アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり 作:砂岩改(やや復活)
フィアたちの乗り込んだ輸送機は墜落。本部から派遣された部隊と共に新たな輸送班が編成され無事に日本に運ばれる事となった。
本来なら最初からそうしろよと言いたかったが現実に襲撃されないと軍隊は本腰を入れられないのだ。
新たな輸送機の中ではやっと訪れた平和に一息つき、メンバーのほとんどは眠ってしまった。
「……」
《今から学ぼう体のしくみ》
本当なら私こと、韻子も眠るはずだったのだが。前に座っていたフィアが熱心に読んでいた本に気を奪われ眠気が吹っ飛んでしまった。
「なるほど、◯◯を取り込むことで◯◯が…」
なにやら呟くように言っている彼女の表情は真剣そのもの。彼女にとっては勉強をしているだけなのだろうが韻子からしてみれば緊急事態だ。なぜ彼女はそれに対して興味を持ち始めたのか気になって仕方がなかった。
「韻子ちゃん。やっぱり気になる?」
「え、まぁそうですね」
「フィアちゃんももうすぐ韻子ちゃんと同じ土俵に立つことになるわね」
「え?」
もしや、彼女が自覚を始めたというのか。それを示唆するユキの言葉に韻子は悶えながら輸送機の旅を送るのだった。
ーーーー
それから飛んで式典当日。襲撃の件から全く妨害がなかったとはいえ、厳戒体制で組まれた式典会場にフィアの姿があった。あの戦闘から数ヵ月が経過した現在も伊奈帆とフィアはほんの少しだけ距離ができてしまった。
「こちら、警備班。異常は認められません」
「了解。引き続き警戒せよ、もうすぐ来賓もご到着だ」
無線から流れてくる報告に耳を傾けながら警備本部で流れている映像を見つめる。すると後ろから伊奈帆がやって来る。
「懐かしいね」
「もう思い出したくもないがな…」
アセイラムが初めて地球に降り立った日。それを再現するかのようにここで式典が行われる。
「会わなくていいの?」
「会いたいが会いたくないな。帰りたくなってしまう…」
「そう…」
静かに隣に座る伊奈帆、それを見たフィアは少しだけ離れる。なぜかと理由を聞かれれば困るが、なんとなく気恥ずかしいのだ。
《ご覧ください。地球とヴァースの友好の証として建造されたアルドノア一号炉が本日、起動される運びとなりました》
テレビから流れてくるアナウンサーの言葉を聞きながらフィアは話す。
「お前、軍服で潜り込んできたのはいいがそろそろ見つかるからな」
「ユキ姉が明日は家においでって」
「そうか…最近はやけに呼ばれるな」
「不満かな?」
「まさか、むしろありがたいよ」
訪れる沈黙。今までなら気にすることもなかった沈黙に二人は気まずさを覚えていた。
「あの時の事はすまなかった。気が動転していたんだ」
「うん…」
「なんであんなことをしたのか…」
二人とも同時に死にかけたことで人間の本能的なアレが発動してしまったというのは頭では理解しているがどうしても引きずってしまう。
「……」
その気持ちは伊奈帆も同じだった。キスという点では彼は一度、アセイラムにしている。だというのに二度目である彼女の顔が忘れられない。正直に姉に相談しても「そうなんだぁ」と笑うだけ。
「嫌だった?」
「ん?」
「いや、嫌だったかなって…僕は嫌じゃなかったよ」
「……私も不快感はなかったな…」
真剣に見つめてくる伊奈帆におもわず目を逸らすフィア。その先にはいまだに中継を続けているテレビがあった。
《そのトロイヤード博士の息子。スレイン・トロイヤードが第二次惑星間戦争の発端を作ったというのはなんとも皮肉な話です》
《スレイン・トロイヤードが死亡したことで地球とヴァースは友好条約を結んだと言うことですが》
《今だに地球を占領している軌道騎士も残っていますからね》
「スレイン…」
彼もまた自分と同じ忠義に生きた騎士であった。その中に恋慕が含まれようともそれはいい。結果的に彼はアセイラムのために命を尽くしてくれたことには代わりないからだ。
「やっぱり、会わせたくないな…」
「なんだ?」
「いや、なんでもない」
伊奈帆の言葉を聞き取れなかったフィアだったが頑としても言わなさそうな伊奈帆の顔を見てそれ以上の追求をやめるのだった。
ーー
「フィア…」
「姫様、式典に集中しませんと」
「エデルリッゾ、分かっているのだけれど」
アルドノア一号炉の近くに設置された簡易的な休憩所からアセイラムはフィアの姿を探していた。韻子やニーナなどの見知った顔は見かけたが一番会いたいフィアが見つからない。
「まぁ、俺だったら来ないよな」
「ネール!」
アセイラムを一目見ようと集まってくる人たちを眺めながらネールは呟く。
「あと4年も会えねぇんだ。帰りたくなっちまう…」
「…確かに。そうだな」
「隊長…」
自作したフィアの顔写真がプリンとされたシャツを着込んでいたリアは涙を流しながら警護につく。
「姫様、隊長もこの放送はご覧になられているはずです。どうか、姫様も…」
「そうね…フィアに恥はかかせません」
ジュリの言葉にアセイラムは静かに頷くと立ち上がる。式典の開始時刻だ。
「この輝きが地球とヴァースの平和の架け橋となることを祈って…目覚めよ!」
ーー
沸き立つ観衆。アルドノアの輝きを目にした人々は歓喜に溢れていた。見知った顔ぶれには小さく挨拶をすると韻子たちも頭を下げる。地球での出来事は辛いことばかりだったけれど、それと同じく、多くの人に出会えた。
「フィア…私も頑張ります」
「姫様、行きましょう」
「えぇ…」
飛行場に向かうために車に乗り込むアセイラム。乗り込もうとした瞬間、遠くで敬礼をしている一人の軍人が居た。美しい銀髪を風で揺らしていたその軍人は目があった瞬間、その場からいなくなる。
ほんの一瞬の出来事。しかし彼女にはそれで充分だった。
「貴方も元気で…」
ーーーー
「おはよう。なおくん」
「おはようユキ姉。だし巻き卵とスクランブルエッグはどっちが良かったかな?」
「んん、だし巻き卵かなぁ」
「良かったね。今日はだし巻き卵だ」
いつも通りの風景、だし巻き卵を作り終えた伊奈帆は卵をテーブルに“3人分“置いて朝食の準備をする。
「昨日の3時に行われたアセイラム女王のアルドノア1号炉起動式典で…」
テレビから流れるニュースを流し見る伊奈帆は箸を用意してある人物を待っていた。
「ただいま。参ったよ、まさかあんな事になるなんて…。仮眠は取ったから別に良いんだが」
透き通るような綺麗な声を持つ少女は着ていた軍服の上着を脱ぐと待機していた伊奈帆に渡す。ネクタイを緩めワイシャツのボタンを一つ外して席に着く。
「おかえり、お疲れさま」
「おはようございます。姫様の式典関係で大変でしたから」
「じゃあ、ご飯を食べようか…」
ユキと挨拶を交わし上着をハンガーに掛け終えた伊奈帆が席に着いたのを確認すると全員が手を合わせる。
「「「いただきます」」」
「そう言えば…」
「どうした、伊奈帆?」
箸を進め食事を楽しんでいた時、伊奈帆は思い出したように言葉を発した。
「おかえり、フィア」
「あぁ、ただいま。伊奈帆」
まずはお詫びを…大変遅くなってすいませんでした!
そして2、5章が終了しました。次はいよいよ最終章、フィアたち最後の戦いとなります。期間が空きすぎて忘れてしまった?本当にすいません。
軽い予告のようなものも投下しましたのでご一緒にご覧ください!
最後まで読んでいただきありがとうございました!