 

「…そうか」

 

 なにか違和感の残る答えだが伊奈帆が黙り込んだ辺りライエが正しいのだろう。

 

「あんた浮かれてるんじゃないわよ」

 

「いつも通りだよ」

 

「じゃあ、さっきのなんなの?」

 

「口が勝手に」

 

「心の声ダダ漏れよ。なんとかしなさい」

 

「はい」

 

 先程の問答を経て伊奈帆の胸元を掴み小声で話すライエ、だが伊奈帆はあくまで冷静だ。と言うか冷静なのかどうかなど彼女には分からないのだが。

 戦いで溜まったストレスの反動か知らないが時々、ぽんこつ伊奈帆が湧いて出てくる。これからのことを考えて少し頭が痛くなるライエだった。

 

ーー

 

「全て、予定通りですな。カーティアス卿」

 

「ええ、月を半分とは言え手に入れた訳です。まだ終戦で混乱している間に地球にも我々の手のものを入れておきましょう」

 

 サテライトベルトを眺めながら気分良く通信で話すのはカーティアス伯爵、彼は自身が作り上げた完璧な作戦に満足感を感じていた。

 

「……」

 

 ヴァース本星の文官と彼のやり取りを聞き、その情報を記録しているオペレーターが居た。その女性は暫くすると部屋から退出し端末を開き通信を開始する。

 

「はい、先程送りした記録通りです。エルスート卿の地球行きはあらかじめ仕組まれていたものだと判断できます」

 

「すまないな、エルシィ。引き続き頼む」

 

「気にしないで、クウェル子爵」

 

「その名はいずれ捨てる。コードネーム代わりにこう呼べ、ザーツバルム子爵とな」

 

「なるほどね、分かったわ」

 

 忠誠の騎士の地球行き、その背後で様々な者が動き始める。

 

 終わりの始まりではなく、全ての者達の新たな一歩の始まりが始まった瞬間であった。

 

 





伊奈帆は親しい者にしか分からない規模でポンコツと化しています。頭と心がバラバラの状態ですね、今後どうなっていくのか見物です。

と言うわけで戦後編のプロローグが終了。
次回からは少し時間が飛びます。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!

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