アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり 作:砂岩改(やや復活)
第八十三星 開幕 ーopeningー
第二次惑星間戦争から5年後。
年月とは儚いもので伊奈帆も22歳の歳を迎えていた。
フィアもそれは同様で5年という出向期間の終わりを迎えようとしていた。
「フィアちゃんが地球にいるのもあと3ヶ月かぁ…寂しくなるわね」
「ユキさん。最近いつもそれですよ…」
フィアはいつもの居酒屋でユキと二人で夜を過ごしていた。
アルドノア一号炉の護衛も兼ねて新芦原市に定住することになった彼女はよくユキと飲み明かしていたのだ。
「だぁてぇ…てっきり私はなおくんのお嫁さんになってくれると思ってたのにぃ…」
「……」
伊奈帆とフィア、この二人には言葉にできない関係が出来上がっている。
二人だけが理解できる特異な関係性、そんな関係に甘えたくてもフィアには騎士として捨てられない生き方がある。
それは伊奈帆が一番理解しているからなにも言わないのだ。
「あいつは私には勿体ないですよ…」
「なにいってんのよ…大丈夫ぅ……」
「もう、飲みすぎなんだから…」
眠りについたユキを微笑みながら担ぐフィアは会計を済ませ家まで運んでいく。
「いつもごめん」
「気にするな」
家には伊奈帆が顔をだしユキを受けとる。
いつもの光景だ、お互いに付かず離れず…奇妙な関係だと自覚しているが変えるつもりもない。
「うん、泊まってく?」
「いや、今日は帰るよ。仕事がある」
「そう、気を付けてね」
「あぁ…」
淡々とした会話だがこれもいつもどおり、フィアは伊奈帆と別れた後、静かに帰路につく。
「……駄目だな」
最近は同じことばかり考えている。
姫様を守る、その為だけにこの人生を捧げると決めてここまで生きてきた。
今もそれは変わっていないし姫様の元へ帰りたいと切に願っている。
《フィア、無理をしてはいけませんよ。貴方には地球とヴァースの和平のために地球に残る選択もあります。伊奈帆さんとともに》
「伊奈帆…」
自身の感情の答えなど既に分かっている。
だがこれは口にしては駄目だ、口にしてしまえば今までの苦労が水の泡になってしまいそうで怖い。
(まさか、私が恐怖を覚えるとはな…)
自嘲気味に笑うフィア。
しかし次の瞬間、彼女は体を捻ると同時に彼女の体から鮮血が飛び散る。
「しまっ…」
苦痛に顔を歪めながら地面に伏すフィアはそのまま身を隠す。
「油断した…」
自身の状態を素早く確認する。
撃たれたのはわき腹、なんとか致命傷は避けたが思ったより出血している。
「くそっ…」
ここに留まっていては追っ手が来る、早く退避しなければと歩を進めると目の前に立ちふさがる少女がいた。
「なるほどな」
美しい銀髪、真っ黒のコートに夜闇でもしっかりと相手を見据える紅い瞳。
両手には真っ黒の手袋をはめており、相手は強く握りしめる。
「素手か」
「……」
止血こそしたが血が抜けすぎてフラフラなフィアはその様子を一切、外に出さずに相手を見据えながら構える。
武器など持っていないため当然、素手だ。
「っ!」
ー翌日ー
「なおくん」
「状況は…」
ゆきから話を聞き、慌てて駆けつけた伊奈帆はその惨状を未定言葉を失う。
道路の真ん中に飛び散った血は裏路地へと延び、その路地では至るところに血が飛び散っていた。
「検査しないと分からないけどたぶん」
「フィア」
この道は伊奈帆の家から彼女のいる官舎まで道だ。
現場の奥の裏路地では激しくあらそった形跡も見受けられる、鉄棒が見事にへし折れてる、一見するならなにかの事故現場のようだが彼女が本気で戦えばこんな光景は日常茶飯事だ。
日本は非武装社会だ、フィアも武器の携行は基地内に留めている。
「おかけになった電話番号は現在、電波の届かないところにあるかーー」
「やっぱり繋がらないか」
伊奈帆の家にゆきを届けたその直後、フィアは行方不明になった。
尋常ではない形跡を残して、それは彼女の死を意味しているのかそれともまた別の意味があるのかは分からない。
だがこの事件が伊奈帆、フィア、アセイラムこの三人を含む多くの人間のターニングポイントとなったのは間違いないと言えるだろう。